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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【メイドさん検定】来れ、メイドさん
●オープニング【0】
 冬美原――古き物と新しき物が混在する街。その違いは駅を挟んで顕著である。
 駅の東側は旧市街と呼ばれる。旧冬美原城のあった城址公園を中心に寺院や神社があって、細く入り組んだ道も多い街だ。古くから続く店も少なくはなく、天川高校やエミリア学院といった伝統ある学校があるのもこちら旧市街である。
 一方、駅の西側は新市街と呼ばれる。新興住宅地を擁し、計画的に造られた広い道路がある街だ。そのため、大型小売店などの新規出店も相次ぎ、生活する上では便利になっている。ちなみに冬美原情報大学があるのも、この新市街の方だ。
 さて、そんな新市街に大きなお屋敷があった。恐らくそれなりに財力ある者が住んでいると噂されているが……具体的に誰が住んでいるかは把握されていない。いつもひっそりとしていて、謎の多いお屋敷である。
 4月某日、冬美原で読まれている鈴丘新聞にある広告が掲載された。それは『メイドさん検定』なる広告で、受験者のメイドさんスキルを見極めて認定証を発行するというものであった。
 今回の検定テーマは『掃除』。何をどうやってメイドさんスキルを見極めるのかはよく分からないが、何やら面白そうではある。
 気になる受験料は何と無料で、受験場所として記されていた住所は新市街にある大きなお屋敷。どうやらそこで検定を行うようなのだが……?

●兄の行動に悩む弟の図【2A】
「つーか兄貴」
「……どうした?」
 冬美原駅――改札を出て来て早々、守崎北斗は兄の守崎啓斗に話しかけた。北斗の表情は呆れ顔、一方の啓斗の表情は……普段と別に変わりはしない。
「本気かよ?」
「本気だが?」
 北斗の言葉に間髪入れず答える啓斗。
「……何も受けなくていいだろ、メイド検定」
 北斗が深い溜息を吐いた。弟しては兄の行動はどうなんだ……と多少は思っているのかもしれないが、それより何より啓斗がメイド服を着るんじゃないかという懸念があった。ゆえに自分もわざわざ付き添いとして冬美原へやってきたのだった。
「北斗。いいか、男がメイドって違和感があるなんて思うかもしれないだろうが、男のメイドも確かに存在していたんだ。今は別の職業として認識されている『シェフ』も、元を辿ればメイドの仕事だったんだ」
「でも、だからってなあ……」
「別に」
 立ち止まり、啓斗が北斗の方へ振り向いた。
「今の俺がメイドである必要はないし、検定受けたからメイドになれとも言わないだろう? ストレートに『掃除の技量を見極めてもらえる』と考えればいい。と、新市街だから西口だな……」
 そう言うと啓斗は再び歩き出し、西口へ向かっていった。
(あーあ、もう。絶対合格しねぇって。あの言葉遣い、それから態度! 忍者の癖に主従とかすんごく嫌ってるのに、無理だって)
 やれやれといった様子で、しょうがなく啓斗の後をついてゆく北斗。
 いやまあ、それについてはあなたも同様だと思いますが、北斗さん――。

●会場にて【3】
 『メイドさん検定』会場――控え室となった大広間には50人前後の人数が集まっていただろうか。あの奇妙な広告でこれだけ集まったのは優秀と言うべきか、それとも世の中に物好きが多いということか。
 どちらだか分からないが、この場に居る者たちは会場となったお屋敷が本格的であることを知っていた。何せ玄関から大広間まで、メイドさんがわざわざ案内してくれるのだ。それも同じメイドさんが繰り返し案内しているのかと思いきや、受験者たちの言葉を聞いていると10人くらい居たようなので驚きである。
 しかも、この大広間にもメイドさんが5人、受験者たちを囲むように壁際に立っている。案内してくれたメイドさんとはいずれも別人で、背筋をぴんと伸ばして決して微動だにしない。少なくとも30分以上はその状態だ。
 受験者の席の中には篠原美沙姫、守崎啓斗、内藤祐子の姿があり、少し離れた所には付き添い者として宮小路皇騎、守崎北斗、静修院樟葉3人だけの席が設けられていた。わざわざ別れて座るよう指示されたのである。ちなみに、受験者の中で啓斗だけが唯一の男性であった。
「やっぱりな……」
 小さな溜息を吐く北斗。啓斗や受験者たちにはそのつぶやきは聞こえなかったが、そばに座っていた皇騎や樟葉にはしっかりと聞こえていた。
 その時、コンコンと大広間の扉を叩く音が響き渡った。途端に多少なりとも声のあった大広間が、急にしんと静まり返った。視線が扉へ注がれる。
 扉はゆっくりと開かれ、静かに1人のメイドさんが入ってきた。金髪で腰まである1本の三つ編みという、凛とした雰囲気漂う女性である。入ってきたメイドさんは受験者たちの前に立つと、深々と一礼した。受験者たちはもちろん、取り囲んでいた5人のメイドさんも彼女へ向かって頭を下げる。
「本日は『メイドさん検定』にお集まりいただき、誠にありがとうございます。主催者たる当館の主人に成り変わり、御礼申し上げます。わたくしは当館のメイド長を務めております、キュリアと申します。また、『メイドさん検定』の判定者を務めさせていただきます」
 キュリアのその言葉に、無言で驚きの視線を交わす受験者たち。そりゃそうだ、判定する者が突然目の前に現れたのだから。
 受験者たちの動揺など関係なく、キュリアは説明を続ける。
「試験は別室にて1人ずつ行います。受付順に番号札を手渡されたことと思いますが、その順番にお呼びいたしますので、ご自分の番号が呼ばれるまではこの大広間にてお待ちいただきますようお願いいたします。そして」
 キュリアが付き添いの3人を見た。
「付き添いの方々は、申し訳ありませんが別室にて待機をお願いいたします」
 ……どうやら大広間とは別の所へ連れてゆかれるらしい。キュリアがそう言うや否や、メイドさんの1人がそばへやってきた。
「ご案内いたします」
 そう言われては『嫌です』ともなかなか言えず。3人各々思う所はあるものの、メイドさんに案内されて大広間から出ていった。
「検定結果につきましては、後日お届けいたします。それでは受験者の皆様。ご健闘をお祈りしております」
 また深々と一礼すると、キュリアもまた大広間を出ていった。次に会うのは試験を行う部屋に違いない。

