コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


限界勝負INドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影はゆらりと動いた。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

***********************************

「おや、危ないですね」
 ユラリとした動きで敵の初撃を躱す。
 その姿はまるで宙に浮くハンカチのよう。
 仮面の男、ノイバー・F・カッツェは仮面で笑みを浮かべながら敵から距離をとった。
「こちらにも準備というものがありますので、少々待っていただければありがたいのですが」
 言いながらノイバーは手袋をはめた手に金属製のカードを一枚出現させる。彼の能力である。
 それを見た人影は武器を構えなおす。
 敵の風貌は全身鎧に身を包んだ剣士。
 フルフェイスの兜を被り、その両手にしっかりと剣を持っている。
 ただ、これが夢だけあって輪郭がぼやけているように思える。
「ふむ、細かい挙動が掴めない……か。それ以前に誰だか判らない輩に襲われるというのも釈然としませんね」
 カードを構えてノイバーは仮面の奥から光る視線で敵を見る。
「その顔、拝見させていただきますよ」
 そう言った瞬間、マッチが描かれたカードから炎弾が飛び出す。
 その火の玉は真っ直ぐ剣士に向かって飛び、そして炸裂する。
 小さめの火の玉はその大きさに見合った爆発で地面の土ぼこりを舞い上げ、剣士をその中に隠す。
 すぐさま剣士はその土煙の中から飛び出て視界を確保する。
 それだけではなく、ノイバーが居た場所に向かって軽く走りこみ、突きを狙っていたようだ。
 しかし、当然そこにノイバーが居るはずもなく、剣士はあたりを確認しようとした。
 その時、耳元で囁く声が。
「ここまで近付いても輪郭がハッキリしない、という事になると、どうやら私の視力が落ちたわけではないみたいですね」
 剣士のすぐ背後にノイバーが居た。
 驚いた剣士はその場からすぐに飛び退き、ノイバーの攻撃に警戒する。
 だが、ノイバーは追撃する事はなく、思案するように仮面の顎に手をやった。
「となると、何か不思議な力が働いて姿を捉え難くなっているのか、若しくは夢だから人物像はハッキリしないという事でしょうか。いやはや、そうなると私のような存在も夢を見るということになりますね。それはそれで興味深い」
 軽く笑っているノイバー。
 緊張感が見られないのが気に食わないのか、剣士は少し腹を立てたようだった。
「おや、不興を買いましたか。それは失敬。ですが意外ですね。無口な方のわりにクールなわけではないようで」
 先程から一言も言葉を発さない剣士。
 ノイバーは勝手にこの剣士が冷静な人間だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
 戦場で冷静な人間は戦い難い。そうでないなら寧ろ好都合だ。
「ですが、熱血漢となると主人公タイプで底力が凄まじいかもしれませんね。それはそれで厄介だ」
 また軽く笑う。
 その笑い声に耐えられなかったのか、剣士は地面を蹴り、ノイバーとの距離を詰める。
 それを迎撃するために、ノイバーは剣士の足元に幾つか炎弾を打ち込む。
 しかし、それで剣士の勢いが止まる事は無く、そのまま剣士の間合いに入ってしまった。
「おや、まずいですね」
 剣士の斬撃が繰り出される前に、ノイバーはカードを持ち替える。
 次は大きな鎌が描かれたカード。
 それを発動させるとノイバーの腕に光が纏わりつき、それが刃を成す。
 剣士の繰り出す逆袈裟掛けの斬撃を、ノイバーはその光の刃で受け流した。
 胴に隙が出来た剣士に、ノイバーは軽く蹴りを入れ、そのまま距離をとる。
「痛いのはイヤですからね。簡単には斬られてあげられませんよ」
 そう言って光の刃を消し、カードを持ち替える。
 次は落雷の絵が描いてあるカード。
 すぐさまそれを構え、剣士に向かって発動する。
 そうすると電撃が剣士に向かって一直線。
 流石に光の速度を躱すことは出来ず、剣士はそれの直撃を受けてしまった。
 鉄製の全身鎧を着ている剣士には効果が抜群らしい。
 鎧の内側の生身にまで電撃が到達し、剣士の体が軽く震えた。
「あっけない。これでおしまいですか」
 勝利を掴みかけてカードを持ち替えようとしたノイバーだが、その時剣士が再び間合いを詰めてくる。
 これには少し驚きだ。
 ノイバーも剣士を殺さない程度に手加減したつもりだが、すぐに動けるほど軽い電撃を流した覚えは無い。
「……何か、秘密が……?」
 少し警戒して、ノイバーは再び光の刃を生成した。
 上段からの拝み討ちをヒラリと躱し、返しの刃の薙ぎを光の刃で打ち落とす。
 相手の剣が地に多少めり込んだのを見て、ノイバーは距離をとり、カードを持ち替える。
 マッチのカードを取り出し、今までの炎弾とは違い、火炎放射を繰り出す。
 高温の炎が剣士の体を舐めるが、剣士はそれでもお構いなしで突進してくる。
 地面にめり込んだ剣を力任せに引き抜き、その勢いでノイバーと距離を詰める。
 ノイバーは火炎にダメージどころか怯みもしない剣士に多少驚きつつカードを持ち替え、光の刃を作る。
 剣士の脇から放たれる薙ぎの一撃をバックステップで避け、次の打ち降ろしを光の刃で受ける。
 そのまま鍔迫り合いに持ち込み、剣士のぼやけた頭をマジマジ覗く。
「ふむ、なるほど、大体予想がつきましたよ」
 無口な剣士の冷静さを欠く立ち振る舞い、曖昧な輪郭、そしてその剣士の無敵のヒーローっぷり。
 ノイバーは剣を弾き、剣士から距離をとった。
「まぁ、確信が得られるまではもう少し遊ぶとしますか」
 そう言ってカードを持ち替え、電撃を走らせた。
 それをまた受けた剣士はまたビクっと体を震わせる。
「なるほど。電撃は有効ですか」
 炎をもろともしないわりには電撃有効、と不思議な剣士にノイバーは笑いを隠せなかった。
 笑いながらノイバーは大きな鎌が描かれたカードを持ち、光の刃を生成する。
 今度はノイバーから接近戦を仕掛けた。
 ノイバーが繰り出す袈裟懸けの一撃。
 剣士はそれを紙一重で避け、反撃はせずに距離を取った。
「反応が鈍くなってますね。どうやら電撃が効いてるって所ですか」
 ノイバーは呟きながら剣士を追いかけ、追撃の一撃を繰り出す。
 心臓を狙う突きを剣士は左手で跳ね除け、反撃に左脇腹を狙った逆袈裟がけの斬撃を繰り出してくる。
 ノイバーはそれを軽く仰け反るだけで避け、体を回転させ、下段から斬り上げる。
 剣士は剣を打ち下ろし、ノイバーの斬り上げを止める。
 剣士の剣とノイバーの光の刃がぶつかる瞬間に、ノイバーは光の刃を消し、カードを持ち替える。
 落雷のカードを剣士に見せるように取り出し、それを翳す。その間にノイバーの光の刃と言うぶつかる対象を失った剣士の剣は思い切り地面を穿ち、深く刀身を埋めた。
 落雷のカードを見た剣士は驚いてカードの直線上から避けようとするが、剣が抜けず、身動きが取れなかった。
 当然、カードから放たれる電撃を躱すことは出来ず、いつものように直撃を受けた。
「……っが!」
 その時、初めてノイバー以外の声が聞こえた。苦悶に歪んだ悲鳴が。
 それは勿論、剣士のものであると考えるのが普通だが、その声は剣士とは違う方向から聞こえてきた。
「そこですね!」
 ノイバーはそれを聞き逃さず、方向を見定め、カードを持ち替える。
 薔薇が描かれたそのカードは発動した瞬間、地面から無数の茨を召喚した。
 現れた茨は剣士を締め上げ、拘束しただけで終わらず、ノイバーの死角に居たある人物をも宙に持ち上げた。
「さぁ、見つけましたよ」
 満足げに持ち上げられた人物を見上げるノイバー。
 その持ち上げられた人物は少年。
 小学生か、若しくはそれよりも下だろうか。
 そんな年恰好の少年が、そこに居た。

