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東京怪談
何時も笑っている少女が居た。けれどそれはまやかしだった。
本当は、東京だった。
殺しあう。
フリー、フリー、フリー。貴方には自由があって、そして、けして自由は素晴らしくなく。時に優しくても、ある日には厳しく。
雨に濡れた子犬を拾う自由は、路頭に彷徨わざるを得ない自由は、神を信じない自由は、蹴る自由は、殴る自由は、夢を諦めさせる自由は、諦める自由は、自由を奪われる自由は、その自由を取り返す自由は、その自由を殺す自由は、全ての自由は、
もしも貴方が孤独だったら、誰にも邪魔されぬゆえに自由は、素晴らしいのだろうか。だけどもし、皆と居るという自由が無い。自由は、
自由は、必ずしも素晴らしくなく、
だからこそ貴方は行動した。
殺された人も居た。
生きてる人が居る。
何時も笑っている少女が居た。少女はそこで笑っていた。
馬鹿みたいに笑う為の異界で、笑っていた。笑っていた。だから、なんとか、まやかしを守ろうとして、けれど結局敵わなくて。今は眠り続けている。眠っている。
眠って。
死んだように。
これは東京の怪談。
意思ある者、それぞれの怪談。
◇◆◇
SN1.世界の中の一人
進化
◇◆◇
カーカーカー、キーキーキ、クークークー、ケーケーケー、
コを言い忘れた三つ子さん、彼女の名前を呼べません。
否、それは名前というより、生き方、だから、
戦場の七歳児が彼女を言う。
「殺し屋」
否定が響く、
二度、彼女から否定が響く。否定、
口から放たれた否定、
その手によっての肯定――
オートマティックで操作される零戦に乗っていた彼女は、やにわ、飛び降りて、
ちょうど九十九の霊が身動き取れぬはずの彼女を襲うが、
ササキビ・クミノ、
、
異界じゃない世界のササキビ・クミノ、
月に姿重なる時、彼女の手に敵の攻撃に比例し《召還》され武装した、
九十九の塩の神器は、正確無比に全方位を捉え。
武具と供に消滅する霊には重力は働かない、しかし、ササキビ・クミノは少女並の重量があって、よってニュートンが発見した法則が発動する。落ちる、落ちて、地面に激突する瞬間を助けたのは馬の背で無く、オートマティックの紫電改、それに直乗りして、だのに向かい風の影響受けず、種明かしは彼女の能力なのだけど、ともかく、ササキビ、
異なる世界にとっては異なる、世界の存在、
「こちらササキビ・クミノ、日本へ降下した」
世界を駆けた。
「続き、ユーラシア大陸の監視を、同時情報援護求む」
生体電流を感知する危惧がぶちこまれた穴に右手を突っ込みそう通信した彼女の動き、時速と音速と光速、そのどれもがによる彼女が霊を殺す為の速度は加速していくき、現八百万の霊撃滅数、6,820,106、
六百八十二万百六。
◇◆◇
カナダ、「背後霊」オーストラリア、「地縛霊」インドネシア、「浮遊霊」ベルギー、「霊」ブラジル、「背後霊」グリーンランド、「地縛霊」エジプト、「浮遊霊」ウクライナ、「霊」チェコ、「背後霊」アルゼンチン、「地縛霊」北極、「浮遊霊」オーストリア、「霊」
、
この数日で潰してきた総計。
◇◆◇
宇都宮市低空――幼稚園を守る為に乗り物から飛び降りた彼女の攻撃内容、
霊感の無い霊は、己の姿すら見れぬ霊には、そもそもこの小娘が、何故に、己が痛めつけられるのか解らない。近接するだけでの影響、見えない恐怖、電磁波みたいな、なのだけど、霊感のある霊に彼女のそれは、種明かしは、
銀に見える。
煌きは万年大木の根のように彼女から奔流し、それに衝突する都度、霊の霊たる霊は雪解けが如く消耗していく、しかし、花を咲かせる水のように役割は転じない、あるのは無、完全なるデリート、
大往生という三字熟語が、歌われない、だから、
