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■ナマモノ双六−じょうずなかわうそ？のつかまえ方 双六編−■
ある日、アンティークショップ・レンの主である碧摩蓮は、倉庫を片付けていた時に古ぼけた箱を見つけた。
その箱にはあの小麦色のレリーフがあり、「にゅんべら〜」とかヘンな声がする。
「…………」
あまりの気持ち悪さのため、蓮は───捨てた。
◇
一方、仕事帰りの三下忠雄。
夜道を歩いているときに、ゴミ捨て場に妙なものを見つけ、なんの性かその箱を拾ってしまった。
「なんだろうこれ……コワそうだなあ」
と、あやかし荘で開けるに開けられない三下だったが、
「どれ、わしが開けてやろう」
と、あっという間に嬉璃の手によって開けられてしまった。
───嵐の到来である。
その箱の特質がゆえに、ゲームをするしかなくなった。
◇
一方その頃、草間興信所では。
「なんだっ……さ、さっきから身体が動かん」
と、主である草間武彦がもがいている。
あやかし荘ではまさに、嬉璃が草間そっくりの形をしたコマを動かし始めた。
「この怪奇探偵をコマにするかの」
と、楽しそうに……。
当然のように、武彦の身体は勝手に動き始める。驚く武彦。
「さて……このコマ、どうもおぬしにそっくりのようじゃ。ちょうどいい、おぬしが使え」
と、あなたは自分そっくりのコマを渡された。
よく見てみると、このゲームは簡単な双六のようだ。
「じゃ、始めるぞ」
嬉璃がコマを進めたとたん、周囲は密林（ジャングル）へと変化した。嬉璃が進めたマスを見ると、「蛇に首に巻きつかれて苦しがる」と書いてあった……今頃恐らく武彦は、蛇に首に巻きつかれて苦しがっていることだろう。
このゲームの呪縛から逃れるには、無事ゲームを完遂させるしかないようだった。
■榊・圭吾編■
なんとなくやってきてしまい、こんなことになってしまったが、やるしかないならやってやろう、と思う圭吾である。
「一人で参加しますよ。嬉璃さん、ダイス振ってください」
どうぞ、と手で示すと、嬉璃は、
「わしはもう振ったから、次はおぬしじゃ」
と、面白そうに笑う。
圭吾はころころと手の中でサイコロを転がしてから、一度目を振った。
途端、
「うわ！？」
圭吾の座っていた部分に急に穴が開き、隣の三下共々服が泥んこになってしまった。
穴はどんどん広がってゆく。
「おっと……わしも巻き込まれないうちに、早く振ったほうがよさそうじゃの」
嬉璃が振らないと、穴は消えない。
そのことに気がついた嬉璃は、急いで二度目を振る。ようやく穴が消え、服は泥まみれになってしまったものの生き埋めにならずにすんだ、と圭吾はホッと一息。
「よし、二度目」
圭吾は張り切って振る。さすがはメカニックマン、体力と気力は人一倍ある。
と、どこからかいい香りが漂ってきた。
「……なんだろう？」
ススーッと勝手に動く圭吾そっくりのコマにいざなわれるかのように、圭吾自身もまた、そちらの香りのほうへ歩いていく。
密林の中に───お菓子の家を発見した。
そう、童話の絵でよく見る、あの美味しそうなお菓子の家だ。
|Дﾟ) なにみてる 早くたべないと、ひとくい魔女にたべられるぞ
どこからか、かわうそ？がそう忠告してくる。きょろきょろしながらも、「マジですか」とつぶやきながら圭吾はお菓子の家、とりあえずチョコレートの扉から手をつけ始めた。
「あっ、ぼくも手伝います！ 人食い魔女になんて食べられたくないですからっ！」
と、眼鏡の泥を拭いていた三下が急いでやってきて、家にかぶりつく。
そうしてなんとか完食し───実際今腹ペコに近い状態でなかったら、とても無理だっただろう───ボードに戻る、二人。
嬉璃はもう、三度目を振ったらしい。
「じゃ、こっちも三度目」
コロン、と圭吾の三度目。
「！？」
どこからか何かがしゅるっと飛んできて、反射的に避けようと思ったのだが仕様らしく、身体のほうが動いてくれなかった。
飛んできたもの───それは縄。
