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限界勝負INドリーム
ああ、これは夢だ。
唐突に理解する。
ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
目の前には人影。
見たことがあるような、初めて会ったような。
その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
頭の中に直接響くような声。
何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
そして、人影はゆらりと動いた。
このまま呆けていては死ぬ。
直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
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初撃。相見えたその敵の姿は剣士。
手に持った両刃の剣が鋭く閃き、自分の身体の横スレスレを裂く。
神崎・真由香(かんざき・まゆか)はフルフェイスヘルメットの奥で口笛を鳴らした。
「危ないわねぇ。せっかちは損するわよ?」
軽口を叩きながらステップを踏んで敵との距離を取る。
真由香の女性的な部分が強調されたボディラインが艶かしく浮き出るスーツは、彼女に常人以上の力を与えていた。
真由香自ら開発しているパワードスーツだ。
敵の剣士はゆっくりと上半身を上げ、目だけで真由香の姿を追う。
「おいおい、そのスーツは良いが、なんだぁ? そのヘルメット」
剣士は少し垂れ下がり気味の目で真由香のつま先から首までをなぞる。
「ムチムチの太腿、良いシルエットの骨盤、スレンダーな腰、デカイバスト、そんで女の細腕」
剣士は口の端を持ち上げてケヒヒと笑った。
「ヤな笑い方。女の子にモテないわよ?」
「俺は相手の気持ちが尊重できなくてね。力でも何でも以って服従させるのが俺のやり方だ」
「最っ低」
真由香は舌を出して嫌悪を示した。
「後はそのヘルメットの中身がどうなってるか、だな」
剣士の言葉と視線に、真由香は構えを厳しくする。
どうしても生理的に受け付けないモノというものはこの世に幾つか存在するものだ。
真由香の場合、この剣士もその一つであろう。
剣士は準備運動のように剣を二、三振り、そして切っ先を真由香の頭に向ける。
「ちょっと動くなよ……?」
そう言うと、剣士は地を蹴り、素早く真由香との間合いを詰める。
剣士が真由香の間合いに入ると同時に、真由香の左掌底が剣士の下あご目掛けて飛ぶ。
剣士は掌底を避け、身を屈めた状態から真由香の顎先に向けて剣を突き出す。
剣はヘルメットにぶつかり、弾き飛ばす。
その内に真由香は左手を引き、右ローキックで相手の脇腹を狙うが、剣士が素早く間合いを取ったため、蹴りは空を裂いた。
高く突き飛ばされたヘルメットはややしばらくして地面に落ち、重そうな音とガラスが割れるような音をたてた。
多分、内面にあったモニターが割れたのだろう。
「ヒュゥ、良い面だ。満点だぜ、姉ちゃん」
「それはどうも」
軽い受け答え。
だが、頭の中は最早遊びなど無い。
先程の刺突。アレがもう少し内側に向いていたら顎を貫かれ脳まで達していたかもしれない。
「……うーん、参ったわねぇ……。私だって少しは戦闘訓練受けているし実戦も経験したけど、強い奴と戦った事なんてないし」
軽く深呼吸して自分のザワついた心を静める。
「ま、泣き言言っても仕方無いか。おねーさん真剣にやっちゃうわよ? たとえ夢の中だとしても、痛いのも殺されるのも嫌だしね〜」
多少おどけた調子の言葉だが目が笑ってない。
鋭く睨みつけた先、剣士は薄く笑っていた。
「ケヒヒ、そうだな。そのピッチリしたスーツ、ちょっとずつ裂いてみるってのはどうだ? 偶に見える肌の色がまた堪らんぜ?」