●待機中【4D】
 皇騎、北斗、樟葉の3人が通されたのはそう広くない個室であった。中にはメイドさんが2人付き添っている。いや……付き添っているというか、見張られているように思えるのは気のせいか?
 単にそれは部屋が広くないからそう思えるだけかもしれない。が、どうにも空気が重い。
 そんな中、皇騎がメイドさんたちへこんな質問をした。
「主催者はどういった方なのですか? ぜひお会いしてみたいのですがね」
「それは私もです。目的と検定の基準をお聞きしたいですね」
 樟葉が皇騎の質問に便乗した。同じことを考えているのは、何も皇騎だけではないということだ。
 だが、メイドさんたちは次のように答えた。
「主人は残念ながらご不在です、お会いすることは出来ません。検定の目的ですが、どのような状況においても十二分に能力を発揮出来るメイドを育成する、というのがあると私どもはお聞きしております。基準については私どもは知りません。メイド長はご存知のはずですが、そのご質問に答えてくださるとは思えません」
 期待外れな返事が戻ってくるだけであった。その中、北斗は別のことを考えていた。
(へーえ、『あるじ』て呼ぶのか。なら兄貴でもメイド務められそうだな……『承った、主』なんてな)
 北斗思わず苦笑い。眉間にしわ寄せて無表情で言っている啓斗のその姿、容易に想像出来るから困ったものである。
「……それじゃあ伝言だけでも」
 諦め切れないのか、樟葉がメイドさんたちへ言った。
「どういったご伝言でしょう」
「メイド検定なら、その制服はちゃんとしたメイド服であってほしいと思っています。こちらは違うようですが、ミニスカートなどもっての他ですから」
 真顔で樟葉はメイドさんたちへ告げた。メイドさんたちは必ず伝えますと答えてくれた。
 それからしばらく3人は待機していたが、順番に迎えが来て、自分たちが付き添った者たちと一緒にお屋敷を後にすることになった。

●認定証発送【5】
 後日、受験者の元には認定証代わりとなる品が届けられた。それは飾り気のないシンプルなブレスレット。認定レベルによって色が異なるようだが、いずれも裏に所有者の名前と検定実施者の家紋が彫られている。
 なお、次の『メイドさん検定』は5月下旬の予定となっているそうだ。

【【メイドさん検定】来れ、メイドさん 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 3670 / 内藤・祐子(ないとう・ゆうこ)
                / 女 / 22 / 迷子の預言者 】
【 4607 / 篠原・美沙姫(ささはら・みさき)
        / 女 / 22 / 宮小路家メイド長/『使い人』 】
【 6040 / 静修院・樟葉(せいしゅういん・くずは)
            / 女 / 19 / 妖魔(上級妖魔合身) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜(界鏡線・冬美原)』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、冬美原久々の動きとなる最初のお話は、不思議なメイド検定のお話です。調べてみたら異界としてお話が動くのは2年半近く振りですよ。『白銀の姫』で多少関係は出来ていたのですが……。
・今回のお話、高原にしては不思議な書き方になっているなと思います。この書き方、ちょっとわざとな部分もあります。あれこれと考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
・気になる検定基準ですが、本文では決して語られることはありません。が、それではあまりにもあれなので少しだけ。高原は受験者のプレイングと設定を総合的に見て判断しています。重きの置き方などはまだ言いませんが、微妙な所で差が出来ることは十分あります。少し厳しめに見ていますよ。
・検定は毎回このような感じで進んでゆきます。で、受験者には認定証代わりとなるアイテムが発行されているはずです、ご確認ください。検定を受ける度にレベルは上下に変動しますので、ご注意を。
・守崎北斗さん、12度目のご参加ありがとうございます。ご自身が受けたり、メイド服を着たりすることがなくて一安心でしょうか。ちなみに、啓斗さんそれなりの成績みたいですよ?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。