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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


+ 三日月邸×花見×巻き込まれ騒動!? +



■■■■



「春ですねぇ」
「春だよなぁ」
「わがしぃー……!」
「いやー、今の季節には三色団子だよね〜★」


 スガタ、カガミ、三日月社、いよかんさんの三人と一匹はそう言いながら縁側でお茶を飲む。四人揃ってずずずーっと飲むと一気に心が和んだ。庭には満開の桜が咲いていて、のほほん雰囲気。スガタとカガミの住む異界では絶対に見られない春の景色だった。
 カガミが置いてある三色団子に手を伸ばす。するとその手の上に何かが乗った。なんだろうと見れば、いよかんさんもまた手を伸ばしていたのだ。
 じぃーっと二人が見詰め合う。目の前にある団子は残り一個。
 此処で譲り合いの精神が生まれるかと思いきや……。


「お前果物だろ!? 本来なら食われる立場だろ!? 何ナチュラルに団子食ってんだよ! 遠慮しろよ!」
「あーん……いまさらのこといっていじめる〜……くだものはくがいー……! ぼくもー……おだんごたべるぅ〜……!」
「あー! かがみんったら謎でナマモノないよかんさんを虐めてる〜! と、言うわけで最後のお団子は僕がもーらった!」
「「ずるー!!!」」


 カガミといよかんさんが争っている間にあーんむっと社が残りの一本を一口で食べた。
 生憎、もきゅもっきゅっと幸せそうに食べる彼女に二人……ではなく、一人と一匹は逆らえない。そんな彼女の隣に座っているスガタがこぽぽぽぽっとお茶を注ぐ。こちらもまた幸福そうにお茶を啜っていた。
 見上げれば、ぽかぽかお天道様が三人と一匹を照らす。カガミが「洗濯日和だなぁー」とぼんやり思った。どうやら社にこき使われているせいで主夫根性が身に付き始めているようである。


「そうだ! 春も来たし、こんな日にはお花見なんだよね〜!」
「ああ、いい考えですね」
「そうだな、いい考えだな」
「おはなみぃー、おだんごー!」
「そんでもって、外の人を巻き込んでわいわい騒いだら楽しいよねっ★ 僕ってばあったまいいー!」


 両手をぱんっと叩き合わせて自画自賛をする社。
 そんな彼女の発言に二人と一匹は首を傾げた。


「どうやって外の人連れて来るんです?」
「どうやって外の人連れて来るんだよ?」
「なんぱー? へい、かのじょー……?」
「え、そんなの簡単じゃん」


 二人と一匹の疑問を受けた社は立ち上がり、すたすたと歩く。
 そして目の前に沢山並ぶ扉の一つに手をかけ、勢い良く開いた。
 ―――― すると。


「うわっ!」


 扉の向こうからこんにちは。
 そんなイメージで人間がばったーんっと三日月邸に転がってきたではないか。その突然の訪問者にびくぅ! っと怯えたのはいよかんさん。片足をぴっと上げ、両手を軸足の方に寄せた格好で固まってしまった。


「ね、こうすれば簡単でしょ〜? それにこうやって集めた外の人間に何か芸をしてもらったら楽しいしー?」


 自信満々の笑顔で社が言う。
  三日月邸に存在する扉は『何処に繋がっているのか分からない』ものや『再度開くと違う場所に繋がっている』ものが多々ある。そんな扉の向こうには当然外の人が居ることも多く、迷い込んでくることも多い。社はにまぁーっと笑うと、扉を閉めてもう一回開いた。


 ばたん!
 ごろごろ。
 ばたん!
 ずっべーん!!


 開く度に外の人間が転がり込んでくる様子に、スガタとカガミは開いた口が塞がらなかった。



■■■■



「ってぇ…何だよ、一体」


 俺、五代真は擦り剥いた鼻の頭を手で撫でる。
 思いっきり滑り込んでしまったので、痛みも結構なもの。買ったばかりの飲み物がコンビニ袋の中から飛び出していたので、其れを拾って袋の中に放り込んだ。状況を確認しようとあたりを見渡す。すると、何人かが怒りながら扉の方に向かってきた。「冗談じゃない!」「仕事もあるのに勝手に呼ばないで」等と呟きながら扉を潜っていく。俺は来た扉を見遣る。その向こうはすでに自分が居た景色ではなかった。