正直気持ちが悪い。
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剣士の防具は衣服のみ。
よほど自信があるのか、胴体を護る鎧は無く、頭部を護る兜もない。ただ余計にダボついた腕の袖が気になるくらいか。
ただ手には滑り止めを施したグローブがはめられており、手の甲の側には鉄板が貼り付けられている。
防御面では脆そうだが、剣閃の鋭さはかなりのものだ。
初撃も紙一重、二撃目に至ってはヘルメット直撃。
次からは本気で行かなければ少しヤバイかもしれない。
だが、あの剣士、余程自分の腕に自信があるのか、多少の驕りが見える。
ヘルメットを飛ばしたのもその驕りからだろう。
ならばそこに付け入れば勝機はある……が、如何せん決定打になりうる必殺パンチはこのスーツにも真由香自身にも備わってない。
「……ということは地道に削るしかない、か。仕方ないわねぇ」
真由香はその場で軽くステップを踏み始める。
「さぁ、何処からでもいらっしゃい。今度からは私も容赦しないわよぉ」
「ケヒヒ。まずはその腿からだな」
剣士が体勢を低くして走り出す。
剣の先は真由香の左腿を掠る程度の位置。
真由香は剣士の動きを見切り、そして―――
剣閃が左腿を狙って伸びる。
真由香は左足を引いてそれを回避。カウンターを狙って左手を剣士の顔面に伸ばす。
だが、剣士の返しの刃でそれを弾かれ、左手は剣士の左肩を掠めるだけとなった。
剣士は勢いのまま真由香の後ろに回りこみ、そして執拗にも左腿に目掛けて突きを繰り出す。
だが、不意に剣の先がブレて動きが止まる。
その隙に真由香の左裏拳が剣士の顔にクリーンヒットした。
―――人外のスピードで繰り広げられた攻防は瞬間的に終わる。
この攻防の勝者は真由香だろうか。
剣士は真由香の一撃を受けて土煙を上げて遠くまで飛んでいた。
しばらく剣士が動かないので勝ったか? と思っていたが、剣士は突然ムクリと起き上がる。
「……ああ、俺はなんてバカな……」
嘆くように言ったその言葉。
今までの剣士の様子からは想像できない声のトーンだった。
「あっちゃぁ。今の一撃で本気になったかしら……」
真由香が更に気を引き締めて構えるが、
「露出させるなら外腿じゃなく内腿だった……」
剣士の言葉はかなり拍子抜けだった。
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二度の攻防を経て、真由香はいつもの調子を徐々に取り戻しつつあった。
今までは混乱のためか手が前に出がちだった。
本来の戦闘スタイルはヒット&アウェイ。
蝶の様に舞い、蜂の様に刺す、だ。
向こうで起き上がった剣士は自分の頬を叩き、気合を入れているようだ。
気合の向く方向が純粋な戦闘ではなく、不順な脱衣に向いているのは甚だイラつくところだが。
そんな相手のためか、絶対に肌を晒すことは嫌だ、と思っていた。
「内腿となるとちょっと真面目にやらんとな……」
そう言った剣士は少し雰囲気が変わったように思えた。
垂れ気味だった目が鋭くなったように思え、薄く笑っていた口が引き締まったように思える。
そして何より、放つ空気みたいなものがピリピリと肌を刺すようなモノに変わった。
「……ちょっとヤバイ……かも?」
真由香は冷や汗を一筋たらし、足を踏み出す。
同時に剣士も地を蹴った。
待ち受けるのは自分の戦闘スタイルではない。
それを再認したとき、真由香の脚は自然と軽くなった。
機動性で敵を翻弄し、隙を見つけて拳を打ち込む。
それが今の所の最善の手。
真由香は地を蹴る脚に力を入れる。
そして一跳びに剣士との間合いを詰め、左掌底を繰り出す。
剣士はその殺気を感じ取って無意識の内に身を引く。
真由香の右足が地面に着き、踏み込む。
