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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


最期の言葉


 最期の言葉が思い出せなくて。
 助けてくれないかな?


 少年とも青年ともとれる声。
 夢の中で響くその声。
 同じような夢を、もう何回もセレスティ・カーニンガムはみていた。
 最初は何度か同じ夢だと思ったが、だんだんとその周期が短くなり、最近では毎日見るようになっていた。また今日もあの夢を、みた。
 朝には弱いセレスティはたびたび二度寝をしてしまう。そのせいか、おかげか、よく夢の続きをそのままみたりする。
 だんだんと興味を持ち、気になっていくのは当たり前だ。
 何か謎があるのなら、それを解き明かしたい。自分に何を求めているのだろうかと寝返りを打ちながら思う。
 柔らかなシーツの感触を確かめながらセレスティはその夢の内容を思い出す。
 もう大分、その夢の様子を観察する、ということが出来るほどまで余裕ができた。
 あたたかな日差しのイメージ。そこはどこかの山のようだ。
 夢の中で自分はそこかしこにあるものに触れ、そして色や匂いも感じられる。
 自由に一本の山道を登っていく。風景は高い空の青とそびえる山々。周りの植物は高山植物だ。ごつごつとした岩肌は冷たい。
 だけれどもいつも、途中で暗転し終わってしまう。
 真っ暗闇になり、そして声が響いてくるのだ。

 最期の言葉が思い出せなくて、助けてくれないかなと。

 だけれども夢は、その声以外は何も聞こえてこない。
 誰かに夢に自分が干渉しているのか、それともされているのか。
 どちらなのだろうか、とセレスティは思う。
 まずはあの高山植物を調べてみよう。まだ重い瞼を持ち上げながらセレスティは思う。何らかの特徴が見られそうだと思ったのだ。
 色々と調べていけば情報も入ってくるだろう。
 セレスティはゆっくりと起き上がり、あくびを一つしながら身支度を整えた。





 ぱらぱらと高山植物の図鑑を図書室で探し見つけた。ゆっくりと一ページずつ開いていくと、そこにある植物の多種多様性に目を浮かばれる。
 夢で見たものを探すのは時間がかかりそうだが、色々な発見がありとても楽しい。
「ああ、これはみましたね……」
 ぱっと目に付いた一本の植物、その写真を指でとん、と叩いた。それは希少種らしく生息場所は限られているものであった。その場所を記憶の端に止め、ほかにも見たものは無いか、とめくっていく。他のものは色々な山にあるようで、場所の鍵となるのはその希少種の高山植物だけだった。絶滅危惧種に指定されているそれは、なかなかお目にかかれないもののようで。
 高山植物の図鑑を持ち図書室を出、今度はパソコンをつける。ネットから多々の情報を得ようというのだ。
 どこにいても情報を得られるというのはとても便利だ。
 脇には図鑑を置いて、検索の項目に植物の名前や、他にも気になる言葉を打ち込んでいく。
 そしてでてきたのはその植物が生息する場所、そしてにも、ニュースのような見出しも引っかかってきた。
「これは……」
 セレスティはそれを目に留めてカーソルをあわせクリックする。
 カチリという音とともに開いた情報。
 それは登山に行った者たちが行方不明になったというような情報だ。結末としては無事全員見つかったのだが、そのうちの一人は意識不明になってしまったとある。その経緯などが詳しくは書かれてはいないが少し、ひっかかる。
 この山で起こった事件らしき事件というのはこれだけだ。他は登山日記やら高山植物観察などばかりが目に付く。
「現場に言ってみたいですけれどもさすがに登山はできませんし……」
 自分の足の弱さでは無理だと、残念だと諦める。
 声云々ももちろん気になることだ、けれども純粋にその自然を楽しんでみたいとも思う。
 ネットでみたその山の状況と、夢で感じるあの山を登る感覚とを掛け合わせ、想像してみる。
 楽しそうだな、とふと笑みが漏れ出す。
 セレスティは山の風景を画像などで得、楽しみつつもしっかりとそのあった事件の調べも怠らない。場所と日付、その他の事にも得られたことでもう一度調べなおすと今度はもっと詳しい内容と思われるものがでてきた。
 登山に訪れた二組の家族。父親同士、息子同士、仲が良かったらしい。
 彼らは天候の良い日、暖かな日にこの山へと順調に登っていたのだが天候が崩れそれによって道を誤り、そして遭難してしまったらしい。
 捜索隊はだされ、彼らは見つかったのだが、息子の一人が崖より滑り落ち、意識不明になったという。彼の意識が戻った、というような内容はざっと色々な記事を読んでいくがかかれていない。
 ということはきっとまだ、意識は戻っていないのだろう。この事件があったのはまだ一年もたっていない最近だ。大きなニュースにかくれて見落としていたらしい。
「……どちらの病院にいらっしゃるのでしょうね……お会いしてみれば、何かわかるかもしれません」
 その場にいた家族にその時の状況も聞いてみたい。あまり思い出したくないことかもしれないけれども知っているのは彼らだけだ。
 セレスティはその意識不明の彼が入院している病院というのを突き止める。それは少し時間がかかった。最初に運ばれた病院に連絡をするものの、違う病院に移転してしまったらしい。そしてそこからまた移転をしていた。
 時間は夕刻。今からそこまで行くのは時間もかかるであろうし、今日の面会時間はもう終っている。
 セレスティは明日、何か手土産をもって行こう、と思う。





