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<東京怪談・PCゲームノベル>


具現化協奏ファントムギアトルーパー――testee3

 ――季節は夏から秋へと移り変わった。
 夏の暑さを乗り越えれば、僅か数ヶ月の心地良い月日が訪れる。
 気温は汗ばむ程の暑さでもなく、陽光が照らす空は穏やかそのものだ。
 そんな一時こそ、人は色んな事を考え、この快適な季節を満喫しようとする。
 食欲の秋、読書の秋、芸術の秋‥‥。
 そして、学園では様々な行事が執り行われる季節。
 体育祭、文化祭、林間学校‥‥。
 紅葉が彩る山林への坂道を、数台のバスが登って行く――――。

■testee3:林間学校の中で
 ササキビ・クミノは山道を一人歩いていた。
 周囲に人影はなく、たった一人だ。ふと脳裏に提案を出した時の事を思い出す。
 ――刻は数日前に遡る。
「頼もしい方々ですわ☆ もっともっと増えると部隊編成が出来て楽しそうですわよね? 次もお願い致しますわ♪」
 総数11名の軽い自己紹介が終わった後、ササキビ・クミノは鎮芽を呼び止めた。
「FGTの仕様について聞きたい事があるの」
「仕様、ですの?」
「見鬼の同乗時に妖機怪をモニターへマークする装備を提案したいの。モニター内で簡単なCAD画像を拡大縮小移動させるみたいなものね。それから僚機へと妖機怪画像を転送する擬似カメラ装備を具現化できないかしら?」
「見鬼? あぁ、妖機怪が見える方の事を仰っているのね☆」
 パンと両手を合わせ、銀髪の少女は微笑んで見せると、話を続ける。
「うーん、何だかよく分かりませんわねぇ」
 頬に手を当てて考え込む鎮芽。発言を断わってから執事らしき初老の男が口を開く。
「つまり、パイロットの視界をモニターし、その情報を擬似的に表示する訳でございますな。例えるなら、発射したミサイルのカメラをパイロットが見るような」
「まぁ、そんなところね」
 首を竦ませ、両手を広げて見せるクミノ。提案したい事は伝わっているようだ。老紳士は腕を組む姿勢を取り、顎へと右手を伸ばす。
「そうですな、妖機怪を見る事が出来る方にヘルメットを被って頂けると可能かもしれませんな。勿論、妖機怪の形状は分かりませんが、視線をポイントできれば居場所を予測する事はできましょう。ですが、妖機怪画像を転送する擬似カメラは無理ですな。それが出来るとすれば『自分が見ている視界を対象に見せられる能力』を持った方でしょう」
「そう。だったら、そのヘルメットを用意してくれる? 尤も、駄目なら私が用意するけど」
 要はヘッドマウントディスプレイ対応ヘルメットを召喚すれば済む事だ。
「そうですわね。協力できる事で可能ならお引き受けしますわ☆」
「では、必要な装備を試しにササキビ様の機体と、妖機怪を見れる方の機体が僚機の場合、用意しましょう」
 ――妖機怪を見る事は出来ない。
 自分の視界を転送できる能力者なんているのかしら――――。

「ササキビさん‥‥それとも、クミノちゃんの方が良いですか?」
 少年に声を掛けられ、クミノは視線をあげる。彼には見覚えがあった。
 あの臨海学校の夜に共に戦った少年だ。確か名前は――――。
「‥‥櫻さん? ‥‥呼び方なんてどちらでも構わないわ」
 淡々とした調子で応え、リュックを背負った少女は端整な風貌の少年を脇をスタスタと擦り抜けてゆく。櫻紫桜はクミノの小さな背中に声を掛ける。
「まさか、バスに乗り遅れて歩いて来たのですか?」
「‥‥先生には体調が悪いから遅れるって連絡したわ。それじゃ」
 立ち止まる事なくサラリと伝え、少女は山林へと歩いて行った。普通は先生に到着を告げ、遅れて班に交ざるものだが、なぜ別の方角へ向かうのか?
 クミノには林間学校など興味外の事だからだ。騒動が起きるまで静観していればいい。それに、彼女には共に学園生活を楽しめない理由もあった――――。