このままでは完全に掌底は回避されてしまう。
だが、そんな事は予測済みだ。
左掌底を予定通り途中で止め、再び地を蹴って剣士の左脇を通って後ろへ回る。
剣士もほぼ同時にフェイントを喰らったのだと理解し、前へステップを踏んで真由香との間合いを取る。
その途中で身を反転させ真由香の姿を捉えようとするが、そこに真由香の姿はない。
そして剣士の左脇腹に衝撃。
全くの不意打ちを喰らった剣士は無様にも地を転がりまわった。
真由香の右ストレートが完全に剣士左アバラを数本折った瞬間だ。
土煙が舞う。
刹那とも思える静寂がアリーナを支配した。
真由香は剣士の後ろに回った後、素早く方向転換し、剣士の左に移動した。
そして剣士が真由香を見失っている内に右ストレートをねじりこんだのだ。
粉塵を巻き上げて地を転がった剣士は再び伏せて動かなくなった。
今度こそ勝利か、と思ったのも束の間。
先程感じたピリピリする空気がいっそう張り詰めて感じられる。
ゆらりと立ち上がった剣士の背景に赤黒いオーラが見えるようだった。
「予定変更だ……。まずはお前をぶっ殺す」
剣士が静かに発した言葉。
怒気と殺意以外篭っていない言葉に、真由香はいつものおどけた調子を失った。
ただ、冷や汗をたらして少し笑む。
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間違いなく本気になった剣士がそこにいる。
ピンと張り詰めた空気は僅かな動きすら死に繋がっている様に錯覚させる。
だが、動かなければ勝機はない。
真由香は足を一歩踏み出して様子を窺う。
剣士に動きはない。
「もう、こうなったら一か八かよねぇ」
二、三度深呼吸して小刻みに揺れる脚に落ち着きを与える。
そして最後の攻防に移った。
先手は先に踏み出した真由香。
パワードスーツの能力を極限まで生かした踏術で瞬間的に剣士の左手側に移動する。
そして右拳を勢い良く繰り出す。
相手は左脇腹に痛みを抱えているはず。
ならば少しくらい動きが鈍るはずだ。
二、三フェイントを混ぜればもう一度くらいクリーンヒットを奪うことも出来るだろう。
突き出した右拳を剣士に当たる寸前で引き、そしてステップ。
次は背後を取る……が、そこで異変に気付く。
剣士が微動だにしないのだ。
真由香が後ろを取っても全く動かない。
下手に手を出すのはヤバイが、これは好機。
軽くステップを踏んでいた足を落ち着け、強く踏み込む。
地に足がめり込みゴンと音をたてる。
そして背骨目掛けて両掌底に霊力を込めて打ち出す。
無防備な背中は、しかし次の瞬間には真由香の視界から消える。
驚きの声を上げる暇も無く、剣士は真由香の攻撃を完全に避け、更に左足を踏み出し、そして脇に構えた剣を思い切り振り抜く。
その動きが完全にカウンターとして出来ていたものだから、当然、剣が触れた腹部は切り裂かれ、身体が分断されると思った。
だが、剣は真由香の身体を切り裂くことは出来ず、バットで殴られたような衝撃と痛みが真由香の内部に走った。
そして悟る。
あの剣は鈍らだと。
衝撃によって地を転がる身体の体勢をどうにか戻し、口の中に溜まった血を地面に吐き捨てる。
一息吐く暇も無く、空からの殺意。
一跳びに跳び込んで来た剣士が剣の切っ先を真由香の頭のてっぺんに向けて降りかかってきた。
(やっぱり、突きなのね……)
それを理解して真由香は余裕を持って突きを避ける。
(刃が鈍らだから殺傷力を持っているのはあの突き。斬撃は気にせず、注意するのは突きだけで十分ね!)
突きが躱されたのを確認した剣士は途中で構えを解き、普通に着地した。
そして間髪入れずに真由香に突撃する。
狙いはスーツに護られていない首から上。構えは先程と同じ脇。予想される攻撃は斬撃。
いくら刃が鈍らでもあの剣の腕と勢いで振り抜かれれば無事では居れないだろう。
(だけど、あの斬りは怖くない!)
