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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


七夕の夢 ☆白き真実☆


☆★☆


「笹の葉さーらさら〜♪」
「・・・お兄さん、何歌ってるんですか」
「何って、笹の葉の歌〜!」
「何ですか“笹の葉の歌”って!それ以前に、お兄さんが持ってるの、笹じゃありません!」
「えぇ〜!メグルってば、すっげー細かーい!」
「細かくないですよ!どうしてソレが笹に見えるんですか!」
「いーじゃん。草は草だよ」
「そんな極論な・・・」
 笹貝 メグルはそう言うと、深く溜息をついて額に手を当てた。
 そもそも、この・・・どこかネジが吹き飛んでしまっているらしい兄、鷺染 詠二の相手をまともにして、良かったためしなんて1回もない。
 ここは大人の精神で乗り切らなくてはならないのだが・・・
「で?今度は何やってるんです?」
「何って、看板書いてるの〜!“何でも屋・鷺染”っと・・・上出来じゃない!?」
「じゃない!?じゃないですよ!全然何書いてあるのか分からないです!お兄さん、自分が字が下手だってこと、そろそろ自覚した方が良いですよ!?」
「今日も何でも屋で一山稼ぐぜ!」
「一山って・・・お金取ったためしがないじゃないですか!」
「道行く人に声をかけ、マッチはいりませんかと・・・」
「違うでしょ!?全然話が違いますよ!!」
「ま、それは冗談として。道行く人に幸せを売る。それが何でも屋」
「・・・違うと思いますけれど・・・」
「七夕の今日は、特別大サービス!短冊に願い事を書けば無理のない範囲で叶えてあげます☆」
「もしかして、私の魔法も当てにされてます?」
「とーぜん!メグルがいないと、夢だった事に出来ないじゃーん」
「全て夢のせいにして逃げるんですか。交通事故だったならば当て逃げじゃないですか!」
「・・・え!?事故!?事故なのコレ?!俺は善意で・・・」
「はぁぁ・・・」
 メグルは盛大な溜息をつくと、カレンダーに視線を滑らせた―――


★☆★


 過ぎ行く人波を背に感じながら、工藤 光太郎は電気店の前で足を止めていた。
 大型テレビにはお昼のニュースが映し出され、時折人が足を止める。
 ニュースのメインは専ら世を騒がせているあの怪盗だった。
 怪盗Feathery――――――
 あの不敵で軽やかな姿は夜のもの。そして、昼のものはもっと違う・・・それこそ、普通の同い歳の男の子だった。
 月が時と共に姿を変えるのと同じように、彼も変化する。
 ゆっくりとではなく、一瞬で・・・・・・・・
「うわぁっ!!!」
 考え込む工藤の背に、何かがドンと音を立ててぶつかった。
「お兄さん!もうっ!!」
 直ぐ後に少女の声が響き・・・道の端とは言え、人波を遮るように立っていたために誰かが体当たりしてしまったようだ。
「悪いな」
 そう言って振り向き・・・その場に立っていた2人に驚きの視線を向ける。
 銀色の長い髪を風に靡かせた美しい少女と、紫色の瞳が妖しい少年・・・・・・
 1度だけ会った事のある・・・2人だった。
 そうだ、名前は確か、メグルと・・・詠二だ・・・
 朧な記憶の中、ちらつく淡いピンク色の桜の花弁。
 ザァっと、目の前にあの日の光景が思い出される。
 桜の花弁が乱舞する、その中心に立ったメグルの笑顔。それは、あの怪盗の笑顔と同じ、美しくも哀しい笑顔だった・・・
「光太郎さん、ですよね?」
 メグルが確かめるようにそう呟き、首を傾げる。
 相変わらず人間味のない少女だと思いつつ、確認の言葉に頷く。
「あぁ」
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
 ――――――ふわり・・・・・・
 そんな笑顔をしないで欲しい。
 儚い光を纏った、今にも消えいってしまいそうな、あの男を思い出させるような・・・そんな笑顔をしないで欲しい。
 せめて、世間の好奇の目のない場所で・・・そっと、笑っていて欲しい。
 背後から流れてくるニュースの声は、目の前に居る少女をあの怪盗の姿とダブらせる。
「・・・光太郎さん?」
「あ・・・なんだ・・・?」
 少女のか細い声が、彼が呼ぶときとは違う名前で工藤を呼んだその瞬間、目の前にいたはずの白い鳥は消え去った。
 後に残ったのは、銀色の髪をした美しい少女・・・
「あのさぁ、2人でアイコンタクトしてないで俺も話しにいーれーてー!!!」
「お兄さん、子供じゃないんですから駄々こねないでください!!」
 じたばたする詠二の頭を軽く叩くメグル。
 仲の良い兄妹だと、ふっと浮かびそうになった表情を胸のうちに仕舞う。
「でもさぁ、やっぱこう言う偶然ってあるんだねー!」
 詠二がそう言いながら、手に持った袋の中からごそごそと何かを取り出す。
「はい、これプレゼントー!」
 そう言って手渡されたのは、細長い長方形の紙だった。
 上部に小さな丸い穴が空いており、そこには白い糸が結ばれている。
 ・・・短冊だ・・・
「そう言えば、今日は七夕か・・・」
「そうそう、この短冊はね、凄いんだよ!何でも願いが叶うんだ!」
「・・・何でも、か」
 当然、短冊に願いを託す人は、それが必ず叶うと・・・叶えば良いと思いながら書くのだろう。
「そうだったら良いな」
 工藤はそう言うと、詠二から手渡されたペンのキャップを外した。
 勿論、短冊に願いを書いて本当に叶うなんて信じてはいない。
 論理的思考で物事を考えることを常としている工藤にとっては、短冊に願いを書くと言う行為も、おまじないも、全ては同じ次元での出来事だった。
 可能性論の下での偶然。
 短冊によって願いが叶ったのではなく、可能性的にそれがあり得る事であったから現実に起こったわけであって、偶然と言う以外は言いようがない。
 短冊に願いを書いたことによってではなく、たまたま短冊に願いを書いた後にその事柄が起きたわけであり・・・まぁ、普通に考えて短冊には未来になって欲しい姿を書き記すのだから、短冊に書いた願い事が叶う確率はそれほど低くはないだろう。
 それが無理のない範囲であり、自分の努力次第でどうにもなる事、願い事が叶う条件が満たされている事、それならば叶う確率も高いだろう。
 ・・・などと考えている時点で、工藤はまったく詠二の言葉を信じていなかった。
 けれど・・・けれど、心のどこかではこうも思っていた。
 この2人ならば、どんな願い事を書こうとも叶えてみせるのではないだろうか?
 人とは違う、別の何かを感じる・・・この2人なら・・・
 “怪盗の真実が知りたい”
 だからこそ、無理であろう事柄を書いた。
 そして、それをメグルに押し付けると軽く挨拶をしてそそくさとその場を後にした。
 書いたことの非現実性に、少々の後悔の念を感じながら・・・

