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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【メイドさん検定】来れ、メイドさん
●オープニング【0】
 冬美原――古き物と新しき物が混在する街。その違いは駅を挟んで顕著である。
 駅の東側は旧市街と呼ばれる。旧冬美原城のあった城址公園を中心に寺院や神社があって、細く入り組んだ道も多い街だ。古くから続く店も少なくはなく、天川高校やエミリア学院といった伝統ある学校があるのもこちら旧市街である。
 一方、駅の西側は新市街と呼ばれる。新興住宅地を擁し、計画的に造られた広い道路がある街だ。そのため、大型小売店などの新規出店も相次ぎ、生活する上では便利になっている。ちなみに冬美原情報大学があるのも、この新市街の方だ。
 さて、そんな新市街に大きなお屋敷があった。恐らくそれなりに財力ある者が住んでいると噂されているが……具体的に誰が住んでいるかは把握されていない。いつもひっそりとしていて、謎の多いお屋敷である。
 4月某日、冬美原で読まれている鈴丘新聞にある広告が掲載された。それは『メイドさん検定』なる広告で、受験者のメイドさんスキルを見極めて認定証を発行するというものであった。
 今回の検定テーマは『掃除』。何をどうやってメイドさんスキルを見極めるのかはよく分からないが、何やら面白そうではある。
 気になる受験料は何と無料で、受験場所として記されていた住所は新市街にある大きなお屋敷。どうやらそこで検定を行うようなのだが……?

●ティータイムにて【1】
 エミリア学院――大学部内にあるティールームに、1組の男女の姿があった。
「……なるほど、特別変わったことはありませんでしたか」
 ティーカップを置き、安堵の表情を見せたのは宮小路皇騎である。
「ええ。それは落ち着いたものでした」
 こくんと頷いてからティーカップを口元へ運ぶのは篠原美沙姫。宮小路家の若きメイド長にして傍系で、さらに皇騎の幼馴染みでもある。
 何故に2人がここでお茶を楽しんでいるかといえば、皇騎がエミリア学院に顔を出せなかった間の様子について美沙姫から報告を受けるためであった。
 もう少し順を追って説明しよう。とある事件に関わったため、冬美原に来ることはあってもエミリア学院での授業はしばらく休講にしていた皇騎。今日はその再開の手続きのために、久々にエミリア学院を訪れていた。
 その間、エミリア学院で家庭科の非常勤講師を募集していた。そこで皇騎が紹介したのが美沙姫である。紹介したのは、皇騎が色々と立て込んでいたからなのかもしれないが、純粋に美沙姫の本職の手際のよさを評価してでもあったろう。幸いというか当然というか、生徒たちからの評判や人気は悪くないそうだ。
 そんな訳で、週1回の美沙姫の授業がある日に手続きにやってきた皇騎は、落ち合ってこうして話をしているのである。
 その最中、それを口にしたのは美沙姫の方であった。
「生徒の方が教えてくれたのですけど」
 と前置きして美沙姫が話したのは、『メイドさん検定』なる検定の広告が地元の新聞に掲載されていたということであった。
「先生受けてみませんか、と言われまして」
「ふむ……」
 美沙姫から話を聞いて、少し思案する皇騎。そしてさらりと言った。
「なら、受けてみますか?」
「はい?」
 目をぱちくりさせる美沙姫。まさかそういう言葉が返ってくるとは思っていなかったようだ。
「いいじゃないですか、生徒にも勧められたのでしょう?」
 にこっと微笑む皇騎。それから何故かとんとん拍子に話が進み、最終的には美沙姫が検定を受けることが決定した。
「……レベルを知るのによい機会かもしれませんね」
 いつの間にか、美沙姫も意欲的になっていた。

●会場にて【3】
 『メイドさん検定』会場――控え室となった大広間には50人前後の人数が集まっていただろうか。あの奇妙な広告でこれだけ集まったのは優秀と言うべきか、それとも世の中に物好きが多いということか。
 どちらだか分からないが、この場に居る者たちは会場となったお屋敷が本格的であることを知っていた。何せ玄関から大広間まで、メイドさんがわざわざ案内してくれるのだ。それも同じメイドさんが繰り返し案内しているのかと思いきや、受験者たちの言葉を聞いていると10人くらい居たようなので驚きである。
 しかも、この大広間にもメイドさんが5人、受験者たちを囲むように壁際に立っている。案内してくれたメイドさんとはいずれも別人で、背筋をぴんと伸ばして決して微動だにしない。少なくとも30分以上はその状態だ。
 受験者の席の中には篠原美沙姫、守崎啓斗、内藤祐子の姿があり、少し離れた所には付き添い者として宮小路皇騎、守崎北斗、静修院樟葉3人だけの席が設けられていた。わざわざ別れて座るよう指示されたのである。ちなみに、受験者の中で啓斗だけが唯一の男性であった。
「やっぱりな……」
 小さな溜息を吐く北斗。啓斗や受験者たちにはそのつぶやきは聞こえなかったが、そばに座っていた皇騎や樟葉にはしっかりと聞こえていた。
 その時、コンコンと大広間の扉を叩く音が響き渡った。途端に多少なりとも声のあった大広間が、急にしんと静まり返った。視線が扉へ注がれる。
 扉はゆっくりと開かれ、静かに1人のメイドさんが入ってきた。金髪で腰まである1本の三つ編みという、凛とした雰囲気漂う女性である。入ってきたメイドさんは受験者たちの前に立つと、深々と一礼した。受験者たちはもちろん、取り囲んでいた5人のメイドさんも彼女へ向かって頭を下げる。
「本日は『メイドさん検定』にお集まりいただき、誠にありがとうございます。主催者たる当館の主人に成り変わり、御礼申し上げます。わたくしは当館のメイド長を務めております、キュリアと申します。また、『メイドさん検定』の判定者を務めさせていただきます」
 キュリアのその言葉に、無言で驚きの視線を交わす受験者たち。そりゃそうだ、判定する者が突然目の前に現れたのだから。
 受験者たちの動揺など関係なく、キュリアは説明を続ける。
「試験は別室にて1人ずつ行います。受付順に番号札を手渡されたことと思いますが、その順番にお呼びいたしますので、ご自分の番号が呼ばれるまではこの大広間にてお待ちいただきますようお願いいたします。そして」
 キュリアが付き添いの3人を見た。
「付き添いの方々は、申し訳ありませんが別室にて待機をお願いいたします」
 ……どうやら大広間とは別の所へ連れてゆかれるらしい。キュリアがそう言うや否や、メイドさんの1人がそばへやってきた。
「ご案内いたします」
 そう言われては『嫌です』ともなかなか言えず。3人各々思う所はあるものの、メイドさんに案内されて大広間から出ていった。
「検定結果につきましては、後日お届けいたします。それでは受験者の皆様。ご健闘をお祈りしております」
 また深々と一礼すると、キュリアもまた大広間を出ていった。次に会うのは試験を行う部屋に違いない。