剣士が剣を振るのに合わせて身を屈め、斬撃を回避し、更に反撃。
右足を踏み出し、剣士の鳩尾に向けて掌底を打ち込む。
吹っ飛ぶ剣士。だがしかし、真由香の攻撃は終わらない。
追撃のために地を蹴り、吹き飛ばされる剣士に追いつく。
そして上から胸部目掛けて拳を打ち下ろす。
が、それも剣によるパリィで弾かれる。
二人が着地した時には間合いは少し開いていた。
どちらにしても自分の間合いではないため、ほぼ同時に踏み出す。
剣士の間合いに真由香が入る。
その瞬間、鋭い突きが真由香の心臓目掛けて飛んでくる、が真由香は難なく避ける。
返しの刃で顔を狙った斬撃が繰り出されるがそれも仰け反って躱す。
そこで剣士の殺撃が途切れる。反撃のチャンスだ。
真由香は無防備な剣士の右頬に左手を軽く殴る。
軽く、と言ってもスーツによって強化された攻撃だ。生身である剣士の顔に与えられたダメージはかなりのものだろう。
真由香は左ジャブを打った後、再びステップを踏んで剣士と距離を取る。
距離を取る一瞬で剣士と目が合った。
その時背筋に冷たいものが走る。
だが、ここは剣士の間合いの外。敵は何も攻撃してこないはずだった。
その判断は経験の浅さから来る早計だったのだろうか。
剣士は袖の奥から何かを取り出し、投げる。
それが暗器だと気づいた時には、真由香の右腕にナイフが刺さっていた。
装甲を破るほどのナイフが存在したことも驚きだが、それにも増して暗器に気付かなかった自分を悔いた。
アレほど馬鹿みたいにデカイ袖があれば怪しんで当然だったはずなのに……。
その間に右腕に痛みと同時に痺れが回り始めた。
察するに、ナイフに毒でも塗ってあったのだろう。
「あ〜あ、ヤバったなぁ……」
どうやら右腕はもう動きそうにない。
指も動かせないほどに痺れが回っている。
この調子で行くと全身に回るにもそうそう時間はかからないだろう。
真由香はその場にペタンと座り、空を仰いだ。
空は白いモヤがかかっており、この景色が作り出される前の状況に似ていた。
「まぁ、良いか」
呟いて剣士を見る。
真由香の視線の先で剣士は動かなかった。
先程入った左ジャブが良いところに当たったらしい。
剣士の意識は吹っ飛んでいるだろう。
にも拘らず暗器を飛ばしてきたのは敵ながら天晴れと言うところだろうか。
「あんなヤツ、大っ嫌いだけどね」
真由香はもう一度ベロを出して悪態をついた。
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起きた時はもう朝。
何となく寝覚めが悪い感じを覚えながら真由香は上体を起こした。
「なぁんか……嫌な夢見た気がするわぁ……」
寝ぼけまなこを擦り擦り。
一つあくびをして曇りの空を見た。
白くモヤがかかったような空はどこかで見た気がした。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【5787 / 神崎・真由香 (かんざき・まゆか) / 女性 / 24歳 / 研究員】
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■ ライター通信 ■
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神崎 真由香様、シナリオに参加してくださり本当にありがとうございます!! 『戦が俺を呼んでいる!!』ピコかめです。(何
戦闘描写だけで会話がここまで少なくなるとは、俺自身ビックリです。(ぉ
相手の性格を残忍にしてくれっていう依頼で、俺なりに残忍を模索したんですが、どうにもブレちゃいました。
それ故どうして良いかわからず迷走がちな文章かもしれませんが、どうか平にご容赦を……!
と言うか、腕を貫いてグリグリする、とか、腹部に剣を突き刺してそのまま斬りおとす、とか残忍なのだろうか、と思ってしまい、ただ相手の衣服を損傷させることに一生懸命な人になった気がしてます。(ぉ
俺の認識とお客様の認識がズレてたら致命的だなぁ、とか恐々としてますよ。
それでは、次回も是非よろしくお願いします! 次こそギリギリのエロスを(ry
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