コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<PCシチュエーションノベル(シングル)>


平和な一日?


 学校。それも中学校。
 義務教育の範囲内であるここでは、まだまだ気楽な学生も多い。受験戦争ともなれば話は別だが、多くの生徒は各々色々なことを楽しんでいる。

 綺麗な黒髪が、ふわりと揺れる。
 随分と小柄だが、見た目の可愛さもあってからその存在感が薄れることはない。
 草薙天輝名も、そんな学生の一人だった。ただし、彼女の場合はちょっと他とは違うけれど。



 昼休みが終わり、授業が始まった。昼食をとった後のこの時間、満腹と秋の麗らかな日差しからくる眠気に誘われて頭を落とすものもかなり多い。
 その中で、天輝名はピシッと背筋を立てて授業を受けていた。
 それもそのはず、彼女は生徒会の書記という立場にいるわけで。そういう意味で、やはり生真面目というのか。
 しかし。そんな彼女の中で考えることは、一般のそれとはかけ離れていた。

「あー…えーと、この質問を…」
 黒板の前で、ちょっと頭の薄い教師が文字を書きながら言った。
 勿論生徒達は当てられたいはずもなく、このときばかりは一生懸命勉強をしているフリをしていた。
 そんな中で、背筋をピシッと立てた天輝名は非常に目立っていた。自然と教師の視線もそちらへ向かう。
「それじゃ草薙、答えてみろ」
「はい」
 言われるままに、天輝名は席を立った。

(さて。どうしてくれましょうか)
 至極真面目に黒板に答えを書きながら。彼女はこんな面倒くさいことを押し付けた教師のことを、自分の記憶の中で探る。
(…確かこの人、ヅラでしたね)
 思ったが最後、彼女の力がすぐさま発動する。

 念動力――一般的にもよく知られているこの力を、彼女は持っていた。
 ふわっと。その力で教師の髪の毛がずれ、浮いた。
 しかし、教師はまだ気付いていない。最初に気付いたのは、偶々起きた一番前の男子生徒だった。
「ブッ…!」
 髪の毛が浮くというあまりにシュールな状況に、彼は噴出すのを止められなかった。そして、その声につられて気付く他の生徒達。
 …一瞬で教室が笑いに包まれたのは、当然といえば当然だった。
「ん…? …なっ、ななななー!?」
 そして、自分の状況に漸く気付いた教師は、珍妙な叫び声を上げながら、頭を抑えて教室を飛び出した。
 ニヤリと。その光景に天輝名はほくそえんだ。

 と、そのとき。何処からかの視線を感じる。
 何気なく外を見渡すが、それらしい姿はない。
「……」
 まぁ何時ものことかと、さして気にした様子もなく彼女は席に着いた。



 そんな騒動(?)のあった授業も終わり、休み時間。天輝名は一人退屈そうに廊下を歩いていた。
(今日はどうしましょうか…)
 考えながらも、プリントを持つ生徒と擦れ違ったときにしっかりと悪戯を忘れない。
 念動力で、急にプリントが飛んで行ってしまった生徒は『あー!』と叫びながらプリントを追っていく。そんなことも、彼女にとってはただの暇つぶし。

 思春期特有のちょっと『アレ』な話をしている男子生徒のベルトを外してズボンを落としてみたり。
 やたらと生徒を怒ろうとする教師に、落ちていた消しゴムを(気絶しそうな勢いで)ぶつけてみたり。
 イジメで金を巻き上げようとしていた不良を、その相手の気弱そうな男子の腕を操ってぶん殴ってみたり。(勿論その後気弱そうな生徒がどうなったかは知ったことではない)

 今日も、学校は天輝名の起こすちょっとした悪戯で喧騒に包まれていた。
 しかし、当然の如く本人に悪気はない。それもちょっとどうか。





* * *



 キーンコーン…

 聞きなれたチャイムが、何時もの時間に何時もの如く鳴り響く。
 学校終了のその合図は、全生徒に安息と喧騒をもたらしてくれる。それは、天輝名といえど変わらない。
「草薙さんさよならー」
「さようなら」
 愛想なく別れの挨拶を同じクラスの女子と交わし、天輝名はさっさと教室を出た。
 廊下の外は、既に生徒達でごった返している。皆、下校しようとしていたり、クラブへ向かおうとしていたり。
 それを見ていた天輝名は、ちょっとした自分の変化に気付いていた。
 それは、
『くるるる〜…』
 可愛くなったお腹の音で、すぐに分かるというものだった。
(お腹、空いちゃいましたね)
 ちょっと昼間に力を使いすぎたせいだろうか、などと考えながら、天輝名はもう一度周りを見渡した。
 周りには、変わらず彼女を取り巻く生徒…いや、肉たち。
 ごくりと、喉がなった。
 肉としか見れなくなった生徒達を、しかし彼女は首を振って。
(駄目…流石にそれはまずいです)
 自分の鬼の血を、さっと抑え込んだ。
 そして、
(クレープで妥協しますか)
 そんなことを考えながら、歩き始めた。
(あそこはシーチキンが美味しいんですよね)
 妥協するといいながら、足取りは軽かったが。



