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<東京怪談・PCゲームノベル>


魂籠〜月戯〜

●序

 光はやがて、体に入る。

 携帯電話には、様々なメールがやってくる。アドレスを教えた友人から、登録をしたメールマガジンから。そして、忘れてはならないのが迷惑メールである。
 何処で知ったのか、どうして分かったのか。殆どがエッチなサイトを宣伝するものなのだが、中にはお金持ちになれる方法、などといったものまで存在する。
 そんな迷惑メールの中に、最近噂になっている「おみくじメール」があった。
 突如やってくるそのメールには、アドレスが載っている。送り主は、株式会社LIGHTとある。
「突然のメール、失礼致します。試験的にサイトを運営するにあたり、ランダムでメールを送らせて貰っております。近く、おみくじメールというものを行う予定であり、そのチェックを行っております。宜しければ、ご協力ください」
 そう書いてあるメールには、最後に「料金はかかりません」と記述がある。
 アドレスをクリックすると、出てきた画面に「おみくじを引きますか?」と書いてある。「あなたの守護神がお知らせします」とも。
 そこをクリックすると、最初に知らせてあった通りに守護神が画面に現れる。そして本日の運勢を五段階で評価してくれるのである。
 運勢が悪くても「私がついているので大丈夫です」と、守護神が微笑んで言ってくれる。ただそれだけだ。
 しかし、そこにアクセスした者の中で、異変を感じている者がいた。
 夜道を歩いていると何かがついている気がするだとか、何となく何かがいるような気がするだとか。ただそれだけならば、気のせいと割り切ってもいいかもしれない。だが、同時に彼らは訴えるのだ。
 色々な事を、忘れているのだと。
 単にちょっとだけ忘れた訳ではない。頭の中からすっぽりと、少しずつ忘れていっているのだと。
 そうして、登録した覚えも無いのに気付けば守護神の画像がデータボックスにあるのだという。それでも、削除をする者は誰もいなかった。
 削除しようとする、その思いが一番に消えていってしまったからであった。


●始

 侵入した光は、じわりじわりと広がる。


 何気なくパソコンを触っていた櫻・紫桜(さくら しおう)は、一つの書き込みを見てマウスを動かす手を止めた。
「……これは……」
 紫桜の目に映ったのは、ゴーストネットにされていた件の書き込みだった。
『彼氏がおみくじメールをやったらしくて。それから妙に色んな事を忘れている』
 書き込みはそう言って、具体的な例を挙げていた。例えば、デートの予定。一緒に遊ぼうと誘ってきたから快諾したのに、約束の時間になっても来ない。確認すると、そのような約束をした覚えは無いのだという。
 また、別の時には毎日のように洗剤を買っていた。毎日買っている事を指摘したら、小首を傾げながら「買ってない」と断言するのだという。
 そして何より、おみくじメールで手に入れたという変な画像を捨てる事をしないのだという。気味が悪いから捨てる事を進めると、その場で消そうとする。だが、次の瞬間電源ボタンで待ち受けに戻ってしまうのだという。画像を削除しないのかと尋ねると、きょとんとして「何が?」と言ってくる。まるで、何事も無かったかのように。
「それは、不思議ですね」
 紫桜は呟き、書き込みを読み進める。そこに書き込まれている内容には、最後に『もしも』と付け加えられている。
『もしも、原因が分かるなら。どうしたらいいか、教えて欲しい』
 その書き込みに対し、たくさんの返信がしてあった。中には励ます内容のもの、馬鹿にするような煽り、意味も無いアスキーアート、病院にいけという無責任なもの。
 どの返信も一つとして、最初の発言者の答えとしては不適格だった。助けを求めているのならば、答えてやるべきではないだろうか。
「……やりましょうか」
 ぽつり、と紫桜は呟く。誰も求める返信をしていないのならば、自分がすればいい。現に、困っているのだから。
 紫桜は書き込みに返信をする。
「でき得る限り、やってみましょう」
 そう書かれた言葉は、助けを求めるスレッドの最後に書き込まれた。最後に出てきた、希望のように。


