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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


『時報間欠泉をとめろ!』

【オープニング・あやかし荘の時報間欠泉にて】

 あやかし荘は今大パニックに陥っていた。
「わあっ! すごいことになってんなあ」
 柚葉が吹き上げる熱湯を見上げて、快哉をあげている。
「いったいどういうことなの、嬉璃ちゃん?」
 あやかし荘の管理人・因幡恵美は困惑して、座敷童の嬉璃にたずねる。嬉璃も神妙な面持ちで時報間欠泉を見ていた。時報間欠泉とは一時間毎に数百度の熱湯を天上に吹き上げるあやかし荘の名物のひとつである。
 その時報間欠泉から熱湯が噴き出したままとまらなくなったのだ。あやかし荘まで熱湯は流れ出している。このままでは一階が水浸しになることはおろか、建物が腐って倒壊する危険まである。
「……これは時報間欠泉にいる怪異の仕業ぢゃ」
「怪異? じゃあ、その怪異をやっつければいいの?」
「だめぢゃ。時報間欠泉に住む怪異はあやかし荘一帯の地盤を司っておる。殺してしまえば、このあたりの地面が崩れ去るぞ」
「じゃあ、どうすればいいのかな?」
 恵美の切迫した声に、嬉璃はふむと口許に手をあてる。
「どうやら時報間欠泉を司る怪異を狂わせている鉄筋が突き刺さっておる。隣の工事現場から地下に流れ出した廃材が突き刺さったんぢゃろう」
「嬉璃ちゃんが取りのぞけないの?」
「いくらわしでも無理ぢゃ。今この熱湯はただの熱湯ではない。怪異を浄化する力を持っておる。柚葉でも歌姫でも無理ぢゃ。おそらく時報間欠泉を司る怪異が異物を取りのぞこうと暴れてるんぢゃ」
「そんな……。でも、数百度の温度なんて人間が浴びたら死んじゃうわよ」
「わしは異物を取りのぞけなくても、怪異を押さえ込むことはできる」
 嬉璃は手に霊力を集中させると、時報間欠泉に突きだした。
「はっ!」
 青白い光が時報間欠泉を覆い、熱湯がモーゼの十戒のように割れていく。
「――す、すごい」
「感心してる場合か。さっさとこの間に怪異の元に行き、異物を取りのぞけるやつを連れてくるんぢゃ。ただし、怪異は全長五メートルと巨大な上に、我を忘れてるから、必ず腕の立つものぢゃないと死ぬぞ」
「わ、わかった! 待ってて、すぐ呼んでくるから!」
「頼むぞ。あまりわしももたないんぢゃ」
 恵美は助けを求めに駆けていった。