「どうも」
 代金を渡し、出来立てのシーチキンサラダクレープを受け取る。ほんのりと焦げ目がついたクレープの間から覗くサラダとシーチキンに、分かってはいても顔がにやけてしまう。このあたりはやはり女の子、だろうか。
 自然に自然に、にやける顔を抑えながら、天輝名はクレープを齧る。
 広がる味のハーモニー。やっぱり顔がにやけてしまう。
 お腹が空いていたこともあるだろうが、その味は彼女を幸せの絶頂へと向かわせる。美味しいものを食べると、やはり誰でも幸せなのだ。
「あぁ…♪」
 年相応の反応を見せながら、彼女はとことこと歩き始めた。小さな口で、クレープを齧ることだけは忘れずに。

 しばらく歩いたところで、天輝名は急に歩みを止める。小さな口で食べていたクレープは、まだ少し量が残っていた。
「何時までも黙ってついてこずに、出てきたらどうです?
 昼間からずっと見ていましたね…あれですか、私の可愛さにストーカーですか?」
 声をかける。すると、少し前方に立っていた電柱の影から一人、男が出てきた。
 袈裟に白い頭巾、手には六角。考えるまでもない、僧兵である。

「えらくまたレトロな格好で…こういう方もたまにはいるんですね」
 クレープを齧りながら、天輝名はのほほんと呟いた。
 確かに、今時こんな格好をした退魔師は見たことがない。
 全く一体何処の田舎者か、もっとこう、退魔師というのはカッコよくですね。
 そんなことを考える天輝名をよそに、男は彼女を睨みつけた。
「黙れ鬼が」
 隠そうともしない殺気が、天輝名の肌を刺す。
 うざったそうに首を振って、天輝名はまたクレープを齧った。
「じゃあ、どうするんですか?」
 返事もなく、男は動いた――。

 キンと、甲高い音を立てた六角が振り下ろされる。木で出来ているはずのそれは、しかしまるで鋭い刀の如く刃と化す。
 しかし、
「なっ――」
 鋭い太刀筋は、天輝名の前で止まっていた。
 まるで透明な壁があるかのごとく、六角が天輝名に届くことはない。
「昼間の、ハゲヅラの先生の方がよっぽど面白かったですよ」
 パチンと指を鳴らす。同時に男の身体は一瞬で捻じ曲げられ、四肢の骨を砕かれ一瞬で気絶した。



「…ちょっと、やりすぎちゃいましたか?」
 あまりに派手な骨の折れる音が鳴り響いたことに少し焦り、天輝名は周りを見渡した。
 幸いなことに、人の気配は一切ない。男がそういう場所を選んでいたからだろう。
 ホッと胸を撫で下ろし、天輝名は改めて男を見た。
 もう少しでねじ切れるほどに曲がった男の四肢は、もはや以前の面影をとどめていない。
「いらないことをするからですよ」
 悪びれた様子もなく、天輝名は呟いた。

 キョロキョロと、もう一度天輝名は周りを見渡した。やはり、人がいる気配は一切ない。
 また胸を撫で下ろし、今度はかっと目を見開く。
 すると、気絶した男の周りに、複雑な梵字が浮かぶ魔法陣が現れた。
 中空に浮かんだその中心が、音も立てずに開いた。そこに浮かぶのは、深淵の闇。
「バイバイです」
 天輝名が言うと、男の身体がその中へと吸い込まれていき、そして穴は塞がった。
 そのまま魔方陣は、音もなく消えていく。
 それを見送って、天輝名はまた歩き始めた。

「今日も一日平和でした」
 何処がだ、などとツッコんでくれる人はいない。当然といえば当然だが。
 そんな無茶苦茶なことを、事も無げに呟いて。天輝名は残っていたクレープを口に放り込んだ。
 すると、
『くるるる〜…』
 お腹が可愛く小さくなった。
「…運動したおかげで、またお腹が空いちゃいましたか」
 踵を返す。向かうのは、あのクレープ屋。
「今度はもうちょっと量を増やしてもらわなきゃいけませんね」
 増やさないと、脅すだけですが。そんな物騒なことを考えながら、天輝名は歩き始めた。



 そんな、(一見)平和な一日がすぎていく。
 さぁ、明日はどんなことをしようか。

 どんなに力があろうとも。天輝名はまだ14歳。年相応の女の子。
「…やっぱりさっきの人、食べちゃったほうがよかったでしょうか」
 …多分。





<END>