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Seven Colors −Lively Orange−
曇天。それを興信所の窓から見上げて草間・武彦は呟いた。
「うわー雨、降るんじゃないのか……」
ぼーっと、何も考えずにただ見上げていた。
と、空から何か橙色の物が此方へと向かってくる。
「あ?」
そしてべしゃっと、興信所の窓へと張り付いた。
「な、なんだぁ!?」
「あうあっ……」
「いたたたたた……」
三角帽子をかぶったおもちゃのような木で出来た人形。身につける色は橙色。
「ここ開けてくださぁい」
「あーけーてー」
「お、おう……」
そこに張り付かせておくわけにも行かないか、と武彦は窓を開ける。するとそこからぴょん、とこの二人が飛び込んできた。
「お仕事のお願いにきました」
「た!」
「は?」
「お天気雨部虹課赤係から聞いた、ここでこの前灼熱のあかをみつけてもらったって!」
「……あー……そんなことあったなぁ……」
武彦は思い出す。
確か虹の赤色を作るための玉がなくなってそれを見つけるのを手伝ったことを。
この展開だときっと、橙を探せということなのだろう。
「で、お前さんたちも無くしたわけ、か」
「あはっ!」
「えへっ!」
「なんだそのお気楽雰囲気は!」
思わず怒鳴るがこの二人はそんなことなんとも無いらしい。ずっと笑っている。
「溌剌としただいだい、一緒に探して?」
「て?」
何を言っても無駄なようだ。
そう、武彦は思った。
「というわけで、暇人集合」
武彦に暇人と判断されて興信所内から引っ張ってこられた四人。武彦の頭の上にいる橙色の服を着た人形に少なからず目が行く。どうやらこの頭の上という位置が気に入ったらしく武彦もそこにいるのを渋々容認しているようだった。
シュライン・エマ、月宮・奏、桐生・暁、宝剣・束と、この面子なら見つかるだろうと武彦は踏んだ。捕獲の際に一応の事と次第を伝えたもののまだなんとなく、飲み込めないでいるのはシュライン以外の三人。
「シュラインは、赤いの一緒に探したからわかるな?」
「ええ、天気曇ってたから、実はちょっと期待してたの」
ふふ、笑みを漏らし、シュラインは武彦の頭の上の彼らに手を振った。
「えっと、溌剌とした橙というのを、探せばいいんだよね?」
奏が確認、と武彦の頭の上にいる二人を見上げて問う。
「うん、探すのー」
「もうじき皆も来るよ、急がなくちゃいけないからね、あはっ」
「じゃあそれまでにそれぞれどんなイメージなのか固めておくか……」
「溌剌とした橙……」
奏はゆっくりと瞳を閉じてそのイメージを思う。元気なイメージもあるけれども、柔らかくて暖かい感じもする。
夕日を一日の終わりに見るとほっとする。流石に夕日そのものに姿を変えてるなんて事はないだろうな、と思う。と、ふと通り掛かりのガラス工房で見た橙色のガラスを奏は思い出した。雄飛をそのまま溶かしたみたいな凄く綺麗な色が印象に残っている。これも一つの候補かな、と頭の隅にとめ他には、と思考をめぐらせる。
あとはその名の通りの、橙。蜜柑に似た正月用の飾り物に使われるあれだ。実が落ちにくくて一つに木に新旧の実が一緒に生えることがあるそれは、代々と橙を結びつける。古い実はくすんだ色をしているだろうが新しい実は、『溌剌としただいだい』なら元気な新しい実に姿を変えて自分の色を主張しているかもしれない。
と、それぞれイメージを固め終わった頃、べしゃっという音と、潰れたようなうめき声が窓の方から響いた。そちらを見ると、なんとなく予想はついたのだが武彦の頭上にいるのと同じ人形達が四体、べちょっと張り付いていた。
「痛そう……」
「お前ら行動パターン一緒なんだな……」
呆れるような武彦の声を受けて頭上の彼らは至極明るくアハッと笑った。
