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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。


〈働かず者、食うべからず〉
 あれから、数日がたったと思います。
 レノア様も魅月姫様も今の離れでゆっくりしておられます。わたくしもこの平穏な日々があると言うことを忘れていたほどです。
 ただ、色々気がかりなことはあります。レノア様の記憶と狙う敵、そして魅月姫様との関係……。ですが、其れは時期が来れば分かることです。
 レノア様の寝顔は、とても美しく、ため息がでるほどです。本当に天使なのかなぁと思います。先日は色々あったので、ゆっくりしてもらいました。しかし、2人も人が増えたので理力によって新しい部屋を作っている状態です。家主が退魔行にて出かけている間、わたくしが留守を預かっているので、責任は重大です。もっとも、レノア様が放った光に依って、ここは清浄化されて、よろしくない存在は近寄れなくなっているようですが……。
 今できると言うところはまず、あのお二人にも仕事をしてもらうことでしょうか? レノア様も何か恩返しがしたいということですし。良い頃合いだと思います。
 朝、朝食を取っているとき、わたくしはお二人にこういいました。
「いま、わたくしの離れは増築中ですし、実は家主は留守にしています」
 納豆を混ぜることに悪戦苦闘しているレノア様と、和食を普通に食べている魅月姫様は、私の顔を見ています。
 いかにも「?」と、いう風。あ、レノア様納豆が鼻についていますよ……。
「なので、私たちが神社の境内など掃除しなくてはなりません。手伝ってもらえませんか?」
 と、切り出すのですが。
 魅月姫様は小首をかしげています。しかし、レノア様がにこっと笑い、
「はい! がんばります!」
 と、握り拳を作っているのでした。
 何となくですが、このパターンだと凄いことが起こりそうですが……。
「私もしなくちゃいけないの?」
 魅月姫様は疑問に思っている様子。
 彼女が、この歳月何を見て何を感じていたのかは、想像できませんが、この際、そのことを考えるない方が良いでしょう……。
「本来客人はもてなすということですが、緊急事態です。私はここの居候で、色々あります」
 最も、この神社はわたくしを崇拝する所ですけど……其れは置いておき、
「働かざる者食うべからず、故、色々家事手伝いをしなくてはなりません。共同生活をしている以上義務を負いますから」
 と、もっともらしいことを言ってみました。
 魅月姫様は少し考えて、頷いてくれました。
「ありがとうございます」
 さて、神社ですし、お二人には……うふふ……。
「がんばりますよー」
 レノア様は恩返しが出来ると思って張り切っていられます。良いことです。明るい表情がとても眩しいです。


〈手伝うのですが、まあ、なんて言いますか〉
 私は、いま境内の粗大ゴミを片づけている。巫女服で。私みたいな闇の存在が、聖属性をまつるための巫女服を着るというのは、おかしい気もするが別にいいか、と思った。レノアはこの服装について、恥ずかしいと言いながら内心楽しそうに巫女服を着ている。よく分からない。彼女は、落ち着いてから笑うようになってくれたそれだけでも良しとしよう。
 私が片づけているのはというこれは砂利だったり、土塊だったりする。
 レノアの掃除の下手さ加減は常軌を逸している……
 なんと、レノア派が箒で掃いていると、地面がえぐれ、ミスをしてこけた先で石畳が割れ、ふき掃除すれば、バケツをひっくり返し、掃除ではなくこれはまるっきり解体業に見えた。彼女1人で一戸建ては壊せるのではないのかと思うほど。あの、聖なる光と天使の羽根を持つ者と思えない。何か不具合でもあるのかと思う。記憶障害の影響かもしれない。
「あらら……レノア様……お掃除など下手なのでしょうか?」
「あう、ごめんなさい。ごめんなさい……役に立てなくて」
「亜真知、ここは私がするから、レノアは……これを」
 数十分後……。
「レノア様」
「レノアは勝手が分からない氏余り着慣れない巫女服を……」
 と、謎のフォローをする私……。
 色々レノアの失敗に巻き込まれて呆然とする。
 バケツが飛んできたり、いつの間にか穴が出来てそこにはまってしまったり……。かなりさんざんだ。しかし、レノアは至って真剣に掃除をしている。
 失敗のたびに、亜真知に注意を受けているレノアはしょんぼりして泣いているところを、私が庇った。亜真知はため息を吐いて、離れの改築に戻っていく。私はレノアの頭を撫でて慰めたわけだが、完全に気落ちしている。亜真知が苦笑しているところがあるが、別に起こっては居ないようだ。しかしレノアは別のことでしょんぼりしている感じだ。
 つまり、恩返し出来ないことだろう。
 むう、この辺について私が手伝える事はない。
 失敗しても、気持ちが伝われば良しとするか、気持ちが伝わり、かつ、成果を残してこそ恩返しかその尺度は異なるものだし、レノアの場合、この気持ちと成果はかなり対極に位置している。良くて空回り、悪く言えば仇で返している。しょんぼりするのも仕方あるまいか……。もしかすると彼女は、ひょっとすると、とてつもなく片づけ下手なのだろう。ご飯は作らさない方が良いかもしれない、と少し不安に思っておく。
 そうしているうちに、昼になった。昼食の時間だった。

