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餅パーティーをしよう！
碇麗香は、冷凍庫の中を見やって、大きく一つ溜息をついた。そこには、真空パックされた餅が大量に詰め込まれている。
実は昨年の暮れに、近所の主婦から無理矢理、大量に押し付けられたのだ。
普段は仕事でめったに家におらず、隣近所の人々と顔を合わせることもごく稀にしかない彼女だ。が、その時はたまたま家にいて、その主婦につかまってしまった。
もっとも、これでもまだずいぶんと減った方なのだ。押し付けられてすぐに、編集部に持って行って部員たちに分け、更にアトラス以外の編集部の面々やら、ビルの受付の女性や掃除のおばさんたちにまで分けたのだ。
それでも、まだ余っている。
一人ぐらしだから、冷蔵庫はそう大きなものではないし、餅はかさばるので、邪魔になってしかたがない。いっそ捨ててしまおうかとも思うが、食べ物を粗末にするのは気が引ける。
（どうしたもんかしらね、これ……）
餅を眺めてもう一度溜息をつき、麗香は胸に呟いた。が、ふいに閃く。
「餅パーティーってどうかしら。……何人か集まれば、美味しい食べ方を知っている人間もいるかもしれないし、数もはけるわね」
うなずきながら一人ごちて、彼女はさっそく、心当たりの友人たちに電話し始めるのだった。
＋ ＋ ＋
さて。餅パーティー当日である。
麗香の誘いを受けて、参加することになったのは、五人。池田屋兎月、マリオン・バーガンディ、シュライン・エマ、青島萩、綾和泉汐耶といった面々だった。
彼らは前日に一度集まり、そもそも餅がどれぐらいあるのか見せてもらって、メニューを決め、更にそれぞれ持ち寄るものや、買うもの、自宅で作って来るものを決めて、別れた。そして今日、改めて集まったのである。
そんな彼らを驚かせたのは、キッチンの一画にでんと据えられた、火鉢だった。中にはちゃんと灰と炭が入れられ、その上には丸い焼き網まで乗っている。
「麗香さん、どうしたの？ これ」
入って来るなり声を上げたのは、シュラインだ。兎月たちも目を丸くする。
「餅を焼くのにいいと思って。昨日、会社の倉庫を漁っていたら、見つけたのよ。ちゃんと借りる許可はもらってあるわ」
麗香が、少しだけ得意げな顔で答えた。
「白王社って、妙なもん持ってるんだな。俺、実物見るの初めてだぜ」
「私もなのです」
萩とマリオンが、口々に言う。
そこへ玄関からなんとなく情けない声がして、新たな人物が入って来た。アトラス編集部員の三下だ。彼は、はち切れそうに食材を詰め込んだスーパーのビニール袋を、両手に提げていた。
「昨日、仕事が立て込んでいて、食材を買いに行く時間がなかったものだから、三下に頼んだのよ。ついでに餅は三下に焼いてもらうから、みんなは料理に集中してちょうだい」
テーブルの上にビニール袋を置いて、両手をさすりながら溜息をついている三下を見やり、麗香が女王然と言い放つ。
（碇様と三下様は、相変わらずでございますねぇ）
兎月は幾分感心して胸に呟いたものの、餅を専門に焼いてくれる人がいるのは、ありがたいとも思う。
「さて。じゃあ、材料も到着したことだし、料理を始めましょうか」
麗香の号令で、彼らは二人づつ三組に分かれて、パーティーのための料理作りを開始した。
ちなみに、本日のメニューは以下のとおりだ。
餅グラタン、餅ピザ、中華スープ雑煮、餅春巻き、餅のキャベツ巻き、揚げだし餅、大根餅、汁粉、チョコのデザート、そして、あられとおかきだった。
そのうち、これから作るのはグラタンとピザ、雑煮の三種類である。春巻きとキャベツ巻きはシュラインが、加熱すればいい状態にまで作って持参していたし、揚げだし餅とおかきは兎月が、大根餅とあられは汐耶が、それぞれ自宅で作って持参していたからだ。
兎月は、萩と二人で中華スープ雑煮を作ることになった。レシピは、萩が持ち込んだもので、誰かから教えてもらって、時々自分で作ってみたりしているものらしい。
作り方は簡単だった。鍋に水と万能中華スープの素である味覇（ウェイパー）、醤油少々を入れたものに、しいたけ、剥きエビ、茹でたほうれん草、刻んだ長ネギを投入。エビに火が通るまで煮込み、後は焼いた餅を入れた椀にそれを盛り付ければ、出来上がりだ。
味覇でも、充分美味しいものが作れることは兎月も知っていた。が、今回はちょっと凝ってみるのも悪くないだろうと考え、鶏がらスープをベースにした、自家製の中華スープを持って来てみた。これを使えば、おそらく雑煮はもう一味違うものになるだろう。