 紫桜は、自分の持っている携帯電話を見つめる。
「メールなら触ることがありますけど、この手のやつは大抵すぐ削除するようにしているんですよね」
 小さく呟きながら、メール受信ボックスを見つめる。友人や家族から来たメールが並んでいるだけで、それらしいものは一件もない。
 紫桜は、ぱたんと携帯電話を閉じる。自分の携帯電話から、情報を得ることはできない。加えて言うならば、もし自分の携帯電話にそのようなメールが入ってきたとしても、いじる事はないだろう。
 何せ、忘れていってしまうというのだ。
 調べようとしている事すら忘れてしまっては、ミイラ取りがミイラになる。できれば、他の人から情報を得る方が無難だろう。
 紫桜はそう考え、再びパソコンに向き合う。
「やはり、この手の情報を調べるとしたらネットでしょうね」
 検索サイトを呼び出し、バーに「おみくじメール」と入力する。すると、出てきた結果の中で一番上に出てきたのが、匿名掲示板だった。
「……普通は、それをやっている会社が一番に出そうなものですけどね」
 紫桜は小さく呟き、検索結果の下の方も確認する。だが、どこまでいっても会社は出てこない。出てくるのは、匿名掲示板や個人の日記、ゴーストネットもある。
「とりあえず、見てみましょうか」
 紫桜はそう言うと、一番上に出てきた匿名掲示板を確認する。中に書いてあったのは、ゴーストネットで書かれていた内容とあまり変わりはなかった。ただ、内容は変わりなくとも、予想以上にたくさんの人たちがその「おみくじメール」によって記憶を少しだけ失い続けているという事は分かった。
 適当に書き込んだとは到底思えないほど、詳細な情報を書き込んでいるものが殆どだったからだ。書き込んでいるのは、その「おみくじメール」を受け取った友人や知人、家族が大半。ごく少数だが、本人も書いている。
 本人が書いている記事に対し、たくさんの人たちが質問を繰り返している。何故すぐに忘れるのかだとか、どうしてそうなのかだとか、病院にはいったのかだとか。
 だが、それに対する本人の答えは「分からない」とだけ。
 むしろ本人が一番その答えを欲しているような様子だった。それをアスキーアートや更なる質問の繰り返しを行い、本人が二度と書き込まなくなるような状態にしているようだった。
 そんな中、ぽつりと情報が入っていた。本人が書いた、事務的な書き込み。
「株式会社LIGHTというところから、メールが来た。おみくじメール。それをクリックしたら、守護神が来た」
 ここまでは、最初にゴーストネットで得た情報とほぼ同じだ。守護神とかいうのが、例の画像なのだろう。
「忘れた内容と忘れていない内容を、書いてみた。参考にしてくれ」
 そう書かれた後に、忘れた内容として「コンパ」「飲み会」「デート」「洗剤や石鹸といった、洗うためのものを買った事」があり、忘れなかった内容として「日々のこと」「友人の名前など」「洗うもの以外の日用品を買った事」とある。
「基準は何なんでしょうね?」
 書き出されていたラインナップを見、紫桜は呟く。それらの事が、おみくじメールに関わっているのは間違いない。もっと言えば、株式会社LIGHTが提供するという、守護神とかいう画像が。
「もう少し、調べてみましょうか」
 紫桜はそう言うと、検索結果が並んだページにいったん戻るのだった。


