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謎賭けの鐘
あなたに、問いを。
どこからともなく音が響く。
この音に誘われるかのように足を進めると、そこには教会があった。
仕事帰り、ここの鐘に誘われたのか、と思う。
法条風槻は目の前の教会を見上げた。
そして興味をそそらせてその教会の扉をそっと開く。
白く白く、静かに、確かに存在している。
どこか、教会で清廉な空気が漂っているはずなのに違和感を感じる。
と、誰かが祈りをささげている。
この場には、自分とその人しかいない。
祈りをささげていた人は、立ち上がり、こちらを向く。
シスターでもなんでもない、関係ないような雰囲気。
真っ白な肌は透き通るようで、毒をもったように赤い瞳と髪。
けれども、目鼻立ちは整って、ひき付けられる。
男か女かわからない。
風槻はじっと、その人物を見詰めた。見極めようとするのだけれどもやはりわからない。
「私は、ルカ」
と、いきなり口を開きルカと名乗られる。そのまま、ルカは言葉を続けた。
「私は問う者、あなたは答える人。これは謎賭け、私は三つ問う」
にこりと向けられた笑みは、どこか破綻している。
「上から下へ、下から上へ。それは全ての源、形はさまざま、だけれども世界の半分以上を覆うもの。清らかでも有り、汚れでもある。これは、水」
上から下は、雲から雨を、下から上へは、海から雲へ。全ての源は、生きるために。世界の半分以上は、海の事。清水と汚水。
ルカはそう説明し、そしてじっと見詰めてくる。
こんな風に問うのだ、と暗に示している。
「心の準備は、いいかな？ 三つ全部、あっていればあなたに何かほしい物、あげるよ。でも、間違えたら……間違えたら……何もあげない。そう、ただこのルカの暇つぶしにつきあってほしいだけ」
艶然と微笑むルカ。つきあってくれるかどうか、それを静かに問うている。
風槻は少し表情を緩めた。
「急ですね。まぁ、構いませんけど。あたしは風槻、法条風槻。どっちでもお好きなように読んで構わないわ」
「そう、風槻ね。風槻、風槻……うん、ルカはあなたを覚えた」
「そう、ありがとう。じゃあ……問いを聞こうかしら」
風槻はいつでもどうぞ、というように笑いかける。
その様子を見、ルカは口を開いた。
「一つ目、それは形はあるけれどもつかめないもの。場所によっては見下ろし、見下ろされるもの。それは色々な物事のたとえにも使われる。静かな、穏やかな姿と、激しい姿。どちらも持ち合わせている」
一息で言い切り、ルカは答えは、というような表情を向けてくる。
「それは、雲よ」
「ええ、あたり。簡単だったかな？」
「簡単……というよりも慣れてるからかな。さ、次は何？」
風槻は苦笑しながら次を促す。自分のしている仕事で日々磨いている能力がこんな時に発揮されるなんて。
ルカはにこりと笑い次の問いを口にする。
「二つ目、それは形無きもの。あなたの中にもあるはずのもの。熱く、激しく、あなたを突き動かすであろうもの。何かを求めるとき、それに突き進むときに、それを感じるのかもしれない」
ルカの紡ぐ言葉を風槻は一つずつ丁寧に受け取りそれに見合ったものをすぐに探し当てる。
「情熱ね」
「うん、あたり。早いね、答えを出すのが、迷いがない。そういうのはルカは好き」
「そうかな？ 自分の仕事が恨めしいよね……色々ありそうでやっぱり迷うけど、さくっと削除していって、もしくは最初の直感的に浮かんだものがいいのかな。さ、次は最後の問いね。間違ったときはその時だしね」
そうだね、とルカは頷く。
「けどルカは、風槻はこの問いも答えを導いてくれると思うよ。三つ目を問う前に、何が欲しいのか聞いておこうかな。何が風槻はほしい？」
「欲しい物……物は情報でも構わない？」
「うん、なんでも。ルカは何でも与えるよ」
その言葉に風槻はそう、と言いながら笑む。
「それじゃあこの辺りで美味しい食事を出しているお店を教えて欲しいな。珈琲が美味しかったらなおさら良し。今それ以外に欲しい物はないの」
「うん、わかった。じゃあ三つ目、それは形無きもの。書き留められることもある、それは振動。美しくも、悲しくも、楽しくも、表現できる可能性を持っている。人の心を豊かにも、するものかもしれない」
「音楽ね」
風槻はすぐに答える。
ルカの表情は柔らかく、喜んでいるようだった。
「当たり、風槻はルカの予想を裏切らなかったね、うん、ありがとう」
「お礼を言われるほどのことじゃないわよ」
「そうかな？ でもルカは嬉しかったんだ、だからありがとう。さて、風槻の欲しい物は、ここから出てすぐ目の前にあるよ、右斜め前かな。美味しい食事と珈琲があなたを満たしてくれるはず、きっと気に入るよ」
ルカは笑顔でそう言う。
風槻の記憶ではそんな店らしいものは無かったはずだったと思う。
「それは気が付かなかった……ええ、今から行ってみるわ」
風槻は髪を翻し、扉の方へと向かう。
肩越しに振り向くとルカが手を振っていた。
「風槻、さようなら」
「さようなら、また会えるかな？」
「ルカはいつでもここにいるよ」
扉の前で立ち止まり、風槻はわかったと言う。
一押しですっとその扉は開き眩しい光を受ける。
教会からでて右斜め前を見ると、こじんまりとした店が看板を出していた。
店の外には小さな黒板が置かれそこにメニューが書いてあるようだった。
静かに教会の扉を閉め、風槻はそこへと向かう。
今得た情報を自分で確かめるためにも、そこへ。
<END>
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【6235/法条・風槻/女性/25歳/情報請負人】
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■ ライター通信 ■
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法条・風槻さま
はじめまして、此度はありがとうございました、ライターの志摩です。
三問正解おめでとうございます…！風槻さまイメージを上手に出せていればいいなぁと思っております。
このノベルの問いは毎回変わっていく仕様なので風槻さまだけの物語となっております。ちょっとでも楽しんでいただければ幸いです！
それではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います！
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