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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ハロウィン 仮装パーティー

【オープニング】
 ある日のこと。
 碇麗香は、メールで流れて来た社内報を読み下し、目を輝かせた。
 今月末、白王社主催のハロウィンパーティーが開かれるというのだ。参加できるのは、白王社の社員とその家族、及びその友人・知人――ようするに、白王社の社員か彼らに声をかけられた者なら、誰でも参加してよしということだった。
 参加の際の条件は、かならず仮装をすること。
 もちろん、会費などは必要ない。
 しかも当日は、あるゲームが行われ、その優勝者には豪華な賞品まで出るというのだ。
 麗香が、俄然、興味を惹かれたのは、当然だろう。
 ちなみに、そのメールの最後には、ゲームは宝探しのようなものなので、一人よりも友人や家族など、数人でチームを組んで探す方が有利だろうと書かれていた。
(宝探しね。面白そうじゃない。……賞品が何かはわからないけど、なんだか燃えるわ!)
 麗香は、胸の中で拳を握りしめながら呟くと、とりあえず、友人・知人を誘ってみようと、さっそくメールの文章を作成し始めるのだった。

【パーティー会場にて】
 十月三十一日の夜。
 都内にある白王グランドホテルの五階大広間は、大勢の客でひしめき合っていた。
 白王社主催のハロウィン・パーティーの、ここが会場なのだ。
 大広間は、カボチャのランタンや魔女のレリーフ、星の飾りなどで賑やかに飾りつけられ、部屋の隅には料理を盛ったワゴンが並ぶ。また、すでに人々の間を飲み物のグラスを載せた盆を手にした給仕たちが、歩き回り始めていた。
 青島萩(しゅう)は、碇麗香の誘いを受けて、その大広間にいた。
 本日の彼の扮装は、かすりの着物に袴、チューリップハット、それに下駄といったものだ。当人は、書生のつもりなのだが、参考にしたのが金田一耕助のためか、どちらかというと、そちらの方が通りがよさそうである。
 傍には、同じく麗香に誘われたのだという、セレスティ・カーニンガムと梧(あおぎり)北斗、それに三下の三人がいた。
 セレスティは、リンスター財閥の総帥で、占い師でもある。外見的には二十代半ばと見えるが、本性は人魚で、実際には七百年以上を生きていた。足が弱く、車椅子を使用している。扮装は吸血鬼だ。定番の赤い裏地の黒マントと黒いスーツをまとっている。が、白皙の美貌にビジュアル系のメイクを施し、自前の長い銀髪を背に流した姿は、幻想的ですらあった。
 対して、退魔師兼高校生の北斗も、吸血鬼の扮装だった。こちらも服装は定番のものだが、短い黒髪は撫でつけてジェルで固めてしまい、白く塗った顔の上半分には、コウモリの羽根の形の、仮面のような黒いメイクを施している。口には牙までつけて、おどろおどろしさを強調しているようだ。が、小柄なせいか、なんとなく可愛らしい印象を受ける。
 一方、三下は長い金髪のカツラとエプロンドレスで、「不思議の国のアリス」に扮していた。いつもと同じ黒ブチメガネをしているのに、それさえ愛らしく見える変身ぶりに、萩はかなり驚いたものだ。
(人って、わからないもんだな)
 改めてまじまじと見やっても、言われなければ三下だと気づかないあたりが、なんだかすごい気がする。
 そこへ、他の客の間を縫って、席をはずしていた麗香が戻って来た。
 彼女は、大きくスカートのふくらんだドレスに、ポンパドゥールに結い上げた頭をし、手にはダチョウの羽の扇を握っている。当人いわく、マリー・アントワネットだそうだ。
 その彼女と一緒にいるのは、シュライン・エマだった。萩より三つ年下の彼女は、本業は翻訳家だが、草間興信所の事務員もしている。なので、萩とも顔なじみだった。
 彼女は、白いインバネス風のコートに白いタキシード、シルクハットに片眼鏡(モノクル)、白い手袋にステッキといった扮装だった。いつもは束ねている長い黒髪は、ほどいて後ろに垂らしている。長身のすらりとした姿に、それはよく似合っていた。なんとなく、宝塚の男役のようにも見える。
(なんの仮装だ? アルセーヌ・ルパンか?)