●動

 広がったら、侵食が始まる。


 紫桜は再び「おみくじメール」の検索結果画面に戻る。
「会社の事を調べてみましょうか」
 そういうと、早速検索バーに「株式会社LIGHT」と入力し、検索ボタンをクリックする。すると、一般的な会社から個人のサイトまでずらりと並ぶ。だが、目的の「株式会社LIGHT」というものは見つからない。
 携帯電話に供給する予定のものならば、ネット上に出てきてもいいはずだ。携帯電話への供給といえども、ネットを介して紹介するということは珍しい話ではない。ランダムに作り上げたメールアドレスに送信してテストしてもらうのならば、たくさんの人の目に触れるネットは、格好の場所ではないだろうか。
 そこでテストに協力してくれる人を募集してメールアドレスを登録してもらえば、ランダムにメールアドレスを作る必要はなくなるのだから。
 しかし、今こうして調べた限りではそのようなネット情報は皆無だ。あるのはそれによって記憶を失うという事態に陥ってしまったという、匿名掲示板での情報だけ。
(何かに似ていますね)
 紫桜は、ふと思い出す。以前草間から頼まれて調べた「天使の卵」というゲームアプリを作った、「株式会社HIKARI」という会社。そこはまだ、ホームページ自体が存在していたが、会社自身の情報は全くといって良いほど見つからなかった。
 ただ、そのようなアプリを供給しているという情報だけ。
 実際に「株式会社HIKARI」というものが存在しているかどうかなど、全く分からなかったのである。ただ、全うな会社ではないということは確かであったが。
「今度はホームページでさえも見つかりませんから、更に性質が悪いですね」
 紫桜はそういって苦笑する。半ば予想していたものの、こうして詳しい情報が手に入らない現実が目の前にあると、笑うしかないような気がした。
「……ともかく、情報が欲しいですね」
 紫桜は呟く。ネットから引き出せる情報が、匿名掲示板から入手する全体的に似通った内容だけだ。これでは、調査が行き詰ってしまう。
(頼んでみましょうか)
 最初に見たゴーストネットを、紫桜は思い浮かべる。どうにかして欲しいと頼んできたのだから、こちらから調査のためと頼めば会ってくれるような気がした。
「ちょっと見ただけだから分かりませんが……守護神というもののが気になりますし」
 紫桜はそういうと、再びゴーストネットを開く。最後に紫桜がコメントしたところに、投稿者から「お願いします」というコメントが付け加えられていた。
 それを確認し、紫桜は再び書き込む。
「詳しく調べたいので、お会いできませんか?」
 書き込みとともに、メールアドレスを記載する。これで駄目なら、全く手がかりがつかめないのだが。
 メールを待ちつつ、紫桜は再びネットを回る。やはり、どこを見ても同じような情報ばかり出回っている。
(仕方ないのかもしれませんね)
 紫桜がそう思いつつため息をついたその瞬間、ぽん、という軽い音が響いた。メールが届いたのだ。
 中を見ると、ゴーストネットに書き込んだ投稿者が、会うことを承諾するものであった。時間と場所も設定されている。紫桜の家から、交通機関を使って30分程の場所だ。
「すぐに向かいましょうか」
 紫桜はそう言って、パソコンを落とそうとしてふと手を止めた。無意識のうちに、サイトを開いていたのだ。
 そこは、辞書のようなサイトであった。言葉を入力すれば、意味が出てくるといったタイプである。
 紫桜はそこに、「LIGHT」と書き込んで検索していた。その結果が、画面に出ていたのである。
「光の他に、いろんな意味があるんですね」
 興味本位から、紫桜は画面を覗き込む。そこに出ていたのは、権力者、知識、手助け、啓発……といった意味をも持つという解説だった。
 権力者、知識、手助け、啓発。
「何だか意味深な言葉だ」
 ぽつり、と紫桜は呟いた。その意味が、少しずつ今回の出来事と絡んでいるような木がしてならない。
 忘れていくことと「LIGHT」というその言葉が。
「ともかく、お会いして詳しく話を聞きましょうか」
 紫桜はそういうと、サイトを閉じた。スタートボタンから、シャットダウンを選択する。
 そうして画面が暗くなったのを確認し、紫桜は待ち合わせ場所へと向かっていった。頭の中では、あの意味深な言葉たちがぐるぐると巡っているままであった。