三下と圭吾の二人の身体に巻きつき、コマはすーっと動いてスタート地点に戻る。
「ああ、振り出しに戻るのマスだったのか……って、縄は必要なさそうなんだけどなあ」
「うう、それがこのかわうそ？ワールドの仕様、とかかわうそ？さんが出てきたら言いそうだなあ」
もっともな意見を言う圭吾と、泣きそうな三下。
「ほっほっ。はよせんと、草間がどうなってるかのう」
嬉璃は四度目を振る。こちらはかわうそ？に頭をかじられていた。恐らく武彦も頭を痛がっているのに違いない。
「早くゲーム終わらせてやる」
なんとなく使命感に燃えた圭吾、コロンと四度目。
すると嬉璃に噛み付いていたかわうそ？は消え、かわりに近くの森の中からかわうそ？らしき物体が現れた。
「あっ榊さん！ このマス、ハンター出現って書いてあります！」
「ハンター？」
とりあえずレリーフにもそっくりだし、あれを捕まえればすむのだろうと判断し、そろそろとかわうそ？らしきものに近づいていく。
だが───。
「痛ッ！」
いつもの俺ならやられないのに、と、実はほんもののカワウソだったそのハンターに噛まれた圭吾がぼやく。
|Дﾟ) ホンモノはこっち なにもかもマスの通りにな〜る かわうそ？わーるど
サッと顔を出し、サッと消える本物のかわうそ？である。
「五度目！」
気合をもっと入れ、サイコロを振る圭吾。
だが再び縄が出現し、コマはスタート地点へ。
「くそっ……俺って実は運がないのか？」
真面目に考え込んでしまう、圭吾である。
嬉璃は笑いながらも、次へとコマを進めている。
「ええい、悩んでいる場合じゃない……次！」
ていやっと、圭吾の六度目。
ドドドド……と、何か地響きがする。
「今度は地震か？」
身構える圭吾だが、密林の中を様々な動物達が走り始めた。
「ええと、……どこかの動物園から動物達が脱走、彼らと共に記念写真を撮るべし……」
マスに浮き出た文字を読む、三下。
空中から、ぽかっとカメラが出現して圭吾の手の中へ。
「ま、比較的安全なものでよかった。えーと……どれと撮るかな」
とりあえずおとなしそうなキリンと、と圭吾はそろそろと近づき、カメラを三下に渡して、一緒に撮ってもらった。
なんとなく楽しかったので、ラクダやゾウとも撮ったところで、動物達は嬉璃が次のマスに進んだことで消え失せた。
「楽しいマスもあるんだな」
「ですねえ」
にこにこと、和んでしまう圭吾と三下。
そして、圭吾の七度目。
再び、先ほどとは違う地響き（？）が。
見ると、左側を流れていた大河の水が溢れ出そうとしている。
|Дﾟ) 大河があふれてくるぞ 脱出船つくるまで次のサイコロふれない
|Дﾟ) いそげ がんば
かわうそ？がかわりに説明してくれ、また消え失せる。
船作りなら、と圭吾は出てきていた道具で密林の木を切り倒しては手際よく組み立てていく。
船作りの知識はなかったものの、いつだか船の作り方を読んだことがある。雑学を知っていてよかったと思う。
まあ、知らなくても仕様なのだから作れたのだろうが、圭吾が作った船は実にしっかりしたものだった。
「わ、すごいなあ榊さん。これ、写真に撮っといていいですか？」
「そんなたいそうなものじゃないけど、いいよ」
微笑みつつ、圭吾が言ったので、三下は嬉々として写真に撮り、その間に嬉璃はサイコロを振り、次へとコマを順調に進めている。
「よし、八度目だ！」
圭吾がコロンとダイスを転がす。
だが何の因果か、またまた縄がどこからか二人の身体に巻きつき、コマがスタート地点に。
「く……」
さすがに三度も同じことを繰り返すと───へこむ。
だが、このまま終わってはそれこそ悔しい。
チャンスはまだ転がっているはずだ。
嬉璃が笑う傍らで、圭吾は九度目を振る。
───どこからか、いい香りが。
いやーな予感がして振り返ると……そこには、さっき完食したハズのお菓子の家があった。
「これ……」
「やっぱり、また完食するしかないみたいだな」
足が勝手にまた動いていくのを感じながら、向こう三年くらいはお菓子類を食べたくない、と思う圭吾と三下である。
