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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『【幼子と御魂】楽園編』



 草間興信所から、東京・N市で起こっている神隠しについて調べているうちに、依頼を受けた者達は、この事件に「ひなぎく」という娘と、「子供の魂を食べる怪物」の存在がある事を明らかにした。
 調査を進めていくうちに、皆はこのひなぎくという幼子と接触し、彼女の案内の元、子供達の楽園、と呼ばれる場所へと辿り着いたのであった。



「こんな場所を、現実に目にするなんてね」
 草間興信所の事務員である、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)が、驚いたようにひそやかに呟いていた。
「確かに、綺麗な場所だよ、とても」
 高校生の桐生・暁(きりゅう・あき)も、この楽園をぼんやりと眺めているようであった。
「ここには、光が溢れているのですね。とても暖かな光。だが、どこか冷たい」
 杖をつきつつ、セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)はゆっくりと歩いてみた。視力が弱く、足も不自由だというセレスティだが、その分、感覚は鋭くなっている。アスレチックで遊んでいる子供達の声を聞き、子供達が楽しそうにしているのだと感じていた。そばに池があるようで、子供がそこで泳いでいるのだと思った。
 セレスティ達の後ろにニルグガル(にるぐがる)が立ち、あたりの様子を伺っているようであった。草間興信所から、戦闘になるかもしれない、という連絡を受け、急遽ニルグガルは派遣されてきたらしい。
「これが、子供達の楽園」
 セレスティはニルグガルから、この楽園を睨みつけているような気迫を感じたのであった。
「ひにゃぎくしゃん、こんなにたくしゃんのこどもたち、ぜんぶあつめたでちか?」
 セレスティ達、依頼を受けた者達の中で唯一、幼い子供であるクラウレス・フィアート(くらうれす・ふぃあーと)の声が聞こえた。
「そうよ。怖い怪物から、ひなが皆を守る為に、連れてきたの。ずっと、ずっと、遠い昔から」
 セレスティは、初めてひなぎくと思われる子供の声を聞いた。まわりの者からも、驚いたような声を聞く限り、やっと姿を現したのであろうか。
 今までは、ひなぎくの声も聞こえず、姿を見ることすら出来なかった。同じ子供である、クラウレスだけが彼女の姿をとらえる事が出来た為、セレスティ達はクラウレスの誘導の元、この楽園へと辿り着いたのである。
「ひなぎく嬢、やっとお会いできたわね」
 エマがひなぎくに優しく、そう答えた。
「ここにいれば、ひな達安心だもの」
 と、ひなぎくが嬉しそうにしてエマに答えている。
「ここにいれば、皆、ずっとこのままなのよ。面倒な大人にならないもの。皆で、ずっとずっと遊んでいてもいの。そのうち、この楽園の事以外は考えなくなるわ。他の事は全部、忘れちゃうの。辛いことや、悲しいこともね」
「それじゃあ、お父さんや、お母さんの事も?」
 エマが尋ねる。
「でも、ずっと楽しく遊んでいられる。それって、幸せな事よ?」
 そう言うと、ひなぎくはいまだに警戒をしているであろうニルグガルの横を通り過ぎて、セレスティ達に向かって叫んだ。
「クラウレス、それから、大人のおにーちゃんやおねーちゃん達もおいでよ!ひなが、この楽園を案内してあげるから!」
「わ、ひにゃぎくしゃん、まちゅでちよ!」
 ひなぎくは、クラウレスがお気に入りのようで、クラウレスを連れて子供達が遊んでいる広場へとスキップしていってしまった。
「さて、どうしましょうか」
 クラウレスとひなぎくが走り去った後、セレスティは皆へと呟いた。
「んー、ここがどういう場所で、怪物とひなちゃんの関係も、これから調べなきゃならないけど」
 暁が返事をする。
「とりあえず俺は、依頼された子供達のところへ行ってみるよ」
 しばらく黙って、暁はさらに続けた。
「ひなちゃんの話だと、ここにいると、だんだん記憶がなくなるって事だろうからさ。それなら、早いところあの3人だけでも、元の世界に返さなきゃ。もっと前に、ここに連れてこられた子は、もう、無理かもしれないけど…」
