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<東京怪談・PCゲームノベル>


The light of the Noel


 招待状に記されていた地図を辿り来てみると、そこは確かに森だった。
 ただし、規模としては決して大きくはないものだ。だが民家が密集している場所から離れ、――いや、しかし、決して交通の便が悪くなるわけでもない。そう、人々の記憶から、ひょいと取り除かれてしまったかのような、そんな場所だ。
 夜の風がさわさわと木々を撫でて通り過ぎ、時折車のライトが通り過ぎていく。
 どことなく、不思議な空気を漂わせているその場所に、その建物はひっそりと佇んでいた。


 兄の啓斗と共に訪れた洋館の中、案内されたリビングを一通り見渡した後、北斗は邸内の散策をするため、再び廊下へと踏み出した。
「北斗クンと言いましたか。邸内の散策ですか?」
 廊下で鉢会った詫助が北斗にそう言葉をかける。北斗は大きくうなずいて、ぐるぐると首を回してみせた。
「俺ん家ってさ、古い和風の作りでさ。だからこういう洋式の家ってすごく興味あるんだよね。――ええと、あんた、」
「詫助と申します」
「ああー、うん、分かった。この家ってさ、あっちにいたヒゲのあんちゃんの持ち物なんだろ? あんたも一緒に住んだりしてんの?」
「いえ、俺の家はまた違ったところにありますよ」
「ふうん、そうなんだ。ならさ、一緒に散策しねえ? 面白いもんとか出てくるかもしんないしさ」
 ニヒヒと笑う北斗に、詫助は首を傾げて微笑んだ。
「いやあ、多分そういったものは出てこないと思いますよ。田辺クンも、この家に住んでるわけじゃあないみたいですしね」
「ええ、そうなの? んじゃここって別荘みたいなもんなのかな。ヒャー、金持ちなんだなあ、あのあんちゃん」
「まあ、俺よりは稼ぎもあるようで。――で、どうやら啓斗クンが田辺クンのところでケーキの下見をしているようですが」
「え、マジで? ちょ、俺も下見してえ! っつうか味見してえ! あん時の焼き菓子もすげえ美味かったもんなあ」
 口の端を拭い、今さっき後にしてきたリビングへのドアに手を伸ばす。
「今日はそれが食い放題。俺、すげえ幸せだよ」
 しみじみとそう言い残し、早々にリビングの奥へと消えていく。
 キッチンへと向かう途中、うなだれた啓斗とすれ違ったが、北斗は足を留める事もなく田辺の――もとい、ケーキの元へと走って行った。