ともあれ、まずは材料を刻むところから兎月は始めた。分量は七人分ということになるが、普段大人数の料理を作り慣れている彼には、さほど大変とも思われない。手際よく、全ての大きさがそろうように、刻んで行く。
ほうれん草は、レンジを使って茹で、これも一口大に切りそろえた。
またたく間に、食材が、雑煮の具へと変じて行く。
ガスレンジは、麗香とシュラインがそれぞれ使っていてふさがっているため、彼らはテーブルに置いたカセットコンロを使っていた。その上の鍋のスープが、そのころにはちょうどほどよく煮立っている。彼は具を中に投入し、火加減を調節して小さく吐息をつくと、顔を上げた。
後は、エビに火が通るのを待つだけだ。
そこで初めて彼は、萩がいなくなっていることに気づく。
（青島様は、どうされたのございましょうか）
慌ててあたりを見回し、キッチンの一画に据えられた火鉢の傍で、三下と一緒に餅を焼いているのを見つけた。
（どうして、あんな所にいらっしゃるのでございましょうか……。わたくしめが、何か気に障ることでも……）
幾分困惑して胸に呟き、兎月はふいにはたと気づく。考えてみれば彼は、具を刻むのも鍋の火加減も、調理の行程全てを一人でやってしまったのだ。これでは、手持ち無沙汰になった萩が、餅を焼きに行ってしまってもしかたがない。
（ああ……。なんということでございましょう。わたくしめの配慮が足りなかったばっかりに……）
どうすればいいのかもわからず、彼はただ内心におろおろと両手を揉みしぼった。とはいえ、すでに雑煮は大半出来上がったも同然の状態だ。料理自体には問題がないのに、今更一から作り直すわけにもいかない。
幾分悄然として、テーブルの前に立ち尽くしたまま兎月が見ていると、火鉢の方へ歩み寄って来た汐耶が、何事か萩と三下に話しかけている。そのうち二人は、汐耶が取り出したタッパーの中身を、焼けた餅に乗せて食べ始めた。
（お二人が食べているのは、なんでございましょうか。……何か、惣菜のようですが……）
タッパーの中身が気になって、兎月は思わず伸び上がるようにして、そちらを見やる。が、もちろんそんなことをしても、見えるわけがない。
そのうち、鍋が更に煮立って来たのに気づき、彼はしかたなく意識をそちらに向けた。エビにも他の具にも、充分火が通ったようだ。彼は味見をした後、火を止めて一旦蓋をすると、ボールを手に火鉢の方へと向う。
「青島様、そろそろこちらが出来上がりますので、焼けた餅を持って来ていただけますか」
まだ申し訳ない気持ちを胸にためたまま、彼は萩に声をかけた。対して萩は、なぜだかホッとしたような顔でうなずいて、ボールを受け取り、焼けた餅を人数分それへ入れて、立ち上がる。
「じゃあ、美味かったぜ。ごちそうさん」
汐耶に礼を言うと、足早にテーブルの方へと歩き出した。兎月は、内心に首をかしげつつも、一緒に鍋の方へと戻る。
「青島様も、スープの味見をいたしませんか」
ふと思いついて言うと、萩がうれしそうにうなずいたので、さっそく小皿にスープを少しよそって差し出す。
「うめぇ……！」
一口飲んで、萩は低い声を上げた。そうして、不思議そうに目をしばたたきながら、鍋と彼を見比べる。兎月には、萩がなぜそんなふうに自分を見やるのか、よくわからなかった。が、美味しいと言ってもらえて、満足だ。
「それでは、椀へ盛り付けいたしましょう」
言って、人数分の椀を並べ始める。萩が、その中へボールの餅を入れ、鍋の中身を盛り付けて行く。それを見やって兎月も、今度は一人で全部終わらせてしまわないよう、気をつけながら、同じように鍋の中身を盛り付け始めるのだった。
やがて、予定のメニューがそれぞれ出来上がり、テーブルの上に並べられた。
それと共に、冷たいグリーンティ、プーアル茶、ジャスミン茶、甘酒、ワイン、それに日本酒二種類も並べられる。
グリーンティは、マリオンが持参したもので、それを入れるための市販の天然水も持って来ていた。おかげで、他のお茶を入れるのにも重宝した。
ちなみに、プーアル茶とジャスミン茶はシュライン、甘酒と日本酒のうちの一つ、『鳳麟（ほうりん）』は萩が、ワインともう一種の日本酒『光圀』は汐耶が持って来たものだった。
それを見やって、彼らはそれぞれ席に着くと、さっそく思い思いに料理を手に取った。