【本編・廃材撤去作業任務遂行】

「き、嬉璃ちゃん。助けを呼んできたよ」
 因幡恵美が息を切らせて嬉璃の元へと駆け戻ってくる。
 今回恵美が連れてきたのは、なんともちぐはぐな三人だった。
「嬉璃殿。わしに任せれば何の問題もないぞ」
嬉璃の友人であり、あやかし荘の『薔薇の間』の住民・本郷源。
「まあ、地面が崩れるとあっちゃあ見過ごせねえな」
 散歩中に無理やり恵美に連れてこられた臨床心理士・門屋将太郎。
「貴重なデータを取ることができますから感謝いたしますわ」
 怪異研究をしている神聖都学園大学部学生・ルゥリィ・ハウゼン。
「よう来た。さっそくぢゃが、怪異の体から廃材を引き抜いてくれ。日没と共に怪異の力が強くなる。それではいくらわしでもとめることはできん」
 そう言う嬉璃のひたいには、大粒の汗が浮かんでいる。
 陽射しはすでに茜色に輝き、刻々と逢魔が時を刻んでいる。
 冬の陽射しは沈むのがはやい。あと一時間もすれば日は完全に沈んでしまい、怪異の怪としての力が目覚める危険がある。
「一刻の猶予もありませんわね。では、作戦はどうしますか?」
「そんなの行き当たりばったりで充分じゃ。わしが怪異なんぞ蹴散らしてやるんじゃ!」
 源ははやく怪異と戦いたくてうずうずしているようだ。
「本郷さん。嬉璃さんがおっしゃったでしょう? 怪異はこのあたりの地盤を支えているんです。わたくしたちが協力して作業をおこなわなければ、付近の住民の方の命にかかわるんですよ?」
 ルゥリィにたしなめられ、源は口をとがらせた。
「作戦を立ててからでないと危険です。ここは役割分担をした上で綿密に作戦を立てることにしましょう」
「お嬢ちゃんたちよ。悪いが、俺は力仕事はできないぜ。代わりに、怪異を気持ちを落ち着かせてやる。その間に、あんたたちが廃材を取りのぞいてくれ」
「任せろ。獣人の血を引くわしは力仕事なら得意じゃ」
 源は得意げに胸を張る。
「では、わたくしが囮役となりましょう。この『D因子』作用増幅用パワーアシストスーツ・『エストラント』があれば、怪異の攻撃を防ぐことができます」
 ルゥリィはエストラントを起動させた。
「では、わたくしが囮となって怪異を引きつけ、その間に門屋さんに怪異をなだめてもらい、本郷さんが怪異に突き刺さった廃材を取りのぞく。それでよろしいですか?」
「おう! そうと決まれば、さっそく作戦開始じゃ!」
 そう告げると、源は間欠泉の方へと駆けていく。
「本郷さん、お待ちなさい! まだ作戦会議は終わって……」
 ルゥリィの呼びかけも無視して、源は間欠泉の中へと飛び込んでいく。
「ルゥリィのお嬢ちゃん。こうなったら出たとこ勝負で行くしかないんじゃないのか」
「仕方がない方ね。わたくしがなるべく注意を引きつけます。だから、その間に門屋さんは怪異の元へと向かってください」
「了解。任せたぜ」
 ルゥリィは源の後を追いかける。将太郎はその後を追いかけて時報間欠泉へと向かう。
 巨大な岩壁に囲われた間欠泉では、怪異の姿がむき出しになっていた。
 怪異とは巨大なイモリだった。全長五メートルの巨大なイモリは耳が痛くなるような悲鳴を上げて体をくねらせている。そのぬめりとした体の一部に全長三メートルほどの鉄柱が突き刺さり、中から赤黒い体液があふれている。
「こいつはひどいな。はやく抜かないと、あまりにも憐れだ」
 無惨なイモリの姿を見て、将太郎は顔をゆがめる。
「確かにかわいそうですが、見取れている場合じゃありませんわ。わたくしたちには急いで廃材を取りのぞくという作業があるんですよ」
 わあってるよ、と将太郎は時報間欠泉の岩棚を地下へと向かって下りていく。
「とっか〜ん! とっか〜ん!」
 すでに源は岩棚の間を器用に飛び跳ねながら、巨大イモリへと向かっている。
「おぬし、わしが今助けてやる。待っとれよ」
 お気楽な口調でイモリへと向かうが、巨大イモリの方は警戒のうなり声をあげている。口の先に霊気が集中していくが、源はわからずに楽しそうに降りていく。
「おお、なんと痛そうじゃ。わしが今抜いてやるぞ」
 警戒心などまるでなく、源はイモリへと向かっていく。だが、その源に対して、いきなりイモリは熱湯の塊を水鉄砲のように吐き出した。
 間一髪、源は常人離れした知覚から反射的に攻撃を避けたものの、
「うわっぷ!」
 岩棚の一部を粉砕し、爆風を巻き起こした。
 源の小さな体が宙を舞う。
 源の体が地面にたたきつけられる瞬間、ルゥリィが彼女の体を抱きかかえた。
 ふたたびふたり目掛けて、水鉄砲が吹きつけられる。
 それもエストラントに身を包んだルゥリィが源を抱いて避けた。
「おお、ルゥリィ殿。ありがたい。助かったぞ」
「まったく。あなたって方は何をしていますの? 勝手に動かれては困ります。取り決めどおりに動かなければ、作戦がうまくいくはずもありませんわ」
「作戦? えっと、何じゃったかの?」
 首をかしげる源を見て、ルゥリィはこめかみを押さえた。