 とっさにそんなことを思う彼は、幼いころ、その大怪盗の活躍する物語に胸を躍らせたクチだった。
 シュラインと挨拶を交わしながら、ふとその隣の麗香を見やると、彼女は誰かを探すように、あたりを見回している。シュラインもそれに気づいたのか、問うた。
「どうかしたの?」
「シオンも来るって言ってたのに、姿が見えないのよ」
「シオンさんなら、更衣室までは一緒でしたよ、たしか」
 麗香の言葉に、セレスティが言う。
 彼らは、ここへ来る時からこの扮装だったわけではなく、ホテルに着いてから、用意された更衣室でそれぞれ着替えたのだ。
 ちなみに、麗香が言っているのは、びんぼーにんで、普段はあちこちの公園を住みかにしているというシオン・レ・ハイのことだ。
 たしかにセレスティの言うとおり、更衣室に行くまでは、一緒にいたのを萩も覚えていた。
「だんだん人も増えて来たようだし……私たちが見つけられないだけじゃないの?」
 シュラインが、あたりを見回して言う。
 これもそのとおりだと、萩は思った。実際、仮装をしていると、知っている人間相手でも、なかなか見分けがつかない。三下たちにせよ、麗香に引き合わせられなければ、気づかなかったに違いない。客の中には、北斗のように素顔がわからないメイクをしている人間もいたし、狼男やフランケンシュタインのマスクをかぶっているような者もいるのだ。ましてや、互いになんの仮装をするのか、話し合ったわけではない。見つけられなくても、無理はないだろう。
 その時、大広間の奥のステージに、ふいにスポットライトがあたり、海賊の扮装をした男がマイクを片手に中央に出て来た。
「レディース&ジェントルマン! 本日はようこそ、白王社主催のハロウィン・パーティーへ!」
 定番の挨拶を口にした後、男はこのパーティーが、社員とそれを支える家族や友人への慰労のために開かれたものである旨を告げる。そして、今日の目玉であるゲームについての説明を始めた。
 客が探すのは、会場内に紛れているある人物だという。その人物を特定するための、五つのヒントが、男の口から上げられた。
 一つは、その人物は男性で、年齢は四十だがかなり若く見えること。二つ目は、小柄であること。三つ目は、軽いウェーブのかかった短い栗色の髪をしていること。四つ目は、左手に銀の腕輪をはめていること。五つ目は、仮装らしい仮装はしていないが、背中に白い翼をつけていることだ。
 客は人物が特定できたら、その相手にキーワードを告げる。イエスの答えがもらえた者が、勝者だ。
 キーワードのためのヒントは二つ。一つは会場内に隠されている。二つ目は、ゲーム開始から一時間後に会場内を回り始める子供たちから、菓子と引替えにもらうことができるという。ちなみに、この時交換する菓子は、会場内に置かれているものでOKだった。もちろん、持参した菓子などがあれば、それでもかまわない。
 勝者に与えられる賞品は、アメリカ西海岸十日間の旅へペアで招待、プラス巨大なカボチャとカボチャ料理のレシピブックをプレゼントというものだった。
(なるほど。それでチーム戦が有利ってわけか。たしかに、一人で探すよりは、効率がいいよな)
 客たちのざわめきの中、萩は納得して胸に呟いた。しかしながら、「宝探し」と聞いて彼が考えていたものと、かなり赴きは違うようだ。
(ま、探しものは得意だけどな)
 クスリと笑って、彼は肩をすくめる。
 ゲームの開始は三十分後だ。萩は、あたりに群れる客に探りの目を向けながら、回って来た給仕の盆から、コーヒーのカップを取り上げた。

【最初のヒント】
 ゲームが始まって、すでに三十分近くが過ぎていた。
 萩は、北斗と二人で会場内を、ヒントが書かれたカードを探して、さっきからずっと歩き回っている。
 ゲーム開始までにシオンは現れず、彼ら六人は、二人づつ組んでカードを探すことにしたのだ。北斗はシュラインと組みたがっていたようだが、萩は強引に彼と組んだ。別に理由はない。なんとなく直感が働いたのだ。それで、シュラインは麗香と、セレスティは三下と組む形になった。ちょうど目についた、巨大なカボチャの置物の傍で、一時間後にもう一度落ち合うことになっている。手に入れたヒントのカードを見せ合い、キーワードを導き出す手掛かりにしようというのだ。
(さて。どういう所を探すかな。小さいものだし、皿とか置物の下とか、レリーフに紛れているとか、カーテンの裏にピンで止めてあるとか……いろいろ考えられるよな)
 麗香たち四人と別れて、萩は考えを巡らせた。
 北斗は最初、なんとなく不機嫌な顔をしていた。が、萩が自分の考えを話すと、すぐに機嫌を直して話に乗って来る。
 結局二人は、会場のあちこちに置かれたワゴンの皿や、壁やテーブルに飾られているランタン、蝋燭などの下、カーテンの裏側などを調べて回ることにした。
 しかし、カードはなかなか見つからない。
 会場には、時おりカードを見つけた客のものらしい歓声も沸いているから、さほど難しい隠し方はされていないように、思うのだが。
(俺がこれだけ探して、見つけ出せないってことは……何か、根本的に探し方が間違っているってことか?)