兎月は春巻きと大根餅を手元に取り分け、ふと向いを見やる。マリオンが、餅ピザを手に取っているのが目に入った。が、それの上には茶色のどろりとしたものがかかっていて、ピザというより、なんだか菓子のようだ。興味を覚えて、彼は尋ねる。
「何やら、変わったピザですが、上の茶色いのはなんでございましょう？」
「チョコなのです」
マリオンが答えた途端、その隣にいた汐耶が、驚いたように声を上げた。
「え？ そんなトッピングのがあったの？」
そういえば、二人は一緒にピザを作ったはずだと、兎月は思い出す。
「一つだけです。私はどちらかというと、甘いものの方が好きなので、試しにかけてみたのです」
マリオンが、少しだけ焦ったように答えた。
いつの間にか、他の者たちも食べようとしていた手を止めて、彼の方を見やっている。
「トッピングの前に、ミートソースを塗ってあるのよね？」
ピザにチョコが合うのだろうか……と兎月が考えていると、シュラインが幾分考え込むような顔で尋ねた。
「は、はい。そうなのです」
うなずくマリオンに、兎月も思わず呟く。
「う〜ん。ミートソースとチョコレートは、なんだか合わない気がいたしますけれどねぇ」
「そ、そうなんですか？」
マリオンは、軽いショックを受けたように、問い返した。
「いや、わかんねぇぜ。案外マッチしてて、メチャ美味ってことも、あるかもしれないぞ」
助け船のつもりか、からかっているのか、萩がそんなことを言い出す。そして、マリオンを促した。
「ともかく、食べてみろよ」
「は、はい」
マリオンはうなずいて、目の前のピザを口に入れた。途端に、愛らしい顔が複雑な表情を刻む。軽く涙目になりながら、必死に咀嚼して、飲み込み、更に手元にあったジャスミン茶で、飲み下した。
「どのようなお味でございましょう？」
兎月は、早く感想を聞いてみたくて、尋ねた。
「あまり美味しくなかったのです」
マリオンは、悲しげに答える。
「やはり、そうでございますか」
兎月は、自分の想像が当たっていたことに満足して、うなずいた。そして、自作の揚げだし餅を勧める。
「お口直しに、これなどいかがでしょうかな？ こちらの甘辛の出汁につけて食べるのですが、今回はなかなか美味しくできまして。わたくしめの自信作でございますよ」
揚げだし餅とは、餅に衣をつけて揚げたものを、今言ったとおり、甘辛の出汁につけて食べるものだ。出汁には、刻みネギを添えてある。
マリオンは、言われるままにそれへ箸をつけた。
「美味しいのです」
思わずというように、呟く。
「ありがとうございます。こちらの、雑煮も召し上がってみませんか？ わたくしめと青島様とで作ったものですが、今日のような寒い日には、ぴったりな温かい料理でございまして」
彼の素直な感想がうれしくて、今度は雑煮を勧める。大半自分一人でしてしまったものだが、あえて萩と二人で作ったと主張してみた。マリオンは、それへも素直に箸をつけ、これまた「美味しい」を口にする。料理人として、それはなによりうれしい誉め言葉だった。それに、マリオンはみるからに美味しそうに食べ物を口にする。それがなんだか見ていてほほえましく、気づくと兎月は、次々とそこに並ぶ料理を彼に勧めていた。もちろん、他の料理については、自分が作ったわけではないので、彼が美味しいと言えば、自分も口にしてみるといった具合だ。
他の者たちが、呆れた様子で自分たちを見やっているのにも、一向に気づかない。
だが、おかげで彼は、そこに出された料理とお茶、酒の全てを征覇することに成功した。
料理はどれも、甲乙つけがたいほどに美味なものばかりだった。最初に皿に取った春巻きと大根餅も素晴らしかった。春巻きは、餅とネギと桜エビが入っており、桜エビの芳ばしさが、なんとも言えない。また大根餅も、やや菓子風で、軽い口当たりがいい。ピザはチーズの乗ったものと削った餅の乗ったものがあり、削った餅の方は食感が新鮮だった。グラタンは、かぼちゃの甘味がうまく全体にマッチしている。また、削った餅とチーズ、ベーコンをソースで和えてキャベツで巻き、ラップしてレンジで加熱したキャベツ巻きは、マヨネーズ、味噌、ミートソースの三種類があって、どれも風味が良く食べやすかった。殊にこれは、酒の肴にも合う。
飲み物もまた、お茶も酒も、やはり甲乙つけがたかった。が、彼が気に入ったのは、冷たいグリーンティと、日本酒の『鳳麟』、それに甘酒だった。殊に甘酒は、あられをつまみにすると、いっそう引き立つ。というのもこのあられ、砂糖と醤油、それに一味唐辛子でピリ辛に味付けされているのだ。