「俺ん家ってさ、洋菓子なんて滅多にお目にかかれないわけ。ほら、兄貴がこんなじゃん。ふたりだけでクリスマスなんつったら大変でさ。ありゃクリスマスなんて言えたもんじゃねえっての」
 ショートケーキのいちごをフォークで突き刺して、北斗がしみじみと頬を緩めた。
「あ、ふたりってやっぱり双子なんだ? そうだよね、顔とかそっくりだもん」
 北斗の隣で弓月が大きくうなずく。その手にはマロンを用いたモンブランののった皿がおさまっていた。
 それを、テーブルの端でプディングをつついていた啓斗が睨みやる。
「クリスマスにはきちんとした料理を並べているだろう。ケーキだって、おまえのためにわざわざ作って」
「あれがケーキと呼べるようなもんかよ、兄貴!」
 啓斗の言葉をさえぎって、北斗が大きくかぶりを振った。
「ほう、啓斗はケーキを作れるのか」
「すごいじゃないですか。ケーキなんかそうそう作れるものじゃあないですよ」
 田辺と詫助の、どこかのんびりとした声に、北斗は皿の中のケーキを一口に食し、言葉を返す。
「いやいやいや、ケーキっつうかカステラ! 買ってきたカステラにロウソク立ててクリスマスをあしらってみました的なもん! あれをクリスマスケーキと呼ぶなら、このケーキはおケーキさまさまだ!」
 ふたつめのケーキとしてモンブランを皿に取りつつ、北斗はそっと目尻を拭いた。
「……いやでも俺は生クリームが苦手だと……」
 ぼやきつつ、テーブルに並んだ料理の品々を見渡して、啓斗は静かに田辺を見遣る。
「洋菓子職人はケーキしか作れないものかと思っていたが……」
「ああ、まあ、こういったオードブルなら、一通りはな」
 啓斗の言葉に得意げに胸を張ってみせる田辺の横で、弓月がふと真言に視線を向けた。
「あの、真言さん、さっきからなんでそんなにきょろきょろしてるんですか?」
「――――え? あ、ああ、いや、なんでもない」
 弓月の言葉通り、真言は確かにどこか落ち着かないような態度で周りを見回したりしていたが、手に持っていたグラスを空けて小さな息を吐いた。
「何かお探しですか?」
 からになった真言のグラスに二杯目のワインを注ぎいれながら、詫助が穏やかに口許を緩める。
 真言は軽くかぶりを振ってから、再び周りに視線を巡らせた。
「……いや。……そういえばあんたも四つ辻の人なんだよな」
「え? ああ、そうですよ。……おや、もしや会いたい相手でも?」
 詫助の表情がやわらかな笑みを浮かべる。真言は詫助の顔にちらと一瞥すると、否定するでもなく、自分の皿に取り分けられたサーモンを口に運ぶ。
「四つ辻って、詫助さんとか妖怪さん達がいるとこですよね? 真言さんも行った事あるんですか?」
「え、なに、よつつじってどこ?」
 弓月と北斗が口を挟み、顔を覗かせる。
「ええ、何人かおりますよ。ええと、真言クンが四つ辻で会ってらっしゃるってのは」
 首を捻り湯呑を口に運ぶ詫助に、真言は少しばかり慌てて顔をあげた。
 と、
「……あ」
 啓斗が一言そう口にして、リビングのドアの方へと目を向けた。自然、他の皆の視線もそちらへと寄せられる。そして
「立藤……!?」
 弾かれたように、真言が椅子を転がしつつ立ちあがる。
 ドアの前に立っていたのは、およそクリスマスという場には似つかわしくない風体の女。
「うお、花魁じゃね!?」
 飲んでいたジュースを噴き出し、北斗が口を拭う。
 立藤はしゃなりと首を傾げると、双眸をゆらりと細めて笑みを浮かべた。
「おや、真言クンのお相手は立藤でしたか」
 詫助がのんびりと微笑むその横を、真言は少しばかり急ぎ足で過ぎていく。
「……驚いたな」
「なにがでありんすか?」
「いや、あんたがこういったところに出てくるとは思わなかったから」
 真言の言葉に、立藤は肩を竦めてふうふと笑う。そしてその視線を真言の向こうへと向けると、ゆっくりと歩みを進めた。
「こっちの坊(ぼん)等と娘御とは初の御目文字でありんすね」
 しゃなりと首を傾げる立藤に、視線を奪われていた弓月が小走りに駆け寄る。それに続き、北斗もまた立藤の前へと近付いた。
「私、私、弓月っていいます。うわあ、花魁さんと会えるなんて感激です!」
「うわ、すっげ、マジで本物だよ」
 目を輝かせる弓月の後ろで北斗が立藤の顔をじろじろと確かめる。
「で、真言とはどんなご関係で?!」
 そう言葉を続けながらスプーンをマイクに見立てて立藤に向ける北斗の頭を、すかさず啓斗がパカンと叩いた。
「阿呆、それは無粋というんだ」
 ぼそりと告げつつ、弟を殴った手の平を軽く振る。殴られた弟はといえば、うずくまって頭を抱え、恨めし気に啓斗の顔を睨みあげていた。
 立藤はふたりのやり取りを眺めてやんわりと目を細め、ついとテーブルへと歩み進めた。
「おまえの口に合うようなものがあれば取り分けてやるが」
 田辺が皿を一枚取って話しかける。それを受け、立藤はテーブルを指差しながら時折うなずいたりして言葉を返す。
 そのやり取りを言葉なく見守っている真言の傍らに近寄った弓月が、真言の顔を見上げながら頬を緩める。
「行ってきたらいいじゃないですか! ガッツですよ、真言さんっ」
 ガッツポーズを取りながらそう笑う弓月を、真言は「いや、別に」などと言いながら見遣ったていた。が、しばしの後、意を決したように立藤の傍へと近付いていった。
「あー、青春ってやつだよね」
 まだ痛む頭を撫で付けつつ、北斗がにやりと笑みを作る。
「いやいや、きみ達も若いんですから」
 詫助がやんわりとした声で苦笑いを浮かべた。

