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<東京怪談・PCゲームノベル>


惚れ薬 またたび




 からりと銀屋の扉を開ける。
 奥から聞こえる声は二つだった。
 仲良さそうに、話す声。
 小坂佑紀はゆっくりと、いつもおなじみの和室へと向かう。
「こんにちは。あれ、二人だけなのね、奈津さんたちは?」
「おねーさん! 皆出かけて俺と千パパがお留守番なんだっ!」
「こんにちは、奈津ほど美味くないが……茶を淹れよう」
 佑紀を迎えたのは小判と千両だ。
 向けられた表情はとても好意的で、佑紀もにこりと思わず笑み返す。
「それじゃあご馳走になろうかな」
「わーい、おねーさんも一緒ー!」
 小判がたっと走り寄って佑紀の手を引っ張る。
 そしてふと、思い出したようににこぉっと笑った。
「おねーさんおねーさん、奈津さんからもらったもの飲んでみるー?」
「奈津さんからもらった……怪しいものなら嫌よ」
「えー……えいっ」
「!」
 不意打ちで、突然に。
 口の中へと放り込まれた白いもの。ソレと同じものを小判もこくんと飲み込む。
 その様子を千両が、あ……という表情で見詰めた。


 じわりじわりと身体の奥が、心の奥が熱くなる。
 かぁっと顔が熱くなって、鼓動は早くなる。
 不思議な、不思議な感覚。
 とくんとくんと、しみこんでいく様な。


 瞳と瞳が合う。
 小判も佑紀もにっこりと、えへへと笑い合った。
 そしてぴょんっと小判は飛び上がって佑紀に抱きつく。
「おねーさん大好きー!」
「私も大好きよ」
 ぎゅーっと互いに抱きしめあって、その姿は微笑ましい。
 だけれども、千両にとっては一大事だ。
「あああ、ここここここ、小判たん……?」
「何、千パパー?」
「いや、その……ええとな……」
「千パパ、人の恋路は邪魔しちゃ駄目なんだよ! ねー!」
「ええ、そうね」
 にこぉっと、ちょっと照れつつ幸せそうな笑顔。
 それは今まで千両がほぼ独り占めしていたものなのに今現在は佑紀のためだけに向けられている。
「えへへへへ」
 小判の二本の尻尾はゆらゆらと嬉しそうに動いていた。
「あ、そ、そんなにくっついたら……」
「だって好きだから!」
 ストレートな言葉は嬉しいのだけれども照れる。
 佑紀はかぁっと顔を赤くしてちょっとだけ俯いた。
「おねーさん、顔赤いよ?」
「き、気のせいよ!」
 ふぃっと視線をそらす。下から送られる小判の視線が強くて強くて佑紀はたじたじとしてしまう。
「えへへへ」
「何?」
「何でもないよっ」
 もうしょうがないわね、と柔らかい笑みを佑紀は送る。
 一緒にすとん、と座って小判は佑紀の膝に肘を付いて見上げてくる。
 ぱたぱたと足を動かして嬉しそうだ。
 佑紀は小判の頭をなでて、くすぐったいと笑いながら逃げようとするのを追いかけたりもする。
「もうくすぐったいよ、おねーさん!」
「そう?」
 ぷぅっと頬を膨らますものの、その表情は本当に嫌というわけではなくて、楽しんでいる。
 佑紀も同じようでこのじゃれあいを楽しみ、ほんわか嬉しいようだ。
 表情がいつもよりもとても柔らかい。
 そんな二人を前に、千両が落ち着いていられるわけがない。
 その肩はわなわなと震えていた。
「ど、どうなっている……んだ? 小判たんは小判たんでこんなはずは……」
「あ、ちょっと小判君!」
「!?」
 と、そんな千両の耳にくすぐったそうな、照れくさそうな佑紀の声が響く。
 小判が背を伸ばして、佑紀の首に手を回し抱きついているのだ。
 そして頬と頬を擦り合わせたりなどしている。
「くすぐったいから、ね?」
「さっきのお返し!」
「イタズラっ子なんだから……」
「うん、俺イタズラ大好きだからね!」
 触れるか触れないか。
 そんな距離での急接近。
 ぷつん、と千両の我慢の糸が切れる。
「くっついちゃ駄目!!」
「や、千パパ邪魔しないで!」
「します!」
「千両さんちょっと……小判君っ!」
「おねーさんっ!」
 引き裂かれた恋人同士の声色は悲しげだ。
 少し心が痛むがそれどころではない。
「何か二人は間違ってる、ちょっと離れてなさい」
 小判を小脇に抱え、佑紀と距離をとる千両。
 佑紀は何で邪魔するの、と少し恨めしそうな表情を送った。
「千パパ! 邪魔するなら嫌いになるよ!」
「き、嫌いにならないで欲しい! けど邪魔する! 何かおかしいんだ!」
 じたじたと暴れる小判を千両は抑える。
 小判は千両の手に遠慮なく爪をたてる。その容赦のなさに千両は手の力を弱め、その一瞬で小判は逃げ出しまた佑紀の下へと戻る。
「おねーさんと一緒にいるの!」
「いる……らしいわ」
 堂々とした宣言に佑紀は頬を染め、苦笑しつつ同意する。
 ぎゅーっと強い力で抱きつかれる。
 どこか心地よい。
 と、ぱちりと心の中で、自分の中で何かがはじける感覚。
 はた、と佑紀と小判の視線が合う。
「えへ、またイタズラしちゃった、ごめんなさい。あれ惚れ薬なんだ」
「もう……でも……恥ずかしかったけど、ちょっと楽しかったかな」
 まだ少し赤い頬、照れた表情のまま佑紀は小判を撫でる。
 ごめんね、とくすぐったそうに笑いながら小判は佑紀に抱きついた。
「あ、もう薬切れてるでしょう?」
「うん、でも俺が好きだから抱きついてるんだよー!」
「だから離れなさい」
 べりっと。
 引き離される瞬間は少し悲しい。
 けれども先ほどの悲しさよりもそれは小さい。
「小判たん! ちょっと近づいちゃ駄目!」
「えー」
「駄目ったら駄目!」
「千両さん、今までは惚れ薬で……」
「それでも駄目だ!」
 くわっと佑紀に声を荒げて返す千両。
 その目にはじわりと涙。
 それを見て佑紀は笑った。
「小判君のお父さんは私に嫉妬してるみたいね」
「そうなの?」
「違う!」
 千両の否定的な言葉は否定でも何でもなく、肯定だった。
 佑紀はそれに、声を押し殺しながら笑った。



 このひと時は、ずっとずっと残っていく。
 惚れ薬の力でも。
 それは嫉妬されるほどのもの。




<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】


【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】

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■         ライター通信          ■
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 小坂・佑紀さま

 いつも有難うございます、惚れ薬またたびにご参加、ありがとうございましたー!
 小判と、小判といちゃついていただきました…!千両の嫉妬もおまけで付いてきます!きっとこれから千両から微妙な距離を取られることに…でも小判との距離はしっかりと縮まっているようです!
 ではではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!