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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


サツマイモ地獄。


「………ナニコレ」
 司令室に無造作に置かれたダンボール。5つほどはあるだろうか。
 それを遅れて出勤してきた早畝は、物珍しそうに覗き込んだ。
「お前、そこまで頭悪いのか? 見たまんま、さつまいもだ」
「それくらい解ってるよ、俺が言いたいのはなんでこんなにさつまいものダンボールが此処にあるかって事!」
 斎月が咥えタバコのままで早畝をからかうように言うと、彼は少しむっとした表情で反論した。
「……僕の知り合いがね、今年は豊作だったからって送ってくれたんだ。特捜部のメンバー一人ずつにって」
「それって……一人一箱もれなくついてくるって…言うこと?」
 一人一箱というには、一箱多いような気がするが…。オマケなのか、秘書への気遣いか。
 顔が広い槻哉は、どうやら農家にも知り合いがいるようだ。
 早畝の言葉に槻哉が困ったように笑いながら頷き肯定すると、メンバー一斉に一歩後退る。
「……む、無理だよ。こんなにいっぱい。俺料理とか出来ないし」
「俺だって無理だ。一つや二つなら焼いもにでもして食えるけど、こんなにあったら胸焼け起こしそうだ」
 早畝がぶんぶん、と首を振りながらそう言うと、斎月も慌てて彼に続く。
 ナガレに至っては『動物の俺にどうしろって?』と完全拒否の姿勢だ。
「そうだね……こればっかりは、一人でどうしろと言っても…出来ないことだね」
 槻哉が静かにそう言うと、メンバー全員で溜息を吐く。
 それから暫く、所狭しと居座るさつまいもを、どう処理していくかで論争が続いた。

