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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。


〈歌と忍〉
 ある晴れた日のことでした。
 レノアは私のアジトの窓で佇んでいます。そして、歌を歌っています。
「歌、好きなのですか?」
 麦茶を入れて、レノアに聞きました。
「はい、好きです」
 にっこりと微笑むレノアが、とても美しく、可愛いと思いましたが、私と彼女の身分は異なります。其れはさておき。
 この歌がどこで教わったのかも、意味も分かりません。私が理解し得る言語ではないことは確かなのです。それに、すべてを忘れていたわけではない事が明るい希望になり得ないかと思えます。
 レノアと過ごして月日が経ちました。レノアについてだいたい分かってきたことは、まあ、所謂ドジっ娘と言うところでしょうか? 道に迷うことも良くあり(監禁という事なんて出来ませんし)、料理は出来ない。掃除も出来ないと言う。困ったことになっている訳です。私は其れで怒ることはないですが、まあ、記憶喪失の影響と思えば仕方ありません。しかし、歌は日をますごとに上手になっていきます。ラジオからTVからでのありふれた歌ではない、何かしら神秘的な歌であることは、分かります。其れが何を意味するのか迄は理解していないのですが……。
 あと、甘い物が好きなのも特筆すべきでしょう。
 彼女は世界の甘味が大好物、特に女の子らしく、ケーキが好きなようです。留守番をしているレノアのおみやげにケーキを買ってくれば、子犬が喜ぶように目を輝かせています。そして、しっかり言うことを聞いてから、幸せそうに食べるのです。
「おいしいです」
 本当に無垢な少女……。
 彼女は本当に、何者なのか気になります。
 しかし、今は彼女の心を癒し、平凡に過ごすことが第一ではないかと思うのです。

「さて、出かけませんか?」
「はい?」
 小首をかしげるレノア。
 まあ、先日に恩返しがしたいと言っていたのですが、別に私はそれほど大きな事をしたわけではないです。恩は着せるより着るもの。故に私は其れ目当てで彼女を匿っているわけではない。純粋に助けるということなのです。
 しかしながら、彼女は何かをしたい。ただ、ここにいるだけでは肩身が狭いのです。ならば、と思いました。
「一寸手伝って欲しいことがあります。良いですか?」
「あ、はい! お役に立てるのであれば!」
 がんばるぞう、と言わんばかりの目の輝きを私に見せたのでした。
 記憶喪失で、ここまで純真無垢になるというのは、不思議な気もします。元からそう言う性格だとすれば、よほど、箱娘のように可愛がられていたのでしょうか?
 準備をして、私とレノアはある私の故郷に向かうのでした。

 当然人目に付かないように、彼女の綺麗な金髪を結わえて麦わら帽子のようなモノで隠します。そして、日焼け止めクリームも塗って貰い、UVカットのそれほど不細工ではないサングラスもかけて貰います。私は、その格好の少女と一緒にいてもおかしくない……親か兄のような格好をすればいいでしょう。紛れると言うことはその場所にふさわしい格好になることです。普段着にて違和感ないように動けば誰も分かりません。

「こうしていると、夏だなぁと感じます」
 と、レノアは眩しい日の光を見て言いました。
 確かに、このまぶしさはそう思います。
 レノアは方向音痴なのに良く一人で何かを追うので、私はしっかり彼女の手をつなぐ。
「あ!」
 レノアは、最初びっくりしていたのですが、とたんにおとなしくなりました。
「……」
 何となく、心地良いのですが、恥ずかしい感じがします。
 

〈施設〉
 目的地に着いたときに、レノアが聞きました。
「ここは? まさか施設ですか?」
「ええ、私は“孤児”だったものです」
 昔ながらの鉄筋コンクリートの壁、そこに社会法人か福祉法人の名前に園の看板が掲げられている。何の建物かは通りすがる人にはすぐに思いつかないような建物。学校にしては小さいし、幼稚園にしては大きすぎるのです。しかし、小綺麗に掃除や維持されているところそれほど貧しくはなう、比較的裕福なことは確かです。心の裕福さは、まあ、其れで反映されていると言えませんが……。
「今いるここの人たちも、現代で言う孤児ですね。親がここに預けてから、会いに来ない。彼らは愛情に飢えていると思います。その、なんて言いますか、彼らにせめて思い出に……」
「思い出に?」
「あなたの歌を聴かせて欲しいのです」
「はい、喜んで」
 私は中に入る。すでに約束は取り付けているために手厚い歓迎、そして今の状況報告や、昔話に花を咲かせてしまいます。レノアがどう反応しているか気になりましたが、
「おねえちゃん、あのおじさんの恋人?」
「ねーねー?」
「あう、あうあう……加藤さん……」
 と、おませな子供達に遊ばれていました。
 レノアは最初とまどっていましたが、上手く“その手”の質問は躱わしているようすです。良かったような一寸哀しいような。いや、おじさんは未だ早いですよ。私は未だ若いからお兄さんで……そう言うことではなくて……。

 小さな体育室に皆が集まり、
「今回はこのお姉さんが、歌を披露してくれます。良く聴いてくださいね」
 と、施設の先生が言いました。
 小学生程度の子供達は「はーい」と元気よく答え、中高生は黙っていながらも頷いています。
「では、レノアさんお願いします」
「はい」
 と、レノアはお辞儀をして、ピアノの前に座り、鍵盤が鳴る。
 そして、誰も意味を介せない、言葉が歌になって紡ぎ出されました。

 レノアは言います、この歌を“現代の言葉”では訳せない、と。ただ、綺麗な音階にあわせて声を当てているとも思われるこの歌が、子供達の心を癒してくれている。そんな確信めいたモノがありました。これは天使の歌。そう思います。
 歌が終わった後、子供達は白紙してくれました。その笑顔は見たことがないと施設の先生は言います。
「またお願いしようかしら?」
「はい、力になれるなら♪ 宜しくお願いします」
 と、レノアは言いました。
 仲良く、子供達と遊び、その姿をずっと私は見ていました。
「あなたも隅に置けないわね」
 先生が言います。
「いや、そんなことではないですよ」
 少し引きつった笑顔になったかもしれませんが、のらりくらりとかわしておきましょう。


 そして、帰り。
「ありがとう、レノア」
「いえ、私も何か力になれたのがうれしいです」
 と、レノアは自ら私の手を握ってきました。
 私は握り返す。
 記憶がないから私にしか頼れるモノはいない、だから私が彼女を守る。この美しい少女を。
 そう、縁と義理ではなく、其れを超えた何かを感じ、誓った日でもありました。
 そして願います。
 この日々が一生の思い出になり、記憶から消えないことに……。


4話に続く

■登場人物
【5745 加藤・忍 25 男 泥棒】

■ライター通信
滝照直樹です
「蒼天恋歌 3 穏やかなり幕間」に参加して頂きましてありがとうございます。
 施設の雰囲気はこのようなモノで良かったかでしょうか。実際施設は、自治体運営などもあれば福祉法人か宗教法人によるものがあり、財力の度合いでかなり裕福な生活も出来るという場所も存在します。親から離れる寂しさと、集団生活による束縛は免れませんが。
 4話からまたシリアスになります。行動により戦闘が勃発。様々な組織との思惑が絡み合うと思われます。

では、次回に又あえることをお祈りして。
滝照直樹拝
20060725