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<東京怪談・PCゲームノベル>


惚れ薬 またたび




 これ、差し上げますね。百合子さんのお好きなように使って遊んでください。
 ごそりとポケットを探ってなんだろうと取り出した白い錠剤二つ。
 学校帰りに寄った銀屋、そこで奈津ノ介から貰ったものだ。
「うーん、どうしようっかなー」
 掌にころりとのせてその使い道を芳賀百合子は考えている。
 もらったのは惚れ薬。これを一緒に飲みたいと思う人は、いないようでいる。
「……会えたり、しないかなぁ……」
 ぽてぽてと歩きながらちょっとの間、瞳を閉じる。
 瞼の裏に思うのはあの人。
 と、ズベッと身体のバランスが崩れる。躓いて前につんのめる。
「!! うきゃっ! ご、ごめんなさ……」
 目を閉じていたから前は見えず、何か、誰かにぶつかりどすっとそのまま一緒にこける感覚。百合子はぱっと目を開けてその相手を見る。
 そして、驚き、嬉しくてつい抱きついてしまう。
「ん、あー…………何?」
「え、あっ、その……」
 至近距離。ぼーっと自分を座り込んだまま見るその人はまぎれもなく、あの人。
 偽皇だった。
「えい」
「?」
 咄嗟に身体が、何をしたのか理解しないまま動いた。
 奈津ノ介からもらった薬を彼、偽皇の口へと放り込み、もう一つを自分も飲み込む。


 じわりじわりと身体の奥が、心の奥が熱くなる。
 かぁっと顔が熱くなって、鼓動は早くなる。
 不思議な、不思議な感覚。
 とくんとくんと、しみこんでいく様な。


「……名前は」
「百合子……」
 名前を問われたことで、ああ、やっぱり現実では初対面なんだと百合子は実感する。
 一方的に知っているのはなんだか少し、寂しい。
「あなたは偽皇よね。私は知ってるの」
「百合子」
「何?」
 名前を呼ばれる、ただそれだけでドキドキする。
「行くぞ」
 百合子を抱きかかえたまま偽皇は立ち上がる。
 視界が高くなって、ちょっと怖いと笑いながら百合子は偽皇にしがみ付いた。
「高いところは、大丈夫だな? 駄目でも……連れて行く」
 マイペース、自分の調子は絶対に崩さない。
 とん、と一足、軽々と塀の上、屋根の上、最後にはどこかのビルの屋上。
「……あっちだ」
「ねぇ、どこ行くの?」
「知らなくていい」
 場所を定めた偽皇はそのまま今までより一層高く跳びあがる。
「ひゃあっ!」
「気持ちいいだろ」
 くくっと面白そうに笑う声。
 ひゅうと風が頬を撫でる感覚。ぎゅっと閉じていた瞳を少しずつ開けると下に広がるのはビル郡、東京。
「わぁ……すっごぉい!」
 長い滞空時間と、少しずつ落ちかける感覚。顔面に吹き付ける風は少しだけ痛い。
「目を閉じろ、良いって言うまで開けるな」
「え」
「閉じろ」
 自己中心的、と思いつつも百合子は瞳を閉じる。きっと何か驚くことがあるんだろうなと思いながら。
 と、ふっと浮遊の感覚が無くなる。
 支えられていた感がなくなって地に足が着く。突然でちょっとよろっとするもののしっかりと立つ。
「いいぞ」
 いいぞ、というのは目を開けていい、という意味らしくそっと百合子は瞳を開ける。
 最初に飛び込んでくるのは緑。綺麗な綺麗な、緑だった。
「わぁ、わぁ! すごーい! でもさっきまで東京……」
「百合子が、気にすることじゃない」
 それ以上の説明はない。きっとする気もないんだろうなと百合子は思う。
「偽皇は自分勝手だね、でも好き」
「俺も、百合子は好きだ」
 ふいっと優しい表情を百合子に向けながら偽皇は言った。百合子はかぁっと赤面する。
「もー恥ずかしいね!」
「そうか?」
「そうなの!」
 百合子はキパッと言い、歩き出す。その後ろを偽皇がついてくる足音。
 さくさくと、草を踏みしめる音。
「百合子」
「何?」
 ふっと横に並ばれる。何を言い出すのかと上目遣いで見上げる。
 と、不意打ち、手をぎゅっと握られた。
「手を繋ごう」
「もう繋いでるよ」
 そうか、と淡々とした答え。けれども手の暖かさは伝わってくる。
「偽皇は蛇なの?」
「蛇だ」
「私、山神様……蛇の神様の巫女なんだよね」
「なら俺の巫女だ。百合子は俺のものだから」
 真顔でさらりと。
 百合子は照れて、どう答えればいいのかわからず視線を落とす。
「照れて、かわいいな」
「恥ずかし……」
 面白がっているように聞こえない声色。
 百合子はちょっと恨めしそうに偽皇を見上げた。そして言葉を紡ごうと口を開く。
 と、同時に、ぱちりと心の中で、自分の中で何かがはじける感覚。
「あ……」
「…………何だ?」
 するりと手が離れる。それが、別れ。
 今までのことを思い出して、百合子はかぁっと顔を赤くしてしゃがみこんだ。
「……前に夢の中で会ってる事、覚えてる?」
「夢はよく見るが覚えて……いない」
「そう。じゃあ、今日私と出会ったことはちゃんと覚えててね! 忘れないでね!」
 きっと下から睨み上げられる、ちょっと挑戦的な強い瞳。
 偽皇はそれを受け取って笑った。
「ああ、自分のものは、忘れない」
「え、私偽皇のものじゃないよ!」
「そう言っても、俺のものなのは……変わらない」
 もう、と突っかかっていく百合子をすぽっと腕の中に。
 薬はもう切れているはずなのに、まだ恋人のようだ。
 視界はふさがれ、そしてふっと離れられる感覚。
 目を開けるとそこは、偽皇と出会った場所。
「じゃあな、百合子」
「あ、ちょっと……!」
 止める間もなく、偽皇は百合子を置いてどこかへ歩みだす。
 もうきっと振り向かないだろうな、と百合子は感じてその背をただただ見送った。
 まだ、まだ身体も心も熱い気がする。



 このひと時は、ずっとずっと残っていく。
 惚れ薬の力でも。
 でもこの出会いはきっと必然。




<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】


【NPC/偽皇/男性/813歳/享楽者】

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■         ライター通信          ■
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 芳賀・百合子さま

 いつも有難うございます、惚れ薬またたびにご参加、ありがとうございましたー!
 うっかりこけて出会ったのにしっかりと盛らさせていただきました…!(盛るって…)で、偽皇さんは何なんでしょうね、全部素でやっています、もうなんですかなんですか、こっちが照れてしまいました!(しっかり)もう私がいっぱいいっぱいです!逃げます!(…
 ではではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!