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Sweet or Spicy St. Valentine's Day ?
◇ 始まり ◇
ふらふらとさ迷い歩くのは小さな可愛らしい少年。
一見すると少女のような儚くも淡い存在・・・ピタリ、その足が、壁に必死にへばり付く張り紙の前で止まった。
チョコ作り・・・場所は、夢幻館(むげんかん)と言うところ・・・。
どうしてだろう・・・。何故か、とても心惹かれた。
瑠璃雫 陸は、その張り紙に導かれるように歩いた。
ズラリと続く、張り紙の誘う先―――夢と現実、現実と夢・・・そして、現実と現実が交錯する館。
不思議な雰囲気はボンヤリと淡くて、それでも・・・不快な雰囲気はまったくしない。
それどころか、ほっと安心してしまうほどに懐かしくも柔らかい雰囲気だ。
しばらく歩くと目の前に巨大な館が姿を現し、大きな門から中を見れば真っ白な道が続いている。
道の脇に咲く花々は、どれも季節を違えて咲く花ばかり。
百合の花がふわりと香り、桜の花弁がひらひらと舞い落ちる。
ヒマワリの黄色があまりにも鮮明に光っており・・・眩しいと、陸は目を閉じた。
真っ白な道を進む。
両開きの扉には豪奢な装飾がされてあり、とても華やかで美しい印象を与える。
・・・どうしよう・・・
刹那、考える。
けれど・・・どうしても、心惹かれる・・・。
そっと扉を押し開ける。
微かに蝶番が悲鳴をあげ、ゆっくりと開いた扉向こう、1番最初に飛び込んで来たのは階上へと続く階段だった。
左手を見れば、奥へと続く廊下があり、ズラリと並んだ扉は全て同じモノ。
まったく同じ扉が奥まで続いていると言うのは、一種の恐怖を生み出す・・・。
右手を見れば扉が1つ。足元を見れば、まるで血を吸ったかのように深紅の絨毯が敷かれてあり―――
カチャンと、微かな音を立てながら右の扉が開いた。
「客か・・・?」
声をかけられて振り向くと―――
高い身長、赤い瞳、銀に近い青色の髪の毛・・・一見すると女性のような艶かしさを漂わせている1人の男性が、そこには立っていた。
あまりにも鮮烈な印象に、思わず・・・心惹かれる。
「・・・えっと・・・」
「うーわ!ってか、お前男?女?」
ズイっとこちらに近づきながら、男性はそう言うと、ニカっと元気の良い笑顔を浮かべた。
「えっと・・・男・・・?」
「や、男?って訊かれても。一応俺は男だけどな。っつーか、見てくれで分かっか。」
そう言って肩を竦め、クスクスと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「んで?張り紙見て来たのか?」
「うん・・・。チョコ・・・俺・・・も、手伝う・・・?」
「そーか、手伝ってくれんなら有り難いな。」
クシャリと頭を優しく撫ぜる。その手が、酷く心地良い。
「俺は神崎 魅琴(かんざき・みこと)っつーんだ。」
「神崎さん・・・?」
「魅琴でいーっつの。」
苗字を呼ばれるなんて、柄じゃねぇと言って、魅琴は溜息をついた。
「えと・・・じゃぁ、みこと・・・。」
「おう、んで?お前は?」
「俺は、陸って言います。」
「そうか、陸か。」
クシャクシャと頭を撫ぜ、魅琴はそう言うと陸を抱き上げた。
「うっわ!すぅっげー軽いな。」
「そう・・・?」
キョトンとした表情で小首を傾げる陸に、魅琴が可愛いな〜!と言ってにっこりと微笑み―――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!」
どう聞いてもただ事ではなさそうな悲鳴が上がった。
振り返って見ると、小さな可愛らしい少女と高校生程度の少年と、有り得ないくらいに美しい青年が立っており
「魅琴ちゃんが幼児をっ・・・!!」
「や、お前のが見た目てきに幼いからな?」
人差し指を突きつけながら声を張り上げる少女の隣で、美男子が冷静なツッコミを入れる。
少女の外見年齢は小学生程度で、頭の高い位置に結ばれたツインテールはピンク色の淡いリボンできゅっと結ばれている。
