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<東京怪談・PCゲームノベル>


駅前マンション〜それぞれの日常 『もしも』

 とある晴天の休日。その日は部活もバイトもお休みで、三春風太は部屋でのんびりとダレていた。
 散らかりまくりの室内は、服や雑誌が隅に追いやられていてどうにか寝転がる場所が確保できるという程度。
 賑やかなテレビの向こうでは、綺麗なレポーターのお姉さんが、たくさんの有名温泉を紹介していた。
「んー……」
 朝起きて、なんとなくテレビをつけたらやっていた番組を見てのんびりしたが、せっかくの休みを家の中だけで過ごすのも少しもったいない気がする。
 だけどたまには、なんにもない日も良いかなあ――なんてことも考えて、出かけようかどうしようか少し悩んだ。
 なにせこのマンションは日々なにがしかの怪奇現象が起こっている場所で、何も事件がない日などほとんどない。まあ、事件に出くわさない日はそれなりにあるが、あとで住人と話してみると、絶対に何かは起こっているのだ。
 だが風太がそれでこのマンションを出ていきたいと思うかと言えば、そんなことはまったくない。
「大福、どこに行っちゃったんだろうなあ」
 姿の見えない同居人ならぬ同居猫の定位置に目をやりふと言葉を漏らす。
 大福は以前フリーマーケットで買った招き猫の置物なのだが、これが実に面白いやつだった。
 思い出して、笑みが零れる。
 最初は動く招き猫かと思ったのだが、実はその正体は本物の猫。化け猫ゆえに、置物の姿に変身なんてことができるのだ。
 もしも――。
 なんとなく、そんな考えが頭に浮かんだ。
 もしもこのマンションに来ていなかったら、自分は今、どうしていただろう。
「にゃぁんっ」
 ぽけっと考えにハマりはじめたところで、声が聞こえて、風太はひょいと体を起こした。
「大福、おかえり〜」
 大事に少しずつ使っている、以前――これもマンションの催しだった――お茶会で貰った葉を出してくる。
 自分用ではなく、大福にだ。何故か大福が人間の言葉を話せるようになるお茶で、大福もどうやらその辺理解しているらしい。出されたお茶をペロリと舐めて、嬉しそうな顔を見せる。
「ふーた、ふーた。いい天気だよ。遊びにいこー!」
「そうだよねぇ。こんなお天気なのに、家にこもってるのはもったいないよねー」
 両手を伸ばして抱き上げると、大福は気持ち良さそうに目を細めて、肉球つきの前足を、ぴっと玄関扉に向けた。
「しゅっぱーつ!」
「おーっ!」
 可愛らしい大福の声に応えながら、思う。
 このお茶も、偶然手に入れた産物だ。お茶会に誘われて遊びに行って、たくさんの茶葉がある中で偶然、これを選んだ。
 もしも、このお茶を手に入れてなかったら。こんなふうに大福をお話することもなかっただろう。
「お天気が良いなら、屋上かなあ」
「おくじょー、おくじょー! きっと気持ちいいよねぇ」
 話しながら階段を上がり、屋上の扉を開けると先客がいた。
「おや、こんにちわ。三春くんもひなたぼっこかい?」
 このマンションの大家であり管理人。だれも本名を知らない、ある意味謎の老人だ。
「こんにちわーっ。おじーさんもひなたぼっこ?」
「ああ。今日は陽が暖かくて気持ち良いぞ」
「じじーもひなたぼっこ。ふーたもひなたぼっこ。おいらもひなたぼっこ。みんな気持ちいいーっ!」
「ぽかぽかで、気持ち良いよね〜」
 相変わらず風太の腕から出る気がないらしい大福を片手で抱えなおして、ぐるりと屋上を一周する。
 太陽の陽射しは眩しくて、けれど強すぎなくて、ちょうどいい。
 気持ちの良さそうなぽかぽかスポットを見つけて座ろうとした風太の方に、座布団がひとつ投げられた。
「コンクリートに直接座ったらお尻が痛くなるだろう?」
 振り返ると茶目っ気たっぷりに笑う大家の老人と目が合った。風太もにっこにこの笑顔で返す。
「ありがとう、おじーさん」
 しかし結局尻にはしかず、代わりに頭の下において枕代わりにして寝転んだ。
 青い空が、視界いっぱいに広がる。
 視界の隅っこにある白は、雲ではなく大福の毛だ。空は雲ひとつない、東京の都心近くとは思えない澄んだ青をしていた。
 のんびりまったり、ぽけらっとしていると、なんとなく、ここであった色々なことを思い出す。
 大福のことや大家のおじーさんのことはもちろんのこと。風太が出会った数々の出来事――主に怪奇現象だが。
 もしも、ここに来てなかったら。
 きっと、こんなに楽しい毎日はなかっただろう。
 そんなことを考える。
 風太の隣でぱたぱたと尻尾を振って気持ち良さそうに瞳を閉じている大福とも、きっと出会えなかっただろう。
「だいふくー」
 眠っているところを邪魔しちゃ悪いかなあ、とも思ったのだけど、大福のさわりごこちのよい毛並みに手を伸ばす。
 喉を撫でてやると、大福はゴロゴロと楽しげに喉を鳴らした。
「いろんなことが起こるといいな〜」
 撫でながら、思いついたことがふと口をついて出た。
 風太が何を思って言ったのか気付いただろうか?
 大福は嬉しそうに風太に擦り寄ってきて、それから「うんっ!」と嬉しそうに頷いた。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2164|三春風太    |男|17|高校生

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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。
 本当にお久しぶりです。
 納品ギリギリでごめんなさい。思ったより夏コミの影響が……。
 うう、見通し甘くてごめんなさい。

 大福を書く機会をくださってありがとうございます!
 風太くんは大福をとっても大事にしてくれてるので、書いてて私もすごく幸せです。
 ありがとうございました♪

 またお会いすることがありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。