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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


想い深き流れとなりて 〜1、死者からの依頼

 東京の夜は蒸し暑い。生温く湿った空気はじわりと身体を包み込み、じみじみと身体の中へと侵入してくるようだった。横になっていても、自然と眠りは浅くなる。
 菊坂静は夢と現の間をさまよっていた。その曖昧で脆い意識の中で、魂の中に住まうもう1つの存在が密やかな笑い声をたてる。仕事だぞ、と。
 それは誰かの訃報の予言だった。
 その不吉な予感を、静は半ば無意識に払いのけようとした。が、それは重たい泥のように、払っても払ってもじわりじわりとすぐに戻ってくる。
 静が焦りにも似たいらだちを募らせた時、何かが静の意識に割って入った。
「……」
 唐突に先ほどまでの重苦しさから解放されて、静は身体を起こした。枕元の携帯電話が懸命に音楽を鳴らして着信を告げている。
「……もしもし」
「ああ、草間だ。済まない、こんな時間に」
 電話の主は草間興信所所長、草間武彦だった。本人は意地になって否定しているが、怪奇探偵の二つ名を持ち、舞い込む依頼は心霊現象やら怪奇現象がらみのものばかり。静も今まで事件解決の手伝いをしたことがあるが、今回もまたやっかいごとでも抱え込んだのだろう。
 だが、時間も時間だ。静の中でじわりと嫌な予感が広がった。仕事だぞ、と告げたあの声が、鮮やかに頭の中によみがえってくる。
「……いいえ」
「実はな、妹を守って欲しいって依頼人が来てるんだ。名前は木下朱美。何でも殺人現場と犯人の顔を目撃したらしい。で、本人はその場で殺された……と言ってるんだが」
 ああ、と静は胸中密かに溜息をついた。軽く瞑目して首を振る。
「それでその時、木下朱美は電話中だったんだ。その相手が妹の大川愛実。神聖都学園高等部の3年生で学生寮に入っているらしいんだが……。それで、木下朱美を殺害した男は、朱美の携帯電話を拾って行ったらしい。その時の態度や手口から見て、相手はプロの殺し屋だと見て良いと思う。電話相手の大川愛実が次に狙われる可能性が非常に高い」
「殺し屋……」
 静は低い声で呟いた。それは、静の中に住む者と同じ行為を生業とする者にして、決して相容れぬ者でもある。自らの利益や欲望のために、他者の生命を奪うのだ。そして、時に何の関係もない相手さえをも手にかける。
 胸元からこみ上げてくる苦い嫌悪感と憤りは、知らず静の口元に薄い薄い笑みを形作った。
「何が殺し屋だ……。三流……」
「おい、菊坂、聞いてるか?」
 覚えずぼそりと呟いた言葉が聞こえたか聞こえなかったか、草間が慌てたような声をあげる。
「はい、聞いています……。とりあえずそちらに向かいますね」
「あ、ああ、頼む」
 静は電話を置くと、素早く身支度を整えた。タクシーを呼んで草間興信所へと向かう。