髪の毛は茶色と言うよりはピンク色に近く、腰の辺りに毛先がまとわりついている。
「そこのちっちゃい子!早く離れてっ!!その人はね、見た目こそは綺麗な感じだけど、可愛い子、綺麗な人が大好きって言う変態さんなのっ!!もうね、指名手配中でね、見つけ次第ロケランでふっ飛ばしても良いって言う国の許可があるくらいでね、だからそこの子も早いところ逃げないと拉致されちゃうよっ!?誘拐だよっ!?」
「うぉぉぉぉぉいっ!そこのクソチビっ!ある事ない事ボカスカ言いやがって・・・!!」
「ある事、ある事でしょぉぉぉぉっ!!あのねぇっ、魅琴ちゃんは変態さんなのっ!だから、魅琴ちゃんはそんな可愛い子と一緒に居ちゃいけないのっ!!魅琴ちゃんが一緒に居ても良いのはクマくらいなのっ!!!」
「お前愛用の血まみれクマさんか?」
「血まみれクマさんを悪く言っちゃ駄目っ!!」
わけのわからない口喧嘩が始まった2人を、交互に見詰める。
あのクマ、薄気味悪ぃんだよ!の言葉に、魅琴ちゃんの性格のが薄気味悪いのっ!と少女が返し、コレが俺の性格だ!薄気味悪いわけねーだろ!と魅琴が返し、ちょっとは変えようとかって言う気にならないの!?変態過ぎるんだよ!魅琴ちゃんはっ!と返し・・・。
「だぁぁぁぁぁっ!!!!ルッセーんだよ2人ともっ!」
「お客さんを挟んで、そんな無意味な口喧嘩はしないでください。」
にっこりと言いながら銀色の髪の少年がそう言い・・・陸はその瞬間、はっきりと分かった。
この館の中ではカレが1番なのだろうと・・・。
「とりあえず、自己紹介がまだでしたね。俺は沖坂 奏都(おきさか・かなと)と申します。ココの館の支配人をしております。」
丁寧に奏都が頭を下げ、陸が
「俺・・・陸って言います・・・」
と小さく頭を下げながら言う。
「あたしは片桐 もな(かたぎり・もな)って言うのぉ☆それでぇ、こっちが・・・」
「梶原 冬弥(かじわら・とうや)って言うんだ。よろしくな?」
ふわりと微笑まれ、思わず俯く。
あれほどまでの美形に微笑まれば、誰だって俯きたくなるのは当たり前の事だ。
「えっとぉ、それでぇ、陸ちゃんはあたしの張り紙を見てここに来てくれたのぉ〜?」
「張り紙・・・そう。チョコ・・・作るの、手伝う・・・。」
つっかえつっかえになりながらの言葉に、魅琴の胸がキュンと締め付けられ―――
「あー!もーっ!!お前は本当にかわ・・・」
「 魅 琴 さ ん ? 」
「・・・・・・・・すみませんでした。」
「とりあえず、陸を床に下ろせ。」
奏都の、爽やかなのに何故だか重たい笑顔を前に、魅琴が凍りつく。
冬弥の優しい助言にコクリと頷くと陸を床に下ろす・・・。
「んでぇ、陸ちゃんは誰と一緒にお菓子作りたい〜?」
陸よりも約15センチほど身長の低いもなが、陸を見上げながらそう言って小首を傾げる。髪の毛がふわりと揺れ、甘いシャンプーの香りが仄かに漂い・・・それはとても甘い香りで、もなに合っていると、陸は思った。
「・・・みことと一緒に・・・」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!!!??魅琴ちゃんと一緒にやるのぉぉぉ〜!?」
しんじらんなぁぁぁぁぁ〜〜〜〜いっ!!!ともなが叫び、大げさに天井を仰ぐ。
「落ち着いてください、もなさん。」
「だぁぁぁ〜〜〜ってぇぇぇ〜〜〜っ!!!陸ちゃんの身の危険だよぉぉぉ〜〜?」
「おい、ちょっと待てこのクソちんちくりん。なんでそんな決め付けてるんだよっ!」
「魅琴ちゃんは、自分の性格をよく分かってないのぉぉぉぉぉ〜〜〜っ!!」
魅琴ちゃんなんかよりも、よっぽどあたしのが魅琴ちゃんの性格を理解してるよぉと言って、もなが頭を抱える。
「でもまぁ、良いんじゃねぇ?魅琴の菓子作りの腕は結構なもんだし。」
「ばーか、お前だって上手いだろ?」
冬弥の言葉に、魅琴がそう言って苦笑し・・・
「みこと、お菓子作り・・・上手いの?」
「魅琴さんと冬弥さんはお上手ですよ。」
奏都がおっとりとした笑顔を陸に向けながらそう言う。
「あのちんちくりんのクソガキが甘いもの大好きなんだけどな、アイツは料理が天才的に下手なんだ。」
