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<東京怪談・PCゲームノベル>


ワールズ・エンド〜綺麗なお姉さんは好きですか?







「ばっかねえ、いくらオーダーメイドつっても、本人しか使えないモン作ってどうすんのよ」
「〜…、そ、そんな風に言わなくっても良いじゃない?
リースも知ってるでしょ、魔法薬って調合が難しいんだから…」
 それは秋というには、少し肌寒く感じられるある日のこと。
そろそろその出番が訪れるか、という暖炉の前で、私は両の人差し指を合わせて口を尖らせていた。
私の前には、珍しく店に下りてきた赤毛の少女。
言わずもがな、うちの店の居候、私の幼馴染のリースだ。
何故この彼女にこうして説教もどきを受けているかと云うと、彼女はここ最近の、
私の仕事っぷりが気に入らないそうなのだ。
 ここは私の魔法、作成術によって作る魔法の道具をお客様に提供するお店。
それ故に作る道具は、基本的に注文したお客しか使いこなせないものが多くなる。
リースはそれが気に入らないと云うのだ。
「そりゃね、あたしだって万人に使いこなせるもん作れとは言わないわよ。
でも本人にしか効き目がないって…それって商品って言えるの?」
「…り、リースの云うこともわかるわよ。でもね、元々万人向けのを作ろうとは思ってないから…」
「かーっ!だからこの店は儲かんないのよ!
あんたがちゃんと仕事して、稼いできてくんなきゃ、あたしの食費はどうすんのよ?」
「…………それこそ自分で稼いでよ…」
 はぁ。私はなにやらワケの判らないことを叫んでいるリースを前に、額に手を当てて溜息を付いた。
珍しくいちゃもんつけてきたと思ったら、そういうことか。
確か、リースも今新薬の研究をしているらしい…というのは少し前に聞いた話だけれど。
きっとそれが上手くいっていないに違いない。
だからこうして、私に当たってくるのだ。
 それは別にいいんだけど…突拍子の無いことでいちゃもんをつけられても、私だって困る。
なので私は、仕方なく反論に出ることにした。
「…っていうけどね。これでもちゃーんとお客様は満足してくれてるんだから。
いいじゃない、百万人への少しの幸せより、一人の心に届く幸せを。
そういうことができるのも、私たち魔女の特権だと思わない?」
 私は手を合わせ、にっこり笑ってそう言ってみるけれど、リースはやはりじとっとした目で私を見つめていた。
そしてハァやれやれ、と言いたげに肩をすくめて見せる。
「…ま、そりゃ大した理想だとは思うわよ。
でもね、ほら。実際問題、客の一人もいないじゃない」
 ふふん、と得意気に鼻を鳴らし、大して広くも無い店の中をぐるりと眺め回すリース。
…全く、嫌味な子なんだから。元々お客がいたなら、あんたの相手もしてないわよ。
 そう言ってやろうと口を開いたとき、コンコン、とどこかで木のようなものが鳴る音が聞こえた。
私は思わずハッと顔を上げ、見回してみるけれど、その音の出所が何処かわからない。
不思議に思い首を傾げていると、リースが玄関のほうを振り向いて目を丸くしているのに気がついた。
私は眉を寄せ、彼女の体の横から首を伸ばし、玄関のほうを眺めてみる。
…すると。
「ごめんなさい、失礼かと思ったけれど、勝手に入らせてもらったわ。
…今お取り込み中かしら?」
 そう言って首を軽く傾けているのは、見慣れない女性だった。
玄関を入って直ぐの背の高い棚に、片肩をよりかけて立っている。
街で見かけるような外見だったけれど、極普通の女性とは少し、その立ち振る舞いに威厳が感じられる―…ような気がした。
例えて云うならば、そう―…どっしりと構えて決して揺るがない、年季の入った―…。
「…お邪魔なら、またあとにするけど?」
 固まってしまった私を訝しげに見つめ、その女性が畳み掛けるように言った。
私はその声にハッと我に返り、ぶんぶんと首を横に振る。
「いいえ、そんなこと!ああ、えっと…この子は、関係ないんです。
お客様なら、どうぞご遠慮なくずずいと入って下さいな!」
 私は慌てて、取り繕うように言った。
そして眉をしかめて突っ立っているリースの背を持ち、ぐるりと反転させて店の奥へと進ませようとする。
「わかったでしょ?お客様なの。お願いだから引っ込んでて!」
「何よ、たまにはあたしにも接客やらせなさいよ〜!あんたばっかりずるい!」
 ひそひそ声でありながら叫ぶ、という器用なことをやってのけるリースに、私は唖然とした。
「あのね…!遊びじゃないのよ?いいからあんたは実験の続きしてなさいよっ」
「いいじゃない、もう飽きたのよっ。たまにはあたしだって…!」
「もしもし、お嬢さんたち?」
 暖炉の前でごちゃごちゃやっていた私達に、すぐ後ろから声がかかった。
思わず私達二人はびくっと震え、恐る恐る後ろに目を向けた。
 するといつの間に背後に立っていたのか、先ほどの女性がにっこりと笑って腕を組んでいた。
「ここは、お店よね?見たところ、雑貨屋あたりだと思うんだけど」
「は、はい…!そ、そうですけど」
 私はひきつり笑いを浮かべながら、女性の問いにこくこく、と頷く。
何だろう、この圧倒感。見たところ20代半ばぐらいだと思うんだけれど、
それぐらいの歳の人に、これだけの威厳が出せるものなのかしら?
巨大な猫…ううん、まるで虎のようなオーラが垣間見える。
 その猫科の彼女は、にっこりと笑顔を浮かべたまま続けて言った。
「それで、あなたたちは店員さんなんでしょう?」
「そ、そーね…一応」
 殆どのことには物怖じしないリースが、何故か素直にこくこくと頷いている。
女性はリースの答えに満足したように深く頷き、ポン、と私とリースの肩に両手を置いた。
そして再度、にっこり。
「…じゃあ、接客をお願い。別にどちらかが引っ込む必要ないわよ。
面白そうだから、二人とも居てて頂戴」
『はい…』
 女性の言葉に、同時に頷く私達。
そして彼女はパッと手を離し、軽く頷いてから、店の中を巡るように視線を動かし始めた。
その様子を少し呆然としながら眺めていた私は、隣のリースの言葉に耳を動かした。
「…なんかどっかで見たよーな人だと思ったのよね」
「……うん?」
 隣のリースは、引きつり笑いを浮かべて、観念したような目で女性を眺めていた。
「あの人、…あたしのママにそっくりなんだわ。こう…妙に気の据えた目とか、圧倒感のある笑顔とか」
「あー…」
 うん、確かにそうだ。
目の前でキョロキョロと物珍しそうに店の中を眺めている彼女は、確かに”母”という感じがした。
…まだ全然若そうなのに。
「…何してる人なのかしらね…」
