窓に歩み寄ったのは束と奏で、からりと窓を少し開けて彼らを迎え入れた。先ほどべしゃっと窓に激突したのに痛みも何もないかのようなキャッキャとした声色でありがとうとその掌にぴょん、と乗った。
「ん、ちょっとかわいいかも!」
「……かわいい」
「かわいいって!僕らかわいいって!」
「ありがとうれしいねっ!」
はしゃぐ彼らを掌に、二人は残りの面々の下へと戻る。と、奏の掌の一体は暁の肩へ飛び移り、束の掌の一体はシュラインの肩へと飛び乗った。どうやら一緒に捜しに行く、という意味らしい。
「で、頭の上のお前らは?」
「僕たちここでお留守番! みつかったら連絡取り合うのー」
「そうそう!」
「どうやって連絡取り合うの? もしかしてテレパシーとかできんの?」
暁が武彦の頭上の彼らに言うとキャハっと嬉しそうな声。
「すごいねどうしてわかったの?」
「僕らの必須スキルなんだよ!」
ねー、と多分互いに顔を見合わせているのだろう。仲良さ気に彼らは言う。
「そうなんだ、便利だなそれー」
「必須スキルということは他にもあるのかしら……」
「いや、もういいから捜索に出ろお前ら!」
がーっと全員武彦に押し出されるように興信所出口へと運ばれる。確かにそろそろ探しに出ないといつ雨が降るかもわからない。
「あ、もし武彦さんも探しに出るんだったら零ちゃんに書置きするのよ」
「おー、ってそんなことまで言われる俺は何だ!」
最後にシュラインは武彦をからかいつつ全員外へ。
「私は自販機を当たってみるよ!」
「私はガラス工房と……あと橙の木」
「俺はねーえっと……んーなんか色々!」
「私は屋上から見てみるわ。連絡って……皆さんとれるのよね?」
全員で何をするか軽く確認。シュラインは橙係の彼らに確認をとる。彼らはバッチリ、と声を合わせて言った。
「んじゃ、なんかあったら連絡とってもらって……」
「そうですね、じゃあ」
解散、とそれぞれ思い思いの方向へと散った。
通りへ出てここへと来る道を戻っていく。通り掛かりだったのでちゃんとした場所はうろ覚えだがガラス工房だ、ぱっとすぐに目印となる看板が出ているはずだ。案の定その通りで、しばらく戻っていると看板が目に留まった。
「あった……あそこだね」
「うん!」
ちょっと小走り気味に奏はその店へと近づいた。ショーウィンドウに並べられたグラスやランプなどのガラス細工。
その中にある夕日をそのまま溶かしたようなガラスのランプがあった。
「どう?」
「んと……違うかな……でも綺麗な橙色」
そうだね、と奏は呟き少しの間そのガラスに見蕩れていた。それは肩の橙係も一緒だ。
けれどもずっとそうしているわけにはいかないね、とまた捜索を始める。ショーウィンドウから離れ、あとは橙の木かなと歩き始めた。
「なんだか不思議……」
「何が?」
ぽそりと奏の呟きに肩の橙係が問う。奏はすこし表情を緩め肩へと視線を送った。
「うん、君たちが作る虹……虹を作るなんて素敵なお仕事だよね」
「自慢のお仕事なんだっ」
「空に掛かる虹の色を、こうやって地上で探してるって……なんだか不思議だなって思って」
曇天を見上げ奏は言葉を続ける。ゆっくりと、でも凛とした声。
「みつかるといいね、綺麗な虹がみたいな」
「うん、頑張って作るよ!」
奏の言葉に励まされてか、やる気を煽られてか、肩でぴょこんと飛び跳ね橙係の彼は言う。
「そういえば、あなたの名前は何、なのかな?」
「名前? 名前はね、ないんだ僕たち。僕たちは、橙係一つで一人みたいな感じなんだー」
「そうなんだ……なんだか、変なこときいて、ごめんね」
「ううん、いーの。僕たちみんなで一つなんだけど、ばらばらなんだ」
てくてくと無意識に目的地も決めずふらふらと歩いているといつの間にか民家のあるほうへと迷い込んでいたらしい。立ち並ぶのは普通の家ばかりだ。