●遊

 逃れる術はどこにもない。


 待ち合わせ場所である公園には、5分前に到着することができた。夕方近くのため、遊具で遊んでいる子どももいない。ちらほらと待ち合わせらしき人がいるくらいで、ベンチに座っているのは紫桜一人だ。
 きょろきょろと辺りを見回すと、一人の女性が「あ」と声をかけてきた。振り返ると、一緒に男性もいた。
「すいません、櫻さんですか?」
「はい。じゃあ、あなたがゴーストネットに書き込んだ人ですか?」
 紫桜が立ち上がって尋ねると、女性は頷いた後に隣にいる男性をちらりと見る。
「そして、彼があの画像を持っている人です」
「そうですか」
 紫桜は頷き、男性のほうを見る。男性は不思議そうに小首を傾げながら紫桜を見、次に女性を見た。
「一体何なんだよ?これ」
「最近、おかしいでしょう?いろんな事を忘れたりして」
「そうか?」
「そうよ。ほら、前だってデートの約束を忘れたじゃない」
 女性に言われても、男性はがしがしと後頭部を掻いているだけで答えない。おそらく、全く身に覚えがないのだろう。
「他にはないんですか?そういう、忘れたようなことは」
「ああ、そういや家に何本も洗剤があるっけ」
「買った覚えはあるんですか?」
「……あるんだけど、気づいたら買い物籠に入れてるんだよな」
 男性はそういって苦笑する。女性は「ほら」と言って男性の横腹を小突く。
「そういう事が起こりだしたのは、いつですか?」
「いつだっけ?」
 男性はそういって女性の方を見る。
「絶対、あれよ。おみくじメールっていうのをやった時からよ」
「おみくじメール?」
 きょとん、と男性は呆気に捕られる。
「それも忘れたの?」
「いや、それは覚えているけどさ」
 男性はそういい、携帯電話を取り出す。そしてカチカチと操作をして、画像ファイルを選んで見せてきた。
「これの事だろ?」
「……それが、守護神、ですか?」
 紫桜は男性から携帯電話を受け取りながら、尋ねる。画面に映っているのは、仁王を思わせるような禍々しく睨み付ける表情をした絵であった。守るというよりも、排除するという言葉が似合いそうである。
「ああ。守ってくれるとか言ってたっけ」
「それをダウンロードした記憶はありますか?」
 紫桜が尋ねると、男性は「あれ?」と言って首を傾げた。そのような覚えはないのだろう。
(もしこの守護神が問題なのならば、一番にダウンロードしたことを忘れさせるでしょうね)
 紫桜はそう考える。そうすれば、いつの間にか入っている画像ファイルを、削除しようなんて気は起きない。
 ダウンロードした覚えもないのだから、削除する理由もないのだ。
 だがしかし、守護神がついているという自覚だけは残させているのかもしれない。そうする事によって、守護神という存在を確立させることができるのだから。
 紫桜は、男性の携帯電話を握り締めたまま、あたりの気配を探る。携帯電話から何かしらの力を感じるものの、それ自体は微弱すぎてよく分からない。人に影響を及ぼすとはどうしても思えぬ程度なのである。
「やっぱり、それが原因なんでしょう?」
 女性の方が尋ねてきた。男性は「おい」と制してきたが、女性はそれを振り切って言葉を続ける。
「だって、それおかしいもの。前、こっそり消そうとしたのに……消えなかったんだもの」
「消えなかった?」
「そうよ!……ちゃんと、画像を削除しますって出たのよ?なのに、もう一度見た時にはまだ残っているんだもの」
 女性はそういって、男性を見つめる。男性は不思議そうに小首を傾げた。
「……なんで、お前は削除しようとしたんだ?」
「あれがおかしいからよ!」
 男性は「ふーん」と興味がなさそうに答えた。傍から見ても、男性の態度は奇妙な違和感があった。
「これ、俺が削除してみてもいいですか?」
「え?あ、ああ」
 男性の許可をもらい、紫桜は携帯電話のメニューから守護神の画像を削除しようとした。確かに「削除します」というメッセージが出たにも関わらず、まだ守護神の画像ファイルは携帯電話に残っていた。
(なっ)
 一瞬、携帯電話から力を感じたかと思うと、画像ファイル内の守護神がにやりと笑ったような気がした。否、笑ったのだ。紫桜を見、自分を消すことは愚かな事だと言っているかのように。
「……この携帯電話、壊してはいけませんか?」
 紫桜はそう、男性に尋ねた。画像ファイルが削除できないならば、元を断てば良いだけの話だ。
 だが、この荒々しい行為はさすがに男性から「やめてくれ」といわれる。当然といえば、当然なのだが。
(本人にやってみてもらいましょうか)
 ふと、紫桜は思う。守護神にとっては、守護する対象以外から削除の命を受けたとしても、関係ないものとして処理することができるだろう。
 守護するという事が契約ならば、契約者である男性がその破綻を言い渡さなければならないはずだ。
「では、すいませんがこの画像を削除してもらえますか?」
「それならいいけど」
 男性はそういい、携帯電話を返してもらってから操作し始める。画像ファイルを選び、メニュー画面を開き、削除を選択する。削除するかというメッセージに対し、はい、と答えれば良いだけの話だ。
 その時だった。「はい」を選ぼうとした男性に向かって、携帯電話から光が発せられたのだ。あの禍々しい表情を思い起こさせるような、どろりとした光だ。
「いけない」
 紫桜はそういうと、古武術の型をとっさに構え、気を放った。直接ではなく、空気に向かって放つことで、気だけが携帯電話と男性に向かっていく。
 すると、ぶわ、と携帯電話から何か黒いものが気によって引きずり出されてきた。その黒いものは慌てたように動き回り、慌てて携帯電話に戻ろうとする。
「すいませんが、早く『はい』を選んでください!」
 紫桜が男性に向かって叫ぶと、男性は条件反射のように決定ボタンを押した。紫桜はそれを見計らい、再び「はぁっ!」と力を込めて、気を黒いものに向かって放った。
 その黒いものは、徐々に形を現してきた。あの、画像ファイルに入っていた禍々しい仁王のような姿を。
「……よくも、追い出してくれたな」
「勝手に入り込むからですよ」
「私には、使命があるというのに」
 守護神はそういって、ちらりと男性を見る。男性は見えてないらしく、何が起こっているのかを把握しかねているようだ。女性も、同じ。
「この世は、堕落している」
 守護神はそう言って、じっと紫桜を見つめて同意を求める。「そうは思わぬか?」
「そう考えるのは、自由です。ですが、だからと言って人の記憶を勝手に失わせるのはどうかと」
「失わせたのではない。道を、教えてやったのだ」
「教えてやった?」
 怪訝に尋ねると、守護神はこっくりと頷いてにやりと笑った。
「異性との付き合いは、己の存在意義を固めてしまう。向上心を失うのだ」
「それはあなたの勝手な判断でしょう?」
 紫桜はそう言ったが、守護神は無視して続ける。
「ならば、全てを洗えば美しくなる」
「洗剤で一体どれだけ美しくさせるのかは分かりませんが」
「この世を正すためには、道を示してやらねばならない。この手によって」
「あなたに示されたからといって、そこを通らなければならないという強要はおかしいですよ」
 紫桜はそういい、構える。守護神は、紫桜の言うことなど聞こうとしていない。ただ、自分の持っている理想だとか主張だとか、そういう言葉を繰り返しているだけだ。
 まるで、プログラミングされているかのように。
「いずれにしろ、あなたの示す道を拒否したんです。ですから、消えてもらいます」
 紫桜はそう言うと、再び気を放つ。守護神は禍々しい表情をいっそう険しくし、紫桜へと手を伸ばしてくる。が、それよりも前に紫桜の放った気に押され、吹き飛ばされてしまった。
 そうしてしばらくすると、守護神の気配は完全に消えうせてしまっていた。
「……あの」
 辺りを見回し、本当に守護神がいないことを確認していると、女性の方が尋ねてきた。男性も、訳が分からないといったようにじっと紫桜と女性を見比べている。
「終わりました。もう、大丈夫です」
 紫桜はそれだけいい、頭を下げた。そしてくるりと踵を返し、公園を後にする。
「あ、ありがとうございました!」
 背中から、女性の声が聞こえてきた。その隣にいる男性は、最後まで分からないといったようにぽつんと立ち竦んでいるままであった。