「で、何とか片づいたのですが。レノア様もう気にしなくても良いのですよ」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 レノアは自分の失敗などで落ち込んでいるようだ。
 あ、犬の尻尾と耳をつけるとしょんぼりした子犬に見えなくもない。可愛いかも。
 少し笑った顔を、亜真知に見られて、私は慌てて元の無表情に戻ってみた。
「亜真知、頼みがあるのですが」
 切り出す。前から思っていること。
「はい?」
「今後の謎の敵に対策として、少し訓練がしたい。悔しいけど、あの敵にかなわない……」
「えっと、まあ、其れはいいですが、私が知る限りでは……あなたと属性相性が悪い人しか紹介できません」
「それでも、かまわない」
 と、言う。
 亜真知はため息を吐いて、分かりましたと言った。
 亜真知は未だ船とのリンクがある。しかし、私には船とのリンクの能力をあの敵に取られたのだ、杖の力を借りても実際どうなのか分からない。情報週数するためのリンクすらないのだ。ならば実際自分のスキルを上げるしかないのだ。


〈相性が悪い〉
「この電子レンジの使い方を教えますね」
「はい!」
 亜真知が色々家電のことを教えるたびに、レノアが元気よく返事をする。
 電子レンジとは言ってもハイテクが進んだタイプについて操作方法もかなり面倒になってくる。アナログっぽいメモリを回してスタートボタンを押すだけのものとか、ボタンを数回押してOKとか、暖めるだけで前もって設定をする必要があるものなどと千差万別だ。調理用になれば其れこそ数え切れない。ネットからレシピを取り寄せ可能のものなどもある。亜真知の離れにある電子レンジは至ってシンプル。中身が亜真知によって改造れていれば変わってくるが、見た目は単純にボタンを数回押して云々の普通の電子レンジである。
「このボタンを押せば良いのですね……」
 レノアは、おどおどと、カップをレンジの中に入れてドアを閉める。そして、時間設定をしてからスタートボタンを押す。しかし、
 大きな爆発音と共に、亜真知とレノアの顔は煤まみれになった。髪の毛も爆風により跳ねている。
「あううう」
「あらまぁ」
 亜真知も、リビングでテレビを見ていた魅月姫も、苦笑するしかなかった。
 レノアは機械を壊すことにはかなり驚異的な素質を持っているのだろう。彼女は電子機器を破壊する。これは困ったモノだ。能力であるなら、現代での生活し辛いのではないかと思う。まさしく漫画レベルだ。

 これは、魅月姫からでも言える事だった。
 元々一つと言うことを知る亜真知と魅月姫だが、まだ告白はしていない。その機をうかがっている感じ。しかし何となく、自分たちの考えは伝わっている。ただ、光と闇という、相反する属性であるので、干渉すると色々問題が起こる。相反しているために相性が悪いというのが一般的だ。ただ、親近感があるなしで、その相性を埋めることだって出来る。

 呼び鈴が鳴って来客を見てから、考えさせられた。
 目の前にいる、“影を斬る存在”が居ると思わず身構えてしまうものだ。
「襲われたと、聞いたから驚いてきたが、まあ、無事なようで、よかった」
 と、若いのに落ち着いた感じの青年。
「亜真知ちゃん、レノアちゃんお借りしても良い? 洋服とかいるでしょ?」
 ポニーテールの明るい女の子。
 彼らは亜真知の知り合いのようだ。
「心配してくださってありがとうございます。義明さんに茜さん」
 にこりと微笑む亜真知。
 レノアは、人見知りがあるのか怯えている。
 魅月姫は、警戒している。謎の敵とは違い、本能的に、目の前に居る義明と呼ばれた男が怖いのだ。
 目の前の“存在”を斬られる、と。
 其れもそのはず、目の前にいる其れは、影や闇という要素・属性を善悪問わずして切り伏せ消滅させる存在している装填抑止、影斬。危機本能を理性で何とか押さえ込んでいる。
「そうそう、魅月姫様が訓練をしたいといっておられますが、どうしましょう?」
 亜真知が二人に尋ねると。
「でも、訓練って、どうする? よしちゃん」
 茜が困ったように義明を見る。
「亜真知とは何とかなるが、彼女とは相性悪いと思うのだが」
 義明は腕を組んで唸っている。
 光に属する神格保持者故、力の使い方が難しいという感じだ。武術にしても、彼は刀に特化していると言うだけで万能ではない。
「私自身が、影や闇属性を扱えないからあまり役に立たないと思うのだが?」
「それでも、お願いします」
 魅月姫はそう言った。
 光に対する恐怖もあるが、まずは装填抑止と互角に渡り合えれば、自信がつくというモノだろう。
「わかった、あやかし荘近くの私の道場に来なさい」
 と、義明はそう言った。