 暁のその言葉は、とても悲しそうであった。それを聞き、さらにエマが続けて言った。
「そうね、とにかく、子供達を助けてあげないといけないわね。私も、子供達のところへ行って見る。その中で、ひなぎく嬢から、話を聞きだそうと思うわ。彼女の正体や、怪物とのつながりをね」
「そうですか。これは、私の推測なのですが、現実世界にある石碑が広場で壊れていた事から、そこに封じ込められていた怪物が解放され、ひなぎく嬢も一緒に現れたのでは、と思うのです」
 セレスティは自分の肌や気配で感じたことを、皆に話した。
「今回のこの依頼、神隠しという名を借りて、怪物の欲求を満たす為にひなぎく嬢がおり、楽園が実は怪物が食べたい時に魂を食べるようにしてある、飼育場なのではないかと思うのです」
「もし、そうだったとしたら、ひなちゃんは」
 暁が、ふいに答えた。
「怪物が封じ込められた時には姿がなかったという事から、怪物とひなぎく嬢は一心同体なのではと。まあ、あくまで私の予測に過ぎませんが」
 この楽園の姿が、セレスティの心には不気味なものにさえ感じていた。楽園、というのは、仮の姿のようにさえ思えたのだ。
「どうかしらね。私は、ひなぎく嬢自身は自覚ない怪物なのかしら、と思ったわ。戦国時代、食糧難等で口べらし犠牲の子達の、1人や想いの集合体かもしれないけど」
 エマはセレスティに続けて答えたので、セレスティは小さく頷いて見せた。
「それもまた、可能性としてあるかもしれませんね。もしくは、ひなぎく嬢は、魂を食べる怪物に取り込まれたまま、消化されて居らず、ずっと囚われたままだという考え方も出来ます。いずれにしても、ここは相手の空間内ですし、何が起こるかわかりません。あまりバラバラにならないで、出来るだけ、皆さん、一緒に行動した方が良いかと思います」
「そうね、単独行動は危険かもしれないものね」
 と、エマが答える。
「じゃあ、まずは皆で、子供達のところへ行ってみようか」
 暁の言葉に、一同は一斉に頷き、まずは丸太のアスレチックの方へと向かう事にした。
「私は、魂を食らうと言われる怪物が動きを見せるまでは、待機する事にしましょう」
 ニルグガルは、一瞬の隙も見せずに、黙ったままセレスティ達へと返事をした。
「あの幼女は、ここは怪物から子供達を守る為の楽園だと申しましたが、その言葉が正しいなどという根拠はどこにもございません。それに私は、この楽園の存在自体を、認めるわけにはいかない」
 ニルグガルはそう言いながら、子供達のいる広場の方へと歩き出した。
「皆様に調査をお任せしましょう。私は、楽園を良く見渡せそうな、あの広場で待機しています」
「そう。では、怪物の方はニルグガルさんにお願いするわね。さて、行きましょうか」
 セレスティ達はそう言って、子供達のいるアスレチックへと歩き出した。



「あ、みなしゃんも、やっときたでちね?」
 クラウレスはアスレチックのそばに立ち、遊びまわる子供達をじっと見つめていたようであった。
「ここのこどもたちゅは、ほんとうにむじゃきに、あそんでいるでちゅよ。とてもたのちちょうに、あそんでいりゅでちゅ。みかけは」
 クラウレスの話によると、丸太で出来たそのアスレチックは、現実世界の遊園地などで良く見かけるようなものらしく、丸太で出来た滑り台やブランコ、小さな丸太の家やトランポリンなどがあり、そこにいる子供達は夢中になってはしゃぎまわっていたようであった。
「ひなぎく嬢は、どちらへ?」
 セレスティは、子供達の声へと耳を傾けつつ、クラウレスに尋ねた。
「あちょこでちゅ。ほかのこどもたちゅと、あそんでいるでちゅ。ひにゃぎくしゃんや、ほかのこどもたちゅが、わたちのことをさそいにきたでちが、ことわってようすをみているんでちよ」
「俺、N市の子供達の方へ行ってみるよ」
 クラウレスの後に暁がそう言うと、滑り台の方へと近づいて行った。暁のその言葉からして、どうやら、そこにN市の子供達も混じっているのだろう。
「とにかく、話せるだけ話ましょ?」
 エマはクラウレスに答えた。
「そうでちね。こどもたちゅをこわがらせないように、おはなしをするでちゅよ」
「では、皆で参りましょうか」
 セレスティ達は、ゆっくりと歩くセレスティに歩調を合わせながら、ひなぎくのいる滑り台へと近づいていった。
「クラウレス!こっちへおいでよ!一緒にあそぼ!!」
 滑り台の上から、ひなぎくがクラウレスに叫んだ。