●待機中【4D】
 皇騎、北斗、樟葉の3人が通されたのはそう広くない個室であった。中にはメイドさんが2人付き添っている。いや……付き添っているというか、見張られているように思えるのは気のせいか?
 単にそれは部屋が広くないからそう思えるだけかもしれない。が、どうにも空気が重い。
 そんな中、皇騎がメイドさんたちへこんな質問をした。
「主催者はどういった方なのですか? ぜひお会いしてみたいのですがね」
「それは私もです。目的と検定の基準をお聞きしたいですね」
 樟葉が皇騎の質問に便乗した。同じことを考えているのは、何も皇騎だけではないということだ。
 だが、メイドさんたちは次のように答えた。
「主人は残念ながらご不在です、お会いすることは出来ません。検定の目的ですが、どのような状況においても十二分に能力を発揮出来るメイドを育成する、というのがあると私どもはお聞きしております。基準については私どもは知りません。メイド長はご存知のはずですが、そのご質問に答えてくださるとは思えません」
 期待外れな返事が戻ってくるだけであった。その中、北斗は別のことを考えていた。
(へーえ、『あるじ』て呼ぶのか。なら兄貴でもメイド務められそうだな……『承った、主』なんてな)
 北斗思わず苦笑い。眉間にしわ寄せて無表情で言っている啓斗のその姿、容易に想像出来るから困ったものである。
「……それじゃあ伝言だけでも」
 諦め切れないのか、樟葉がメイドさんたちへ言った。
「どういったご伝言でしょう」
「メイド検定なら、その制服はちゃんとしたメイド服であってほしいと思っています。こちらは違うようですが、ミニスカートなどもっての他ですから」
 真顔で樟葉はメイドさんたちへ告げた。メイドさんたちは必ず伝えますと答えてくれた。
 それからしばらく3人は待機していたが、順番に迎えが来て、自分たちが付き添った者たちと一緒にお屋敷を後にすることになった。

●認定証発送【5】
 後日、受験者の元には認定証代わりとなる品が届けられた。それは飾り気のないシンプルなブレスレット。認定レベルによって色が異なるようだが、いずれも裏に所有者の名前と検定実施者の家紋が彫られている。
 なお、次の『メイドさん検定』は5月下旬の予定となっているそうだ。

【【メイドさん検定】来れ、メイドさん 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 3670 / 内藤・祐子(ないとう・ゆうこ)
                / 女 / 22 / 迷子の預言者 】
【 4607 / 篠原・美沙姫(ささはら・みさき)
        / 女 / 22 / 宮小路家メイド長/『使い人』 】
【 6040 / 静修院・樟葉(せいしゅういん・くずは)
            / 女 / 19 / 妖魔(上級妖魔合身) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜(界鏡線・冬美原)』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、冬美原久々の動きとなる最初のお話は、不思議なメイド検定のお話です。調べてみたら異界としてお話が動くのは2年半近く振りですよ。『白銀の姫』で多少関係は出来ていたのですが……。
・今回のお話、高原にしては不思議な書き方になっているなと思います。この書き方、ちょっとわざとな部分もあります。あれこれと考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
・気になる検定基準ですが、本文では決して語られることはありません。が、それではあまりにもあれなので少しだけ。高原は受験者のプレイングと設定を総合的に見て判断しています。重きの置き方などはまだ言いませんが、微妙な所で差が出来ることは十分あります。少し厳しめに見ていますよ。
・検定は毎回このような感じで進んでゆきます。で、受験者には認定証代わりとなるアイテムが発行されているはずです、ご確認ください。検定を受ける度にレベルは上下に変動しますので、ご注意を。
・宮小路皇騎さん、37度目のご参加ありがとうございます。主催者の正体は謎です。色々と調べてゆけばいずれ分かるのかもしれませんが……さて?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。