「わしは一回休みじゃ。榊、おぬしが振るのじゃ」
泣いても笑っても最後のダイス。
嬉璃のその言葉に圭吾は思い切り気合をこめ、サイコロを転がした。
「あ、榊さん、これ！」
三下が地面を指差したので見てみると、かわうそ？のものと思われる足跡がどこかへ点々と続いている。
「行ってみよう」
身体が勝手に動いてもいるし、とはあえて言わない圭吾である。
今度こそ本当のかわうそ？であってほしい。
そう願いつつ三下と共に足跡を辿っていくと───松の木があり、天女がそのかげで水浴びをしている。松の木には、羽衣がひっかけてあった。
「！」
ここは密林じゃなかったのかと松の木を見て感想を漏らす前に、思わず目をそらす、圭吾である。
「あっ」
三下も目をそらそうとした瞬間に、天女がかわうそ？を抱いていることに気づいた。
「て、天女さん、この羽衣とそのナマモノを交換してくれませんか？」
目をそらしつつ、松の木から羽衣を取り、健気な三下である。
だが、天女は何も言わず───かわうそ？を抱いたまま、天へと昇っていった。
「天女か……かわうそ？ワールドとやらでなんでもありとはいえ、キレイだな」
ぽつりと、そんな本音を言う圭吾は、やるだけやった、と肩を落とす三下の背中を笑って叩きつつ、ボードへと戻る。
そこで密林が消え、みるみるうちに元の部屋───あやかし荘の部屋へと戻っていく。
見ると、嬉璃がかわうそ？を見事に捕まえて、笑っていた。
「なんにしても、草間さんが無事に終わったみたいだから、よかったよ」
圭吾はそう笑って。
かわうそ？が、そんな圭吾に言ったのだった。
|Дﾟ) 負けてもこんなにさわやかな人間 はじめてだ
《完》
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
5425/榊・圭吾 （さかき・けいご）/男性/27歳/メカニック＆違法改造屋
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、東圭真喜愛（とうこ まきと）です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで（皆様に御迷惑のかからない程度に）活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにＢＢＳ等に書いたりしていますので、ＯＭＣ用のＨＰがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねｖ大したものがあるわけでもないのですが；（笑）
さて今回ですが、双六ネタを思いついてしまいまして、急遽ＮＰＣをお借りしたりしまして、こんなノベルになりました。わたしのノベルにしては、かなり異色かと思われます（笑）。もう、ただひたすら何も考えずに楽しむノベルを、と考えたらこんなものができてしまいまして（爆）。
■榊・圭吾様：続けてのご参加、有り難うございますｖ 前回手がけさせて頂いたノベルの中では、イメージがちょっと設定と違うのかな、と思ったりしたこともあり、今回のほうが圭吾さんの言葉遣いというか口調が以前よりは礼儀正しい、という設定に基づいて書いてみてます。また、圭吾さんの雑学〜の部分の設定も少し引用させて頂いたり。多分圭吾さんなら、どんな困難にあっても前向きで笑って終わるだろうなということで、こんな双六ノベルになりましたｖ
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」（もっと望むならば今回は笑いも）を追求しまくってしまいましたが、参加者様には本当に感謝しております。有り難うございます。
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
2005/8/31 Makito Touko
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