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+ あの日あの時あの場所で…… +
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「ねえ、次の日記は誰の番?」
「次の日記は誰の番だー?」
「んー、ぼくーじゃないよ……!」
「あ、僕だ僕」
三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
ちなみに本日はスガタの番らしい。
彼はぽんっと机の上にノートを取り出す。よいしょっとノートを開けばすでに書き込まれた文字達が沢山。彼は皆の方を見る。それから大きな声で読み出した。
「三月二十八日、晴天。今日はー……」
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「誰だぁあああ!! 僕の屋敷をこんなにもめっちゃめっちゃのくっちゃくっちゃにしてくれちゃったのはぁああ!!」
その日、三日月社の声が三日月邸に響いた。
丁度遊びに来ていたスガタとカガミは「何だ何だ!?」と声のする方へと移動する。見れば其処にはふるふると小刻みに震えている社がいた。声をかけるか戸惑っていると、彼女はキッと二人を振り返った。それからカガミを指差し、大声で叫ぶ。
「かがみん!! あんたでしょ、僕の部屋を滅茶苦茶にしたのは!!」
「そんな恐ろしいこと誰がするか!」
「あんた以外に誰がこんなことすんのよ!」
「俺は今此処に来たばっかだっつーの!」
ぎゃんぎゃんと二人が言い争う様子を見ているのは一緒に居たスガタと後ろから追いかけてきたいよかんさん。
いよかんさんが「どうしたのー?」とスガタの手を引く。彼は部屋をぴっと指差した。
見ればいつも丁寧に整えられている書簡は無造作に散らばり、薬草だと思われる草は辺り一面にばら撒かれている。それから薬品棚が倒れ、擂粉木なども床に放り投げられていた。だが、地震が起こったわけでもない。ならば誰かが意図的に辺りを破壊したとしか考えられなかった。しかし社の性格を知っている者ならば、こんな怒りを買うような行動は到底出来ない。
スガタは取り合えず散っているものを掻き集め、片付け始める。其れに倣っていよかんさんもまた整理を始めた。
「しかし誰がこんなことをしたんだろうね。いくらカガミでもこんな悪戯はしないよ」
「やしろー……おこるとこわいー」
「そうだよね。社ちゃん怒ると本当に怖いもんね」
「其処ぉー! 僕の悪口言わない!」
「「言ってないーっ」」
スガタといよかんさんは両手をあわせてきゃっと微笑む。
対して社は頭から湯気を出しそうなほど怒っていた。先程まで言い合っていたスガタは濡れ衣を着せられたことに対して相当ムカついたらしく、ぶつぶつと何か呟いている。
しかし一体誰がこんなことを?
四人はむぅーっと考える。やがてスガタはぽんっと手を叩き合わせると、すぅっと息を飲んだ。それからゆっくり目を瞑り、意識をある一点に集中させる。二人と一匹はそんな彼を静かに見守った。
やがてスガタの腕がくっと持ち上がる。
そしてある方向を指差した。
「見えたよっ。今、向こうの部屋にいる!」
「むしあみー……むしかごー」
「や、虫じゃねえだろう」
「何でもいいから捕まえてこいー!!」
げしっと社に背中を蹴られたのはカガミ。
いよかんさんが素早く虫網と虫籠を用意してちたちたと駆ける。スガタとカガミもその後を追った。スガタが『視』通したのはちょっとした過去。二人と一匹が部屋を抜けて見つけたのは……。
「あぅ〜?」
どっからどう見ても。
「「「赤ん坊ー!?」」」
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「きゃっきゃっ! あだぁ〜!」
「ぎゃー! 僕の大事な書簡に涎垂らすなぁ!」
「だぁだぁっ!」
「やぁー……ん! いじめないでぇー……!」
「きゃっきゃっきゃ!」
「駄目だよ、いよかんさんを振り回しちゃ。めっ」
「あだぁ〜……ふ、ふぇえええええぇぇぇんん!!」
「バカ! 何子供虐めて泣かしてんだよ!!」
「だって、いよかんさんを虐めるから」
「どーせ、いよかんのことを動く奇妙な縫い包みだと思ってんだろ」
「がっびーん!!」
いよかんさんが耽美な顔つきになってショックを受ける。
もちろん小指を立てて頬に手を当てることも忘れない。よよよとその場に崩れた彼? に何故かライトが当たる。その様子が可笑しかったのか、赤ん坊はきゃっきゃっと小さな手を叩き合わせて喜んだ。それからいよかんさんに手を伸ばし、むんずと両足を掴む。そして思いっきり手を上げ、ぶんぶん振り回した。