「こんばんは」
 草間興信所のドアを開ければ、応接セットに3人が座っていた。険しい顔で、何度も携帯電話をかけているシュライン・エマ、それを見守る草間武彦、そしてじっと唇を噛んで座っている見知らぬ女。
 彼女が依頼人の木下朱美だということは、一目見てわかった。静の目は、既に死したる者をすぐにそれと見破ってしまう。まちがいなく、彼女は少し前に既に生を終えている。
「おう、よく来てくれたな」
 草間が顔を上げて、静を迎えた。電話に耳をつけたままのシュラインは、視線だけで挨拶を寄越す。
「こちらが依頼人の木下朱美だ。状況について説明するから、とりあえず座ってくれ」
 傍らの女性を軽く示し、草間は空いている席を勧める。
「こんばんは。菊坂静と申します」
 朱美に挨拶をしてから、静は腰を下ろした。朱美も硬い会釈を返してくる。
「事件の概要は電話で言った通りだ。お前とここにいるシュラインの他に黒冥月(ヘイミンユェ)、ササキビクミノ、弓削森羅(ゆげしんら)に助力を頼んである」
 静が座ったと見るや、草間は時間が惜しいとばかりに説明を始めた。
「冥月とクミノは元々その道のプロだ。2人が2人とも時間がないと言って寮に直行している。弓削は神聖都学園の生徒で、具合の良いことに今寮にいるそうだ。寮の警備を強化するよう、はたらきかけてくれている」
 当初事件の話を聞いた時、静は静で他校の学生として愛実に接触し、護衛するつもりでいたのだが、どうやら事態は思っていたよりはるかに急を告げるものだったらしい。
「今、シュラインは愛実に連絡をとってくれているんだが、まだ愛実は捕まっていない状況だ。寮の3人からも特に報告はない。呼び立てておいて済まないんだが、しばらくここで待機しておいてくれないか? いや……、なんかお前の力を借りなければいけない状況になりそうな気がしてな……。何となく、なんだが」
「そうですか……」
 冥月とクミノ、2人も腕利きの「その道のプロ」が既に寮に向かっているなら、静に出番が回ってくる可能性はさほど高くないようにも思える。それでも自分が今ここに来ることになったのは、もう1つの「仕事」ゆえに引き寄せられたのではないか、という気にもなってくる。もっとも、静の「正体」を知らない草間が、そう意図して呼んだはずもないのだが。
 ふ、とあのまどろみの中の「声」が再び静の頭をよぎる。
「あ、そうだ。これを見ておいてくれ。犯人の似顔絵だ。依頼人に描いてもらった」
 そんな静の心中など知らぬげに、草間は思い出したように一枚の紙を寄越した。
「上手ですね……」
 思わずそう呟いてしまうほど、その人物画は巧みに描かれていた。その言葉を聞いて、この時ばかりは朱美の口元に小さな笑みがこぼれる。
「ところで、犯人は妹さんの顔を知らないんですよね?」
 静は朱美に向き直った。
「ええ……。でも……。携帯の中には2人で撮った写真が結構あるから……。そこまで見ていたら見当はつきやすいかも」
 朱美は眉を寄せ、唇を噛む。
「じゃあ、妹さんの似顔絵も描いてもらえますか? 僕たちも顔を知っておいたほうが」
 それは単に、守るべき対象を識別するためだけではなく。
 静はその特殊な能力で、幻を作り出すことができる。いざという時には犯人に幻を見せて愛実を守るつもりなのだ。犯人が愛実の顔を知っているなら、静もまた、愛実そっくりの幻を創り出さなければならない。たとえ、このまま冥月とクミノが首尾よく犯人を捕まえることになったとしても、備えをきちんとしておくに越したことはない。
「え、ええ」
 静が頼むと朱美は頷いて、傍らに転がっていた鉛筆をとった。あたかも、そこにあるものに触れられるのが当然であるかのように。それは、まさしく生者がそうするかのような動作だった。
 よっぽど強くこの世に留まっているということだ。事情が事情であるだけに、容易に想像できたことではあるが、静は複雑な心境で瞳を伏せた。
 数分も経たずして、真っ白だった紙の上には、少女の顔が現れていた。少し神経質そうな、それでも意志の固そうな顔が、静をまっすぐに見つめている。