〈レノアと……〉
「あのぉ」
 と、壁の後ろに隠れていたレノア。
 やはり人見知りが激しいようだ。義明と茜を見て、怯えている。
 茜はその仕草に胸きゅん状態のようだ。
「レノア様、この方は私のお友達です。怖がることはありません」
 亜真知がにこやかにほほえみかける。
「レノアちゃんこっちこっち」
 茜が今にも抱き締めて撫で撫でしたい様子だ。
「あ、は、はい……」
 おずおず、近寄るレノア。
 義明がにこりと笑うと、しばらくしたら、レノアも笑ったようだ。
 何となく暖かい雰囲気になる。

 ――この二人には何か通じるモノがあるらしい

 影斬をよく知る、亜真知と茜は思った。
 全く分からない魅月姫は首をかしげるだけ。ただ一寸だけ嫉妬みたいなモノがもたげる。こっちは命がけで助けて今に至っているのに、笑顔だけで懐いたことが気にくわないのだろうか?
 そのあと、は玉露と和菓子にて、まったり雑談というお茶会モードになったが、この近辺についてのお菓子談義、猫のたまり場の話になって生きている。もちろん新・天空剣道場自体が猫のたまり場なのだが、他にも色々あるようだ。
「5丁目のドイツカフェにあるケーキがとーっても美味しいのですよ」
「あ、そこはチェックしてなかったぁ!」
 亜真知が、場所を教えて茜がメモを取っている。その逆もある。
「どうやってあの甘いクリームを再現できないのです」
「パティシエの神様なのに?」
「お菓子に神秘能力を使うわけにはききません」
「そうだよねー」
 実際会話は、亜真知と茜だけのマシンガントークになっているが、義明は動じない。魅月姫だけが呆然としている。
「ここのお菓子、美味しいのかしら?」
 魅月姫が雑誌をめくり聞いた。
「うん、かなりいいよ〜」
 茜が笑う。
 レノアはその光景を見て、ぼうっとしてた。
 しかし、お皿にはたくさんのお茶菓子。
「わたひほ、そそ、しゃべちぇみひゃいふぇふ」
「?」
 食べながら何か言った様子だ。
「?? あ、ごほごほ、げっほげっほ」
 皆がレノアを見たので、恥ずかしくなって咳き込んだらしい。
「もう、お行儀が悪いですよ」
 亜真知が、背中をさすってあげて水を差しだした。急いで、水を飲むレノア。何となく可愛い。
「記憶が戻らない分、色々支障があるようだが……。何焦らないほうがいい」
 影斬は、優しくレノアの頭を撫でてあげた。
 レノアはニコニコしている。
 犬耳尻尾をつければ、尻尾を元気に振っていそうだ。と、亜真知も魅月姫も思った。
 ――今度暇なときにそのアイテム手に入れてみましょう……
 と、亜真知は考える。コネで何とか手に入れられるだろう……。
「で、食べたいのですか?」
 亜真知が尋ねる。
 レノアはうんと頷いた。
「では、今度でかけるときに、一緒に買いに行きましょうね」
「あ、はい!」
 元気よく返事するレノアであった。


〈それから〉
 3日に1度は、魅月姫は天空剣道場にて武術の練習をしていた。棍を使い、間合いを長い武器での戦い方を学びたいらしい。影斬は多少柄の長い武器を心得ているが専門ではない。故に、茜が指導することになる。薙刀は知っているのだ。基本から、ゆっくりと……。
 其れをずっと見ているのは、レノアと亜真知。レノアの周りには猫が一杯だった。猫がそう懐くのはないのだが、レノアも猫と会話している。
 そのあと、お菓子屋巡りをして、帰宅するという日々が続いた。本当に日常に戻ったのかと思った。

 ある日の夕方。
 レノアは、夕日を見ながら歌を口ずさんでいた。
「歌、好きなんですね」
「はい、なんとなくですが覚えているのです。でも好きなのです」
 レノアは笑う。
 その笑いが、本当に続けばと亜真知は思った。
 しかし、そうはいかない。
 彼女のこともあるが、魅月姫という、自分の半身について、どうすべきか……、いつそのことを告白するべきか悩むのだった。
 元は一つ、そして二つに分かれた。
 まだ、問題は山積み。しかし、其れは自ずと時期が訪れるだろうと、その覚悟を決める。
 魅月姫も、別の部屋で、同じ事を思っていたに違いなかった。


 そろそろ、空が灰色になる。梅雨の時期になってきたようだった……。


4話に続く

■登場人物紹介
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【4682 黒榊・魅月姫 999 女 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『蒼天恋歌 3 非日常の朝』に参加して頂きありがとうございます。
 平穏な日々の描写ですが、レノアは破壊魔のようです。離れのお掃除は危険ですのでお気をつけください。また、影斬などは魅月姫さんとの相性最悪と思って頂けると、影斬化していると、有無を言わさず力が発動するために義明は困り果てるのです。極論すれば“でこピン”や“しっぺ”だけでも影や闇関係は破壊できるようになってます故……。その力の使い道が危険なために、影斬こと織田義明はこの事件に深く関われません。故に武術訓練などは茜に代わりました。
 4話からはまたシリアスなモノになります。戦闘、謎探し、色々あります。
 又の機会にお会いしましょう♪

 滝照直樹
 20060710