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宿命の対決 ブラック・ドリルガール vs ドリルガール#6
テクニカル・インターフェイス社。秘密研究所。
手術室のような、清潔感のある一室に男が眠っている。
身体のあちこちに電極がつけられ、周りには白衣の人々が動き回っている。
「遺伝子結合手術開始」
眠っている男に、注射針が四肢、胸、に刺さる。
――此処はどこだ?
男が目を覚ますと其れは暗い棺桶のような所だった。
体中に何かしびれを感じる。電磁波独特の感触だ。
「何をしたんだ? あいつら……」
男は呟いた。
四肢はベルトで縛られており、身動きが出来ない。栄養剤の点滴の音、電磁波発生装置のモーター音が響いているだけ。変化としては、赤髪が少し伸びて目にかかるのが邪魔ぐらい。しかし、暗いはずの部屋なのに、彼には此処がしっかり見えているのだ。なにか、大がかりな実験をするための隔離室。其れを透明な素材越しで見る部屋がある。
「……しくった……」
彼は思う。
彼は神秘関連秘密結社の一員であった。しかし、今捕らわれている場所、つまりテクニカル…インターフェイス社に壊滅させられ数個の魔道器を奪われてしまった。其れを奪還すべく忍び込んだのは良いが、捕らわれてしまったのである。しかも何かをされたらしい。
「こんな事では……」
彼はもがこうとするが、拘束ベルトで身動きが取れないのだ。
そこで、仄かに明かりが灯る。
誰か来たようだ。
むこうがわの入り口のドアが開いた。
「解析の仕事も楽じゃないな……」
「まったく、」
研究員がぶつぶつ良いながら、何かをケースに入れたようだ。
「あれどうするんだろ?」
「わからん、所詮は実験作だし、洗脳させ出来れば色々テストするんだろうな」
と、喋りながら、彼を一瞥して去っていく。
彼は聞こえるはずのない会話を聞き取った。
いや、口の動きをみた。わずかな空気の振動で感知したのだろう。
「ここからでないと……。 ん?」
彼にとって幸運だった。
銀野・らせんは、研究施設の房に入れられたままであった。拘束具は解かれて、一応の手当てをされ、有る程度住みやすい場所になっている。
「私どうなるんだろう?」
ベッドでぼうっと、天井を見る。
無機質な壁、蛍光灯のあかるさ。
何をしていたのか思い出せない。
そんな感じにする圧迫した空間だった。
「結局見破られた」
銀野らせんの双子の妹のような顔立ちの少女が呟く。
自分の気分と同じ灰色の空。
結局、私は私になれなかったんだ、と痛感させられる。
生まれた場所に戻る彼女の足取りは重たかった。
「なんて幸運だ!」
研究室に置かれた物体は、奪還しようとしていた魔道器の一つ、魔法のドリルだったのだ。
――我が意志に応じろ!
彼はドリルに呼びかけた。
ドリルはカタカタ動き始め、メカ的な形から、幻想的な形に形質変化した。ドリルは彼を縛っていた拘束ベルトを切り裂き、腕に装着される。魔力量も使っていた者に比例するかのように、強くなっていた。
「あのベルトも取り戻す……」
と、彼は、研究室のドアをドリルで貫いた。
警報が鳴る。
警備兵や怪人が彼を止めようとするが、真のドリルの力を解放している彼に太刀打ちできない。そして、重要武器庫にたどり着いた彼は、目の前に安置されている、ブレスレットを見て笑った。
「やっと見つけた……。脱出しよう……?」
と、天井を見るのだが。
――ドリルの意志が何かを頼んでいる……。
「なに? ……分かった。ついでだ」
彼はそれに応えることにした。
「な? 何が起こったの?」
らせんはこの振動に驚いた。
まさか、大地震? いやよ! こんな暗い部屋で命落とすなんて! 恋もしたいし、アレと一緒に遊び足りてないのに!