 
 司令室のドアを軽やかに開け入ってきたのは桐生・暁。過去に何度か特捜部に協力してくれている少年だ。
「こんちは〜…って、うっわ凄いイモだらけ」
「暁、いいところに来た。これやるから持って帰れ」
 暁と一番馴染みがあるのは斎月。暁の姿を見たとたん駆け寄り、にこにことしながらそんな事を言う。
「……来たばっかで『持って帰れ』って言われるのは、ちょっと傷つくなぁ。
 はは〜ん、これだけ数あったら特捜部の皆サンも困るもんね〜」
 暁は辺りを軽く見回し状況を判断したのか軽い口調で言った後、ふむ、と一瞬だけ考える姿勢をとる。
 そうしていると、開きっぱなしの扉の向こうで軽くノックをする女性の影があった。
「――よろしいですか?」
「ああ、綾和泉君」
 その女性の声に一番に反応したのは、槻哉だ。さつまいものダンボールを一箱端へと避けると、彼女に向かい『どうぞ』と招いた。
「………取り込み中でしたか?」
「いや、いいんだよ。ところで、今日は……?」
「頼まれていたものが出来上がりましたので、届けにきました」
 槻哉の開けたスペースを颯爽と通り抜け、手にしていた封筒を槻哉に差し出しているのは綾和泉・汐耶。凛とした雰囲気を持ち合わせる美人だ。
 彼女から受け取った封筒の中身を確認した槻哉は、
「有難う、わざわざすまないね」
 と言いながら、満足そうに微笑む。
「よっし、サツマイモ料理コンテストやろう! もちろん俺も参加するし♪」
 そんな時に聞こえてきたのが、暁の楽しそうな声だった。
 それに振り向いたのは槻哉と汐耶の二人だ。早畝とナガレはすでに暁と斎月の会話に加わっていたらしく、暁の提案に一足先に驚きを見せている。
「俺、料理出来ない!」
「俺もパス」
「んじゃ、早畝とナガレは審査員。俺は一通り料理仕込まれたクチだし、斎月サンは料理出来る? それから、槻哉サンと隣のきれーなおねーさんも」
 暁が場を仕切っているのか、テキパキと役割分担を始める。
 そしてその矛先は、槻哉と汐耶にも向けられた。一瞬面食らった表情した汐耶だが、すぐに状況を読み取り槻哉へと視線を向ける。
「なるほど、原因はこの薩摩芋……ですね?」
「……そうなんだ。知り合いが送ってきてくれたんだけど、少し数が多くてね、どうしようか困っていたところだったんだ」
 汐耶の一言に、槻哉は申し訳なさそうに笑いながら応える。
 すると彼女は一つのダンボールを覗き込みくすりと小さく笑い、そしてまた口を開いた。
「初物って嬉しいですよね。私も料理は人並みに出来ますし……それでももし余るようでしたら槻哉さんの伝手で施設へ寄付とかどうでしょう? 私も知り合いの古書店とかへとばら撒き…いえ、お裾分けと言う形でお手伝いできますが」
「そうか…寄付するのもいいだろうね。
 しかし……僕も料理は出来るが……本当にやるのかい?」
「カタイコトはいいっこナシって! いつまで経っても消費出来ないのって困るだろ〜? ちゃちゃっと調理しちゃってさ、皆でおいしく食べちゃったほうがいいデショ」
「まぁ、暁の言うとおりだよな。
 ちなみに俺、今回は審査員で。槻哉に暁に汐耶がいるんだったら、それで充分だろ」
 汐耶の言葉に槻哉が答えつつ、暁へと問いを投げかけると彼はにこにことしながら槻哉を諭すようにそう言った。斎月もさっさとこのダンボールの山から逃げ出したいのか、暁の提案に賛成の方向で言葉をつなげる。
「じゃあ、決まりな。ところで槻哉サン、このビルって調理場とかってあったりすんの?」
「……ああ、一階の奥に設備してあるけど普段は使ってないよ」
 きょろ、と辺りを見回してから暁は槻哉に視線を戻して当たり前の質問をする。料理をするのに調理場がないのは致命的だが、槻哉の返事を聞く限りでは一応存在はするらしい。
「調理場なんてあったんだ」
「そう言うツッコミは心の中だけにしておけ、早畝」
 二人の会話をぽかん、としながら聴いていた早畝はまるで独り言のように、そう言う。
 すかさず早畝の台詞にツッコミを入れるのは彼の肩の上にいたナガレだ。
 特捜部のビルに調理場があったというのは、秘書も知らないのではないのだろうか。ちなみにそのいつもの美人秘書は、偶然にも休暇で週末までいない。
「そんじゃ、材料だけ揃えば良いって感じ? 俺買出し行くよ。ってわけで斎月サン、付き合ってv」
「………なんで、俺」
「えー、俺と斎月サンの仲だろ〜? いいじゃ〜ん」
 どこまでも場を仕切りっぱなしの暁。その場の流れで斎月を指名して自分は外へと買出しに行くらしい。
 斎月は咥えたタバコを落としそうになりながら、暁の言葉に呆れ返っていた。
