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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


限界勝負INドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影はゆらりと動いた。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 舞台は時の狭間。
 黄昏と黎明が矛盾した支配を置く闘技場だった。
 チャリ、と金属が擦れる音が聞こえた。
 よく見ると、首に輪が付き、そこから鎖が垂れていた。
「……なにこれ?」
 幼い声で疑問を発したのはロルフィーネ・ヒルデブラント。
 鎖を掴み、引きちぎろうとしても、持っていた細剣で切り裂こうとしても、その鎖はどうやっても切れなかった。
 諦めて、その鎖の先を見やると、ロルフィーネと同じくらいの年恰好をした少女が一人。
 俯いて悲しそうなその視線には地面しか映っていないだろう。
 その姿は純白。
 白い肌に銀に近い色の髪。
 白いワンピースを着ており、背中からは万人の目を奪うほどの美しさの翼が。
 そして、その少女の頭の上に浮く黄色く光る輪。と言うことは……
「天使?」
 ロルフィーネが興味深々で少女に近寄る。
「ねぇ、キミ天使なの?」
 少女はロルフィーネの問いに答えず、自分の腕を抱いて小刻みに震えるだけ。
「お〜い、答えてよぉ。答えないならバラバラにしちゃうぞ☆」
 無邪気な脅しにも、何の反応も見せない少女。
 その内、ロルフィーネは頬を膨らませて不機嫌を全身で表す。
「詰まんない。もう良い。ちょっと味見させてよ。天使の血って飲んだ事無いからさ」
 ロルフィーネが少女に触れようとした瞬間、頭の中に危険信号が走る。
 条件反射で飛び退き、今の異常の元を探る。
「……日の、匂い?」
 ロルフィーネの天敵、太陽の匂いを感じたのだ。
 匂いの元はあの少女。
「なんなの〜、味見もさせてくれないの? じゃあボク、もう帰るよ」
 ロルフィーネは鎖を引っ張り、出口を探そうとしたのだが……。
 天使の少女は微動だにしない。
「邪魔までするの?」
「……私は夜の世界には行けないから」
 俯いたままで、少女は初めて声を出した。
「私達は昼の世界でしか生きていけないわ。だから、貴方を行かせるわけにはいかない」
 そう言って少女は顔を上げてロルフィーネを見る。
「この鎖はどんなことをしても切れない。だから、私は貴方を倒してでも昼の世界に帰るの」
「ボクだって帰りたいよ! ボクは昼の世界じゃ生きていけない! だったらボクも同じ!」
 ロルフィーネは細剣を構え、天使の少女を見る。
「ボクは帰るんだ! 夜の世界に!! 邪魔なんかさせないよ!!」

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 二人の殺気が展開されるや否や、天使の少女の影が爆発する。
 ロルフィーネの魔術の一つだ。
 あの少女の脆そうな外見からすれば、今の爆発で木っ端微塵になろうが、日の匂いが感じられる間は油断できない。
 現に土煙が晴れた後には純白の翼が一対、少女の体を守るように現れたのだから。
 その翼を見て、ロルフィーネはまた頬を膨らます。
「もぉ! さっさと死んでよ!」
 そう言って細剣を構え、少女に突進する。
 対する少女は翼の防御を解き、ロルフィーネを見た。
 そしてロルフィーネの繰り出す鋭い突きをサッと躱す。
 翼をはためかせ、宙に飛び上がり、そしてすぐにロルフィーネから距離を取って地面に降り立つ。
 間をおかず、ロルフィーネは次の攻撃に移る。
 再び間合いを詰めての突き。
 胴の真芯を狙った突きは、同じようにして躱された。
「ふわふわ飛んでるだけじゃ、ボクには勝てないよッ!」
 軽い挑発を混ぜて三撃目に移る。
 少女が降り立った瞬間を狙って、影を爆破する。
 轟音と共に煙が昇る。
 しかし、煙は少女が翼を振った瞬間に消えうせた。
「……戦いは好きじゃないけど……やらないと死ぬなら、仕方ない」
 そう呟いた少女は右手を少し振り、そしてその手に光を集め始めた。
 その光は見る見る形を成し、少女の体に見合った剣となった。
「私、死ぬのは嫌だから」
「偶然だね、ボクも!」
 そして、二人の少女は剣をぶつけ合う。