その一件に橙の木をみつける。実はついているものの、若い実は見当たらない。そんなにたくさん橙の木はあるわけではないし残念、と奏は苦笑する。
「生ってるかなって、思ったんだけど……」
「うん。あ……」
と、ふと肩の上で声が漏れる。どうしたの、と奏が聞いてもしばらく固まったままだった。少し、心配だ。
「溌剌としただいだい、今自動販売機になってるらしーよ」
「自動販売機?」
「うん、ずっしゃんがっしゃん飛び跳ねてるんだって!」
必須スキルであるテレパシーで伝わってきた情報を口にするとあっちの方だ、と指をさして方向を示した。
飛び跳ねる自動販売機ってどんなものなんだろう、と奏は首をかしげそれを想像しつつ彼が示した先へと歩み始める。
確かこの先は大きな公園があったのではなかったかな、と不確かな記憶を揺り起こす。
公園に身を隠そうとしているのかもしれない。そこならば他のものに転じても違和感がないもののほうが多い。
「行ってみようか」
「うん!」
明るい声を受けて奏はまた歩み始める。
公園入口。そこで奏は立っていた。
「うん、このあたりにいるー」
「じゃあ、公園入ろうか」
「あ、奏ちゃーん!」
と、知った声が響いて、そちらを向くと暁が手をふりながら走ってくる。
ふと、知らずのうちに笑みがこぼれた。
「奏ちゃんもこっちに着たんだ。みつかった?」
「まだ……公園にはいるみたい」
「そうなんだ、じゃ、一緒に行こう!」
二人で並んで公園へ入る。いつもと変わらない雰囲気だ。
「どうします?」
「とりあえず、勘で」
にこっと笑って言う暁に奏はそうですね、と笑い返す。
公園内を歩き回るがなかなか溌剌としただいだいが変じたものは見当たらない。
自動販売機も、普通の自動販売機があるだけで、飛び跳ねる様子のあるものは一つもない。
「ないねー」
「でもあるんだよー」
「どこにいったのかな……」
二人して少し捜索に疲れてきた。池の傍に暁はしゃがみこみ、ぼーっと水面をみていた。
と、違和感に奏が気がつく。
水面にゆらゆらゆれる橙色。
「……暁、今曇ってるよね」
「うん、雨がふりそうな空だよ」
「水面に太陽が映りこんでるの」
そう言ってすっと指差された先、確かに水面に映りこむ鮮やかな橙色。
「うっわ、なんで俺スルーしてたんだろ!」
「うっかりさん!」
「うっかりさんね」
奏も苦笑しながら言う。暁はあはは、とちょっと困ったような笑い声。
「あれ……どうやったらもとに戻るの?」
「えっと、僕らの誰かが触ればいいの」
「よーし、行くぞ!」
「え、暁?」
奏が止める間も無くざばざばと暁は池の中へ。流石にちょっと寒いが耐えられないほどではない。
「暁、危ないよ」
「ん、大丈夫だって。ほら浅いし、奏ちゃんにこんなことさせるわけにもいかないでしょー」
へらへらと笑って肩越しにそう言われても心配なものは心配だ。
奏ははらはらしながら、その様子を見守っていた。
と、後ろから足音と人の気配。振り向くとそこにはシュラインと束がいた。
暁の姿を何かあったのかと二人とも見詰める。
「どうかしたの? その前になんで池に……」
「あ、橙玉ー」
「え?」
「あの、池の中にあるんです」
そう言って奏が指差した先、ゆらゆらと水面に橙色が映えている。
「曇天なのに池に映りこむ太陽って、おかしいじゃないですか」
「で、捕まえに行ったんだ。あーいつのまにか自販機じゃなくなってたんだ」
岸から暁の様子を三人で見守る。じゃばじゃばと水音が響いていた。
深さは暁の腰辺りまでらしく安全ではあるようだ。
水面に生える橙色、そこへと辿り着いて暁がそれを捕まえる。
ざばっと水を持ち上げて、きっと橙係を手に乗せていたんだろう。
ほわりと一面暖かい橙色が満ちる。
暖かく、元気に溌剌と、けれどもどこか悲しいような寂しいような橙色。
陽光を溶かし込んだような色だった。