「役割分担が出来てしまったようですね。では私は調理場の準備でもさせてもらいます」
「僕も行くよ。すまないね、せっかくの休日だったのに」
「いえ、いいんです。楽しそうですしね」
 暁と斎月の姿を見ながら、汐耶がそう言うと槻哉がそれに続いた。そして彼らはそのまま司令室を後にしようとしている。
 一人残された形となった早畝は、当然ダンボール運びとなってしまった。
「……なんか損な役回り」
「元気出せ、早畝」
 ぽつりと独り言を漏らすと、きちんと返事が返ってくるのは早畝の肩の上にナガレが乗っているから。慰めの言葉も今は何だか空しく響く。
 早畝は諦めたように目の前にあるダンボールを一つ、担いだ。
「…お前は?」
「?」
 扉の向こうで斎月の声がする。
 また来客があったのだろうか。
 早畝はダンボールを抱えたままで、扉へと足を向けた。
「……斎月と言う人物に、同居人から預かった言葉を伝えに来たのだが…立て込んでるようだな」
 静かにそう言うのはスーツ姿の男。
 一見怖いイメージを持つ彼は、田中・眞墨。特捜部との対面はこれが初めてになるが、彼の『同居人』が幾度か斎月に協力しているらしい。
「同居人って……。…もしかして、『クロ』か?」
 暁を横に置いたままの斎月は、眞墨の言葉に考えを巡らせ、思い当たった人物の仮の名前を出した。本名は聞いていないからだ。
「……あれが自分のことをどういっているのかは知らんが、おそらくそうなのだろう。…お前が『斎月』でいいんだな?」
「ああ」
 眞墨は表情変えずに淡々と斎月に向かってそう言う。
 斎月もそれに応えるかのように静かな態度だった。
「―――『色々大変、だけどありがとうございました』と預かっている」
「……そうか」
 斎月と眞墨にしか解らない会話。
 傍にいた暁やダンボールを持ちっぱなしの早畝は半ばぽかん、として目の前の状況を眺めている。
 伝言を受け取った斎月は、満足そうに笑っていた。
「大変、か。…ま、そりゃそうだろな……」
 独り言を漏らしながら、斎月はちらりと眞墨を見た。彼の相手が目の前の人物だと確信するとますます可笑しくなってしまう。
 当の本人である眞墨には、いまいち状況が解らないようであるが――。
「ね、おにーさんお名前は? ヒマだったらサツマイモ食べていかない?」
 この状況下、黙っていられなくなって口を出してきたのは暁だった。早畝は気後れして未だに動けずにいる。
「……何をする気だ?」
「ほらほら、見てよこのダンボールの山っ。特捜部の皆サンじゃ食べきれないからって俺たちが協力することになってさ、そんで料理コンテストを開くことになったんだ。人数は多いほど楽しいし、是非おにーさんも参加してってv」
 眞墨の視線を捕らえ、早畝へと指を刺してダンボールの中に詰め込まれているさつまいもを見せる。
 持ち前の明るさと、話術で場を盛り上げようとする暁。その行動の早さに斎月さえもが歓心する。
「なるほどな。……取り敢えず、基本は焼き芋だろう」
 暁の言葉に、眞墨は一歩歩みを早畝へと向けダンボールの中のさつまいもを手にする。そして3つほど取り出した後は、その場で芋を使ってお手玉を披露する。不揃いな形のさつまいもはまるで彼の手の中で踊らされているかのように、ぽんぽんと回転を繰り返していた。
「うわー、すごい……」
 本気で歓心しているのは目の前の早畝。ナガレもそれを見上げながら言葉を失っている。
「なんかやる気あるみたいだし、おにーさんも参加ってことで。
 んじゃ、各自行動開始〜!」
「何勝手に仕切ってんだお前はっ! …って引っ張るなよ」
「いーからいーから♪ じゃあ俺たち今度こそ買出し行ってきま〜す!」
 完璧に仕切り役になってしまっている暁を、誰も止められない。そして斎月はその暁に引き摺られて長い廊下から姿を消す。そのまま買出しへとつき合わされるのだろう。
「……慌しいな」
「えーと……じゃあ、俺と一緒にコレ運んでもらえませんか」
 暁と斎月を見送りながらも、手の中の芋は綺麗に回転させていた眞墨に、早畝は恐る恐るそう声を掛けた。
 すると彼は司令室に残されているダンボールを見やり、言葉なくそれを浮かせた。彼の持ち合わせる妖術が働いたのだ。
「わ……」
「何処に運ぶんだ」
「一階の奥……調理場」
「そうか」
 口早に会話を済ませると、眞墨は早畝より先に歩みを進めその彼の背中を追うように早畝が慌てて小走りになる。
「なんか……凄いやつだな。いろんな意味で」
「うん……」
 ナガレは眞墨の背中を見ながら、小声で早畝へとそう言う。早畝も小さく頷き、自分が抱えているダンボールをしっかりと持ち直してエレベーターへと繋がる廊下を突き進んだ。



