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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


碇麗香と桂の高峰沙耶への取材


 高峰沙耶は、何時ものように微笑んでいた。
「取材を、始めさせてもらってよろしいでしょうか」
 黒猫のゼーエンは、麗香の言葉にうなずくような瞳をする。
 テープレコーダーのスイッチを入れて、円卓の中心に置いた。
「それでは、今日のテーマですが」
 麗香、
「三年前から、何故この世界はこんなにも、殺しあって」
「一回目は、変革という意味だった」
 研究所の主、
「一回目の変革は、過去への思いにより始まったわ」
 ……遠まわしな言葉の意味を、整理するくらいには、麗香は高峰沙耶の、つかみ所の無い人間性には触れていて、
「帰昔線。過去に戻りたい人間の願い」
「因果律と時空が歪になり、幾つもの異なる事がが生まれるように。一つの実像が、幾つもの願いで、数多の虚像を――いいえ、それは虚偽ではない、それぞれが真実」
 ある所では、探偵は、哀愁を漂わせて、涙のかわりに紫煙を漂わせて、
 だけどある所では、馬鹿で情けない男で、
「パラレルワールド、ですか?」
「その方が通りはいいわね。……そう、何度もあった世界の歪み、百年か二百年すれば、元に戻る歪みが生んだ現象。些細な事、世界は滅ばないのだから……」
 麗香と高峰の会話、隣で黙って聞いているのは、桂と、……一人か、二人か、三人か、
 彼等の声はまだ、テープレコーダーに記録されない。
 今保存されているのは二人の女性。
「二回目の変革は、異界というパラレルワールドの如実な形が、幾つも出来た、……そうだと思うかしら?」
「……え」
 麗香は、そもそも異界というパラレルワールドを、概念としては解っても、実際として知れるはずがない。《異界の麗香にとっては。》……自分が、その一人だという事は、目の前の彼女ですらそうである事は、……銀色の髪の少女のレポートで聞かされても、完全に自覚していない。だからどうしても、戸惑いの言葉が漏れる。
 黒いドレスの美女は、構わずに、続ける。
「二回目の革命は、始まっていると思う? ……そもそも、三年後というこの世界は、変革なのかしら、異界という現象、パラレルワールド、……二度目の変革と変わらない」
「……どういう事ですか」
「二度目の変革は、変化は、未だ無い。もし、この異界の主が無謀にも、数多ある中で、それを果たそうとしたのなら」
 この異界の出来事を、世界の出来事にしてしまおうとするのなら――
「……殺しあって、世界を終わらせようとしてるとでも、そういうのですか」
「……それは」
 ついでかもしれないわね、と高峰は語って。
 黒猫のゼーエンの瞳が、側に居る麗香でなく、正面をみつめた。
「二回目のREVOLUTIONは、」
 英語、
「回帰という意味で」そう、
「新たに生まれ変わるよりも、戻りたいのかしら?」
 尋ねる相手、