生きたがりの霊は必死だった、目前の十四歳を殺すのに必死だった。弱肉強食の法則で、本来、頂点に経つもの、そう、そうである、霊は獅子であり、草を食む草食を喰らう絶対王者、
そんな理を覆したのは、人間だったのだけど、道具を使うようになったのは、人間だったのだけど、ならば、
霊以上の少女は、人間とは呼べない術を使う王者の名は――
彼女はきっと問われれば自称するだろう、本名ではない名前を、愚かにも突っ込んできた霊の頭に、障壁を槍のようにぶつけ、瞬時、得物、魔法使いと科学者の婚姻による戯れによって創られし引き出物を召還武装し槍として追撃しながら、名乗るはずだ、ササキビ・クミノと、
それは霊にとって、まるで種族の名のように響いた。動物、人間、そして彼女。
何科か、
何なのか、
……小さな子供を護る為の活動は、とてもじゃないけど、子供には見せられない、教育上とても悪い殲滅、万の霊に一の戦法を、一の霊に万の道具を、
人の外であるならば、最早、足音ですら神曲となった。獣を平伏させる音色であった。奏では、子供には、こっそり覗き見てしまった子供には、ねぇ、やっぱり、
聞こえるんだよ、
「殺し屋、さん」
って。
……ありがとうと続かない事を、聞くまでも無く彼女は知らざるを得ない。感謝なぞ臨めない、そう、そうだ、
異界の私だって、そうやって生きてきたのだ。
自分が生きてきた世界と似た世界を、彼女は、また三年間過ごさざるを得なく、そして、また殺さざるを得なく、
――脳裏、切っ掛けたる男と女の姿、異界の自分と同じ映像
七百人とそれから、よりも遥かに、血塗れの汚れを“護りたいから”を支えに、正義の味方を狭い範囲でやっていたから、遥かに、
世界の私よりも遥かに、ならば、ならば、「ならば私も、潰し尽くそう」
世界を駆け始める、「霊の癖に、人を殺す、八百万」日本を駆け始める、「既に死者である癖に、人を殺す霊を潰し尽くせば」
幼稚園を、駆け始める、
「何か少しは、良くなるか」
何が良くなる――
潰し尽くせばそれだけ、人は死なないから。
それは良い事だと思うから。
◇◆◇
彼女の働きが、意思が、八百万の霊の八分の七を減少させているという事実は、誰が知るのだろうか。各地で奮戦する、狭い範囲の正義の味方か、助けられた子か、
、
あの子が。
◇◆◇
ササキビ・クミノの右の耳が、千切れ欠けた。
片側の髪のボリュームが薄く減る、つまり、右方への衝撃。通信から指示を受け、一度離れた元凶の地に戻った刹那にだ、情報の通り集結していた夥しい霊は、耳痛き歓迎、……ササキビの目の前に《そびえ立つ》物、
龍、
十万の霊が行列を為し、組み体操のように、
ササキビの耳を削った龍の炎とて、障壁に削られようと構わぬ速度で、歪な頭部から吐き出された霊であって。
気がついた、右肩、骨の痛覚。
(皹は入ったか)
……生き残りの、死んだ癖に生き残ってる者達の一致団結か、彼女の瞳は、障気の応用である半径20メートル以内に置ける自由な視聴点からの瞳は、頭部にある、汚らしく笑う霊がどうも、頭脳っぽいな、と思うのだけど。
早速である、擬似炎撃の再度は。
霊による擬似的な炎は、彼女の障壁によって金属疲労のように削れていく、しかしそんな犠牲など構わぬとばかりに、炎は達磨のように肥大になり、阿鼻叫喚の渦の中に少女を巻き込んだ、その衝撃は生身にはとかくきつい、
霊でありながら物理的な攻撃に巻き込まれる様をみつめ、自我が他より増している龍の頭部は、あはは、あははと笑った、花見の席に座るつもりか、こうやって人間を殺してるというのに、
けれどそれが、八百万の霊団の存在理由で、ならば、殺せ、人間を、
命全てを霊に代えようと、それが、
霊の夢、
夢は――
夢は何度も現実に殺された。
例えば今、ササキビ・クミノという現実が、
途端、霊の炎を手も触れず、障壁用いずに、