「やっぱり甘いもので責めるのが効果的っしょ。早畝ってお菓子好きそうだし。って事でクランブルケーキ作ろっかな。アレならりんごとか木の実で結構簡単に作れるし」
「……そうかよ」
 頭の上に音符が浮いているように機嫌のいい暁は、実に楽しそうにそんな事を言った。
 隣には強制的に歩かされている斎月がいる。
「でもお前、マジで料理出来るんだな」
「あ、ひっどいなー疑ってたの? 俺これでも腕には自信アリだよ。一人前になるように叩き込まれたしね。何処にでも嫁に出してもいいように〜ってさ」
「ふーん」
「……って! 此処ツッコムとこだから!」
 自慢気な暁の台詞に、斎月は素っ気無く返事をするとすかさず反論が返ってくる。
 そんな暁を横目にしながら、斎月は小さく笑った。
 どうにも、この線の少年少女に好かれる傾向がある斎月はいつもこんな調子だ。嫌がっているのではなく、これでも楽しんでいるつもりらしい。
「斎月さん、もっとこう、さー…。ノリ良くなろうよ〜」
「俺はもうおっさんだからな」
「……うわー、それすっごいムナしい響きー…」
 暁の言葉を適当にかわす斎月。適当すぎて墓穴を掘ったような気もしないでもないのだが……。
「あ、この先にさ行きつけがあんの。人のいいオバちゃんがいてさ〜いつも色々オマケしてもらえるんだよね〜」
 そう言う暁からは妙に生活観に満ちたものを感じた。毎日を適当に生きている自分とは少しだけ違う、空気。
 羨ましい、と思ってはいけないのだが。その感情は時として残酷なものへと摩り替わってしまうものだから。
「―――真面目な話、好きなもの…甘いものとかってさ、研究が進むじゃん? だから料理もうまくなったのかな〜って思うよ。
 あ、オバちゃん、そっちのりんごオマケして〜v」
 辿り着いた店内で、果物から調味料に至るまでを選別しながら暁はそんなことを言う。先ほどの話を元に戻したのだろう。自分で茶化して置いたが、それでもきちんと綺麗に話をまとめたかったのだろうか。そしてしっかり、値切ることも忘れずにいる。
「……ま、何にしても好きじゃなかったら研究しようとまでも思わねぇと思うけどな。っておい、支払いは俺がするから値切んなよ」
「うっわ、斎月サンやさし〜♪ どしたの、俺に惚れちゃった?」
「ばーか」
 斎月は暁の砕けた態度に内心安堵しつつ、彼の頭をこつんと叩く。
 それから二人は店を数店巡り料理に必要な物を買い揃えて(なんでも暁が値切ろうとするので支払いは全て斎月がした)、特捜部のビルへと戻ろうとしていた。