●結

 確定する。全てが、確定してしまった。


 あの時を境に、ゴーストネットでは「おみくじメール」についての話題が出なくなった。紫桜が守護神を消してしまったのと同時に、他の守護神も消えうせてしまったのかどうかは分からない。
 もしかしたら、話題に出すことすら忘れさせられたのかもしれないのだから。
「結局、あの守護神はなんだったんでしょうか?」
 パソコンの前で、紫桜は呟く。
 守護神と名乗った、禍々しい存在。彼は携帯電話を通じて、持ち主と契約紛いの事を行っていたのだ。そしてその契約を破綻させられないために、削除されそうになるたびに阻止してきた。
 しかし、あの黒い気はどう考えても「守護神」と名のつくものからは遠いものだ。
 微弱だった気は、削除という行為をする時にもっとも満ちた。ということは、忘れさせる時も同じように力が満ちていたのだろう。
 紫桜は小さくため息をつくと、窓に近づいた。既に外は真っ暗になっていた。がら、と音をさせて窓を開けて見上げると、空には月が出ていた。
「光、権威者、知識、手助け、啓発……」
 守護神という、権威者。堕落という知識。歪んだ考えへの手助け。勝手な思いによる啓発。
そうして、黒い光。
「……ああ、今日は半月なのですね」
 ぼんやりと浮かぶ空の月は、柔らかな光を発していた。あの禍々しい黒い光とは、正反対の美しい光を。
 紫桜は月の光を見、何故か小さく安堵するのを確かに感じるのだった。

<まるで戯れのように月の光を浴び・終>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 5453 / 櫻・紫桜 / 男 / 15 / 高校生 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度はゲームノベル「魂籠〜月戯〜」にご参加頂き、本当に有難うございます。
 続けての発注、有難うございます。前回の話「魂籠〜雪蛍〜」の結果を反映させつつ欠かせていただいております。如何だったでしょうか。
 このゲームノベル「魂籠」は全三話となっており、今回は第二話となっております。
 一話完結にはなっておりますが、同じPCさんで続きを参加された場合は今回の結果が反映する事になります。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。