「家事、手伝い?」
 名を由良皐月、と名乗った彼女の話を聞いて、私は目を丸くした。
彼女…皐月は店のアクセサリー類を、鏡を覗きながら自分に合わせたりしながら、
そのついで、というように口を開く。
「ええ。言っておくけど、無職で家でゴロゴロしてる、って意味のそれじゃないわよ。
職業として、ね」
「ふーん、ハウスキーパーみたいなもん?」
 リースの問いに、皐月は口元に微かな笑みを称え、鏡の中の自分を覗き込みながら頷いた。
「そんなもんかな。家事のプロってやつよ。私はそっち方面に才能があったみたいだったからね」
    だからこの職を選んだの。
 悪びれる風もなく、堂々と彼女はそう言ってのけた。
確かに、彼女を見ていると、その言葉がしっくり当てはまるような気がした。
「…だからママ、かあ」
 成る程、と私はそう漏らして一人頷いた。
そして皐月はある程度試着して飽きたのか、こちらに顔を向けて首を傾げる。
「それで、この店はどういう店だって?」
「あー、えっとね」
 皐月の問いに、大雑把にだが私はこの店について語った。
此処は私、魔女ルーリィの店であること、訪れた人の悩みに応じて、各種魔法の道具を作る仕事をしていること。
そしてそれは、皐月自身にとっても例外ではないこと。
 皐月は魔法、という言葉を聞いても眉一つ動かさなかったが、
最後の私の言葉を聞いて、ふぅん、と一言呟いた。
「魔法、ね。それって何でもできるの?」
 皐月のその問いには、傍らにいたリースが答えた。
「何でもってワケじゃないわよ。特にこの子の魔法はある意味偏ってるからね。
言っとくけど、調合系の魔法は期待しないほうがいいわよー」
 そう言ってクスクスと笑う。
私は憤慨して口を尖らせた。
「だから、機能はちゃんと備わってるわよ。ただ、その…万人には使用できないだけで」
 反論しようと思ったけれど、私の言葉の最後のほうはもごもご、と口の中でしか呟けなかった。
確かにリースの云うことも正論で、そういう意味で言えば私の魔法は偏っているからだ。
ハァ、と溜息をついて肩を下ろす私を尻目に、皐月は腕を組んで、ふむ、と呟く。
「良く判らないけど…もしかして、さっきの喧嘩みたいなのって、それが原因だったりする?」
「喧嘩って云うほどでもないけど。まあ何、説教?」
 ふふん、と鼻で笑うリースに、ふつふつと怒りがこみ上げる私。
あーもう…自分の実験が上手くいかないからって、
人に当たるのは止してもらいたいわよ、ホント。
なので私は、気を切り替える意味を含め、皐月に深く頷いて見せた。
「もう、リースの云うことは気にしないでね。魔女ルーリィはほぼ何だってできます!
…大概のものなら」
「一応、何でもできるってことか」
 皐月はそんな私の様子に、くすくすと軽く笑って見せたあと、「じゃあ」と言った。
「ルーリィさん、こういうのはできる?」
 そして皐月は、自分の手の甲を私達に見せ、そしてもう片方の手で、軽くそれをさすって見せた。
「云うほどたいしたことじゃないんだけどね。手荒れがひどいの。
ああ、別に特別肌が弱いってわけでもなくて…云えば職業病、かしら」
「ふぅん…水仕事とか多そうだもんねえ」
 皐月の手の甲を覗き込み、うんうんと頷くリース。
私も同じように彼女の手を眺めてみるが、彼女が云うとおり、少し指の先が赤くなっていて、
