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<東京怪談・PCゲームノベル>


シンデレラは誰だ!?

 休日。特にすることもなくぶらぶらしていたら見覚えのある人影を見かけた。
 ――あれって・・・・・・
 あまり人気のなさそうな建物に入っていくそれを追いかける。
 古書店「めるへん堂」。
 この行動が全ての発端だったのだ。


「あれ?お父さん?」
「やっぱディーか。久しぶりだなっ」
 嬉しそうに駆け寄ってくる少年の体を抱き上げる。
 D−1。通称・ディーとは一時・・・本当に短い間だったが親子の関係にあった。その時の癖なのかディーは蓮のことを今でも「お父さん」と呼んでいる。
「ここは・・・古本屋か?何でこんな所に?」
「社会勉強で時々手伝いに来てるんだ」
「へえ。お前も頑張ってるんだな。偉い偉い」
「・・・・・・お知り合いですか?」
 高めの女の声に蓮は店の奥の方を見やった。18歳程の少女が立っている。
 ディーが間に入り、少女には蓮のことを、蓮には少女のことを説明する。
 彼女はここの店長で本間・栞というらしい。
 栞は何故だか含みのある笑みをこちらに向けてきた。
「ディーくんのお知り合いなら話は早いです。ちょっと協力してくださいませんか?」

 一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。
 思わず聞きかえす。
「・・・何だって?」
「だから、シンデレラ、です」
「俺が?そのいなくなったシンデレラの代わりを?」
「ええ」
 彼女はとても冗談を言っているようには見えなかった。
「ちょ・・・待て。落ち着け。三十路前の男がシンデレラって流石に無理がないか・・・・・・?」
「別に誰でもいいんですよ。その場凌ぎですから。まったく問題ありません」
「そうは言ってもなあ・・・・・・」
 困り果ててディーの方を見た。彼は期待の眼差しでこちらを見ている。
 ――こりゃあ・・・断ったらディーががっかりしそうな感じだな・・・・・・
 やるしか、ないのか。
「・・・・・・わかったよ。やりゃあいいんだろ」
 こうなったら本物のシンデレラが幸せになれるように頑張るか。
「ご協力感謝します。では誰を案内役にしますか。相澤蓮さん?」


【可愛いひと〜相澤・蓮〜】


「・・・情けない」
「う・・・」
「情けないわ。もう音を上げるなんて」
「べ・・・別に音を上げたわけじゃなくてだな・・・」
 視線を逸らして煙草を加える。
 どうもこの鈴音という少女には小さな外見には似合わないほどの迫力があった。
「煙草の副流煙には毒性があり、周りの人間に少なからず悪影響を―――」
「だーっもう!わかったよっ」
 氷月のひたすら淡々とした突っ込みに煙草をポケットに戻す。
「あれだけ働かされりゃ、一服したくなるのが普通だろー?」
 朝昼晩と休みなく働かされる生活がこの本の中の時間でかれこれ3日続いているのだ。そろそろ体力の限界だった。
「・・・俺ももう若くないな・・・」
「何言ってんのよ。単に根性がないだけでしょ」
 ばっさり切り捨てられる。先程から容赦ない。まさかここまで毒舌だとは。
 いや、それよりも時に問題なのは―――
「?氷月。さっきから何考えこんでるのよ」
「いえ・・・ええと・・・。ああ、そうだ。思い出しました」
「何を」
「蓮さんみたいな人間を”ヘタレ”と言うのでしたね」
「へ・・・っ」
 思わず吹き出していた。鈴音が爆笑する。
 氷月の場合、鈴音のように毒がこもっているわけではなく、ごく純粋に言葉をぶつけてくるので余計に痛い。
 蓮は複雑に顔を歪めたまま氷月の肩を叩いた。
「おい氷月。お前、その言葉あまり多用するなよ・・・?」
「何故ですか」
「いや・・・何というか、俺みたいな繊細な青年の傷つきやすい心が思いきり抉られてだな・・・・・・」
「はあ」
 イマイチ理解できていないようだったが、氷月は頷いた。
「で、シンデレラは見つかったのか?」
「残念ながらまだよ。さっきその辺を飛んでた鳥に訊いてみたら森で見かけたって言ってたから、これから向かうところ」
「そうか・・・頼んだぞ」
 できることなら過労死する前に。