「ありがとうございます」
 静は礼を言って受け取った。頭の中に少女の姿をイメージする。
 それきり、事務所の中には張りつめた静寂が訪れた。草間は腕を組んで宙を睨み、シュラインは相変わらずリダイヤルボタンを押しては電話を耳に押し当てる。
 と、不意にけたたましいくらいのベルが鳴る。事務所の黒電話がその身を震わせて着信を告げていた。草間が素早く立ち上がり、受話器をとる。
「ああ、草間だ。クミノか……。何? 大川愛実は寮の自室にいない?」
 草間の言葉に、一気に室内の緊張が増した。
「いや……、こちらもまだだ。連絡はついていない。ああ、頼む」
 硬い声で草間は受話器を置いた。
「聞いての通りだ。大川愛実は寮の自室にいないらしい……。既に犯人に呼び出されたのかもしれん。向こうのクミノたちも捜索に入ってくれるそうだ」
「……」
 誰もが、言葉が見つからない様子で黙り込む。
「……あ、愛実?」
 突然携帯電話を握ったままのシュラインが声を上げた。それは多少上ずっていたが、朱美のものにそっくりだった。
 どうやら電話がつながったらしい。にわかに事務所内がざわめきたつ。
「うん、うん……。まず落ち着いて。私の言うこと、よく聞いて。大丈夫よ」
 シュラインが朱美の声色のままで、なだめるような声をあげた。
「朱美さん」
 愛実がつかまったことに胸をなで下ろしながらも、草間とシュラインの注意が完全に電話に向いた隙に、静は朱美に向き直った。
「この件が終わったら……、貴方はどうします?」
「え? どうって……?」
 静の問いに、朱美は目を丸くした。
「貴方になら……見えると思うんですが……。僕の中に存在するものが……」
 静に死者がそれと分かるように、死者の方もまた、静をそれだとわかるはずだ。
「あ……」
 朱美は今気づいた、といった風情で口元に手をやった。
「成仏する方法がわからないのなら……僕が手引きしますよ」
 静は軽く目を伏せて、それでも視線を朱美から逸らさなかった。
「……死神……って」
 改めてその言葉を口にすると、じわりとした痛みと、諦めにも似たもの悲しい想いが胸の中に広がって、けれどもそれは静の口元に壊れそうな笑みを形作る。
「そういうこともできますから……」
「……」
 朱美はいまだ事情がよく呑み込めていないような顔をしながらも、ゆっくりと頷いた。
「じゃあ、終わってそれでもダメだったら……、お願いね」
「はい、わかりました」
 静は朱美に頷いて再びシュラインの会話に注意を戻す。
「じゃあ、今は新池公園に向かってる途中なのね? 今どこにいるの?」
 電話にかじりついているシュラインに、草間が素早く住宅地図を渡したところだった。どうやら、愛実は犯人に新池公園に呼び出されていたらしい。幸いと言うべきか、それはこの草間興信所からほど近いところにある住宅公園だった。
「何が見えるかでも構わないわ。言ってくれる?」
 話を聞きながら、シュラインが地図に印を入れていく。数カ所に印を入れた後、その一角に×が書き込まれた。ここが愛実の現在位置ということだろう。
「そう、それじゃ、そこから西に2本通りを入ったところにコンビニがあるから、そこへ向かって。すぐに迎えに行くわ」
 口早に言ってシュラインは電話を切った。
「危なかったですね……。公園まであと200メートルくらいというところでしょうか」
 静は×の位置を見て、思わず溜息をついた。
「では、ここから幻の愛実さんに公園まで歩いてもらうことにします」
 犯人は公園で待っているのかもしれないが、ひょっとしたら公園の手前で襲うつもりなのかもしれない。本物と入れ替わるように、幻を出現させるのが効果的だろう。
「ええ、すぐに行きましょう」
 静が言うと、シュラインも立ち上がった。
「……気をつけろよ」
 草間が低い声で言って、黒電話に手を伸ばす。
「朱美さん、愛実さんはここのコンビニに向かっているわ。側にいてあげて」
 シュラインが朱美に地図を渡し、静とシュラインは揃って興信所を後にした。