 巫浄霧絵が居る。
 桂、一人、二人、三人、その他の誰かが集う円卓。


◇◆◇

 月刊アトラス インタビュー記事その二
 藤堂矜持について

◇◆◇


 テープレコーダーは記録する為、そして、再生する為に作られた。過去を今に持ってくる為の道具だ、だから、彼の耳にイヤホンを通して聞こえるのは、昔話。
 最初の取材の内容、
「世界の敵、は、」
 ディテクター、そして、巫浄霧絵、はい、
「そういう事ですか――」
 この世界は異界であり、殺しあう異界であり、
 全ては巫浄霧絵が、過去に戻って、娘とやり直す為。ただ、それだけの為、
 それだけで生き物というのは、
「全く」
 深く溜息をついて、テープレコーダーの停止ボタンを自分で押し、目の前の女性に渡す。
「この世界は虚無の境界の盟主巫浄霧絵が、はい、死ねない草間武彦を、はい、ディテクターにして殺し、それにより《全》人類を滅ぼして」
 その際起こる、三年前の平和な世界を願う霊達を集め、ビッグバンを起こし、
 過去の異界を作り出す。
「どう思われますか、はい、碇さん」
 テープレコーダーを渡した相手に、いきなり、聞いた。彼女は一度、沈黙した後、「私はインタビュアーです」
 私は答えてはいけない、そう返してから、
 彼女は録音ボタンを押した。
「これより取材を始めさせてもらいます、よろしいですか?」
 IO2の新しい長、
「藤堂矜持さん」
 問いかけの返事とばかりに、彼はくつりと笑った。藤堂矜持、碇麗香が言ったように、IO2の新しい長、
 乗っ取った。
「それにしても、はい、おかしいですね」
 彼は言う。「確か、はい、取材の申し込みの時では、もう少し凄いメンバーが揃うと聞いたのですが」
 IO2の敵である巫浄霧絵も、そして、裏切り者のディテクターも、
「ここには居ない、はい、おかしいですねぇ」
 そう思いませんか、スノー、ヘンゲル? と、目の前の相手じゃなくて、後ろに引き連れた従う者に。……スノーと呼ばれた少女の手には大鎌、けれど別に、暴力の手段じゃない。この鎌こそヘンゲルという名がある、そして、意思がある者だから、
 席につくのは認められて。
「事前に申し込みをした際、貴方が取材したい事は、他の方とは違っていましたので」
「そうですか」
 それは確かに、テープレコーダーから聞いた。
「まぁ目の前に、かの月刊アトラスの碇麗香さん、はい、そして全ての次元を渡り歩く桂さん」
 そして――
「事件の裏、暗躍する高峰沙耶さん」
 これでもそうそうたるメンバーですが、と。
 それは、貴方も含めて、と。そう返したのは、高峰沙耶。
「思いもしない行動ね、IO2の飼い犬が、主人になる。普通じゃ誰も考え付かない、大した人よ」
「……嫌味のある、はい、言い方ですね」
 普段の自分の口調も棚をあげてそう返事をする。
「いいえ、興味深いわ、貴方の物語」
 黒猫のゼーエンが瞳を向けた。藤堂矜持、
「時間が余りないのでね、はい、本来私が赴くべき別件も、部下に任せて来たのですから」
 早速、桂さん。
 沈黙を続ける、性の知れない者に、視線を送る事無く、声だけをかけて、
「茂枝君を呼んでください」
 二分二秒後、それは果たされた。


◇◆◇


 IO2のNINJA、ヴィルトカッツェの二つ名、
 、
 今は、ただのNINJA。
「久しぶりですね、はい、裏切り者」
 目の前に現れた、突然連れて来られ、困惑した少女にそう、微笑みながら声をかける。薄く嫌な笑い方で、
「……何」
 ようやく落ち着いた彼女は一言、それだけ。まずは席へと矜持は促す。少女が着席した、矢の次、
「戻ってくる気はありませんか、はい、もちろん友達も一緒に」
 矜持、
「嫌だね」
 萌。
 即座の否定に驚く様子もなく、寧ろ予想していたとばかり口元を緩めた。
「これは最終通告です、はい、言ってる意味が解りますね」
「解ってる、それでも」
 誰があんたに仕える者か、私は、
「彼女の傍に居る」
「我侭な子だ」
 お尻を叩かなきゃいけない、はい、そう思いませんかスノー?
 色白の彼女も、大鎌も、特に答えない。そもそも矜持が叩いても、彼等は強く響こうとしない。山の無い空へ叫ぶかのようだ、
 だから、矜持は一人で歌う。
「世界の敵が、はい、解ったのです。戦力は重要だ……ああ、そうだ、はい、ついでに勧誘しておきましょう」
 それは酷く唐突だった。
「月刊アトラス、はい、貴方達も傘下に」
「な」
「情報は武器です、はい、そうでしょ」
 まずは当面の敵を倒す為に、必要なのだ、仲間が、IO2に、
「四菱の財力も今、はい、IO2にあります。財閥の娘の、はい、護衛の見返りです。それに貴方達が全てくわわれば、もう無敵という幻想が、はい、最早現実」
 全ての者は協力してこそ――
「愚か者は、自分しか考えない」
 、
 それはまだ一度たりとも、テープレコーダーに記録されていなかった声。けれど、藤堂矜持は知っている。
 何としても手に入れたい者、技術、頭脳、
 彼女、
「私以外は馬鹿、その中でも更に、劣る」
 鍵屋智子、擬似的とはいえタイムマシーンすら作り出した彼女が、桂の招きにより円卓に降臨した。
 まるで世界の王が如く振舞う黒衣の少女。
「馬鹿」
「……使者は先程、」別件、「はい、送ったのですが、その様子だと貴方は、入る気は」
「私には既に、協力者が居るわ」
 ある退魔組織のかつてのお館、
「それくらいは知っているはず、無知はけして免罪符にならない、けれど、知っていて行おうとする貴方は、愚か、馬鹿、間抜け、……死に値するわ」
 IO2という権力に対してここまで暴言を吐くのは、この円卓では命が保障されているからか、それとも単に性格か。
 藤堂矜持は、笑っている。
「愚かなのは貴方でしょう、はい、我々は今一丸となり、敵を倒さねばならない。はい、そうでしょう、麗香さん」
「残念ね」
 インタビュアーとしての口調が、消える。麗香、
「情報機関はけして、権力に属してはいけない。……貴方の傲慢という情報を見逃す程、私は物好きと思う?」
「傲慢、はい、ですか」
「だからこそ貴方は、その座についたんだろうけど」
 ……どう思われますか、藤堂矜持さん?
 再びのインタビューに対して、藤堂矜持は、
 立ち上がる。「やれやれだ、はい、貴方達こそ愚かだ」
 今もこうして世界は殺しあっているというのに――
「至極残念な事に、はい、ここでは力ずくは出来ない約束だ、ですから、はい、それはまたの機会に致しましょう。……碇麗香さん、鍵屋智子さん」
 そう言って彼は立ち上がり、忙しいので、このへんでと言って、立ち去ろうと――