 所変わって此処は一階調理場。
 普段使ってはいないと言いつつも、清掃業者を入れてあるのか思いのほか汚れている感じも見受けられないその場に最初に辿り着いた汐耶と槻哉は、後から来るだろう早畝達のために扉を開け放ち直ぐにも使える状態へと持っていくための準備を始めた。
「さすが槻哉さん……と言ったところでしょうかね。こんなしっかりとした調理場まであるなんて」
「でも見てのとおり需要はあまりないよ。徹夜組のメンバーがお湯を使うくらいのことしかしてないようだしね」
 汐耶は厨房へと足を運びガスが通っているか確かめながらそう言う。
 彼女の言葉に冷蔵庫の中身を確かめていた槻哉は、すぐに応えて苦笑した。
「あまり凝ったものは作れませんけど……そうですね、天ぷらやお菓子なら手早く出来そう」
「じゃあ僕はレモン煮でもつくろうかな。早畝の好物でね」
 汐耶の言葉に続くように槻哉がそう言うと、彼女は小さく笑った。
 普段の槻哉からは想像できない図なのかもしれない。
「……あら、こんなところにエプロンがありますよ?」
 戸棚の引き出しを開けると、綺麗に畳んであるエプロンが姿を現した。汐耶はそれを取り出して槻哉に見せる。
「本当だ……知らなかったな。誰かが用意したんだろうか」
 槻哉も始めて見るものらしく、首を傾げて彼女に応えた。
 槻哉が知らないだけで、割とこの調理場も使われているのかもしれない。
「それじゃあ、使わせていただきましょうか」
「……そうだね」
 お互いに顔を見合わせ、くすりと笑うと汐耶が水色のエプロンを槻哉へと渡す。
 そして二人は徐にエプロンを装着してみる。
「あ、そのエプロン! 良かった、ちゃんと見つけてくれてたんだ」
 槻哉が開け放してあった扉から、そんな声が響いた。
 視線を送ると早畝がダンボールを持ったままで、槻哉と汐耶を見て嬉しそうにしている。
「あー。そういえば前に作ってたなぁ、お前」
「そうそう。やっぱさ、料理するならエプロンって必要じゃん。……っても俺は料理ダメだけど。でも作っておけば使う人が便利かな〜って思ってさ」
 肩の上にいたナガレが早畝にそう声をかけると、槻哉や汐耶にも説明するかのように二人を見ながらそう言った。
「じゃあ……これは早畝が全部?」
「うん。取敢えずピンクと水色と緑とクリーム色と作っておいたんだけど……ちゃんとあるよね」
 水色のエプロンを身に着けた槻哉が、意外そうな顔で早畝にそう言うと少し照れたようにして彼は応える。ちなみに汐耶はクリーム色のエプロンを身につけていた。
「えーとじゃあ……残りは暁だから…緑かな」
「……それはいいけど早畝。後ろの方は?」
 ピンクと緑色のエプロンを両手に持ち、そのうち帰ってくるだろう暁のことを思い浮かべながら独り言のように呟きを続ける早畝に、槻哉は静かに問いかける。
 早畝の後に調理場に現れたのは、眞墨。
 無表情で妖術を駆使しながら運んでいたダンボールを床に置き、その場で佇んでいた。
「あ、そっか。槻哉たちがいなくなってから司令室に着たんだっけ。えっと、彼は……あれ?」
「――田中眞墨。同居人から斎月という男へ伝言を頼まれて足を運んだまでだ。
 早畝はおそらく、半分彼の存在を忘れていたに違いない。
 慌てて紹介しようにも名前を聞いていなかった早畝がその言葉をとめると、眞墨がそれに続くかのように自分の名を告げた。
「それでは……半ば強制的に参加させてしまったと言うことかい、早畝?」
「ええとまぁ…そう言うことになるのかなぁ……ほら、暁が…」
「別に構わない。……だが俺はあまり料理好きではない。どうしてもと言うのであれば……これくらいの事が出来るが」
 槻哉と早畝が、申し訳なさそうに会話をしていると、ひとつため息の後に眞墨がまた口を開いた。
 そして参加の意向を簡潔に告げ、手にしていたままのさつまいもを空に浮かせて妖術で一瞬に焼き芋を作って見せる。
「あら、早速一品出来てしまいましたね」
 出来立ての焼き芋はほかほかと湯気があがり美味しそうだ。
 それを見た汐耶が微笑みながらそう言う。
 あわあわと皿を差し出したのは早畝。焼き芋を入れるための物だ。
 それを見た眞墨は、ダンボールの中からまた二つほどさつまいもを取り出し、見る間に焼き芋にしてしまう。
 彼の能力に真面目に感心しているのはナガレだった。宙に浮かぶ焼き芋を見上げながら、『ほほぅ』と独り言をもらしている。
「たっだいま〜! ……って、あれーもう始まっちゃってんの?」
 ひときわ明るい声で調理場へと顔を出したのは買出しから戻ってきた暁だ。その後ろには斎月が両手に紙袋を抱えて疲れた表情をしている。
「お〜、おにーさんは焼き芋かぁ。んじゃ俺も負けていられないってね。あ、そこのピンクのエプロン借りちゃうよ〜」
 暁はいつも自分のペースを崩さない。テキパキと行動を決めて自分もさつまいもを料理するための準備に入る。……ベビーピンクのエプロンが良く似合っているのは彼の持ち合わせる魅力のためか。
 そして槻哉と汐耶も暁に遅れをとらぬようにと厨房に入り、ようやく3人での調理が始まった。