 少し疲れて、会場の壁際に置かれている椅子に腰を下ろして、本日二杯目のコーヒーを飲みながら、萩は胸に呟く。本当は、タバコを吸いたいところなのだが、会場内は禁煙だった。
「けっこう難しいよなあ」
 隣でコーラを飲んでいた北斗が、溜息と共に呟く。
「そうだな。……もうちょっと、探し方を変えてみるか?」
「変えるって、どういうふうにだよ?」
「そうだな……。たとえば、テーブルやワゴンの下を探してみるとか」
 問い返されて、萩は思いつくままに、口にした。
「なんか、冴えねぇ案だな。萩って、刑事なんだろ? だったらこう、隠すならこのあたりだっていう目星とか、つかねぇの?」
 顔をしかめて問い返され、萩は肩をすくめる。
「その目星が、全部だめだったから、言ってるんだよ」
 幾分ムッと来る言い方ではあったが、十以上年下の高校生相手に、本気で腹を立てるつもりはなかった。それに、ゲームはゲームだ。
 彼は、コーヒーを飲み干すと、カップを置いて立ち上がった。それを見やって、北斗も慌てて残りのコーラを飲み干す。
 そのまま二人は、再びカード探しを始めた。
 結局、他に思いつく方法もなく、テーブルやワゴンの下を集中的に探す。
 が、今度はそれがよかったらしい。料理の取り皿を載せたテーブルの足元に、カードがあるのを見つけた。
 カードに書かれていたのは、「要」の一文字だけだ。
「これがヒント?」
 カードを見やって、北斗がきょとんとした顔で呟く。
「みたいだな」
 うなずきながら、萩はその文字をしげしげと見やった。それは、いったい何を意味しているのだろう。本来の意味そのものとも取れるし、苗字や名前とも取れる。
(要……要……)
 胸の中で繰り返しつつ、萩は軽く眉をひそめた。何かが記憶に引っかかる。どこかで、聞いたことが、あるような。しかし、それがなんなのか、はっきり思い出すことができなくて、それが妙にもどかしい。
 その時、ゲーム開始から一時間が過ぎたことを告げるアナウンスが、会場内に響いた。
「まあいい。どっちみち、このカードだけじゃ、キーワードは導き出せない仕組みになってるんだ。一旦、さっき決めた場所へ行こうぜ。他の連中が手に入れたカードとつき合わせてみれば、もう一つのヒントがなくても、キーワードがわかるかもしれないしな」
 それを聞いて、考えるのをあきらめ、萩は言った。
「ああ」
 北斗もうなずく。
 二人は、巨大カボチャの置物めざして、人の波の中を移動し始めた。

【第二のヒント】
 置物の所へ行く途中で、萩と北斗は、会場を回っている子供たちに遭遇した。魔女や悪魔、幽霊などの姿に扮装した彼らは、二人を取り囲むように集まって来ると、ハロウィンの約束どおり、「Trick or treat(お菓子をくれないと、悪戯するぞ)!」と叫びつつ、二人の方へ手を差し出す。
 彼らは用意されたワゴンから、菓子類を持って来るのを失念していた。が、萩はふと、着物の袂に、ジャック・オ・ランタンとオバケの形をしたクッキーを入れていたのを、思い出した。早朝、署を引き上げて来る時に、「ご苦労様」と婦人警官からもらったものだ。パーティーに来る時、ハロウィンでの風習を思い出して持って来たものを、着替えた時、着物の袂に入れたのだった。
 彼がそれを渡すと、子供たちは満足したようだった。中の一人がポケットから名刺大のカードを取り出して、萩に渡してくれた。そのまま、子供たちは二人に手をふり、「ありがとう」の言葉と共に駆け去って行く。
 それを見送り、二人は新たなカードに目を落とした。カードは、トランプの絵札になっていた。ダイヤのキングだ。ただし、色はついておらず、モノクロだった。
「また、こんなのかよ……」
 眉間にしわを刻んで、北斗がぼやく。が、萩はじっとその絵を見詰めた。モノクロなのは、単なる印刷の問題ではないだろう。絵そのものは、けして簡略化はされておらず、本物のトランプとまったく同じなのだ。とすれば、色がないことに意味があるのか。
(ダイヤのキング……か。キングは日本語だと、王だよな。白い……王?)