「すべりだいもたのしいでちが、ひなぎくしゃんにおはなしがあるでちよ。こっちへ、おりてきてくだちゃいな」
「んー、何―?別の遊び?それ、楽しい事?」
 クラウレスの言葉を聞き、ひなぎくがエマ達の方へと降りてきた。
「皆も、こっちへおいでよー!楓ちゃん、悠太君、鈴ちゃーん!おにーさんと、一緒に遊ぼう♪」
 明るく、楽しそうに暁が、滑り台にいる3人の子供達に声をかけた。
「ひなぎくしゃん、ここへくるでちよ。わたちの、ひざのうえへすわるでち」
 優しい声で、クラウレスはブランコに座り、ひなぎくを呼び寄せている。
「ゆっくり、おはなしするでちゅ。そしたら、あそびにいこうでちゅ」
 すると、クラウレスの膝にひなぎくは静かに腰掛けた。
「わー、お膝の上だあ。クラウレスって、まるで、まるで…何だっけな。昔、こんな事してくれた人がいたような気がするけど、誰だっけな」
 ひなぎくは、何かを思い出したかのように答えたが、その先が続かない。
 ニルグガルはアスレチックのすぐ横にある広場にいるようで、周りの様子や、セレスティ達の会話にじっと耳を傾けているとのことであった。
「ねえ、ここにいれば、辛い事や悲しい事も忘れられるって言ってたけど、ひなぎく嬢は、何かそんな思いをした事があったのかしら?」
 エマの声が、少し低いところから聞こえた。おそらく、かがんでひなぎくと視線を合わせたのだろう。
「ひな、怪物が怖いの」
 ひなぎくが、怯えたように答えた。
「怖い怪物が、ひな達を追いかけてくるの。逃げても逃げても追いかけてきて、ひな達は大きな口の中に、飲み込まれちゃうの」
「ひなぎくしゃん、こわがらなくてもいいでちよ。わたちたちが、いるでちゅから」
 力強い口調で、クラウレスが言う。
「そう。とても怖い思いをしたのね。でも、大丈夫よ。私達が、ひなぎく嬢を守ってあげるから」
 エマがそう言うと、ひなぎくがどこか懐かしそうに答えた。
「昔、ひなの頭を、撫でてくれた人がいた気がする。優しくて、暖かくて、それで…」
「ひなぎく嬢は、どこから来たの?ずっと、ここにいるの?」
 エマが話を続けた。
「ひなは、ひなは。ずっとここにいるの。たぶん…気づいたら、ここにいたわ。それでずっと、皆と一緒に遊んでいたの。でも、あの怖い怪物が現れるとね、声が聞こえるの。子供達を怪物から助けてって」
「こえでちか?どんなこえでちか?」
 クラウレスがひなぎくに問い掛けた。
「子供の声。ひなは、その声の為に、生きている子供達を助けるのよ」
「声、ね。一体誰かしら。ひなぎく嬢以外に、子供達を守ろうとしている者がいるって事かしらね」
 悩んだような口調で、エマが呟いた。
「魂を食らう怪物から、子供達を守る為とひなぎく嬢はいいますが」
 今度はセレスティが口を開いた。
「外に居れば守りようもありますが、内部にいたままではそれも出来ないでしょうし、それに、子供達の両親に心配をかけますし、何より何があるのか見当もつきません。ひなぎく嬢、怪物というのが、どこにいるかはわかりませんか?誰がひなぎく嬢に声をかけているのかはわかりませんが、やはりこのままでは、一時的な解決にしかならないかと」
 その時、セレスティ達の後ろから楽しそうな声が聞こえた。暁が、子供達に話し掛けていた。N市の、3人の子供達へと。
「楓ちゃん歌好きなんだっけ。本来の世界で夢見ない?そんでさ、パパやママ、沢山の友達に歌聞かせてあげよう!」
 青木・楓は暁のそばで、大人しくしている。
「どんな歌が好きかしら?新しい曲、一杯しているのでしょう?聞かせて欲しいな」
 暁に続けて、エマは楓の母親の声を模写した優しい口調で、楓に話し掛けた。
「ママ?」
 楓が、きょとんとした声で答えた。
「私も、楓の歌を聞きたいわ。それから悠太君、誰かの為に充実感や満足感は必要ないの?貴方が面倒を見ていた子達、きっと貴方に会いたがっている」
 今度は、悠太の幼稚園の先生の声を真似て、エマが言う。
「それに、悠太ー。ここじゃ綺麗な先生困らせる事も出来ねーんだぞ?」
 そう言って、暁が悠太に笑いかける。
「そうそう、鈴ちゃん。ママ困らせちゃいけないなんて言わない。どんどん困らせちゃえ!」
「お母さんと一緒にいるのがいいでしょう?ここにいるのと、どっちがいいかしら?」
 3人の子供達へと、エマは訪ねた。
「ひなちゃん、怖い怪物がいるのはわかっている。だけど、この子達の表情を見なよ」