豆を撒くようにぶちまけた。
夢見の鈴と、単語としては夢のある道具を使ったのだけど
頭脳が、理解しにくい風景の説明、
りんろろう、りんろろう、彼女が指に下げた鈴がなれば、その音がまるで暴風かのように作用して、鳴り響く度その波紋は、障壁よりも明らかな防御壁となって、
溜まりかねた龍自身が、何処までが首か胴体か解らない、けれどその太い身体を振って、霊の傷つけようとしたのだけど、
崩壊を早めるだけである。組み体操、解かれる、首無しの龍、
好き嫌いだ、子供のピーマン、人間にとっての死、そして、霊にとってのこの音は、厭だ厭だと、すっかり頭脳を役立たずにした、
その静寂が訪れると、彼女は龍の肉へ向かって、(戦力に比例した武器を出すのか)召還する、(戦力に比例した武器を出した)
ある種の――そう下世話にこうとしか表現出来ないけれど
分子破壊光線砲――その表現は絶望へと良く招待した
招かれたのは、人を殺す霊。
死者すら葬る彼女こそは、
◇◆◇
戦場の七歳児がどう呼ぼうと、異星製のその大柄なのを、青と白から、赤と黒に色を変え、携帯を円形のフォルムから三角に変え構えて、操作のパネルは三つ、彼女の手は二つ、けれど障壁はとても器用に、彼女を宇宙の彼方に住む同じ生命の構造を擬似的に。やばい、と思うのは頭脳だ、鈴の音から解放され、人間を殺さなければいけない使命を思い出した頭脳だ、殺戮衝動は、だから、
鈴の音が止んだ周囲に、もう厭とも言ってられない霊たちを纏め上げて、再び龍の頭となり、殺そうと、
障壁で頭蓋がボロボロになろうと、意思ある牙で彼奴を、あれを、
あの人間を、
そしてその速度は――操作するササキビの背中へ、彼女の殺しの速度に匹敵するくらいの速さで特攻を、
捨て身。
……犠牲になったのは、二つ。一つは、分子破壊、
パネルによってちょうど龍の尾から切れた首までに、軌跡を描くよう操作された光線による、霊の消滅。まるでそれが新たな龍の姿、そして宇宙へ突き抜けて行く光の龍、霊の龍を潰し、新たに生まれた龍による犠牲、そしてもう一つは、
彼女、は、無防備な背中を晒していた彼女は、
(障気)瞳は背中にも置けて、(障壁)向かってくる龍、(集中)操作が終わってからの発射までのタイムラグはちょうど十秒間、それを要する精神力、(防壁)より、
(攻撃)への、障壁の転換、
背面から放たれた銀の奔流は、彼女が操る武器に匹敵するくらいの威力で、
何も思わせる事も無く、龍の頭を、霊の塊を潰してみせた。
まるでそれは羽根みたいに、銀の羽根みたいに、
、
龍を作り出し、龍を屠り、殺す羽根を、負った少女、
彼女は、
彼女とは――
◇◆◇
あの子が言った。
殺し屋じゃない。と。
◇◆◇
……その音が、鼓膜に聞こえた瞬間、
世界が一変したんだ。急に空が青くなった、急に大地が草原になった、そして、急に、少しだけ浮遊していた霊も、消滅した。
何が起きたのか、何が、
「聞けば解るのだろう」
あの子、
「青の子」
ササキビ・クミノは、振り返らない。障気による瞳を使ってるから、それで見える、青の子が、願いの傀儡が、今、
どんな姿をしているか。
世界よりの来訪者に、声がするする、声がする。
「……巫浄霧絵ハ、アノ女ノ策略デ眠ル、ヨッテ霊ハ消エル」あの女史か。「鬼ハ、武器ニヨリ人間ニナリ、武器ガ首ニ願ウ事ニヨリ世界ヲ草原ニスル」
「そしてお前は、霧絵から抜け出したのか。眠る体に再び閉じこもりたくは無いから」
「ソウダヨ、ダッテ、殺サナキャイケナイカラ、ネェ」
殺シ屋ジャナイ人――
ササキビクミノは振り返りました。「七百万ノ霊ヲ、アノ時ノ一万倍、殺シタ人、アリガトウ」振り返りました。
真の眼で見る為に。
「僕ハ、ササキクミトナノル」
そう言って青の子は、自分の舌を抜き取り、捨てた。
彼女そっくりの姿になり、捨てた。