 そこまで考えて、彼はハッと顔を上げた。
「わかったぞ。……俺たちが探すのは、白王要だ」
「……誰だよ、それ」
 思わず声を上げた萩に、北斗が訊いて来る。
「白王社の社長だ。たしか、去年、前社長だった父親が死んで、その後を継いで社長に就任したばかりの人物のはずだ」
 説明しながら、萩はどうして自分が「要」の文字に引っかかったのか、今更ながらに理解していた。昨年、新聞で読んだ記事が、心の片隅に残っていたのだ。
「でもそれじゃあ、白王社の社員に有利じゃんよ、これ。だって、社員なら社長の顔ぐらい、ばっちりだろ?」
 北斗が、小さく口をとがらせて言う。
「それが、その社長はまだ一度も社員の前に現われたことが、ないらしい。それどころか、写真すら見たことがないんだそうだ」
 萩は、先日偶然に麗香から聞いた話を思い出して、言った。まさかこんなところで、あの時の雑談が役に立つとは、思いもしなかったけれど。
「……それで、このゲームかよ」
 北斗は、幾分呆れたように言って、小さく溜息をつく。
 ともあれ、キーワードは判明したのだ。後は、ゲームのルールどおり、それらしい人間を捕まえて、かたっぱしから「白王要さんですか?」と尋ねて回ればいい。
(なんだか、仕事してるに近い気分だな)
 そんなことを思いつつ、彼は北斗に声をかけた。
「ともかく、それらしい人物を探そうぜ。そして、見つけたら白王要か否かを訊く」
 いつの間にか、集合場所に行くことは、どうでもよくなっていた。
「それしかないよな」
 北斗もうなずく。二人はそのまま、周囲の男性客に慎重に目を配りながら、歩き出した。

【ゲーム終了】
 会場には、背中に白い翼をつけた仮装をした男性も、それなりにいた。
 ハロウィンということで、やはり一番多いのは魔女や悪魔、吸血鬼などのホラー・オカルト系のものだ。が、天使風の仮装の男女も、そこそこいる。
 ただ、提示された条件に見合うような――となると、けっこう難しい。
 天使の仮装をしている人間のほとんどは、長いずるずるとした衣装を身にまとっており、カツラなのか自前なのかはわからないが、髪も長くしていた。腕輪はしている者もしていない者もいる。
 途中、北斗が吸血鬼の扮装だというのに、なぜか白王要かと問いかけられるという出来事があった。彼も左手に銀の腕輪をしていたせいだ。問いかけて来た者たちは、どうやら少しでも条件に当てはまっていれば、声をかけているらしい。
(さすがにここまで来ると、みんな必死だな)
 萩は思わず苦笑した。
 むろん、彼ら自身も真剣だ。殊に北斗は、翼をつけた男性客しか見えていない、といった風情である。
(こりゃ、えらく猪突猛進タイプだな)
 真剣さのあまり、他の客にぶつかりかけたり、ころびかけたりしている北斗に、萩はまたもや苦笑した。それを適当にフォローしてやりながら、彼自身もそれらしい人物を探す。
 と。
(こりゃあ……案外、ビンゴかもな)
 胸に呟き、萩が目を止めたのは、ちょっと疲れた様子で隅の椅子に腰を下ろしている男だった。年齢は三十前後ぐらいだろう。黒っぽいセーターとズボンに身を包み、背中に白い翼をつけている。髪も短く、しかも軽くウェーブした栗色だ。
「あの人、見てみろよ」
 北斗に声をかける。
 そちらをふり返り、彼もまた目を丸くした。
「いた。間違いない」
 低く呟き、うなずくと、彼はそちらへ大股に歩き出す。苦笑しつつ、萩もその後に続いた。
「そこの人、白王要だよな?」
 北斗は、すでに決定したといわんばかりの口調で尋ねる。
 萩も、その後ろで期待を込めて、そちらを見やった。
 男が、顔を上げる。幾分疲れた顔で、しかし笑みを浮かべた。
 その瞬間、萩は自分たちの勝利を確信した。男が、ゆっくりと口を開く。
 その時。
 会場の一画から、ふいに大きなどよめきが上がった。それと共に、拍手が湧く。
(なんだ?)