 暁が、ひなぎくに問い掛ける。
「此処では忘れてくから、後悔しないって言っても、それは本当に幸せな事なのかよ。最近連れ去った子を元の世界に帰してやってくんないかな」
 暁がそう言うと、楓が小さく呟いた。
「ママ、ここにはいない。ママに会いたい」
 子供達は、滑り台で遊んでいた時とは違い、どこか寂しそうで、せつなそうな雰囲気を見せ始めた。鈴などは、今にも泣き出しそうであった。
「ひなちゃん。ひなちゃんにも、いたんじゃないかな。ひなちゃんの事守ってくれる、優しい人が。俺、思うんだ。こんな綺麗なトコならずっと居たいかもしれないって。でもな、幸せって人それぞれだと思うぜ?何がその人にとって幸せなのかなんてわかんねーよ。苦しい事も辛い事も無くてただ楽しくて」
「ここにいれば、怪物には食べられないのよ?怪物に食べられたら、それで終わっちゃうもの」
 どこか寂しそうに、ひなぎくが答える。
「でも、それってさ、飽きちゃうっしょ?人の中にある色々な物はきっとなくならない。純粋さってのは時に怖いから、遊び感覚で人傷つけるかもしれない。誰もが幸せなんて有り得ないんだって。誰かの犠牲の上に幸せってのは成り立つもんなんだから」
 セレスティは暁のその言葉の裏に、どこか悲しそうな感情を感じていた。
「このらくえんがこどもたちゅにとって、いいかわるかはべつにちて。かいぶつがいりかぎり、ひなぎくしゃんはしあわせにはなれないでちゅよ?こどもたちゅをかいぶつからまもるために、ひなぎくしゃんはかいぶつのこわさをしっていなければならないでちから」
 ひなぎくを膝に乗せたまま、クラウレスが言う。
「ひなぎくしゃん、わたちにはあなちゃが、このらくえんでひとりぼっちにみえるでちよ。まるで、こどもたちのなかにそんざいすりゅ、ただひとりのおとなのようでちゅよ」
「何も変化がないままは、暫くの間は楽しいかも知れませんが、成長する事で出来る遊びもあると思うのです。子供が大人になる事は、本当に悲しくて辛い事なのでしょうか?」
 そばにあった岩の上に腰掛け、クラウレスに続いてセレスティがひなぎくへと答えた。
「大人も悲しい辛い事あるけど、親にとっては子のそばが楽園なの。子供達もその想い感じ、学び自分で己の楽園を築いていかないと、とも思うし。同じ感情はいずれ麻痺していくわ。何がどう楽しいのか思考すら出来なくなってしまうの」
 エマはそっと、包み込むように優しく、ひなぎくに言う。
「ひなぎく嬢。子供達のチャンス、自分で選択していく喜びや成長奪わないで?」
「このらくえんをみちぇてくれたおれいをするでちゅよ。かいぶつにたべられてしまった、こどもたちゅのたまちいをかいほうするでちゅ」
 クラウレスのその問いかけは、とても優しそうであった。
「かいぶつにたべられてかなしいとおもったら、こどもたちにも、かなしいとおもうひとがいるでちよ。それを、わすれてはいけないでちゅ」
 しばらく沈黙が続いた。
 いや、黙っていたのはセレスティ達やひなぎくだけで、そばでは相変わらず、子供達がはしゃぎまわっていた。
 そこで、今までずっと黙ってセレスティ達のやり取りを聞いていたであろうニルグガルが、ひなぎくを見つめながら、ここで声を上げた。
「戦うことを忘れた生命などに生きる資格などありません。楽園の主よ、人が幼子の如く、楽園に溺れる時代は終わった」
 さらにニルグガルは、3人の子供達に言い放つ。
「人の子よ、楽園に見るものは、歓喜などではない。それでもこの世界に縋るというならば、命が果てるその日まで悪夢にうなされ蹂躙されるがいい」
「ここは、仮の楽園。本当の喜びや成長は、元にいた世界にあるものですから」
 セレスティは、子供達の方へ顔を向けて、優しく笑った。
「お兄ちゃん達、ひなを助けてくれるのね?」
 セレスティのその言葉に心を動かされたのであろうか。そのひなぎくの口調は、さきほどとは、違う雰囲気であった。
「ひなぎくしゃんをまもるひとがいないのなら、わたちがやるでちよ?」
 クラウレスがひなぎくを包みこむように答える。
「ひなはね、昔、あの怖い怪物に食べられちゃったの」
「それは、どういう事なのかな?」
 3人の子供達と話しつつ、暁がひなぎくに尋ねた。