と、心の中か大声か分からないが叫んでいるらせん。青春真っ盛りの少女が、こんな無機質なコンクリートの固まりの中で圧死という、寂しい最期は嫌なものだ。
「だしてー! だしてー! だしてー!」
ドアを叩く。
今の彼女は無力だ。
「しにたくないよう」
悄気る。
振動は此処に近づいてくる。人の悲鳴も。
「逃すなー!」
「隊長!」
「非戦闘員は退避! 15番隊前に! 奴を止めろ!」
「が沈黙! 再生できません!」
と、何かと戦っているようだ。
「な? なんなの?」
らせんが、部屋の隅に蹲る。
警報の音や悲鳴、爆音。其れが入り乱れる中。
「だしてー! こんなところで死にたくない〜!」
と、叫んだ。
――なら助けようか。ドリルの所持者?
「は……?」
らせんに声が届いたとたん、天井の崩壊音。
「きゃああ!」
そこには、赤毛の欧州人がドリルを装備して降り立ってきた。
「ドリルに頼まれたから助けるまで、本来ならそのまま出るつもりだった」
「え? え? どう。どれがどうなってるの?」
混乱するらせんの質問を無視して、男は彼女を横抱きにして天井を突き破っていく。
「うわわわわ!」
らせんは分かる、今はドリルマンが助けてくれていると。
――白馬の王子様じゃなくドリルの王子様……じゃないって!
と、混乱した中で間抜けな事を考えるらせんだが、そう思うほどに彼は強かった。
そして、裏口から出ると日差しが眩しい。
「うわ!」
らせんは眩しすぎて目を瞑る。
なれてきた時に、はっと気付いた。
なんとブラック・ドリルガールが武装して二人の目の前に立ちはだかっていた。
「アラートメールが来たと思えば……。まさか脱走するとはな。オリジナル!」
と、ブラック・ドリルガールが怒鳴る。
「私も何のことかわかんないよ! なに? ドラマの撮影? 私ヒロイン?」
混乱中のらせん。
こんな状態で冷静にいられる人はそういないはずだ。彼女の限られた情報で理解しようとすればこうなるだろうか。
「其処で待っていろ」
と、男はらせんを地面に立たせて、ブラック・ドリルガールに向かい合った。
「来るか!」
両者は跳ねた。
金属が、摩擦し火花が飛び散る。ブラック・ドリルガールの攻撃をはじく男。
「な、なんで? 互角なの?」
らせんは驚いた。
自分で敵わなかった、クローンに此処まで男が互角に戦えるなんて信じられなかった。
やと、思考がクリアになってくる。
「解放しても、互角か科学技術だけで此処までするとは……」
男はドリルをはずし、放り投げた。
そのドリルが放射線状に落ちていく瞬間……
「しかし、科学におぼれることを公開するが良い! TI!」
背中から翼が生える。猛禽類の其れが……。
「なに!? 遺伝子改造人間だと!?」
ブラック・ドリルガールが驚く。
舞い上がってブラック・ドリルガールに向かっていく男。その手には白金色に輝く剣。何時の間にそんなモノを持っているのか!? 彼女には理解できなかった。
彼だけが知っている。魔道器「ウルティマ・ブレスレット」あらゆる武器防具に変化できるモノなのだ。
「ナニモノダ!」
「教えるつもりはない!」
しかし、急にクローンの目の前から翻る!
「な?!!!」
「やああ!」
その隙に、ドリルガールがクローンにドリルを突き刺した!
そのまま、クローンは蹲る。朦朧状態になったようだ。
「いまのうちに!」
と、誰に言うまでもなく、二人は空に逃げていった。
空中で、ため息をつくらせん。安堵のため息だ。
「助かった。ありがとう」
「なに、ついでだ」
らせんの礼に、男はぶっきらぼうに答えた。
「もしかして、ドリルとかそのブレスレットか関係者?」
思考がクリアになったらせんは何となく分かってきた。
彼の変身中の形質変化などが違うことなども考えればそうだろう。
「……俺の名は、グリフレット・ドラゴッティだ」
「私は……銀野らせん」
「そうか……」
と、飛びに続けながら遅れた、自己紹介をする二人だった。
END
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