 萩は、思わず目を見張り、そちらをふり返った。と、その一画にスポットライトが当たり、進行役の男の声が、マイクに乗って響く。
「どうやら、ゲームの優勝者が出たようです。社長、優勝者の方と共に、こちらのステージにいらしていただけますか?」
 スポットライトで照らされた一画で、それに応えるように手をふる人物がいた。
 その一画が、自分たちが落ち合う場所に決めていた、巨大カボチャの置物があったあたりだと気づいて、萩は思わず目をしばたたく。
 やがて、ステージの上に現れたのは、白いタキシードに身を包んだ青年と、四十歳前後のがっしりした長身の男だった。青年の方は、たしかにヒントに上げられていたとおり、背には白い翼をつけ、軽いウェーブのある短い栗色の髪をしていた。タキシードの袖口からわずかに、銀色の腕輪が覗いているのも見える。
 それにしても。
「サギだ……」
 萩は、思わず呟いた。
 ステージ上にいる青年の、どこが四十に見えるというのだろうか。どう見ても二十歳前後だろう。並んで立てば、誰もが萩の方が年上だと思うに違いない。
 もっとも、それと同じぐらい彼を驚かせたのは、優勝者として白王要の隣に立つ男だ。
 長い黒髪を後ろで一つに束ね、顎に髭をたくわえた、青い目の男――黒い長袖のシャツに黒いズボンという、なんの変哲もない恰好のその人物は、シオン・レ・ハイだったのだ。
 シオンは、なんとなくきょとんとした顔つきで、ステージに立っていた。しかもなぜか、腕には巨大なカボチャを抱えている。
「あれは……」
 北斗がそれを見据えて、呟くのが聞こえた。萩にも見覚えがある。彼らが落ち合う場所の目印に決めていた、置物だ。
(どうしてそれを、シオンが持ってるんだ?)
 萩は、思わず首をかしげる。
 その間にも、ステージ上では進行役の海賊の扮装をした男が、改めて白王要を紹介した後、シオンにインタビューを行っていた。進行役の男は彼の名前を尋ね、どうして要を見分けることができたのか、だとか旅行は誰と行きますか、といったたわいのない質問をした後、訊いた。
「ところで、シオンさんは、どんな仮装をしておられるんでしょうか?」
「え? ああ……。その、カボチャです」
 言って、シオンはやおら、手にしていた巨大なカボチャを頭からかぶった。それは実は、着ぐるみだったのだ。途端、彼の体は太股のあたりから上が、すっぽりとカボチャの中に入ってしまう。カボチャは、目と口が描かれていて、側面から両手を出した彼は、カボチャのお化け――ジャック・オ・ランタンへと早変わりした。
「な、なるほど……。なかなか、気合の入った仮装ですね」
 進行役の男は、わずかに引きつった顔でうなずく。と、横から要が進行役のマイクを奪い取った。
「いやあ、なかなか面白い仮装じゃないか。こっちにも賞を設けるべきだったかな。……ところで君、それで外が見られるの?」
「ええ。見られます。目のところに、穴が空けてありますから」
 幾分くぐもった声で答えが返り、シオンは見えることをアピールするつもりだろうか。ゆらゆらと体を揺らしながら、ステージの上で踊り始めた。一見するとフラダンスのようだが、巨大なカボチャがくねくね、ゆらゆらと踊るさまは、なんとも怪しく可笑しい。
 最初は、呆然とそれを見やっていた客たちの間から、忍び笑いが漏れ、それがまるであたりに伝染するかのように、次々に広がって、大きな笑いに変わって行った。
 萩と北斗も、腹をかかえて笑っていた。
「く、苦しい……」
 萩は、笑いながらうめく。そもそも、どうしてここでいきなり踊るのか。よくわからないが、そろそろやめてくれないと、このまま笑いで窒息してしまいそうだ。
 だが、ステージの上の奇妙な踊りは、当分終わりそうになかった。

【エンディング】
 数日後。
 萩の元へは、麗香からメールに添付されて、ハロウィン・パーティーの時の写真が送られて来ていた。
 それらを眺めながら、萩はあの夜のことを思い出す。
 ゲームが終わった後、せわしなく会場を動き回ったのと笑い倒したせいで、空腹を覚えていた彼は、しっかり飲み食いさせてもらった。