青の子のかつてはただの意思で、殺す願いの具現化で、神楽庄二という姿に眠る事で、実体を得て。
その実体とて、仮初の姿だから、ある者の空蝉だから、
名前も、少し違う。だから、
今目の前が、姿形だけがそっくりで、青く発光する少女が、
ササキクミと名乗ったのは、ササキビクミノと違うから。青く発光する事、そして、
ササキビ・クミノの弱点、
――甘い物が苦手だ
、
気絶寸前になる程。
……それは戦闘において、どんな弱点なのだろう。甘い物に埋もれる任務などあろうか、それを武器にしようとする事があろうか、本来、有り得ない、しかし、
少なくとも舌を捨てれば、ササキビクミノは完全かもしれない。
ササキクミは、完全かもしれない。
殺し屋として。
……、
……、
――、
「健気だな」
ササキビ・クミノ、
「お前はもう、誰も殺さなくていいのに」
ササキクミは、少し笑った。
その笑顔は、多分、こんな事を言ったのだろうか。
◇◆◇
皆の願いだからって、
そんな事を、言ったのだろうか。
◇◆◇
舌の無い彼に、……彼女に、語る術は無いから、巫浄霧絵の為に、語る必要も無いから、だから、
喋るのはササキビ。
「……Second Revolution」
それを異界の自分に話した時、彼女は、違う言葉に略した。違う二文字に略した。それは無意識か、それとも、願いか、
願い、なのだろう。
「私とて、そう思っている」
回帰でも無く、革命でも無く、
生まれ変わるなんてそんな為じゃなく、この世界は、いや、
世界の、異界の、
全ての私が
私が望むものは。
「自由だ」
世界からも、法則からも、この異界が、
この異界の私が、全てが。
SEと、彼女は略していた。
「そう、進化する事を」
Evolution..
一度目の進化が、異界が生まれた事だとすれば、二回目の進化は――
……語る必要も無い事を、語れば、目の前は、
ササキクミは、笑った。ああ、目の前は、目の前にある者は、
既にそうなりつつあるこの世界の、最後の抵抗。
昔の自分と重なる。
◇◆◇
青い空に溶けていく存在は、アフロでも被せれば、笑えるのだろうか。あの存在は、
笑うのだろうか。
それが肝心な事に思えた。
◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。
◇◆ ライター通信 ◆◇
いやほら、プレイングにはSEと書いてらっしゃったんですよ、で最初これなんの略の事なんやろか、システムエンジニア? けれどOMCのスタッフにんな役職の人おらへんしなぁと悩んでた所、あ、そうやんでかでかのってる二番目の革命の事やん! うわー気付かへんなんてどんだけ自分うっかりさん☆
普通に綴りが間違ってることにも気づかなかったうっかりさんですごめんなさい(死んでこい)あと、納品を仕事納めまで伸ばしてすいまへんすいまへんまことに申し訳ありまへんorz
とにかくにも参加おおきにでした、世界の方のパートとなります。一応武器には困らない、とあったんでっけど、WW3とやらがなんなのか良く知らずで、こりゃ捏造するしかないかなぁと(えー)というわけで適当なノリで書いたらこんな感じになりました;
七百万霊殺しについては、一応世界の存在であるゆえって事で。雑霊とかはよく殺せますが、PCやNPCは殺せない存在ゆえ。
乱文でっけど最後にありがとうございました、そしてほんますいませんでした、よいおとしをorz
[異界更新]
青の子、ササキビクミノなる殺し屋の物まねをした、甘い物で気絶寸前になる舌を捨てたササキ・クミに。願いを適える為、殺す為、動くかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。
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