 うとうとと。
 揺れる車内でセレスティはまどろむ。今朝夢はみなかった。ちゃんと起きたはずなのに、心地良い振動と木漏れ日が上向けを誘う。
 そして意識と夢の間で、あの夢を見る。
 声に出しているのか、思っているのか、どちらかはわからない。
 けれどもセレスティは残る意識の端で、あなたに会いに行きますという想いを押し出す。
 それが伝わったのかどうかはわからない。けれども、ほわんとあたたかな、感謝するような、そんな雰囲気を感じた。
 セレスティはふつ、と意識を閉じて、夢の中へと落ちた。山を登る感覚。
 夢の中でみる風景は変わらない。
 だけれども今回は、雨が降り出す。雨足は強くなり、そして雨宿りをしようと走る。その時、ずるりと足が滑って落ちる感覚。
 その時、ふっと視界に誰かから差し伸べられた手と、何か言葉が聞こえた。
 そこでぱちっと、目が覚める。
 時計を見るとものの十分くらいしか時間は立っていない。
 セレスティはふぅ、と長い息を吐いた。
 あれはきっと、少年がみせた夢だ。差し伸べられた手、そして何か言葉。
 とても短い言葉だった。
「あれが、求めている言葉なのですね」
 セレスティは一度瞳を閉じた。
 そして彼がいるはずの病院へとつく。果物の詰め合わせを選びそれを持って彼がいるであろう病室の扉を叩いた。
 その音に反応してでてきたのは父親だろう。突然知らない人間がやってきて驚いている様子だ。
「突然すみません。私はセレスティ・カーニンガムと申します。実は私の夢に息子さんが出てくるようで……」
「息子、が?」
 父親は目を覚まさない息子の方を振り向き、立ち話も悪いとセレスティを中へと通した。
 ベッドの上に寝ている少年は、穏やかに眠っている。
 ことん、と出されたパイプ椅子に腰を下ろしてセレスティは少年の顔をみる。歳の割りに落ち着いた印象を受ける。
「息子があなたの夢にでるというのは……」
「ええ、あなた方が行ったであろう山の風景をみます。姿が見えているわけではないのですが、声が……最期の言葉が思い出せないと語りかけてきます。それはきっと、彼が落ちるときに発せられた言葉だと思うのですが」
「最期の言葉……ですか……それならきっと、私が叫んだこの子の名前でしょう」
 父親はセレスティの言葉を受けたあと、子を見詰めぽつりと呟く。それはどうして守れなかったのかと今でも悔やんでいるようだった。
「そうですか。では、もしまた夢にみましたら、彼の名前を呼びましょう。あなたも、呼んであげてください」
「ええ、わざわざありがとうございます」
 いいえ、とセレスティは緩やかに微笑む。そしてその場で父親と、息子と一緒に登った山についての話を聞いた。
 父親は不謹慎かもしれないが、と言いながら山の色々なことをセレスティに話す。それをセレスティも楽しげに聞いてあっという間に面会終了時間だ。
 少し名残惜しく、もう少し話を聞いていたいがそうも行かない。
「もし、息子さんが目を覚ましましたらお知らせください」
「ええ、それはもちろん」 
 父親の見送りを受け、セレスティは待たせてある車へと戻る。
 またこの家路に帰る途中で寝てしまえば夢を見るかもしれないな、と思いながら。
 だけれども、残念ながらそれは叶わなかった。
 睡魔はおりてこない。大人しく夜、もしくは明日の朝みる夢に期待をしましょう、とセレスティは思った。





 まどろむ、感覚。
 その後に山を登っていく感覚。
 セレスティはああ、と夢の外、意識の中のどこかで思うのを感じた。
 名前を呼んであげなければと思う。
 父親から聞いた名前。
 セレスティはその彼の名前を思い浮かべる。
 思い浮かべて声にしようと、思う。
 それが彼に伝わっているのかどうかはわからないけれども、それが今できる精一杯だ。
 ふつり、と糸が切れるように突然夢が終る。はっと、意識が突然覚醒した。
 こんなことは今までになかった。
 山を登る感覚も無く、ただ風景のみが見えていた。
 いつもと違う夢にセレスティは違和感を感じた。
 そしてその日から、夢を見なくなる。いつもみていた夢をこうもぱっとみなくなると違和感を感じる。今まで体の一部だったものがなくなったような感覚。
 そんな彼の元に一通の手紙が届く。
 あの父親からだ。
 その中には一枚の写真と手紙が入っていた。
 セレスティは写真をみて、微笑む。寝ていたはずの彼は、息子は起き上がり、そして笑ってピースなどして写っている。
「無事に目覚めたのですね、よかった……」
 セレスティは、きっとまたあの親子は山に登るのだろうな、と想像して微笑む。
 今度はきっと、何かあったのならばあの父親はしっかりと息子の手を掴むだろう。
 何も無いのが一番なのだけれども。
 セレスティは感謝と興奮の伝わる文面を読み、顔を上げた。
 想いがたくさん、伝わってくるような、そんな気がした。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】

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■         ライター通信          ■
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 セレスティ・カーニンガムさま

 お久し振りです、今回はどうもありがとうございましたー!
 低血圧なセレスティさまを妄そ…じゃなく想像しながらにまにましつつ書き始め、きっとひそりと力になり、静かに喜ばれるだろうと思いこのような形のお話となりました。このノベルでセレスティさまらしさがだせ、楽しんでいただければ幸いです。
 それではまたお会いできれば嬉しく思います!