 大きなテーブルの上に並んだのは、汐耶の作った天ぷらとスイートポテト。槻哉がレモン煮。暁のクランブルケーキ。それから眞墨の焼き芋。
 と、なかなかに豪勢な品々が出来上がった。
 甘いものに目がない早畝などは、目をキラキラさせながら喜んでいる。
「結構すごいな。秋の味覚満載って感じだ」
 斎月やナガレも並べられたさつまいも料理を眺めて感心していた。
「さーて、じゃあ審査員の皆サン、どーんと食べて誰が一番か決めちゃって!」
 暁がそう言いながら、早畝たちの目の前に少しずつ分けとった料理を差し出していく。もちろん、此処にいる全員の分だ。コンテストの結果などは、二の次でいいらしい。
「皆でこうしてテーブルを囲むと言うのも……暖かくていいものだね」
 槻哉がそう言うと、汐耶がこくりと頷き微笑み返す。
「結構な量使いましたけど、それでもやはり残りますね。帰りがけに少し頂いていきます」
「俺も、迷惑でないなら其処の開けられていない一箱を貰って帰りたい」
 汐耶の言葉に続くかのように、眞墨が静かにそう言う。
 槻哉がいいですよ、と二人に笑いかけて了承した。
「あー、そうだ。持ち帰ってクロにも食わせてやってくれな」
 斎月が汐耶の天ぷらを食べながら、眞墨にそう言い意味有り気に笑う。
 不思議そうな顔をする眞墨だが、斎月はそれ以上は何も言わないまま、黙々と目の前の料理に手をつけていた。
「あ、そうそう。さつまいもで焼酎作れるんだってね〜。でもすぐ作れるわけじゃないしーってことで、酒屋で見かけたから小さいのだけど買ってきたんだった。皆で飲もう♪」
「ばーか、お前は未成年だろ。っていうか……いい加減そのエプロンはずせ、暁」
「いやぁ、なんかハマっちゃってる感じかなぁと。似合うっしょ〜?」
 テンションの高い暁は、足元においてあった袋を持ち上げそこから芋焼酎を取り出してみせる。
 斎月が呆れ顔でそう言うと、『ケチー』と前置きして、身に着けたままのエプロン姿を斎月に見せ付けた。
 いつも、サービス精神旺盛である。
 そんな二人に、槻哉と汐耶は静かに笑っていた。
 早畝などは目もくれずに料理にかぶりついている。ナガレはその隣でスイートポテトを幸せそうに食べていた。

 一度は投げ出したい気持ちでいっぱいだったさつまいもの山も、皆のおかげで早めに消費出来そうだ。
 ちなみに、料理コンテストの優勝者は『どれも美味しくて甲乙つけがたい』と言う早畝の意見がそのまま受け入れられ、該当者ナシと言う結果に終わるのだった。


 
 -了-


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            登場人物  
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【整理番号 : PC名 : 性別 : 年齢 : 職業】

【4782 : 桐生・暁 : 男性 : 17歳 : 高校生アルバイター、トランスのギター担当】

【1449 : 綾和泉・汐耶 : 女性 : 23歳 : 都立図書館司書】

【3108 : 田中・眞墨 : 男性 : 999歳 : フリーター/勾魂使者】

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            ライター通信          
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ライターの朱園です。
この度は『サツマイモ地獄。』という凄いタイトルにも関わらず(苦笑)
ご参加くださり有難うございました。

こうした多人数のノベルは久しぶりだったのですが、とても楽しく執筆することが出来ました。
皆様も少しでも楽しんでいただければ幸いに思います。

また特捜部のメンバーが困っている際には助けてやってくださると嬉しいです。

今回は本当に有難うございました。

朱園ハルヒ。

※誤字脱字がありました場合、申し訳ありません。