「なあ、詫助ってさ、やっぱり酒はいける口?」
 他の皆が立藤に気を取られている中、北斗はこそこそと詫助の隣へと移動してグラスを手に携えた。
「ええ、まあ、ほどほどに。――――マスカットジュースでよかったですか?」
 やんわりとした笑みを浮かべつつ、北斗のグラスへとジュースを注ぎこむ。軽く発砲するタイプのそれは、色味だけを見ればスパークリングワインに見えなくもない。
 返されたその答えに「ふうん」と小さな呟きを見せて、北斗はちらりと啓斗の方へと目を向ける。
 ――――どうやら、弓月にケーキを勧められたらしい。皿の上にのったショートケーキの一片を睨み吸え、今にも泣き出しそうな顔をしている。
 その姿を確かめた後、北斗は小さなガッツポーズを取り、忙しなく首を動かしてうなずいた。
「俺さ、わりと飲めるようになってきたんだけどさ。一緒にちびっとだけ、どうよ」
「ハ、ハ。もちろん、ダメです」
 詫助は、北斗の申し出をにこやかに拒絶する。
「茶ならいくらでもお付き合いいたしますよ」
「んだよ、茶かよぉ」
 北斗はしばし詫助の返事に文句を垂れていたが、それもほんの少しの間の事だった。
 北斗の目は、差し伸べられた湯呑へと向けられたのだ。
「あれ、なあ、この湯呑、なんか少し変わってんのな」
 呟くようにそう告げて、湯気のたちのぼる湯呑を色々な角度からまじまじと確かめる。
 湯呑はどこにも銘が打たれておらず、その上、どう見ても『売り物』ではなさそうに見うけられた。無骨で、しかしそれでいてどこか温かみの感じられる――。
「ああ、それは俺が焼いたもんでしてね」
 ブルーベリーのレアチーズケーキを口に運びつつ、詫助はそう答えてやんわりと微笑んだ。
「え? 詫助って陶芸家だったの?」
 訊ねつつ、自分もレアチーズを皿にのせる。
 詫助は北斗の問い掛けに対しゆっくりとかぶりを振ってみせると、穏やかな双眸をゆったりと細めた。
「職種としてではなくて、まあ、単なる趣味でしてね。趣味の域を超えませんで、なかなかにお恥ずかしい限りで」
「そうか? まあ、なんかゴツゴツしてるけど、でも綺麗じゃん。俺、食器って100均とかでもあんまりちゃんと見ねえけど、でもこの湯呑はなんか、うん、いいよ。俺は好きだな」
 そう答え、満面の笑みを湛える。
 レアチーズは、クリスマスケーキに比べれば素朴な味わいのものではあったが、充分に北斗の気持ちを充たせるものでもあった。詫助作の湯呑に注がれた緑茶もあいまって、心のどこかがほっこりと息を吐けるような。
「そう言ってもらえると嬉しいな。――ああ、そうそう。きみ達兄弟にもプレゼントがあるんですよ。良かったら持ってってください」
「え、なになに、プレゼント? マジで?」
「啓斗クン、ちょっとこっちへ来てください」
 身を乗り出して目を輝かせている北斗に笑みを浮かべつつ、詫助は啓斗を手招いた。
 啓斗は田辺と話しをしつつコーヒーを飲んでいたところだったが、詫助の声に顔を向け、歩み寄ってきた。
「ええと、きみ達にクリスマスプレゼント――プレゼントというには、いささか地味かもしれませんが」
 目の前に並んだ北斗と啓斗に、詫助はこげ茶色の包装紙で包まれたものを差し伸べた。
 包装紙の中に包まれていたのは、飾りなどの装飾のない、黒色の茶碗だった。
「これも詫助が作ったやつ?!」
 北斗が訊ねると、詫助はゆっくりとうなずき、微笑んだ。
「つまらないもんで、すいません。男性に贈る物だと、どんなもんがいいのかさっぱりでして」
「いや……。これ、織部の物に似ているが」
 啓斗が感心したように詫助を見遣る。
「ハ、ハ。そんな大層なもんじゃありません。まあ、気に入ってもらえたら嬉しいですよ」
「おう! 俺、さっそくこれで、あのあんちゃんから飯もらってくら!」
 詫助の言葉に大きくうなずくと、北斗は田辺の方へと走って行った。
「まだ食べるつもりなんですねえ、北斗クンは」
 それを見送りながら、詫助が感嘆の表情を浮かべた。