「わたくしがあのイモリの注意を引きつけている間に、門屋さんが怪異をなだめ、あなたが廃材を取りのぞくという作戦です。もうお忘れになったんですの?」
「おお! そうじゃったそうじゃった」
 ぽんと両手を叩いて源はうなずく。ルゥリィは深々とため息をついた。
「本当にこのひとをあてにしていて大丈夫なのかしら」
 そうつぶやくルゥリィの肩を将太郎が叩く。
「まあ、俺たちが集まったのもなにかの縁だし、この元気なお嬢さんを信じてやろうや」
「将太郎殿、よう言った。わしとルゥリィ殿と将太郎殿は友達じゃ」
 源の顔いっぱいの笑顔に、将太郎は声をあげて笑い、ルゥリィはもう何も言わなかった。
「では、わたくしがこのエストラントで真正面から向かいます。その間に、門屋さんと本郷さんは左右からあの怪異に向かってください」
 おう、と将太郎と源からの返事がある。
「ただの熱湯だけならエストラントで防ぐことができますが、浄化の力がある熱湯ではどれだけおさえることができるかわかりません。くれぐれも急いでください。よろしいですね?」
 おう、とふたたび将太郎と源が返事をあげる。そのあかるい返事に、毒気が抜かれたルゥリィは笑みをこぼしたが、すぐに真剣な表情で眼前の敵をにらんだ。
「では、行きますわよ。レディ・ゴー!」
 三人は三方に分かれて、巨大イモリへと向かって駆けた。
 まずはエストラントに身を包んだルゥリィが先陣を駆け抜けていく。
 うなり声をあげるイモリから、浄化の熱湯が乱発して噴き出される。
「くっ! 完全に人間を敵視していますわ」
 ルゥリィは俊敏な動きで熱湯を避けながら、イモリへと向かっていく。イモリは近づいてきたルゥリィをなんとか廃除しようと暴れ回る。そのたびに、あたりには小さな地震が起きていた。
「落ち着け! 俺たちはおまえの敵じゃない!」
 ルゥリィがイモリを引きつけている間に、将太郎がイモリの懐にたどり着いた。将太郎がなだめるようにイモリの体に触れた瞬間、本人も知らない力・『癒しの手』が発動する。
 癒しの手の力のおかげで、暴れ狂っていたイモリが次第におとなしくなる。
「なんとかとめることができましたわね。本郷さん、いまですわ!」
「了解じゃ。おんどりゃ〜!」
 獣人の血を引く源は全身の力を込めて、廃材を引き抜こうとする。しかし、廃材はイモリの体の奥深くにまで刺さっているのか、なかなか抜くことができない。
 将太郎の力で鎮まっていたイモリが激痛からか悲鳴をあげた。
「よせ! 大丈夫だ。俺たちはおまえを助けたいだけだ!」
 イモリが暴れるたびにまわりには小さな地震が起きる。岩盤から岩が剥がれ落ちて、将太郎の頭に降りかかってきた。
「あぶないっ!」
 エストラントの力で、ルゥリィは降りそそいだ岩を粉々に破壊した。
「助かったぜ。ありがとよ、お嬢ちゃん」
「お礼にはおよびませんわ。そんなことよりも――ぐっ!」
 一瞬の隙に、ルゥリィの背中を浄化の熱湯がたたきつけた。
「お嬢ちゃん!」
「ルゥリィ殿!」
 ルゥリィの体は岩盤にたたきつけられた。エストラントからは緊急事態を知らせる赤いランプがめまぐるしく明滅していた。
 ルゥリィはふらふらになりながらも立ち上がった。
「おふたりともわたくしにかまうよりもご自分の仕事をしてください!」
 ルゥリィに叱咤され、将太郎と源はそれぞれ自分の役割を始めた。
「痛いだろうが我慢してくれ! 俺たちは、お前を助けようとできるだけのことをしているんだ。つらいだろうががんばれ! 耐えてくれ!」
「もうちょっとじゃ。もうちょっとで抜けるんじゃ!」
 激痛から暴れるイモリを必死に将太郎は励まし、源は全身から大粒の汗を流しながら鉄柱を抜こうとしている。鉄柱が少しずつ抜けるたびに、イモリの体から血のような赤い体液が噴きだしてくる。
将太郎の癒しの手が発動しているものの、イモリは激痛を起こす源を廃除しようと腕を大きく振りかざした。しかし、源は廃材を抜くのに夢中でイモリの巨大な前足を避ける余裕がない。
「竜のアストラル体、発動!」
ルゥリィの体から青白い光がほとばしると、天まで轟くほどの咆哮が響いた。ルゥリィの腕に巻き付いた青白い光は巨大なかぎ爪と化し、背中からほとばしる青白い光の帯は翼となって広がる。
 ルゥリィの体から巨大な竜が姿を現し、イモリの腕を押さえ込んだ。
「ルゥリィ殿。それは……」
「囮役を選んだ以上、わたくしが命を懸けてもあなた方を守りますわ。ですから、本郷さんははやく廃材を抜いてください」
 ルゥリィと将太郎がイモリを押さえ込むが、浄化の熱湯に竜のアストラル体は破壊されていき、暴れるイモリの攻撃に将太郎や源は何度も吹き飛ばされた。
 もはや日が完全に沈み、空が宵闇に塗りつぶされるかと思われたそのとき。
「チャーシューメーン!」
 源の絶叫と共に、廃材が引き抜かれた。
「やった!」
 三人が歓喜の声をあげた瞬間、嬉璃がとめていた熱湯が一気に三人に押し寄せて来た。
 三人ともすでに体力の限界で逃げる余裕などなかった。
 あっという間に、目の前は闇色へと塗りつぶされていった。