「ち、皆してケチだわ。子供の遊び相手になってくれたって良いじゃないのよー」
「ん? 社ちゃんじゃないか」
「あ、五代じゃん」
「あ、五代さん」
「おひさしぶりー」
「スガタに、カガミに、いよかんさんも。……まさかとは思うけど……お前等が俺をここに連れてきたんだな?」
「「「いや、社が」」」


 三人が声を揃え、社ちゃんに向かってびしっと指を突きつける。
 既に俺と目の前の子供達以外は誰も居ない廊下。目の前の三日月邸の中庭を見遣れば、流石は桜の季節と言うべきか。綺麗に花を咲かせた桜達の存在感が凄い。


「ま、いいや。来ちまったものはしゃーないし」
「そうそう、ところでお花見に付き合わないー?」
「ん? 花見?」
「社がさー、外の人間巻き込んでお花見をしようって言い出したんだよ。でもよ、皆五代みたいに突然連れて来られてる訳だろ?」
「そんな余裕はない! とか。仕事中に呼ぶんじゃねえ! とか言って」
「かえっちゃったー……」
「本当、皆して余裕がないったらありゃしない」


 社ちゃんが頬に手を当てながらふっと呟く。
 彼女のはちゃめちゃは時と場合によっちゃあ迷惑だからなーとひっそりこっそり心の中で呟く。するとなにやら視線に気が付いたので下を向く。するといよかんさんが俺をじぃーっと見つめていた。腕を下ろしてひょいっと抱き上げてやる。すると彼? は更に視線を強めた。


「ごだい、はー?」
「ん? 何が?」
「かえっちゃうー?」


 その言葉に他の三人もまた俺を見つめる。
 じぃーじぃーじぃーじぃー。
 三人と一匹分の視線が痛くて、表情が引き攣ってしまった。


「まあ、良いけどよ。花見に俺を誘ったのか。それならそうと言ってくれ。それと、もうちょい優しくお誘いしてほしい」
「えー、だってさっき思いついたんだもんー」
「俺は丁度暇だったから良いけどよ、普通は何かしら用事があるだろうからな。……まあ説教ばっかも何だ、花見しようぜ」
「「「「わぁーい!」」」」


 俺が花見に対して承諾すると、三人と一匹はいそいそと準備を始めた。
 スガタとカガミが水色のシートを何処からか取り出してきて、桜の木の下に敷く。それを飛ばないようにいよかんさんが集めた石で止めた。社ちゃんは邸から団子とお湯の入ったポット、それから人数分の茶碗等を持って外に出てくる。俺は両手いっぱいに抱えているその荷物を受け取って、シートの上に並べた。


 桜舞い散る季節。
 突然引き込まれた三日月邸にて始まった花見。
 やんややんやと皆で世間話をしながら空を見上げれば、桜のお天気。


 ふと俺はコンビニ袋からビールを取り出す。
 プルタブを開いてそれに口をつける。んっくんっくっと一口二口飲んで、くぁああ! と声をあげた。


「あー、桜を見ながらのビールは美味いっ!」
「ビールって美味しいんですか?」
「ビールって美味しいのか?」
「ん? お前等も飲むか? ……って、嘘だよ。未成年には飲ませられん」
「「未成年じゃないのだけど」」


 スガタとカガミが声を揃え、そしてぷぅっと頬を膨らませる。
 そういえばこいつらは人間じゃなかった。外見こそは子供だが、年齢は俺よりも高いのかと今更ながら違和感を感じ始める。社ちゃんがあむあむと団子を食べながら優雅に桜を眺める。そんな彼女の前には既に十本以上の櫛が捨てられていた。
 そして俺は悪戯心が浮き、思わずいよかんさんに対してビールを出してみる。


「いよかんさんは大丈夫か?」
「んー? びーる?」
「そ、ビール」
「飲むー!」


 缶ビールを両手で掴み、そのままくーっと持ち上げた。
 スガタがはらはらと見守り、カガミがどうなるんだ? と興味津々で見つめる。するといよかんさんの身体が段々と赤色に染まっていくではないか。元々赤み掛かった橙色だが更に赤色が強くなったいよかんさんは、ふへぇーっと負抜けた声を出した。そしてなにやらふらふらしている。


「いよかんさんって人並みに酔っ払うのか。へー」


 俺はいよかんさんの手から缶を取り戻し、残ったビールをぐっと飲み干した。
 どれくらい時間が過ぎただろうか。
 大分皆の腹具合も良くなって来た頃、俺はぱんっと両手を叩き合わせた。