・・・そう言われてチラリと見やる先、もなが未だに頭を抱えて苦悩している姿が映る。
料理が出来ないと言われると、意外な気にもなるが・・・
「とにかく、陸ちゃんがそう言うんなら仕方ない・・・けど、なんかされそうになったら包丁で刺して大丈夫だからね!?」
・・・この性格からして、ちょっと料理には向かない気がしなくも無い。
「だぁぁっ!お前は俺を殺す気かっ!!!」
もなの言葉に魅琴が反論し再び口喧嘩が始まる。それを見ながら、冬弥が盛大な溜息をつき・・・陸は、そんな住人達の姿をにこにこしながら見詰めていた。
◆ チョコ作り ◆
魅琴から手渡された可愛らしい淡い水色のエプロンを身に着けると、陸は包丁を片手に気合を入れた。
「たかがパヴェ・ドゥ・ショコラ作るだけで、そんな気合入れなくても・・・」
苦笑しながら魅琴が陸の頭を撫ぜる。
「ぱう゛ぇ・・・どぅ・・・しょこら??」
「そー。名前ほど難しいモンじゃねぇから、ラクにやりゃぁいーよ。」
そう言って、魅琴が生クリームを耐熱容器に入れて電子レンジに入れる。
それを見ながら、陸は言われたとおりチョコを細かく刻んでいた。
手を切らないように、板チョコを押さえている方の手は丸くして・・・トントンと、確かめるようにゆっくりと切る様は、とても可愛らしい。けれど・・・魅琴はグっと我慢をすると、電子レンジの中から軽く沸騰した生クリームを取り出し、陸が刻んだチョコをその中に入れた。木べらを渡して、陸にチョコレートが溶けるまで混ぜているように言い、洋酒を棚から取り出してその中に入れ、まだ混ぜているようにと言っておく。
言われたとおりに混ぜる陸。
最初は単調な作業だったのだが・・・段々と面白くなってくるから不思議だ。
夢中になってかき混ぜ・・・手が痛くなってきたので、陸は木べらを置いた。
魅琴が型にラップを敷き、その中にチョコを流し込んで表面を平らにし、大きさを整え―――
「後は、固まるまで待ちゃぁ出来上がり。な?簡単だろ?」
「・・・うん・・・。」
コクリと頷き、陸は木べらについたチョコを味見してみた。
「甘い・・・・・」
ほわっとした笑顔を浮かべ・・・魅琴が「ほんっと、可愛いなぁぁっ!!!」と叫びながら抱きついた。
その瞬間だった。
陸の身長が急激に伸び―――抱きしめている腕を、解かざるを得ないほどに良い体格に成長する。
「うわっ・・・・・!?!?!?」
驚く魅琴を今度は逆に抱きしめ返し―――
「・・・チョコレートより、お前の方が甘い匂いがする・・・」
耳元でポソリと呟く声は、深く低い。
腰に直接響いてくるその声に、魅琴が微かに眉をひそめる。
「なっ・・・!?えっ・・・!?つか・・・誰!?」
なんら現状を把握し切れていない魅琴が、混乱する頭に浮かんできた言葉を吐き出す。
・・・芸のない言葉に、夢幻館住人がいたならば手厳しいツッコミを入れられていたところだろうが、幸か不幸かここには陸と魅琴しかいない。
抱きつかれた状態からなんとか脱出を試みるものの・・・残念ながら腕力では陸の方が上らしい。
そもそも、自分よりも大きな男を見るのは久しぶりだ・・・。
「ちょっ・・・待って・・・。俺、混乱してるんだけど・・・え?なに??」
パニックに陥りそうになる頭を、何とか冷静にしようと試みる。
自分がパニックに陥った場合・・・どうなるのか、魅琴は痛いほど知っていた・・・。
「とりあえず、放せって。な?話が聞きたい・・・。だから・・・。」
それでも放してくれない陸に、思わず泣きそうになるが―――意地っ張りな性格が邪魔して素直に感情が出せない。いつもの事だけれども・・・今回ばかりは、そんな性格に感謝したくなった。
「頼むから・・・放せ・・・。な?」
溢れそうになる感情をセーブしながらそう言って・・・やっと、陸が魅琴を放した。
その瞬間、カクンと床にしゃがみそうになるのを何とか持ちこたえる。
「・・・で?なんだ、その・・・ビックリマジックは。」
魅琴がそう言って―――陸はしばし、先の言葉を考えた・・・が、どう説明したら良いものか、陸自身もよく分からなかった。