***********************************

「ふむ、私の思ったとおりだ」
 少年は悔しげに唸ってノイバーを見ていた。
 対したノイバーは表情の変わらぬ仮面で少年を見つめる。
「それで、どうします? まだやりますか?」
「……姿が見られた時点でオイラの負けだよ」
 歳恰好の割に往生際をわきまえた少年は、言葉の通り抵抗する意思は無いようだ。
「まぁ、貴方自身に戦闘能力はなさそうですしね。当然といえば当然ですか。ただ、人形がダメになったら諦めるというのは男としてどうかと思いますよ」
「大きなお世話だ!」

 あの剣士は少年の操る人形だったのだ。
 少年らしく、剣と無敵のヒーローに憧れるが、子供らしくそれがハッキリした像を結ばない。
 それ故、あの剣士は輪郭がぼやけ、炎に対して動じなかったのだ。
 ただ、操作を潤滑にするために少年と一部神経を共有しているらしい剣士は電撃を受けるとその電撃が少年に送り込まれるらしい。
 だから電撃だけが有効だったのだ。

「私も鬼ではありませんし、ここから出る方法を教えてくれれば、これ以上危害は加えませんよ」
「……心配しなくてもその内出られるさ」
「そうですか。それは良かった」
 そう言って軽く笑ったノイバーは少年を解放し、そのまま夢から覚めていった。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【6139 / ノイバー・F・カッツェ (のいばー・えふ・かっつぇ) / 男性 / 700歳 / 人造妖魔/『インビジブル』メンバー】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 ノイバー・F・カッツェ様、シナリオにご参加くださり本当にありがとうございます! 『少年の頃は戦隊モノのレッドに憧れた事はありません。専ら青とか緑とかでした』ピコかめです。(何
 多様な魔法を扱うキャラは戦闘が賑やかになりますよね。接近戦ばかりよりも書くのが面白いかもしれない。

 温厚な方らしいので、敵をぶちのめす以外の戦闘決着方法を考えたらこうなりました。
 今回の勝敗は完全勝利ですね。無傷のパーフェクト勝利です。
 姿を見せたら負けだ! って言うと何となく傀儡士が思い浮かんだので、敵は人形使い。
 魔法使い対人形使いとか、何となく燃えるぜ。(何
 そんなこんなで、次回も気が向いたらまたよろしくお願いします!