 全員の疑問内容、
 何故、茂枝萌の名前を呼ばなかったのかは、
 それは、


◇◆◇

「ああ、茂枝君。はい、貴方は戻らざるをえない」
 ……何を言うんだ、私は、
 彼女の傍に。
 巫浄霧絵が――

「貴方の、はい、母親だったとしても?」

 萌は、絶句した。

◇◆◇


「茂枝君、はい、貴方に親は存在しない」
 、
「十四歳なのに、人殺し、はい、なるほど、母なら心配する事だ」
 、
「出生に秘密があると、はい、思っていた」
 矜持、
「貴方は、はい、巫浄霧絵を殺す義務がある」
 にこりと、笑った。
 こじつけだ、そんな訳が無い、こじつけ、違う、絶対、ふざけた――
「貴方の傍らに居た友達は、はい、貴方について知ろうとしましたか」
 そんな、事、
「ただ一方的に、はい、貴方に協力を求めただけ」
 私、は、
「茂枝君」
 待っていますよと、笑いながら言った。
 この上なく、笑顔で、
 そして、
 ――去っていく


◇◆◇


 殺しあいが酷くなっている世界、一台の車、
 運転手の隣は助手席、後ろは後部座席、藤堂矜持は前に、スノーとヘンゲルは後ろに、
「……世界は」
 外を眺める。
 死体が、一つ生まれている。
「私の敵か、はい、味方か」
 ああ、
「私は間違っていますか、スノー」
 無表情で落とされた言葉に、少女は答えた。
「――貴方は最低です」

 けれど、間違っていない。
 だから藤堂矜持は、くつりと笑う。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 3290/藤堂・矜持/男性/19歳/特殊隊員兼探偵補佐

◇◆ ライター通信 ◆◇
 今回はプレイングを参照にして、別々に仕上げています。世界関係の情報については、先に納品したものを参考にしてください。
 ちゅうわけで今回もご参加おおきにでした。なんとなく悪役路線でバリバリ進んでいて、いや、正義か悪かどうかわかんないですが; 楽しく書かせていただきました。
 茂枝萌の設定について語らせたのは、今後、これを脅しに使えば手元におけるという事で。既に他PL様に茂枝萌は接触されてるので、取り合いになるとは思いますが。(供にIO2に行くのなら別になりますが)あ、萌は殺せますのでー。
 ともかく参加おおきにでした、殺しあう異界は残り三回の予定です、よろしければまたお待ちしています。
[異界更新]
 茂枝萌は、巫浄霧絵の娘。予想で留まらない真実と思われる。
 藤堂矜持、あらゆる勧誘活動は失敗した、が、世界の敵が誰であるかと、茂枝萌をIO2に再び招く強請りのネタが。