 女というのはなかなか恐いものだと思う。
 継母然り。
 鈴音然り。
 そしてシンデレラもどうやら例外ではなかったらしく―――
「あんた・・・・・・覚えてなさいよ・・・?」
 氷月に後ろ手を掴まれたまま睨みつけてくる少女に、蓮は罪悪感よりも恐怖を感じていた。
「えーっと・・・とりあえず舞踏会行こうな?俺が執事やってやるからさ」
「勝手にすればっ」
 力で氷月にかなうはずがないと判断したのか、シンデレラは素直に従ってくれる。蓮は一先ず安心して胸を撫で下ろした。
「これでドレスは免れたぜ・・・」
「そうですね。三十路男にドレスは統計的に考えても大変好ましくないですしね」
「まだギリギリ二十代だっ!」
 ついでに言わせてもらうならば心は十代。そう付け加えたら鈴音に鼻で笑われた。
 ――か・・・可愛くねえ・・・っ

 華やかな舞踏会。
 華やかなドレス。
 シンデレラはそれなりに楽しんでいるようではあった。
 蓮もそれなりの格好をして、ドレス姿の少女達を見まわす。
「なかなか美人揃いだなー」
「・・・変態くさいわよ」
 鈴音の冷たい一言にぐっと怒りを堪える。ここでムキになったらまた甘く見られてしまう。ここは一つ大人の余裕を・・・
「生意気ばかりの子供かと思ったら、お前もそういう格好すればなかなか可愛いぞ」
「・・・」
 鈴音は無言で氷月の方に歩み寄る。彼の耳に口を寄せて一言。
「いい?ああいうのをロリコンって言うのよ」
「待て待て待てーーーーっ!」
 ・・・無駄な足掻きだったようだ。
 そうこうしているうちに王子が現れた。シンデレラと幾らかの会話をした後、何故だか蓮の方に近づいてくる。
「ちょっとよろしいですか?」
「はあ・・・ええっと・・・何だ?」
「お名前をお伺いしたいのですが」
 何の為に。
 何やら怪しい空気が漂いつつあるが、とりあえず正直に相澤蓮と名乗っておく。
「蓮さん・・・。あなたにぴったりの名前ですね」
「・・・そりゃ、どーも」
 ――ん?
 違和感を覚え顔をしかめる。
 王子の手が何時の間にか蓮の腰に回っていた。
 ――おいおいおい・・・っ。これってまさか・・・!
「どうですか?一緒に食事でも・・・」
「しょ・・・食事・・・!?ああ・・・いや・・・生憎腹いっぱいで・・・」
「では僕の部屋でお話でもしませんか?」
「へ・・・部屋あ!?」
 待て待て待て・・・!
 成り行きを見守っていたシンデレラが溜息をついた。
「そいつ・・・男もOKなのよね。蓮さん気に入られちゃったみたいよ?」
「はあ!?」
 何だその展開は。
 王子の気色悪い手の動きに背筋に鳥肌が立っていく。
「ちょ・・・ちょっと待て・・・っ!落ち着け王子・・・!」
「僕は充分落ち着いてますが」
「顔が近けえっ!!」
 鈴音と氷月の方を見た。目線で「助けてくれ」と訴える。
「氷月。こういうのをボーイズラブって言うのよ」
「ぼーいずらぶ・・・?」
「男同士がいちゃいちゃしてること」
「なるほど。勉強になります」
「こらああああああっ!!」
 勢いに任せ、王子の体を突き飛ばした。
「じょ・・・冗談じゃねえ・・・っ!俺は・・・俺は女の子が好きなんだーーーーーーーっ!!」
 我ながら意味不明な台詞を叫びつつ全力疾走する。
 後から鈴音と氷月も付いてきた。
「王子が追ってきてるわよ」
「このままだと約20秒程で追いつかれますね」
「な・・・何とかしてくれ・・・っ」
 縋るように鈴音を見る。恐怖のあまり涙目になっていた。
「助けてあげてもいいけど・・・条件があるわ」
「条件?」
「私の言うことを一つ、何でもきいてくれること」
「わかった・・・!わかったから早くしてくれ・・・っ」
「残り5秒」
「うわあああっ」
 鈴音が後ろを振り返る。魔法を使ったのだろう。王子が豪快にすっ転んだ。
 それからどれくらい走ったのかはわからない。
 ただ立ち止まった時には体中が悲鳴をあげていた。
「・・・明日は筋肉痛だな・・・」
「明日くればいいけどね」
「筋肉痛というのは老化と共にくるのが遅く―――」
「っだーーーー!俺はまだまだ若いんだっ!」
 叫んだだけで息が切れ、ぐったりとその場にしゃがみこんだ。
 まったく説得力がない。