●異変発生!! 巨兵の弱点!?
「!! 現れたわね‥‥」
 クミノの瞳に映ったのは、バタバタと膝を着いたり、倒れる少年少女達だ。その中には先生達も混じっている。少女は駆け出しながら携帯食を口に放り込んだ。
 倒れている生徒達へと駆け寄り、背中のリュックからカロリーの豊富なブロック食品を渡して行き、既に身動きが取れない者には点滴を施す。
「まるで‥‥無限に出て来るみたいですね」
 ふとクミノと紫桜の視線が交差する。
「何を見ているの? 動けないならコレあげるわ」
 ポンっと放り投げられる携帯食。
「いえ、俺は大丈夫です。それより、これは妖機怪の仕業ですね」
「ええ、‥‥見つけたの?」
 いえ、と告げながら少年は周囲を見渡していた。力場は見える。後は、ひだる神をコアとした妖怪のシルエットを見つけ出せば良い。しかし、開けた山の中であり、対象は自分だけを狙って襲っている訳ではないのだ。視界が山林を空を泳ぐ。
「どんな形なのでしょうか? 吸血植物みたいなものですかね」
「‥‥吸血植物って、見た事あるの?」
 クミノは携帯食を食べながら訊ねた。ポリポリと何個目かのブロック食品を放り込む少女に、紫桜はポケットから出したモノを差し出す。彼女の細い片眉が訝しげに跳ね上がる。
「‥‥なによ? ゼリー?」
「こんにゃくですから、幾ら食べても平気ですよ」
「そ‥‥そう。それより見つかったの?」
 ぽんッと小さな口の中にゼリーを放り込み、少年へと視線を流す。彼は瞳を研ぎ澄まし、気配に集中していた。刹那、紫桜が山林を指差す。
「あれです。大きな口だけのような形をしたモノが見えます!」
 それは正に口の化物だった。目や鼻や耳は見当たらず、大きく開いた口だけである。この世の中に生息する動物には当て嵌まらず、太古の恐竜とも違う。メカニカルな光沢を放つ口の化物だ。
「FGTを呼ぶわ! 櫻さんも乗る?」
「いいえ、俺は単独で乗ってサポートします!」
 二人は懐中時計のような物を取り出し、スイッチを押した。
 ――霊波動確認 パイロット照合:櫻紫桜、ササキビ・クミノ
 霊駆巨兵ファントムギアトルーパーリフトアップ――――
 地響きと共に山林が割れ、体育座りをした鋼鉄のシルエットがセリ上がって来た。少し遠いがキャンプ施設を壊さない配慮なのだろう。細身の少年と小柄な少女が巨兵へと駆け着ける。
 コックピットにはヘルメットが用意されていた。クミノは通信機を開き、僚機へと声を送る。
「櫻さん、ヘルメットを被ってくれる?」
『ヘルメット? あ、これですね。被りましたよ』
 視界受信のスイッチを入れると、紫桜の視界が表示された。視線を絞り込んだ先がマークされる。
「ねぇ、あの刀を出してくれない?」
『え? 構いませんが‥‥渡せますでしょうか? 本体なら可能ですが‥‥』
「違うわ。私が独自に召喚するのよ」
 だが、巨兵の手に紫桜の刀は出現しなかった。少女は、武器・兵器に当る現存する物全てを召喚し使用できるが、少年の刀は現存する武器という枠に当て嵌まらないという事か。
『もしかすると‥‥刀を渡しますので握ってみて下さい』
 何かに気付いた紫桜は、クミノ機に刀を渡す。仕方なく手にしようとした刹那、刀は紫桜機の手を離れると同時に掻き消えたのである。
「消えた?」
『やはり、具現できるのは機体の範囲内だけのようですね。この霊駆巨兵は様々な能力者の力を具現できます。しかし、機体から離れれば、具現した物も消滅するデメリットがあるのでしょう。知らなかったとは言え、俺も同乗するべきでした』
 悔しそうな少年の声だった。しかし、クミノは落胆してはいない。
「別に構わないわ。ちょっと試したかっただけだもの。‥‥櫻さん、このままじゃ戦えない?」
『いえ、格闘戦なら十分活けると思いますよ!』
 少女は薄く微笑みを浮かべた。
「だったら問題ないわ」
 紫桜機の拳に青白い光が迸る中、クミノ機は巨体から銀の奔流を波打たせた。一気に巨兵が大地を蹴り、重圧な振動を伴わせてひだる神へと肉迫する。もう一体は両手の指を向け、標的を狙い定めた。
 ぐらり、と視界が揺れ動く。倦怠感と激しい空腹感が襲う。
「‥‥カロリーか」
 携帯食に噛り付き、クミノは微笑んだ。
「発動率5割‥‥8発も撃てば当ってくれるかな」
 刹那、視界がグルリと揺れ動いた。少女は慌てて受信スイッチを切り、捉えた先を逃さないように集中しながら、操縦桿を強く握り締める。
「行けッ」