そもそも、どこから説明したら良いのか・・・
「そうだ・・・」
「あ?」
「チョコが固まった頃だろ。」
そう言って冷蔵庫の方へと歩いて行ってしまった陸の後姿を見詰めながら、魅琴は盛大にずっこけた。
なんだか・・・や、なんと言うか・・・ちょっと・・・のんびりと言うか・・・おっとりと言うか・・・
スパっと言ってしまえば、天然だ。
何かが確実にズレている感じのする陸。
外見はいたって強面で、その身長ともあいまって威圧的な雰囲気さえ感じる。
でも・・・
「目は綺麗なんだよな・・・」
「・・・何か言ったか?」
型を取り出して来た陸がそう言って、首を傾げる。
まさか声に出していたとは知らず、思わず赤面する。
「や、悪い。口に出して言うつもりじゃなかったから・・・」
そう言った後で、チョコレートを正方形に切り分けてココアをチョコレートにまぶして行く。
「完成だな・・・。」
出来上がったものをお皿に取り分ける間、魅琴は終始無言だった。
普段ならば五月蝿いくらいのマシンガントークを炸裂させる魅琴だったが・・・どうしてだろう、今の陸は少し苦手だった。
自分よりも身長が高く、力が強いと言うのもある。
そもそも、絡むタイプの魅琴に絡んでくるような人なんて、なかなか居ない。
きっと、新しいタイプの人間だから苦手意識があるのだろうと、魅琴は思った。
軽い性格をしているが・・・意外に内面はモロく柔らかい。“新しいモノ”を求めるクセに“新しいモノ”に弱い。
言ってしまえば、変化に弱いのだ。
「アイツには、コレをあげりゃぁいーだろ。」
真っ白なお皿に乗ったパヴェ・ドゥ・ショコラを脇に置き、残りは陸の好きなようにすれば良いと言っておく。
その言葉を受けて、陸がおもむろに食器棚からお皿を取り出し、残りをその上に乗せた。
そして―――
◇ Sweet or Spicy ◇
「これ、やる。」
無造作に渡されたチョコに、魅琴は戸惑いの色を隠せなかった。
やると言われても、一緒に作ったものだし・・・けれど・・・
「・・・さんきゅ?」
語尾を疑問形にしながらもそう言って受け取ると、とりあえずテーブルの上に置いた。
もしかして、陸は甘い物が苦手なのだろうか?だとしたなら、魅琴に渡したのも十分納得できるものであって―――
「お前はくれないのか?」
「は!?お前も食うの?」
そんな言葉に、魅琴は思わずそう返した。
自分も食べたいのなら、どうして全部を魅琴に渡すような事をしたのだろうか。
これも全て、天然だからなのだろうか?・・・そう考えれば、なんだか妙な納得感がある。
「ったく、だったら最初から自分の分を切り分けろよ。」
溜息混じりにそう言って、包丁を取ろうとした魅琴の手を、陸が取った。
「・・・なんだよ・・・?」
「俺は本当はこんなで、綺麗でも可愛くも無い、無愛想なつまらない男だ。」
「・・・別に、だから何だよ。それに、俺は・・・」
“お前は綺麗だと思うぞ?”そう続くはずだった言葉は、陸の言葉にかき消された。
「お前は瑠璃の姿の俺が可愛いと言ったが、俺はお前の方が可愛いと、綺麗だと思った。」
初めて言われる“可愛い”の台詞に、魅琴は固まった。
勿論、子供の頃はどちらかと言えば“可愛い”の方が頻繁に言われていたが・・・それだって、何年も前の話だ。
「一目見た時から鮮烈な、輝きが綺麗だ。」
「・・・陸・・・?」
「魅琴」
じっと見詰められる。その、澄んだ瞳から目が放せなくなる。
魅琴の瞳が、頼りなさ気に儚く揺れる。
本来の彼の性格上、そんな表情は見せない。
いつも自信満々で、俺様な態度で・・・綺麗な人や可愛い子に絡む時だって、もっと―――
「理由などわからない。放したくないと思った。離れたくないと思ったんだ。」
不安げに見開かれた瞳も、薄く開いたまま止まってしまった唇も・・・綺麗だと、陸は思った。
そして・・・怖がられているのも感じていた。
取った腕が微かに震えているのが分かる。
今にも泣き出しそうな瞳も、揺れている・・・でも・・・
「どうしたらいい?教えてくれ・・・」
感情が突き動かす行動は、あまりにも強引なものだった。