ところどころ湿疹のようなものもできていた。
指はすらりと長いのに、これじゃ勿体無いわ。
 皐月はリースの言葉に軽く頷き、
「そーね。それに水仕事ばっかりだから、こまめにハンドクリームも塗れないし。
”さっぱり”だとか”べたつきません”っていう謳い文句が付いてても、やっぱりクリームってぬめるじゃない?
使い辛いのよね。だから、なにかこう、手荒れを防ぐような便利なものがあれば嬉しいんだけど」
   無理かしら。
 そう言って小首を傾げてみせる皐月。
私は皐月の話を聞いて、ううんと唸りながら腕を組んだ。
手荒れを防ぐ…ということはやはり、防水性のある何かってことよね。
防水、というと以前或る人魚さんに作ってあげたものが思い浮かぶけれど―…。
残念ながら、あれはその持ち主専用なのだ。
しかもあの道具は人魚だからこそ作れたようなものなので、普通の人間である皐月に適用させるのは少し難しい。
「ううーん…」
 私はブツブツ言いながら唸った。
そして数分ほど唸り続けたあと、ぱ、と顔を上げて手をポン、と叩いた。
「ねえ、皐月さん」
「うん?」
 うんうん唸っている私をよそに、また棚の中を物色していた彼女は、私の言葉にこちらを振り向いた。
「何かいいアイディアでも思いついた?それとも魔法って、そういうもんじゃないのかしら」
「アイディアが必要なのは、魔法も同じなの。ねえ、その道具の効き目は短くても良い?
短時間でいいなら、頑張れば何とかなると思うの」
 私の言葉に、皐月はほんの少し目を大きくし、そしてにっこりと笑って頷いた。
「勿論。水仕事が何とかなればいいわけだし。作ってもらえるなら有り難いわ」
「オッケー。水仕事のときに何とかなるもので、それでクリーム以外でしょう?
頑張ってみるわ!女性は手が命ですもんね」
 そう言って私は、ぐ、と拳を握ってみせた。
そんな私を微笑ましく見つめる皐月に笑顔を向けたあと、
その表情のまま傍らのリースの肩をがし、と掴んだ。
「な、なによ」
 何かいやな予感でも感じたのか、身じろぎするリース。
私はにっこりと微笑んだまま、彼女に告げる。
「接客、やりたいんでしょ?これも接客のうちよ。リース、魔法薬作るの手伝って」
 私の言葉に、リースの顔は一瞬で歪んだ。
だけどそんな彼女の反応を予想していた私は、問答無用でリースの肩を掴み、
カウンターのほうに引きずっていく。
そしてそんな私達を見送ってくれている皐月に向かって、大声で叫んだ。
「ごめんなさい、ちょっと待ってて!暇なら、うちのでかい犬と遊んでてね!」
「オッケー。上手くいくように祈ってるわ」
 そう手を振りながら返してくれる皐月に、私は胸をなでおろした。
そして再度力を込めて、駄々をこねるリースをずりずりと引きずっていく。
「なんであたしが、あんたを手伝わなきゃなんないのよっ!?
自分のすら上手くいってないのにーっ!」
「もう、自業自得ってやつよ!観念してちょうだい!」
「ルーリィ、あんた覚えてなさいよ!いつか倍にして返してもらうからっ!」
「はいはい、わかったわかった」
 そして私は、リースの叫び声の合間にふと耳に届いた一言に、苦笑を浮かべるしかなかった。
それは店内に残る皐月のもので。
「…暖かくて優しい店内だと思ったけど。割と騒がしい、も感想として付けておこう」
 その言葉に、やっぱり反論出来ない私だった。