 愛実の居場所が、興信所からほど近かったのは幸いだった。10分と経たぬうちに、2人は愛実がいた場所へとたどり着いていた。
「誰もいないわね」
 しばし、静かに瞑目して周囲の音を探っていたらしいシュラインが呟いた。
「ここから……ですね」
 静はそれに頷き返し、軽く目を閉じて大きく息をついた。そして、大川愛実の幻を練り上げる。幻は、不安げな表情を浮かべて、公園を指してやや足早に歩いて行く。傍らのシュラインが感嘆の溜息をついた。
 けれど、どんなに巧みな幻術でも、それを幻と知っている者をだますことはできない。今のシュラインがそうであるように。
「幻術も一度目は確実に効きますが、それが幻だとバレたら効果は激減します……。ですから、一度で、必ず捕まえて下さい、必ず……」
 チャンスはたった一度。静の創り出せるチャンスは一度しかないのだ。それでも、愛実までが理不尽な殺人の犠牲になることは絶対に避けなければならない。
「ええ、捕まえましょう、必ず」
 シュラインも想いは同じなのだろう、力強く頷いた。と、その彼女が何かに気づいたようにポケットに手をやった。シュラインが取り出すと同時に、携帯電話がバイブレーションで着信を告げる。
 二言三言、電話相手と言葉を交わしたシュラインは、明らかに安堵の表情を浮かべていた。
「冥月さんからだったわ。愛実さんを見つけたそうよ。周囲に不審者の影もないみたい。うまく逃がせたと見ても大丈夫のようね……。あと、公園にはクミノさんが先回りしてくれているんですって」
「そうですか……」
 シュラインの口からもたらされた朗報に、静の気持ちも多少は軽くなった。
 が、それは同時にこちらが犯人と遭遇する可能性が高くなってきたということでもある。そう思えば、いやがおうでも緊張感は高まってくる。
 2人は顔を見合わせて頷き合うと、物陰に身を隠しながら、幻の愛実を追った。
 しばし歩いたところで、シュラインが急に足を止めた。
「朱美さん……?」
 その唇から独り言めいた呟きが漏れる。それを聞いた静も、そっと前方を見やった。
 前を行く愛実の、その進行方向に立って、ゆっくりとこちらに近づいてくる人影は、確かに朱美の顔をしていた。けれど。
「シュラインさん、あれは違います!」
 静は強い声で囁いた。どんなに姿を似せても静の目は欺けない。今、2人が見ている朱美は、間違いなくその身に生命を宿していた。
 と、朱美が右手を振り上げた。それは、銀色の軌跡を描いて、迷うことなく愛実を切り裂く。
 が、手応えがなかったのだろう、朱美は眉を寄せ、そして脱兎のごとく走り出そうとした。
 ここで取り逃がすのはまずい。なぜ犯人が朱美の姿をしているのかはわからないが、もし自分の姿を自由に変えることができる相手なら、ここで見失えば取り返しのつかないことになる。
「待ちなさい!」
 同じことを考えたのだろう、隣でシュラインが声を張り上げて、飛び出そうとした。静はそれを片手で制して、素早くシュラインの幻を練り上げた。
「あんた、誰なの!?」
 シュラインが重ねて怒鳴れば、朱美がゆっくりと振り返る。と思った時には、すでにその姿はシュラインの幻の眼前に迫っていた。一瞬の躊躇もなく、再びナイフが一閃する。と、幻のシュラインはふっと掻き消える。
 舌打ちをした朱美がナイフを構え直そうとして、動きを止めた。否、その意に反して動きを封じられたようだった。朱美の影が、自らの主を羽交い締めにして縛めている。
「貴様が鵙(モズ)か」
 影の中から冥月がゆっくりとその姿を現した。朱美が、否、朱美の姿をした犯人が、忌々しげに冥月を睨みつける。
「変装の名人ということで通っているが……、どうやら殺した相手の容姿を奪い取る能力を持っているようだな」
 冥月が冷ややかな目を向けると、朱美の姿が崩れ始めた。姿を変えて逃げようというのだろう。
 すかさず冥月が当て身を入れる。鈍い音がして朱美が昏倒したと思えば、それは見る間に30代くらいの男へと姿を変えた。
「冥月さん、助かったわ」
「遅くなった。済まなかったな」
 シュラインと静が出て行くと、冥月は軽いねぎらいの言葉を寄越した。そしてそのまま電話を取り出す。草間に報告を入れているのだろう。
 静は地面に転がった男を見下ろした。その顔は、朱美の描いた似顔絵のものとも違う。見られたのが素顔でなかったなら、顔を見られたとて朱美を殺す必要などなかったのだ。あたかも変装のレパートリーでも増やすような感じで、朱美は殺されたのだろうか。
「……」
 このような人間にこそ、死にたくても死ねない狂気を味わわせてやりたい。やりきれない怒りがまた、静の口元に薄い、薄い笑みを形作った。
「……ひどすぎる」
 静と同じ想いなのだろう、シュラインが重たげに吐き捨てた。
「そうか。ならついでにこいつも公園に連れて行く。向こうもその方が手間が省けるだろう」
 草間と話をしていた冥月が断定的な口調で言って電話を切った。
「そういうわけだ。ではまたな」
 短く別れを告げると、男の襟首を掴んで影へと姿を消してしまう。
「……僕たちも、戻りましょうか」
 静が声をかけると、シュラインもゆっくりと振り向いて頷いた。