「食事もあらかた終わったな」
 田辺はあいた皿を片付けながら、入れ替わりにプディングをテーブルに運ぶ。
「これだったらおまえも食べられるだろ?」
 そう続け、啓斗を見遣る。啓斗はしばし思案した後にうなずいた。
「多分……大丈夫だと思う」
「これって確かブランデーを燃やして食べるやつですよね!」
 弓月が目を輝かせる。
「え、燃やすの? これを? もったいねえじゃん」
 北斗がぶんぶんとかぶりを振る。田辺が苦笑しつつ、カルヴァドスを揺らした。
「プディングは食す前に再び蒸すもんだ。だがその代わりに、こうやって火を点けて温める」
 言いながら、プディングにカルヴァドスをかけて火を点ける。途端に香り高い炎が立ち昇った。
「こうやって食うのもアリだ」
 アゴを撫でる田辺の言葉と同時に、歓声がリビングに響き渡る。
「綺麗! 私、こうやってプディングに火をつけるの、初めて見ました!」
 弓月があげる歓声を耳に、真言は横にいる立藤に目を向ける。立藤もまた真言を見上げ、にこりと頬を緩めた。
「今度うちでもやろうぜ、兄貴」
「……いや、さすがにここまでは」
 北斗の言葉に、啓斗が低い唸り声をあげた。
「さあ、それじゃあ、また乾杯し直しましょう」
 詫助がやわらかな笑みと共にグラスを掲げ持った。


Please pass good Christmas   
 



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0554 / 守崎・啓斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【0568 / 守崎・北斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【4441 / 物部・真言 / 男性 / 24歳 / フリーアルバイター】
【5649 / 藤郷・弓月 / 女性 / 17歳 / 高校生】

NPC:田辺聖人、詫助、立藤

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■         ライター通信          ■
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クリスマスをテーマにしたゲームノベル、お届けいたします。

今回のゲームノベルは総勢8名のPCさまが参加してくださいました。ありがとうございます。
一覧をご覧いただければお分かりのように、8名さまをふたつのグループに分け、描写させていただいております。。
この際、相関と、これまでのノベルでの描写等を参考にさせていただきました。
また、ノベル中でNPCから贈らせていただきましたプレゼントは、アイテムとしてお渡しさせていただきました。お気に召していただけましたら幸いです。

>守崎・北斗さま
いつもお世話様です。
ええと、「酒をたしなむ」という描写だけちょっと割愛させていただきました(笑)。ご了承くださいませ。
お兄さん側のノベルと多少リンクさせた場面などもありますので、よろしければ見比べてみてくださいv 今回プレゼントとしてお贈りさせていただきました茶碗ですが、お兄さんと同じものとさせていただきました。何気にちょっとした秘密がある茶碗ですが、それに関してはお兄さん側のノベルを参照ください。
少しでもお楽しみいただけていればと思います。

それでは、またお会いできることを祈りつつ。
よいクリスマスをお過ごしください。