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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 異聞 古本屋の姉妹 1 お約束な出会い

 織田義明、又の名を“影斬”。
 とはいっても、剣技が人並み以上とか性格がどうこう言う点では、普通なのかもしれない。
 その力は人に見せるものでなく、最悪な事態になる前に封じる力。“弱き”を助ける力と迄は行かないが。

 それはそうと、彼もまた学生である。色々資料を調べ、レポートを書かなければならない。
「どこかに民俗学やら神秘学が無いものかな?」
 と、ぼやく彼。
 彼が角から歩いて……
 いきなり人とぶち当たった。
「いたた……。大丈夫?」
「え、え、だ、大丈夫です!」
 いつも気を引き締めているのか、義明は倒れず、豪快に体当たりした少女を抱き留めていた。
「あ、ありがとうございます!」
「急いでどうしたの?」
 尋ねる義明。
 少女は長い銀髪に赤い瞳。
 少女は、普通ぶつかるとお互いしりもちをつくというのに、抱き留めてくれたこの少年に……。
「いま、本屋が大変なんです。……早く手伝いに行かないと……」
「……ふむ」 
 慌てている事は分かった。
「何かの縁、手助けしよう。俺も本屋に用事があるし」
「え、ええ!?」
 少女は驚いた。
 驚き半分、少し嬉しい半分の複雑心境である。

 その少女は佐伯紗霧。
 元・吸血種と現役超越者の出会いであった。


〈白里焔寿〉
 白里焔寿は、友人にこういわれた。
「1年休学していたよ? どうしたの?」
 と。
 本人に思うには、自分の霊力などを安定ささせるため、おおばばの元で一泊していた気分だったのだが、一年以上も眠っていたようである。
 しかし、カレンダーを見てみれば2005年の夏。
「さて、遅れを取り戻さないと」
 と、焦るようでそうでもない焔寿。
 昔ならそうでもないだろうが、昨今は浦島太郎症候群の発症が早いのだ。十年一昔と言われていたのは、通信手段などが今と比べて極端に貧弱なときだけだと思われる。入院して、外界からの情報を殆ど遮断されたときもそうだろう。

 と、言うわけで彼女は本屋巡りを行うとこにいたのだ。
 遅れを取り戻す補習帰りのため、神聖都の制服で髪は白いリボンを使い後ろで留めている。
 荷物をいっぱい持って、色々回って着いたさきは文月堂。
 雰囲気的に焔寿の好みのようだ。
「♪ こんなステキなお店があるのですね♪」
 と、焔寿は意気揚々と中に入ろうとしたそのとき……。

「あわわわ、きゃ――!」
 奥の方で人の悲鳴……!
「!? ど、どうしたのですか? ……きゃあ!!」
 焔寿も入っていったら直ぐに叫んでしまった。
 
 暫くして、焔寿は目を覚ました。
「漫画で……こんな“シーン”があったようなきがします」
 焔寿が頭に本と埃を被って、咳き込みながら起きた。
 辺りは真っ暗で、目の前に気絶している店員さんがいる。このままだと、本に埋もれたまま死んでしまうだろう。其れだと報われない、かなり報われない。本が好きという人でも、そんな本に下敷き生き埋めの死に方は本望では無いはずだ。
「あの、起きて下さい!」
「あ、ううん……あ!」
 と、店員の少女は焔寿に起こされて目を覚ますと……
「ああ、ありがとう。たすかりました……其れと済みません」
 と、溜息をつく。
 咄嗟に術を使い、空間を作り上げ、洞穴にしたのは良いが……こうも生き埋めになっていると手出しが出来ない。下手に動くと被害は拡大しそうである。否、絶対起こる。
「一体どうされたのですか?」
「本を整頓しようとしたら、いきなり本が崩れ落ちて……」
 焔寿は、本を丁寧にとって見ると、こう言った。
「色々曰くありげな……本がありますね」
 焔寿は元から能力者なので、少し見ただけで本が何であるか大体分かるのだ。
「ええ、そうですね……昔からの曰く付きが混ざっているので」
 簡単に霊視しても、今回はただ単にバランスが崩れて落ちただけらしい。何か本の仕業ではないようだ。
「さ、紗霧に電話しないと……」
 と、隆美が手元にあった携帯で「文月堂、緊急事態。直ぐに来て」と簡単にメールする。
「人が来るまで待っていましょう……」
 と、焔寿が言った。


 織田義明と佐伯紗霧が文月堂にたどり着いたとき……
「た、たいへん! お、お姉ちゃん!」
 紗霧が驚くのも無理はない。
 流石にこの状態で本をどかそうものなら、さらに崩れそうな気配がする。
「ど、どうしましょう!」
 慌てる紗霧に対し、義明はその風景を暫く見ている。
 漫画や小説でないと、こんな土砂崩れした本の山を見る事は、お目にかかれないのではないだろうか? という崩れっぷりの状態である。普通、埋もれた人は死んでいそうな気配である。
 ああ、事実は小説よりも奇なり。
「おーい生きているかぁ? 大丈夫〜?」
 義明が念のために声を掛けた。
「だ……い……じょう…」
 声は聞こえるので大丈夫のようだ。死んではいない。
「外側の本を退かすから動かないで〜」
 と、義明が言う。
「は〜い……」
 かなりか細い声だ。
 本の厚みで声がかき消えているのかどうかはともかく、急いで助け出さないと大変だろう。
「佐伯さん、始めましょうか」
「は、はい」
 と、外側の2人が必死に中の2人を救出する。