「あの怪物は、ずっとずっと昔から生きてるの。子供達を食べては色々な場所の村へ現れて、また子供達を食べて。でもね、子供達は、もっともっと生きたかった。怪物なんかに食べられないで、ずっと遊んで楽しく暮らしたかった。ひなもそうだった。怪物に食べられる時に、食べられたくない、死にたくない!って気持ちが最後にあって…ひなは、その子供達の、強い無念の思いが集まって生まれたのよ」
「という事は、ひなぎく嬢は、やはり怪物に食べられた子供達の、無念の思いの集合体ってことかしら」
 と、エマが疑問そうな口調で答える。
「だからひなは、まだ生きている子供達を、誰にも邪魔されない楽園へと案内するのよ。食べられた子供達の為にも、死ぬこともない、恐怖も感じない楽園へ」
 ひなぎくの言葉に、どこか悲しく、痛々しいものが見え隠れしていた。
「あの怪物の体の中に、食べられた子供達の魂が蓄積されているの。ひなはその子供達の魂から生まれたから、あの怪物と体が一緒なの。難しい言葉で言うと、一心同体、ね。だから、あの怪物がこの世界に現れたら、ひなも一緒に出てくるの。あの怪物がいなくなって、中にいる子供達の魂が解放されない限り、それはずっと続くわ。怪物の中の魂が、ひなに言うの。子供達を助けてあげてって。とても、悲しい声で」
「ならば、その怪物を消滅させれば良いのですね」
 ニルグガルが落ち着いた声で答えた。
「でも、あの怪物はとても、怖い。何度も何度も、大人達が退治しようとしたけど、ちっとも」
「誰かがやらねば、これからも同じ事の繰り返しでしょうから」
 セレスティは、そう言いながらゆっくりと腰をあげた。
「怪物は、すぐそばにいるのですか?」
「いるわ。このあたりをうろつきまわって、子供達を食べようとしている。早く、他の子供達も助けてあげなきゃ。早く、早く…」
 ひなぎくが、落ち着きを無くしたように早口で言った。
「それなら、私達も一緒に行くわ。それに、ここへ子供を連れて来たところで、その子供にとってここが幸せになれる場所かどうかはわからないでしょ?」
 エマは、ひなぎくをなだめるように言う。
「子供達を、それぞれの親のところへ帰してほしい。幸せな時間を此処で過ごしすぎた子達は、もう遅すぎるけれど」
 暁は、どこか沈んだ声でエマに続けて言う。
「怪物がそばに来ているわ。怪物に食べられた魂とひなは同じだから、怪物がそばにくると、感じるの。子供達の悲しい心を。ひな、これから町の子供達を助けにいくわ」
 セレスティ達の言葉を聞き、ひなぎくはしばらくの沈黙の後に答えた。
「お兄ちゃんやお姉ちゃん達も、一緒に来てくれる?」
 ひなぎくは、クラウレスの膝から降りると、その場に扉を作り出したようであった。その扉の向こうから、現実の世界の様々な音が漏れていた。
「いっしょにいくでちゅよ。わたちは、いつでもひにゃぎくしゃんのみかたでちゅから」
 クラウレスがそう答えたのを最後に、セレスティ達は、N市の子供達を連れて、扉の外へと向かった。喜びも悲しみも一緒に存在している現実の世界へ。子供達の魂を食べる怪物がいる世界へと。(続)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【4984/クラウレス・フィアート/男性/102歳/「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】
【5054/ニルグガル・―/男性/15歳/堕天使/神秘保管者】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

  セレスティ・カーニンガム様

 前回に引き続き、シナリオへの参加有難うございました。
 今回は楽園での進行が主になっているわけですが、ひなぎくの心情や正体、セレスティさん達の楽園に対する思い等をうまく描写するのが、なかなか難しかったです。その為に、随分話が長くなってしまいました(汗)わかりやすく描写をするため、今までのシナリオの中で一番、悩んだ気がします(笑)
 セレスティさん視点のリプレイは、いつも音や言葉の感じ方をメインに書いています。かなり感覚が優れている、という設定を生かし、これはセレスティさんはこう感じているだろうか、と考えつつ話を進行させています。 これが、描写にするとなかなかな難しいですね(笑)
 今回のシナリオは、次回が最終話となります。次回のメインは、魂を食べる怪物との戦い、ひなぎくと楽園の結末がメインになると思います。よろしければ、またのご参加をお待ちしております。