そんな事は、自分でも承知していたけれども―――
「やめっ・・・!!!」
魅琴が上ずった声をあげ、何とか腕を振り解こうとするが・・・そんな事は無理だ。
あっけなく陸に押し倒され、華奢な腕を床に押し付けられ―――――
「あーーーっ!!!チョコが出来てるぅ〜〜〜っ!!」
そんな可愛らしい声が、キッチンの入り口の方から聞こえてきた。
「もな・・・そこか?お前の論点はそこなのか・・・!?」
「魅琴さんが襲われかけていると言う事も、陸さんが大きくなられていると言う事も、全てはチョコの前には無力なんですね、きっと。」
奏都がそう言って、苦笑する。
「それよか、あれ・・・陸なのか?」
「えぇ。そうですよね?陸さん?」
その質問に、コクリと頷くと立ち上がってテーブルの上に乗ったチョコをもなに差し出す。
「片桐さん・・・これで良いのか?」
「うんうん!美味しそうっ!!ありがとぉ〜〜〜!!陸・・・ちゃん?」
キョトンと、陸を見上げながらもなが小首を傾げる。
どうやらここに来て初めて陸が大きくなっている事を知ったようだった。
「はれぇ〜?」
「あ〜も〜っ!!ちょっ・・・もな、こっち来い。」
冬弥がそう言って、お皿を手に持ったもなをホールの方へと連れ出す。「それでは、後はよろしくお願いしますね」と言って、奏都もホールへと行き・・・背中越しに「頑張ってくださいね」とだけ言い残す。
何を頑張ると言うのだろうか?不思議に思い振り向いた先、床に座り込む魅琴が見える。
ポロポロと涙を流し・・・。
瞳はどこも見ていない・・・凍りついたまま・・・
「魅琴・・・!?」
慌てて駆け寄るが、魅琴は放心状態で陸の方を見ていない。微かに震えながら、ただ涙が流れるに任せ―――
「俺のせいか・・・?」
「ちがっ・・・。お前のせいじゃなく・・・。悪い、上手く言えない。」
溜息を1つ、押し出すようにつくと、ゆっくりと魅琴がこちらを向いた。
「上手く言えないけど、お前のせいじゃない。・・・お前、さっき俺の事“鮮烈な輝きが綺麗”つったけど、俺は・・・そんなヤツじゃない。俺の方が詰まんない男なんだよ、陸。自分を作ってないと、弱くて・・・情けなくて・・・。」
パタンと、床に1つ涙が零れ落ちた。
それを見詰めながら・・・・・・・・・・
それでも、魅琴に惹かれる?
そんな魅琴には魅力を感じない?
― ‐ ― ‐ ― Sweet or Spicy St. Valentine's Day ? ― ‐ ― ‐ ―
≪END≫
◇★◇★◇★ 登場人物 ★◇★◇★◇
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
6155/瑠璃雫 陸/男性/20歳/大学生
NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード
NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人
◆☆◆☆◆☆ ライター通信 ☆◆☆◆☆◆
この度は『Sweet or Spicy St. Valentine's Day ? 』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、初めましてのご参加、まことに有難う御座いました。(ペコリ)
最後は選択性です。Sweetなバレンタインならば前者を、Spicyなバレンタインなら後者を(苦笑)
魅琴は実は、泣き虫で・・・。ビックリした事やパニックに陥るような事があると、直ぐにボロボロ泣いてしまったりします。
ただ、通常でしたら泣いているところなんて見せないのですが、今回は急展開だったので上手くコントロールできなかったのでしょう。
バレンタインからかなり経ってしまいましたが・・・。
陸様の雰囲気を壊さずに執筆できていればと思います。
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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