ともあれ、汁粉とチョコのデザートが出て来た時には、おかげで兎月はすっかりお腹が苦しくなっていた。それでも、せっかく出してくれたものを食べないのは、作った人に悪いという感覚があって、彼はまず、比較的軽そうなチョコのデザートの方を取った。
これはシュラインが作ったもので、小さく切って焼いた餅に溶かしたチョコレートを絡めたものと、バナナなどの果物を混ぜたものに同じくチョコを絡めたものの、二種類がある。
彼は、両方を少しづつもらって、口に運んだ。
「マリオン、大丈夫ですか？ もう、あんまり飲まない方がいいのでは？」
向かいでは、汐耶が心配げにマリオンに声をかけている。というのも彼は、日本酒の『光圀』が気に入って、一人で半分以上を飲んでしまったため、かなり酔っ払っているようなのだ。
『光圀』は、ワイン以上に癖がなく、すっきりした口当たりなので、たしかに飲みやすかった。ただし、アルコール度数がけっこう高い。
それを大量に飲んだのだから、酔っても当然だろう。
しかし、本人に自覚はないのか、彼は汐耶の言葉にふるふるとかぶりをふって、幾分ろれつの怪しい口調で「大丈夫なのでーす。むしろ、温かくていい気持ちなのですー」などと返している。そして、さっそく汁粉に手をつけた。
「甘くて美味しいのです」
などと呟きつつ食べていた彼だが、妙に静かになったと思うと、テーブルに突っ伏して眠ってしまっている。思わず口元をほころばせた兎月の隣で、萩が小さく吹き出した。
「まるで子供だな」
彼の呟きに、兎月も胸の中でうなずく。実際は二百年以上も生きている長生者のマリオンだが、今は外見どおり十八歳前後の少年……いや、もっと幼い子供に見える。
（本当に、これでわたくしめなどよりずっと年上とは、とても思えませぬ）
小さく苦笑して、兎月は胸に呟いた。
しかし、このままにしておくわけにもいかないだろう。萩が立ち上がり、担ぐようにしてマリオンをリビングへ運び込んだ。ソファに寝かせ、麗香が客用の毛布を出して来て、かけてやる。
萩と麗香が戻って来ると、兎月たちは再び会話とデザートを楽しむ。が、その賑やかな声にも、マリオンが起きて来る気配はないのだった。
そして。
汁粉とチョコのデザートもほぼたいらげられた後、兎月たちは新たに麗香が入れてくれた温かいグリーンティでホッと一息ついた。ベランダへタバコを吸いに出て行った萩が、戻って来たのを見計らって、そろそろあとかたずけをしようと、皆立ち上がる。
といっても、鍋や大皿などの大きなもの以外の食器は、食器洗い乾燥機で一気に洗ってしまうので、それほど手間はかからない。
そのころになってもマリオンは、起きる気配がなかった。起きても、あの酔っ払いようでは、無事に一人で帰れるか不安だと、麗香が彼の自宅へ連絡して、迎えの車を寄越してくれるよう手配する。
それを尻目に、兎月は余った食材を保存できるようにするべく一人、キッチンの隅で奮闘中だった。手洗いするしかない食器類は、汐耶が洗って、萩が拭いているので、彼は手が空いていたということもある。が、それ以上に、そこに放置されている食材をそのまま置いて帰れないというのが、正直なところだった。
麗香は、かなり多めに食材を買ったようだ。それとも、実際に買出しに行った三下の買い方が、下手だったのだろうか。よくわからないが、保存しておくに越したことはないだろう。
彼がせっせと残った食材を、刻んだりレンジで茹でたりしているところへ、汐耶が声をかけて来た。火鉢の上に、焼けた餅が三つほど残っているので、いっそ食べてしまわないかと言うのだ。それを聞いて彼はふと、雑煮を作っている時に、火鉢の傍で汐耶が萩と三下に、何かを勧めていたことを思い出した。もしかしたら、それがなんなのかわかるかもしれないと、彼は即座に承知する。
火鉢の傍に、彼ら二人と萩、麗香、三下が集まった。シュラインは、マリオンの様子を見に行ったのか、姿が見えなかった。
さすがに兎月も、一つをそのまま食べるのは無理だと感じ、半分づつにしようと言う萩の提案に乗った。汐耶と麗香も同じく、半分づつにしている。ただ三下だけが、麗香の命令で丸々一つを食べるはめになった。
ちなみに、汐耶のタッパーの中身は、甘辛く味付けした挽肉と、白菜の浅漬けだった。彼女がそれを出して来たので、彼らはそれを思い思いに餅に乗せ、口に運ぶ。
「これはなかなか、おいしゅうございますねぇ。お漬物は、白菜だけではなくキュウリとかピクルスとか、大根の葉とかでも良いかもしれませぬ」