「ご苦労だったな、2人とも。犯人は2人いたらしい。それぞれクミノと冥月が拘束して、IO2に引き取ってもらった。引き渡しももう、済んだようだ」
 事務所に戻ると、草間が2人を出迎えた。少し遅れて朱美も戻ってくる。
「さっき森羅から電話があったよ。大川愛実は無事学生寮に着いたそうだ」
「……ありがとうございます」
 朱美の両方の瞳からみるみる涙が溢れ出した。
「ありがとう、本当に……。私たちを助けてくれて、本当にありがとう」
「朱美さん……」
 シュラインがかける言葉を探すかのように、語尾を濁した。
「他の皆さんにも、本当にありがとうございましたと伝えておいて下さいね」
 そう言うと、朱美はわずかに微笑んだ。
「それじゃ、私、失礼します」
 ちらりと静に目配せを送って、朱美は三人に一礼すると玄関の外へ去って行った。
「それでは、僕も……」
 静も立ち上がると、シュラインと草間に挨拶をして外に出る。
「朱美さん」
 少し離れたところに佇んでいる朱美に、静は穏やかに声をかけた。
「やっぱりダメみたいだわ、私」
 朱美が悲しげに笑った。
「自分が死んじゃったのもわかってるつもり。逝かなきゃいけないのもわかってるつもり。……なのに、どこへ行けば……、どうすればいいのかわからないの」
「そう……ですか」
 静は小さく溜息をつく。
「だから、お願い」
「わかりました」
 死を司る神をその身に宿しているといっても、静には朱美に訪れた、あまりにも早すぎる、そしてあまりに理不尽な死を覆す力はない。
 けれど、だからこそ、せめて。この世を彷徨う苦痛だけからは、この人を。
 静は朱美の手を取った。「向こう」への道を拾い出し、紡いでゆく。それは、いつになく困難な仕事だった。朱美が自力で見つけ出せないのも無理はないかもしれない。
「……、私、本当に死んじゃったんだな……」
 ぽつり、と朱美が呟いた。
「こんなに早く自分の人生終わるとは思わなかったわ……。まだまだやりたいこととかあったのにな」
 小さく、小さく朱美は溜息をつく。
「でも、悪い人生じゃなかったわ。愛実を守れたし、最期にあなたたちに逢えた。今も、こうして送ってもらえる……」
 そして、柔らかな笑みを浮かべた。
「……朱美さん」
 静かに、光の道が天へ向かって伸びた。
「静くん、本当に、ありがとう。あなた、本当に優しい人ね」
 悔いなき笑みを残して、朱美は白み始めた空へ旅立って行った。
「さようなら、朱美さん」
 静は空に向かって小さな声で呟いた。大きく息をついて、帰途につく。
 それにしても、と異様な疲れに気づいて、静はふと足を止めた。なぜ、朱美を送るのにあんなに手間取ったのだろう。本人が抵抗したわけでもないのに。
「……」
 かすかな違和感と、わずかばかりの嫌な予感とを胸に秘めて、静は再び足を進めた。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778/黒・冥月/女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【6608/弓削・森羅/男性/16歳/高校生】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は、当シナリオへのご参加、まことにありがとうございました。納品がぎりぎりになってしまい、誠に申し訳ございません。
皆様のおかげで、無事、犯人捕獲、護衛ともに成功しました。本当にありがとうございます。
今回は、事態がかなり差し迫っておりましたので、割と皆様個人個人で動いて頂いています。お暇な時に他の方の分も読んで頂ければ全体像がわかりやすくなってくるかもしれません。
また、当ノベルはシリーズものの第一作となります。お気が向かれましたら、次話以降にもご参加いただければ幸いです。

菊坂静さま

はじめまして。この度はご参加まことにありがとうございました。お会いできて非常に嬉しいです。
今回、菊坂さんにいただいたプレイングの1つ1つがとても印象深くて、できれば全部作中で活かしたかったのですが、かないませんでした。自分の力不足が悔しい限りです。
そして、実は今回一番核心に触れるプレイングを下さったのが菊坂さんでした。朱美の行く末までも考慮に入れて頂き、ありがとうございます。

ご意見、苦情等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。

それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。