「いぃいいやぁあああ!!」
「ああ、いよかんさんが泣いてる! 駄目だよー、虐めちゃー!」
「きゃっきゃっきゃ! あだぁー!」
「まあ、子供が喜んでんだからいいんじゃねえ?」
「駄目だってば! めっ!」
「あぅ〜……」
スガタがいよかんさんを救出すれば、赤ん坊が不機嫌そうに頬を膨らませる。
振り回され続けたいよかんさんはひっくひっくっと小粒の涙を零しながらスガタに抱きついた。見ていたカガミはやれやれと首を振る。目の前では部屋を滅茶苦茶にされた社がとうとう頭から湯気を立たせていた。どうやら部屋を荒らした犯人が赤ん坊だと言う事で下手に怒れないらしい。よって怒りの行き場が無く、自身の中でふつふつと煮えているようだった。
カガミは被害にあわないように出来るだけ距離を取る。
だが、社は徐に彼の肩をがしっと掴んだ。ぎぎぎっとまるで油の切れた人形のような動きでカガミは振り向く。すると社がにぃっこりと微笑んで言った。
「かがみん〜、悪いんだけど部屋のお掃除宜しくね〜?」
「な、なんで俺が」
「さぁーって僕は赤ん坊を宅急便ででも送り返してこようかなぁあああ!!」
「……お前、マジで頭にきてんだな……」
カガミはひくひくと表情を引き攣らせる。
こういう時の社は本気で赤ん坊をダンボールに詰めて宅急便に出しかねない。触らぬ神に祟りなし。カガミは取り合えず大人しく部屋の掃除を始めることにした。
赤ん坊はだぁだぁと言いながら楽しそうにいよかんさんへと手を伸ばし、握ったり抱きついたりして遊んでいる。そんな子守風景にカガミは妙な脱力感を覚えた。それでも赤ん坊が遊んでさえ居ればまだ部屋の片付けは楽だろう。
だがそう思ったその瞬間。
「びぃ、ぇええええぇえんん!!」
どんがらがっしゃぁああんん!!
どんどんぐっしゃぁああん!
ばっっしゃぁああんん!
「「「「…………」」」」
折角立てた棚達が再び勢い良くドミノ倒しに崩れていく。
中に収めたはずの薬箱類が再び飛び出し、またしても辺りを散らかした。赤ん坊が何かしら力を使って暴れていることは間違いない。スガタとカガミ、そしていよかんさんはぐぎぎぎぎっと首を動かして社を見遣る。
そして彼女の表情を見た瞬間、ヒィぃっ! と二人と一匹は固まった。
「いい加減にしやがれぇえええ!!」
「あぁああああんん!! ふぇええんんん!!」
社と赤ん坊の共鳴……ではなく、ある意味言い争いの声が響く。
残された二人と一匹は激しい頭痛を感じながらも、部屋の片づけを始めることにした。
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「そんなこんなで後片付けが大変でした。まーるっと」
スガタが発表を終える。
聞いていたカガミ、社、いよかんさんは激しく遠い目をした。
「まあ、あの子供もちゃんと自分で帰ってくれたんだから良かったんじゃねえ?」
「そうだよねー、部屋の片づけをしてたら消えてたんだもん」
「かたづけー……たいへんだったー」
「人に謝罪もなしにとっとと帰りやがったわよねー……」
皆でうんうんっと頷きながら当時を振り返る。
社は出していた三色団子に手を伸ばし、口の中に放り込んであむあむと咀嚼した。ずずーっと緑茶を飲んではふっと息を吐き出せば、「そんなこともあったわねぇ」と再びこめかみに青筋を浮かべていた。
どうやら暴れん坊の赤ん坊騒ぎは社のストレスを相当高めたらしい。
「まぁ、人が紛れ込むなんて良くある事だし、寝て忘れちゃおうっと」
ごっくんっと団子を胃の中に落とした後、腕をぐぐっと頭の上に持ち上げ筋を伸ばす。
三日月邸はいつも呑気で愉快で時々はっちゃけ。
明日は何が起こるだろうか。
「と言うわけで今日の話は御終いってね」
……おしまい。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【4528 / 月見里・煌 (やまなし・きら) / 男 / 1歳 / 未来から来た、月見里千里の子供…?(お父さんは現在不明)】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、今回は発注有難う御座いましたv
今回は暴れるというシチュ以外はお任せでしたのでこうなりましたv赤ん坊の無邪気さとかそういう部分が出ているといいのですが……何か御座いましたら突っ込んでやって下さいませ;では!
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