食べ終えて、兎月は感想を漏らした。
「そうね。……それにしても、こんな美味しいもの持って来てるんなら、パーティーの時、出してくれればよかったのに」
麗香がうなずいて言う。
「メニューも多かったし、なんとなく出しにくくなっちゃって……」
汐耶が、少し照れたように返した。
火鉢の上に残っていた餅を全部食べてしまうと、麗香は兎月たちにテーブルの上を示した。そこには数個の餅と、あられ、おかきがそれぞれ別々に入れられたビニール袋が、六人分並んでいる。
けっこう使った気がするが、餅はまだ残ったのだ。それで、あられやおかき共々、持ち帰ることになった。といっても、一人数個なので、焼いて砂糖醤油や黄粉などで食べても、充分消費してしまえるだろう。それに、あられとおかきは、どちらもちょっとしたおやつがわりになる。
麗香は、彼らにこれを割り当てるかわりに、当初全員で割り勘にすると決めていた材料費を自分が持つと言う。なかなか太っ腹だと兎月は思ったが、それだけ餅の処理に困っていたということでもあるのだろう。
彼は、ありがたくその割り当ての分をもらう。他の者たちも、自分の分をそれぞれ手に取った。
麗香は、それを見やって、マリオンの分を手にリビングへ向う。
だいたいかたずけが終わったころ、迎えの車が来て、マリオンは帰って行った。
それを見送り、兎月たちもそろそろ腰を上げることになった。
「本日は、ありがとうございました。素晴らしい餅料理の数々、たっぷりと堪能させていただいたでございまする。また、わたくしめの料理も、楽しんで食べていただけましたようで、無情の喜びにございました」
兎月は、深々と腰を折って、麗香と他の者たちに礼を言う。
「礼を言いたいのはこっちよ。餅もすっかりなくなったし、残った食材の保存までしてもらって、本当によかったわ」
麗香が笑って返して来た。
「いえ、そんな……」
照れくさくなって、思わず顔を赤らめながらも、兎月は自分が彼女たちの役に立ったのだと思うと、素直にうれしい。
他の者たちとも挨拶を交わし、彼はそこを後にした。
外の風は冷たかったが、彼は体も心も温かく、その気持ちそのままに、軽い足取りで家路をたどり始めるのだった。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【３３３４ ／池田屋兎月（いけだや・うづき） ／男性 ／１５５歳 ／料理人・九十九神】
【４１６４ ／マリオン・バーガンディ ／男性 ／２７５歳 ／元キュレーター・研究者・研究所々長】
【００８６ ／シュライン・エマ ／女性 ／２６歳 ／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【１５７０ ／青島萩（あおしま・しゅう） ／男性 ／２９歳 ／刑事（主に怪奇・霊・不思議事件担当）】
【１４４９ ／綾和泉汐耶（あやいずみ・せきや） ／女性 ／２３歳 ／都立図書館司書】
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■ ライター通信 ■
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ライターの織人文です。
依頼に参加いただき、ありがとうございました。
今回は、パーティーということで、メニューはみなさまのプレイングの中から、
「何人かだぶっているもの」「珍しいと感じたもの」を選んで、
組み合わせさせていただきました。
中には、提案して下さった方と作った方が違う料理もあります。
自宅で作って来る料理の数のバランスを考えた結果ですので、
ご了承下さいませ。
●池田屋兎月さま
はじめまして。参加いただき、ありがとうございます。
いろいろメニューを書いていただいて、感謝しております。
全部は使わせていただけませんでしたが、
実際に作っても美味しそうなものばかりで、楽しく書かせていただきました。
兎月さまにも、少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
それでは、またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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