 1時間もした後に、中が空洞になっていた事に驚く救助班。
「鎌倉? 白里が(空洞を作った事を)やったの? って、君がどうしているの?」
「いえ、此処で本を買いにきまして……後はご想像の通りです」
 驚く、義明にマイペースに答える焔寿。
 咄嗟の事だったらしくかなり埃まみれだ。
「た、たすかりました」
 隆美が疲弊した姿で救出される。
「お、お姉ちゃん……大丈夫……?」
 とりあえず、本を片付けたいところだが、かなり時間がかかりそうだ。其れより前に2人を此処から避難させる事である。
 義明と紗霧が2人を助け出し外に出た瞬間……。
 本の山は崩れ落ちた。本はそのまま外までやってくる。
「あぶなかったー」
 本棚の本全てが、あの狭いところに崩れ落ちたのだ。
「それにしても、この本はどこから……湧いてくるのだろう?」
 と、義明は思ってしまった。
「あ、ありがとう。た、助かった……」
 隆美が大きく息を吐いて再び礼を言った。
「私も助かりました」
 焔寿はいつものマイペース。
「まず、この本の山を何とかしないと……」
「ですね」
 と、一息もつかぬ間に、4人で本を元に戻す作業に取りかかった。

 焔樹自身本の扱いになれているため、整頓の方は難なく捗るのだが、それにしてもこの蔵書の数は尋常ではなかった。良くある古い店舗付きアパート(長屋店舗みたいな感じかと思われる)の中に、これだけの本が入るのかが不思議でならない。しかし、いまは、そんな事を考えるより、本を元に戻す事が優先だ。なんとか人1人が出入りできるように片付けた頃には夜の9時になってしまった。
「織田さんに白里さん。本当にありがとうございます……」
 紗霧が麦茶を持ってきて礼を言った。
「いえいえ、なんとかなって良かったです」
 埃まみれになりながら、4人でお茶を飲む。
 風呂に入らないと多分疲れは取れないだろう。しかし、なんというか心身ともにつかれ、動きたくないと言うのが本音である。これは数日間筋肉痛で苦しむ事は確定ではないだろうかという不安を抱えながら……。


 それでも時間はやってくるものだ。
 筋肉痛で苦しんでいるのは紗霧に隆美である。隆美の方は、あの土砂崩れで各所に本が当たっており、打ち身が酷い。結局のところ……店は臨時休業。
 焔寿の方は軽傷で済んだらしく、義明は“あの力”の不安定時に苦しんだ成果があるため、姉妹の看病と、未だ片づいていない本の整理をしているのであった。
「この本は念のため封印した方がいいですね?」
「はい、お願いします」
「何から何まで済みません〜」
「あ、あるくのもだめ〜」
 そこで、焔寿の友だち、猫のアルシュが肉球で隆美の足を触った(この猫は付いてくるなと言っても付いてくる腕白猫なのだ)。
「い、いたたた! だめ! なんかきもちいいけ、どいたい! だめ〜!」
 隆美が苦しんでいるのをみて、焔寿が……
「こら! アルシュ 悪戯はダメ!」
「にゃあ」
 焔寿が怒ると、アルシュは暇そうに欠伸をする。尻尾は暇だと訴えるかのように不機嫌な揺れ方だ。
「うう、えっと、それは、左の棚にお願い……」
「はい」
 隆美の指示で義明と焔寿が本を本棚に収めていった。

 とりあえず、片付けを置いて一息着いているときは、隆美が焔寿と紗霧に勉強を教えている感じになっていく。義明もレポートに追われていた。

 出会いはハプニングだったが、徐々に焔寿はこの文月堂に通うことが日課になったかんじである。
 


続く

■登場人物
【1305 白里・焔寿 17 女 神聖都学園生徒/天翼の神子】


【NPC 織田・義明 18 男 学生・天空剣師範代(装填抑止)】
【NPC 佐伯・隆美 19 女 大学生・古本屋のバイト】
【NPC 佐伯・紗霧 16 女 高校生】


■ライター通信
滝照直樹です。
『神の剣異聞 古本屋の姉妹』に参加していただきありがとうございます。
花火に引き続き、お久しぶりです。
日常でありそうな感じでそうではない遭遇でした。
実際、本が崩れたら……大けがより、とんでもない事になりそうな気がします。紙は重いですから。
義明の方は此方で深く関わりやすい(積極的に行動が必要と言う事があります)ですが、佐伯姉妹のほうは、藤杜錬ライターのNPCのため、彼女たちと更なる親好を深めたい場合は、藤杜錬ライターの『文月堂奇譚 〜古書探し〜』に参加してみると良いでしょう。

では、また〜。