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 鉄がぶつかり合う音とはまた違う、バチっと電線が火花を散らすような音が鳴る。
 少女達の剣がぶつかったときの音だ。
 7度ぶつかり合った剣は、今までと同じように弾かれる。
 距離が空くと、隙が出来ると、ロルフィーネは天使の影を爆破する。
 完璧にガードされてはいるが、体力を消耗させているはずだ。
 その証拠に、天使の額に汗が浮いている。
「これならいけそうかも!!」
 力量は僅かながらロルフィーネの方が上。
 判断を誤らなければ負けることは無いはず。
 そして当面の作戦は相手を疲れさせて必殺の隙を見出す。
 コレをロルフィーネは明確に思い浮かべているわけでなく、何となく『そうしよう』と言うだけで行動していた。

 また、影が爆ぜる。
 そして煙を振り解く様にして天使の少女がロルフィーネの元に飛翔する。
 先程から少女は低空飛行と攻撃を繰り返している。
 多分、高く飛ぶと体力の消耗が激しいのだろう、とロルフィーネは何となく納得し、上空からの攻撃は全く警戒していなかった。
 そして8度目のバチっと言う音を聞くと、少女はロルフィーネから距離を取って着地した。
 その瞬間に影が爆ぜ、それを少女は防御し、再び攻撃に移る。
 と、そう思っていたのだが、少女からの攻撃が来ない。
 爆発が直撃したのか、と思ったが日の匂いは消えない。
「……どうしたのかな?」
 多少の余裕のためか、煙が晴れるまでロルフィーネは少女の出方を窺った。
 しかし、それが形勢逆転の引き金となる。
 走る閃光。
 先程まで少女の剣を成していた光はレーザーのような殺傷力を持ってロルフィーネの右頬を掠めた。
 発射の元は間違いなく煙の中に居る少女だろう。
「あっぶないなぁ!!」
 ロルフィーネは怒りと共に日の匂いのする少女の下へ飛ぶ。
 煙が晴れ、少女の姿が顕となる。その少女の手に光の剣は無い。
 やはり先程飛んでいったのは少女の剣だったのだ。
 そしてコレは好機。
 少女の頭目掛けてロルフィーネは突きを繰り出す。
 だが、それは少女の左の翼に阻まれ、進行は止まった。
「こんな羽なんか!」
 ロルフィーネは勢いのまま翼を斬りおとす。
「あああぁ!!」
 少女の苦痛の声が聞こえる。
 翼は完全に斬りおとされ、地に堕ちる。
 少女がひるんだ隙に、ロルフィーネはとどめの一撃を加えようと細剣を振り上げる。
 が、その行動も突然走った背中の衝撃によって阻害される。
「う、うあああ!?」
 背中にぶつかってきたのは先程、ロルフィーネの頬を掠めた光の剣。
 ロルフィーネの洋服の背中部分を焼ききり、皮膚を焦がすほどに熱を出している。
 だが、その剣は一瞬にして消えた。少女のダメージが影響しているのだろう。
「こ、これって……」
「そう。日の光を利用した剣よ」
 ロルフィーネの苦しげな言葉に少女が答える。
 微力ながら日の光の力はロルフィーネにとって効果絶大。
 行動できないほどのダメージではないが、痛みはかなり残る。
 とりあえず距離を取って怪我の状況の確認と体制の立て直しをしなければ。
 二人ともよろよろと退き、相手を睨む。
 ロルフィーネの背中は痛々しいほどに爛れていた。
 痛みが全身をのた打ち回るように走っている。
 ちょっと気を抜けばそのままダウンしてしまいそうなほどだ。
 痛みは酷いが、ここで負けるわけにもいかない。
 見れば向こうもかなりの痛手のようだ。
 状況は五分五分、といったところだろうか。
「なら、やるしかないよ。ボクは、ゼッタイ帰るんだから」
 自分を勇気付けるように呟き、ロルフィーネは立ち上がって手を掲げる。
「もぅ手加減しないよ!!」
 ロルフィーネの真紅の目が輝き、少女の影から触手を伸ばす。
 ぐるりと少女に巻きついた触手は完全に少女の動きを封じる。
 その隙を逃さず、ロルフィーネは少女の影を爆発させる。
 少女の悲鳴は爆音にかき消され、その小柄な体は木の葉のように宙を舞った。
「これで、終わり!!」
 ロルフィーネは細剣を構え、満身創痍の少女目掛けて飛ぶ。
「う、うぅ……まだ、負けない!」
 少女もしぶとく手を掲げ、向かってくるロルフィーネを光の爆発で打ち落とす。
 ロルフィーネは咄嗟にバリアを張ったが、月の力が弱くバリアは容易く破られ、爆風はロルフィーネの体を舐めた。
 打ち落とされたロルフィーネは地面に強か打ちつけられ、よろよろと立ち上がる。
 天使の少女も着地に失敗したようで、地面にベシャリと落ちて、同じようによろよろと立ち上がった。