                       ★








 そして、それから数時間後。
魔力を使い果たしてぜいぜい言っているリースを実験室に残り、
私はフラフラになりながら店へと戻った。
 住居部分へと続くカーキ色のカーテンをめくると、
暖炉の前の椅子に座り、皐月がほのぼのとした空気を作っていた。
そんな彼女の目の前には、銀色の毛並みのシェパード犬。
いわずもがな、うちの接客係の銀埜だ。
私の言葉に忠実に従って、”犬”として彼女と遊んでいるらしい。
 私の姿を発見した皐月は、ぱっと顔を上げて笑顔を見せた。
「お帰りなさい。ルーリィさん、この子賢いのねえ!大概の芸は教えたらすぐ出来るのよ」
「あ…あはは、それは良かった」
 そりゃあ、使い魔の犬だもの。
私はそういいたい気持ちをぐっとこらえ、皐月の前の椅子に腰掛ける。
そして銀埜に目配せを送ると、彼はぱっと立ち上がり、尻尾を軽く振ってカウンターの裏へと去っていった。
その様子を眺めていた皐月は、感心したようにほう、と呟く。
「ほんっと、賢いのねえ。あれかしら、あの子も魔法云々?」
「まあ…そんなものかしら。あの子と遊んでくれてありがとう、皐月さん」
「いいえ、こちらこそ。楽しませてもらったわ」
 そうにっこりと笑う皐月を見て、私はどうやって遊んだんだろうと思わずにはいられなかった。
…あとで銀埜にもお礼、いっとかなきゃ。
 そう心の中で呟いたあと、私は手に持っていたそれをテーブルの上に並べた。
私がテーブルの上に並べたものを見て、思わず目を丸くする皐月。
 私はふぅ、と息を吐いたあと、順番に説明することにした。
「まずね、これがパウダー。ちなみに備え付けのパフは市販のものよ。あとケースもね。
まず言っておくけれど、効果は6時間ね。
別にそれ以上経ったからって手が爛れたりするわけじゃないけれど、効果はなくなるから、注意してね」
「了解。それで、その効果は?」
 皐月に促され、私は軽く頷いてから続けた。
「パウダーの使用方法は通常のものと同じよ。普通にパフにつけて、まんべんなく手全体につけてもらうだけ。
このパウダーは完全防水だから、どれだけ水や洗剤につけても、きっちりシャットアウトしてくれるわ。
だから荒れることもないと思うの。どう?」
 私はそう言って、首を傾げて見せた。
皐月はへぇ、と感嘆の呟きを漏らし、件のパウダーが入ったケースを手に取り、まじまじと眺めている。
それは私の店で置いていた宝石入れなんだけれど、丁度いいので再利用してみたのだ。
本体は丸く透明なガラスで出来ていて、その蓋は純銀製。
蓋には細かい装飾が成されていて、なかなか大人っぽいデザインだと思う。
個人的に、皐月にはとてもよく似合うと思ったのだ。
やっぱり繊細なデザインのものは、大人の女性に身に着けてもらわなければ。
「結構かわいいわね、それに割と小さいし。これなら化粧ポーチにも入りそう」
 満足そうに云う皐月の言葉に私は安堵の溜息をもらした。
どうやら気に入ってもらえたようだ。
 皐月はケースをテーブルの上に戻し、その隣のチューブを指差した。
「それで、これは?」
 そのチューブは極普通の薬局やコスメショップで売られているようなもの。
だけどその表面には商品名はおろか、注意書きさえ何も書かれていない。
「ええとね、これはそのパウダーとセットのクレンジングなの。
そのパウダーは完全防水でしょ?だから普通の石鹸じゃ絶対落ちないから、
パウダーを落とすときはこのクレンジングが要るの。
でも効き目は強いから、絶対この目的以外では使用しないでね。
顔なんかに使うのも以ての外、逆に荒れちゃうから」
「再度了解。成る程、確かに完全防水なら、普通のクレンジングは利かないだろうしね。
考えたわね、ルーリィさん」
 そう言って皐月は、に、と笑ってみせた。
その笑顔に、私はほっと胸を撫で下ろす。
リースと二人、へろへろになるまで魔力を出し尽くしてよかった。
この、誰にでも使えるってのが難しかったのよね…。
 そう感慨に耽っている私に、皐月の声がかかった。