 白王要は、たしかにちょっと変わった人物らしい。これまで、社員の前に姿を見せなかったのは、普段は海外で生活しているせいだという。が、写真すら晒したことがなかったのは、年齢と外見のギャップに、写真では社長だと信用してもらえないと思っていたからだ、というのだ。
 とはいえ、気さくな人でもあるらしく、ステージを降りた後はなぜかシオンと一緒にいて、そのおかげで萩も話す機会に恵まれた。写真は、そうした時に撮ってもらったものだ。
 萩自身と北斗、ゲーム終了後に合流したシュライン、麗香、セレスティ、三下、それに要の八人全員の集合写真から、巨大カボチャの着ぐるみを着たシオンや、そのシオンとのツーショット、などなど。どれも、会場の雰囲気がそのまま伝わって来るような、楽しいものばかりだった。
 アリス姿の三下と撮ったものもある。
 彼は、一緒に行動していたセレスティと途中ではぐれ、その姿を探して会場内をさんざん歩き回ったあげく、疲れてあの集合場所へ行き、置物だと思っていたものが、シオンの仮装だと知ったらしかった。
 ちなみにシオンは、置物のふりをして他の客を驚かすつもりで、あそこにいたのだが、そのまま眠ってしまっていたのだという。つまり、萩たちが組分けの相談をしていた時、彼はすぐ近くで眠りこけていたというわけだ。
 それを聞いた時、萩はなんとも天然な奴だと、呆れたものだった。
 ところで、優勝の賞品のことだが。
 アメリカ西海岸への旅行はともかく、巨大なカボチャは、シオンの厚意で七人で分けることになった。実物のカボチャは、写真で見せてもらっただけだったが、翌日送られて来た一切れは、普通のカボチャ一個分に相当するほど大きいものだった。
 料理などあまりしない彼は、どうやって食べようか悩んだあげく、あのクッキーをくれた婦人警官に相談した。すると翌日にはそれは、カボチャのコロッケとパンプキンパイに化け、彼だけでなく、彼の所属する部署と、署内にいる婦人警官の友人らの舌を楽しませたのだった。
(カボチャって、あんなに美味いもんだとは、思わなかったよな)
 その時の味を思い出し、萩はふと胸に呟く。作ってくれた婦人警官いわく、「いいカボチャだったから、美味しくできたのだ」そうだが。
 ともあれ、ゲームで優勝はできなかったが、楽しい時間を過ごせたと、彼は思う。
(ま、次からはもっと、普通の宝探しにしてくれると、ありがたいけどな。カード探しに人探しってのは、なんかこう……仕事してる気分になっちまうよな)
 苦笑と共に胸にひとりごちて、彼はモニターに映し出されている、まるで金田一耕介のような書生に扮した自分の姿を、改めて見やるのだった――。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1570 /青島萩(あおしま・しゅう) /男性 /29歳 /刑事(主に怪奇・霊・不思議事件担当)】
【3356 /シオン・レ・ハイ /男性 /42歳 /びんぼーにん+高校生?+α】
【1883 /セレスティ・カーニンガム /男性 /725歳 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【5698 /梧北斗(あおぎり・ほくと) /男性 /17歳 /退魔師兼高校生】
【0086 /シュライン・エマ /女性 /26歳 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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依頼に参加いただき、ありがとうございます。
ライターの織人文です。
ゲームの勝者については、シオン・レ・ハイ様ということになりましたが、
他意はございませんので、ご了承いただければ、幸いです。
また、組み合わせについても、任意で分けさせていただきました。

●青島萩さま
二度目の参加、ありがとうございます。
今回は、いかがだったでしょうか。
プレイングがあまり生かせず、申し訳ありません。
ゲーム内容を、オープニングでもう少し明確にしておけばよかったと、
反省しております。

それでは、少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。