 銀色に輝く8本の閃光が巨兵の指から発射された。一直線に放たれた閃光の中、動きを止めた紫桜機の肩付近で赤い粒子が舞い散るような輝きが見えた気がする。
「‥‥倒したみたいね。櫻さん、どうしたの!?」
『血が、出るって‥‥沢山の血が‥‥』
 怯えるような震えた少年の声が飛び込む。
「血? ‥‥血がどうしたのよ。いい? 妖機怪を倒しても血なんか出ないわ。よく見て、櫻さんが動きを止めている間に、私が妖機怪を倒したわ」
 受信スイッチを入れると、少年の視界が妖機怪がいた範囲を見渡していた。既に消滅したのだろう。ヒダル神の妖機怪は何処にも見当たらなかった。紫桜の視界が『サトリ』へと視線を流す。
 ――サトリ。
 山中に住み、人間の考えている事を言い当て、惑わす妖怪である。うろたえる人間の様を見て、喜ぶ悪戯好きの妖怪であるが、最後には発狂させた後、食らうとも謂われている――――。
「あそこにもう一体の妖機怪がいるのね。他心通は予知能力と同様‥‥なら」
 しかし、紫桜機は立ち止まったまま動かない。テレパシーか何かで予知した事を伝えているとしたら、言い当てられた彼は戸惑っている可能性がある。
「櫻さん、戦うの! ‥‥大丈夫、私がいるもの」
「うおぉぉッ!!」
 妖機怪サトリが巨兵の鉄拳を次々に躱してゆく。掴む事すら侭ならない。それでも紫桜は培った格闘技で猿のシルエットに攻撃を繰り出し続けた。しかし、逆に妖機怪の反撃を受け、鋼鉄の機体が鈍い衝撃が揺れる。刹那、紫桜機の背後から、もう一体の巨兵が飛び込む。クミノ機だ。
≪僕を殴ろうとしているね?≫
 クミノの脳に直接声が飛び込んで来た。これがサトリのテレパシーか。
「障壁で魔法的効果は半減させているし、流石に二人の心を同時には読めないでしょ。櫻さん、連携してよ!」
≪連携? ‥‥!?≫
 次の瞬間、気という膜を張った紫桜機の鉄拳が繰り出された。突如、何かが吹っ飛んだように木々が薙ぎ倒れてゆく。更に追撃を試みるが巨兵の鉄拳は空の切っているようだ。
「そこね!」
 紫桜機の背後から死角を突くように接近するクミノ機。タイミングを取って妖機怪にワザと存在を気づかせると、脳に直接声が飛び込む。
≪僕を殴ろうとしてい‥‥≫
 少年のような声は途中で掻き消えた。紫桜機の鉄拳が炸裂したのだろう。
「櫻さん、止めを叩き込んで!」
『はいッ!』
 鉄拳を眩く発光させ、渾身の一撃を叩き込む紫桜機。刹那、クミノ機の掌がサトリに接触した。
「甘いわ」
 同時に銀色の奔流が疾り抜け、やがて赤い粒子と化して妖機怪は失散するに至ったのである。
『ササキビさん、俺を囮に使いましたね?』
「‥‥悪い? 事態解決が目的だもの」
 クミノは当然のようにサラリと答えた。
『いいえ、俺のサポートは有効だったという事ですね』

●エピローグ
「詮索するつもりはないけど‥‥」
 巨兵の格納庫から登る階段を歩きながら、前を進む少女がポツリと言葉を投げ掛ける。長い黒髪に弧を描かせ、端整な顔が肩越しに紫桜へと振り向く。
「血なんて見慣れてしまえば、気にするものじゃないわ」
 薄く微笑みながらクミノは伝え、キャンプ場に戻った。
 ――あの少女はどんな生活をして来たのでしょう?
 見慣れれば血は気にするものではない? 俺より年下なのに。
 カレーを食べた後、何気に中等部のキャンプ地へ足を運んだが、クミノに出会う事は無かった。
 あの少女の事だ。任務が終わって一人で帰ったのかもしれない――――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/中等部学生】
【5453/櫻紫桜/男性/15歳/高等部学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は引き続きの御参加ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 今回は参加メンバーが変わらない為、シーンのクローズアップスタイルでお送りしました。
 さて、いかがでしたでしょうか? 
 戦闘糧食に点滴‥‥武器・兵器に当る現存する物に値するか微妙ですが、OKとします。
 霊駆巨兵の性能において、巨大具現化されたモノは機体を離れるとコントロールが失われます事を御了承下さい。
 見えないモノを見る手段は良い感じでした。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