       *

「ルゥリィさん。ほんとにありがとうございました」
 あやかし荘の露天風呂の中で、ルゥリィは管理人の因幡恵美から頭を下げられた。
 温泉の熱湯にのみ込まれたとき、ルゥリィはもはや死を覚悟していたが、時報間欠泉の怪異がルゥリィたち三人を地上まで引き上げてくれたのだった。そして、怪我や疲労回復のためにあやかし荘の温泉に浸かることとなった。
「いえ、こちらこそおかげさまで貴重なデータを手に入れることができましたわ」
 限界まで酷使したためにエストラントは大破した。霊体の中にも今回のような神のような存在がいたことにあらためてルゥリィは驚愕を感じていた。もう少しエストラントの性能をあげなければ、対抗することはできないだろう。
「それにしても、日本の温泉とはなかなか心地よいものですね」
「でしょう? ここは美人にもなることができるんですよ」
 あやかし荘の露天風呂は女性の方が広々としている。ゆったりと心地のよい気分で、いつまでも浸かっていたくなる。柚葉が楽しそうに泳いでいる。
 はあ、とルゥリィがゆったりとした良い気分になっていると、
「ルゥリィ殿!」
「きゃっ!」
 いきなり背後から抱きつかれた。振り返ると、源が意味深な笑みを浮かべている。
「本郷さん。なんですか、いきなり」
「嬉璃殿とも話しておったんじゃが、ほんとルゥリィ殿はふくよかな胸をしているのう。どうしたらそんなになるのかぜひご教授たまわりたいものじゃ」
「ちょっ、ちょっと本郷さん。変なところをさわらないでください」
「よいではないかよいではないか」
 研究や勉強に打ち込んできたせいか、どうも源のような子供はどう接して良いかわからない。ルゥリィが困っていると、因幡恵美や柚葉、嬉璃が声を上げて笑っていた。
 源に抱きつかれたルゥリィも困ったような笑った。
 その晩、あやかし荘には笑い声が絶えなかった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
参加していただいたPCのみなさま
 1522/門屋将太郎/男性/28歳/臨床心理士
 1425/ルゥリィ・ハウゼン/女性/20歳/大学生・『D因子』保有者
 1108/本郷源/女性/6歳/小学生 獣人 オーナー

登場したNPC
 A033/因幡恵美/女性/21歳/ あやかし荘の管理人
 A011/嬉璃/女性/999歳/座敷わらし
 A012/柚葉/女性/14歳/子供の妖狐

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございました。
 今後もみなさまに楽しんでいただけるようなゲームを提供いたします。
 今後も引き続きよろしくお願い申し上げます。