「…ありがとう。これでなんとか、冬場も乗り切れそうよ」
「…!こちらこそ!」
 ああ、本当に良かった。
道具を渡したあとの、この笑顔が何よりのご褒美なのよ。
そうしみじみと思っている私に、皐月はにっこりと笑いながら続ける。
「…それで、このお礼なんだけど」
「へ?」
 素っ頓狂な声を上げる私に構わずに、皐月はふふ、と微笑んで見せた。
「お腹に溜まるあったかいご飯、ってのはどう?
台所使わせてもらえるなら、だけど」
「…!」
 私は彼女の言葉に、一瞬目を見開いた。
ご飯って…もしかして。
「…皐月さんが作ってくれるの?!」
「勿論。それに折角作ってもらったこれ、試してみたいしね。
大丈夫、味は保障済みよ。私は料理のプロってわけじゃないけど、家事のプロだから」
 確かに、そうだ。家事手伝いの皐月のお料理。
ほこっとした、暖かいご飯。…ああ、どんな料理なんだろう!
「皐月さんがいいなら、是非お願い!私、日本の家庭料理って食べてみたかったのよね…!」
 炊き込みご飯にお味噌汁。じっくり味のしみこんだ煮物。
ああ、考えただけでもお腹がふくれそうだわ。
「それなら丁度良かった。あとはそうね…料理しながら、おばあちゃんの知恵袋のお話、とかどう?
家庭料理に興味があるなら、作り方も教えてあげるわ。
煮物一つするにも、ちょっとしたコツがあるのよね」
「うん、うん!わぁい、ありがとう!なんだか申し訳ないけど、ほんとにいいのかしら?」
「全っ然、問題なし。喜んでもらえるなら私も嬉しいしね。
さて、お台所はどっち?」
 そう言って、皐月は音を立てずに椅子から立ち上がる。
私も慌てて立ち、カウンターの裏、カーキ色のカーテンへと皐月を案内する。
その傍ら、見上げた皐月の顔は笑顔を浮かべてみたけれど、その眼つきは厳しいものになっていて。
でも決して冷たいというわけでもなく、それはまるでこれから戦場に向かう兵士のような。
「皐月さんって…かっこいいわね」
「?何か言った?」
 私がぽつりと呟いた本音の言葉に、皐月は首を傾げて見せた。
私は照れ笑いを浮かべて、手を振る。
「ううん、何でもないの。そうね…皐月さんのキッチンに立つ姿が楽しみだって言ったの」
 私の言葉に、皐月はくす、と笑った。
そして彼女の茶色の髪の毛を上げていたヘアピンを取り、
片手でうなじをかきあげ、器用に頭の後ろでくるくるとまとめて留め直した。
それから一つ息をつき、ニットの袖をぐい、とまくり、私に笑顔を向けた。
「それなら、今からいくらでも見せてあげるわ。…プロの立ち姿をね」
 そう言って笑って見せる皐月は、やはり格好良いと私はしみじみ思った。


 そして、私もこれから少しは家事の勉強もしよう、と。












                         End.




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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【5696|由良・皐月|女性|24歳|家事手伝】



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▼ ライター通信
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皐月さん、初めまして。この度は当WRにお任せ頂き、ありがとうございました。
個人的に皐月さんは女性ならではの格好良さと粋なところが魅力的だと感じましたので、
そのように描写させていただきましたが…如何だったでしょうか。
お気に召して頂けると大変嬉しく思います。

流れ的に、「おばあちゃんの知恵袋」を披露出来なくて残念です;
また機会がありましたら、是非!と思いつつ。

それでは、またお会い出来ることを祈って。


…といいつつ、また直ぐにお会い出来そうですが。(笑
ありがとうございました、そちらのほうも頑張らせていただきますねv