 次で、決まる。

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 傷だらけの二人の少女を包むのは、冷たい風。
 二人にはそれほど力は残っておらず、次が最後の攻防であることは何とはなしに理解していた。
 ロルフィーネは細剣を構え、少女は光を集めて剣を生成する。
 戦闘開始の合図は、ロルフィーネが使った影爆破の魔法。
 それを何とか躱した少女は前に前に進む。
 それを受けてロルフィーネも迎え撃つように地を蹴る。
 ロルフィーネは細剣を寝かせて構え、少女は上段に振り上げて構えていた。
 二人が間合いに入ったのはほぼ同時。
 そしてロルフィーネが突きを放つのと、少女が打ち降ろしを放つのもほぼ同時だった。
 ロルフィーネの細剣は少女の心臓を捉え、少女の剣はロルフィーネの肩口を捉えるはずだった。

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 血が滴る。
 ポタリポタリと純白の服を染める赤黒い血が。
 少女の胴を貫いた細剣。勿論、ロルフィーネが柄を握っている。
 少女の光の剣は今は霧散したが、完全にロルフィーネの肩口を捉えていた。
 にも拘らず、ロルフィーネが今、意識を保って立っていられるのはその剣のダメージが致命傷にならなかったためである。
 光の剣を持った少女は、翼を片方失ったことでバランスを失い、地を踏む足が揺らいでしまったのだ。
 それ故、剣は肩口を捉えたにもかかわらず、踏み込みが利かずに振りぬくことが出来なかったのだ。
「……天使の血って苦いんだね」
 細剣で貫いたまま持ち上げた少女からだから滴る血を、舌で舐め取ったロルフィーネは疲れたように感想を漏らした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4936 / ロルフィーネ・ヒルデブラント (ろるふぃーね・ひるでぶらんと) / 女性 / 183歳 / 吸血魔導士/ヒルデブラント第十二夫人】


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■         ライター通信          ■
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 ロルフィーネ・ヒルデブラント様、シナリオに参加してくださり本当にありがとうございます!! 『爆発はぁ……ぅ男のぉぉロォマァァン!!』ピコかめです。(何
 少女が二人居ればキャッキャウフフなシナリオもアリだが、こういう血生臭い戦闘もアリだな、と思いました。(何

 さて、天使との戦闘ですが、鎖が生かされてなかった気がします。(ぉ
 鎖を引っ張り、引っ張られて戦う様ではなく、鎖引っ張ってもどっちも微動だにしないような力関係だったので、妙な必然となってしまいましたよ。
 勝敗は辛勝といったところでしょうか。
 もう少し魔法の描写をしたかった気もしますが、俺にはコレが限界です。(ぉ
 では、また次回も縁があれば是非!