「さぁーって、ビールも飲んだし、何か一つ芸でも披露するかね。社ちゃん、農作業用のザルと手拭いあるかい? あったら持ってきてくれ」
「多分納屋にあるわよーん? かがみん、取ってきてー」
「お前が頼まれたんだろうが」
「今じゃアンタが家事担当でしょうが。ほれいけ!」
「……一回この女、ぶん殴ってやりてえ……」


 ぶつぶつ文句を言いながらもきちんっとザルと手拭いを取ってきたカガミ。
 彼からそれらを受け取った俺は手拭いを頭から被り、それからザルを使って安来節を歌いながら踊った。そうそれはかの有名な『どじょうすくい』である。
 何を始めるのかと興味を露に見ていた三人と一匹はそんな俺に対して拍手を送ってくれる。


「あっはっは、どじょうすくいが出てくるとは思ってなかったわー」
「ほらほら、本物のどじょうすくいだよ、カガミ」
「本物のどじょうすくいだな、スガタ」
「「本物はこんなにも愉快なものなのか」」
「あは〜、ごだいがー……おどってるー」
「俺の芸見てないで、お前等も何かやれ〜♪」


 一頻り踊り終えた俺は、ほっかむりを取る。
 すると三人と一匹は顔を見合わせた。社ちゃんが一番最初に芸をしてくれるらしく、よっこいせっと立ち上がる。そして持っていた扇子をひゅんっと開くと、そのまま左から右へ仰いだ。その瞬間、突風が吹き目の前の桜へと飛んでいく。桜の花びらを突風で勢い良く吹き飛ばし、それから自分達の目の前まで持ってきた。更に扇子を仰ぐと花びら達は俺達を囲むようにくるくると舞い踊る。
 其れはとても綺麗な舞だが、花を奪われた桜は裸になってしまっていた。


「あーあ、桜が可哀想ー」
「あーあ、桜可哀想に……」
「ええとー、こういうときはぁー……!!」


 いよかんさんがなにやら思い立ったらしく、何処かへ走っていく。
 しかし酒が入った身体は真っ直ぐに歩けないらしく、変な方向に曲がってしまう。池の方に落ちそうになってしまったので、スガタが慌てて彼? に駆け寄って抱き上げる。きゃっきゃと無駄にテンションの高い彼? の身体からはビールと伊予柑の交じった香りが流れてきた。するといよかんさんがカガミを呼ぶ。彼は歩んでいった。


「何やってんだ、お前」
「きゃぁー……! あのね、あのねー」
「んん?」


 いよかんさんを中心になにやらぼそぼそと内緒話がされる。
 そんな彼らを見て「何を話しているんだろう?」と首を傾げた。やがて話し終えた二人と一匹が何処かへ消える。俺は社ちゃんと顔を見合わせた。
 やがて戻ってきた二人と一匹の手には何故か鍋が抱えられている。いよかんさんを抱えたスガタはふわりと裸になった桜の上へと飛び乗った。同じ様にカガミも後を追う。
 何が始められるのかと社ちゃんと二人で注目していると、彼らは鍋から何かを掴みとり、ばっと撒いた。


 ざっ!
 ぽんぽんぽんー!
 ざざっ!
 ぽんぽんぽぽーん!!


「はなさかいよかんさぁーん、とー」
「花咲かスガタ」
「そして花咲かカガミ」
「「「の、できあがりー」」」


 二人と一匹が撒いたのは灰。
 昔話の一部が目の前で展開され、俺は思わずぱちぱちぱち! と力強く拍手を送った。社ちゃんもほえーと見上げ、楽しそうに笑顔を浮かべる。それから扇子を動かして、皆の湯飲みの方をさす。ひらり……と一枚がお茶の中に入り、風流な光景の出来上がり。他の花びらはシートの外で山のように纏まった。


「突然巻き込まれた花見だけどよ、結構楽しいな」
「でっしょー?」


 社ちゃんと二人でくすくす笑う。
 桜舞う季節。
 突然巻き込まれた花見騒動。まだまだ桜が散るには時間がある。それまで楽しくやろうと心に決め、俺は桜の入った湯飲みを手に取った。





……Fin





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1335 / 五代・真 (ごだい・まこと) / 男 / 20歳 / バックパッカー】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、お花見にお付き合い下さって有難う御座いましたv
 どじょうすくい……! 実は見たことがないので、こっそりみたかったりします(笑)楽しい余興有難う御座いましたv