「で、何だよ」
 めるへん堂に帰ってきてから、蓮は鈴音に問いかけた。
「え?」
「お前の言うこと、何でも一つきく約束だろ」
 鈴音は「ああ」と今思い出したかのように相槌を打つ。
「きいてくれるんだ?」
「内容による」
「じゃあ・・・」
 鈴音が耳に口を寄せてきた。小声で囁く。
「・・・は?」
「駄目?」
「や・・・構わねーけど・・・何で・・・・・・」
 あれだけ毒を吐かれておいて。
 あれだけ情けない姿を見られておいて。
 これはない。
 一日だけデートして欲しいだなんて。
「お前、ロリコンって言わなかったか?」
「言ったけど・・・嬉しかったのよ」
「何が」
「可愛いって言われたこと」
 ・・・ああ。
 何となく納得がいった。いくら外見が可愛いからといってもこの性格だ。
 「可愛くない」と言われることはあっても、「可愛い」とはなかなか言ってもらえないのだろう。
 あの時は鈴音に大人の余裕を見せる為で別に本気で言ったわけではなかったのだが・・・
「お前・・・可愛いなあ」
「は・・・?」
「いや、ほんと。可愛い可愛い」
「な・・・馬鹿にしてんのっ!?」
 真っ赤になって怒る鈴音に蓮は「ははは」とおかしそうに笑った。
 愛しいあの人を裏切るわけではないが、一日くらいこの少女の相手をしてやってもいいだろう。
 本当に、可愛いと思ってしまったのだから仕方がないじゃないか。


「氷月さん。お父さん達、何かあったの?」
「さあ?データ不足で僕にも良く・・・」
「でも、楽しそうだね」
「そうですね」


fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29/しがないサラリーマン】

NPC

【鈴音(すずね)/女性/10/めるへん堂店員】
【氷月(ひづき)/男性/20/めるへん堂店員】

【本間・栞(ほんま・しおり)/女性/18/めるへん堂店長】
【D−1(デイーワン)/男性/12/機械人形】

【シンデレラ/女性/16/シンデレラの登場人物】
【王子(おうじ)/男性/18/シンデレラの登場人物】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは!ライターのひろちです。
蓮さんのことを書かせて頂くのは二回目ですね。
ありがとうございました!

かなりのドタバタ展開で楽しく書かせて頂きました。
毒舌鈴音と天然氷月に囲まれて蓮さんはなかなか大変そうではありましたが・・・。
いえもう・・・本当にお疲れ様でした。
筋肉痛に気をつけてくださいね!
せっかくなのでちょこっとディーにも登場してもらいました。
いかがでしたでしょうか?
10歳と29歳では流石に犯罪くさくはありますが(笑
楽しんで頂けたなら幸いです。

また機会がありましたらその時はよろしくお願いしますね!
では、ありがとうございました!