「綺麗ね……」
池の中から戻ってくる暁。びしょびしょなので風邪を引かないか少し心配だ。
「溌剌としただいだいで乾かすのー」
「そんなことできるの?」
「できるの!」
ぴょこん、とそれぞれの肩から降りて四人でそのゆらめく玉を掲げると暖かく優しい光。
「あ、すごっ。本当に乾いてきてる」
「よかったです……これで風邪もひかないし……みなさんも、みつかってよかったね」
「うん、よかったー!」
ぴょこぴょこと地面で飛び跳ねる彼らを微笑ましく見守る。
と、鼻先にぽつりと雨。
「あら、雨が降ってくるみたいよ」
「うぁ、急いで戻らなきゃー」
「ありがとー」
「これ通り雨だからね! 虹作るよ、綺麗なの!」
「楽しみにしてるよー!」
ふわりと空に浮き上がる彼らを四人で見送る。手をふる彼らに自分達もふり返して。
小さくなるまでずっと見上げていた。
「と、雨強くなってきたね」
「東屋あったよ、あそこで雨宿りしていこう」
束が指差す先、雨足が強くなる前に走りこんで。そしてそこへ入った途端ざぁざぁと音を立てて盛大に雨が落ち始める。
「せっかく服乾かしてもらったのにまだ濡れちゃ意味ないもんね」
「そうね。雨が止むのを待って、虹をみながら帰りましょうか」
そのシュラインの言葉に異を唱えるものはいない。
雨が止むのが楽しみ。自分の心が知らず躍っていることに気がつく。
不思議な出会いをして、ひとつ虹がどうできているか知って、新しい発見。
ちゃんと無事にみつかってこれからも虹の橙色は消えない。
今日、この後空に掛かる虹。きっと綺麗な橙色がみれるんだろうな、と表情も緩む。
空を見上げるとまだ暗い雨雲だ。
これが引いて、虹が掛かる。その様子を一足先に想像しながらその時を待った。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4767/月宮・奏/女性/14歳/中学生:退魔師】
【4782/桐生・暁/男性/17歳/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員】
【4878/宝剣・束/女性/20歳/大学生】
(整理番号順)
【NPC/草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】
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■ ライター通信 ■
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ライターの志摩です。ご参加ありがとうございました!
虹色二回目、橙でした。次は黄色です。『やわらかなきいろ』です。英語表記だろ『Mellow Yellow』です。響きが好きです(聞いてない)また興味があって付き合ってやろうじゃないの、という気分になりましたらどうぞ!あと五色、そろそろ虹課内のごたごたも出していければ、と(そんなのあるんですか
今回は頂いたプレイングがどれも素敵でとっても迷いました。迷った結果としてと飛び跳ね自販機と水面に映る太陽と、二段構えになりました。欲張りすぎていっぱいいっぱいになりそうでした(…)今回も個別と集団と混ぜて書いたつもりでございます。
月宮・奏さま
依頼でははじめまして!ひそりと橙係と交流をしつつのお話となりました。『代々=橙』におおおおお、興奮しつつうまく交えようと努力したのですが力量不足でした……でも奏さまらしさをちょこちょこ出せれたと思っています…!このノベルで少しでも楽しんでいただければ幸いです!
では、またどこかでご縁が会ってお会いできれば嬉しいです!
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