「怪盗?怪盗って、怪盗だよね?」
「そんなわけのわからない一人納得しないでください」
「や、メグルに聞いてるんだって」
「・・・怪盗とは、今世の中を騒がせているあの怪盗でしょう?」
「だよねぇ」
 詠二が実に困ったと言うように目を伏せ―――――
「お兄さんが、何でも叶うなんて言うからです」
「まさかこんな願いを言うとは思わなかったんだよ。あの・・・光太郎君が・・・」
「人には誰しも、心のうちに秘めた感情があります。光太郎さんの願いは、実に素直だと・・・私は思います」
 メグルはそう言うと、ふっと空を見上げた。
 ・・・口の中で呟く言葉は、誰にも聞こえはしなかったけれども。


☆★☆


 謎が謎を呼ぶ。
 俺みたいなミステリ好きな探偵には、怪盗という代物は涎モノだ。
 ・・・けれど、それだけでなくなったのは、何時の頃からだっただろうか・・・

『貴方の願いを叶えてあげます』

 ふっと、聞こえて来た声に周囲を見渡す。
 けれど・・・何も見えないここは・・・何処・・・?
 全てが漆黒に沈み、自分の姿だけが淡い光の中に見える。
 自分の体から光が出ているようだと、工藤は驚きを隠せなかった。
 この場所が広いのか、それとも狭いのかは分からない。
 何しろ全てが黒の中に沈んでいて見えないのだ。

「誰だ・・・?」

『その質問に私が答えなくてはならない理由はありません』

 聞き覚えのある少女の声は、きっぱりと拒絶するかのようにそう言った。
 ・・・声の主の姿を頭の中に描こうとするのだが、どうにもぼやけて上手く行かない。

『貴方は、怪盗の真実が知りたいと・・・黒羽 陽月の真実が知りたいと、そう願いましたね?』

「・・・あぁ・・・」

『叶えてあげます。私なら、ソレを叶える事が出来る』

「どうやってだ?」

『非現実的な方法でです。論理的に解ける問題ではありません。・・・ただ、貴方があの空間に行って彼の願いを間近で見たならば、私の言う事が分かるかもしれません。だから今は、なにも聞かずに、そして何も考えずに、目を閉じて意識を集中させてください』

 非現実的な方法・・・か。
 既にこの空間が非現実的な気がしなくも無いが・・・まぁ良い。
 あいつの真実を知れるのならば、現実だろうが非現実だろうが関係ない。
 ―――すっと目を閉じ、意識を集中させる。
 少女が知らない国の言葉を紡ぎ、すぅっと・・・瞼の向こうが明るくなっていく気がした・・・


★☆★


 目の醒めるようなマジックの数々、シルクハットの中から飛び出した真っ白な鳩。
 初春のどこかぼやけた陽の光に照らされて、淡く美しい白の羽根を空へと羽ばたかせる。
 小さなシルクハットの中からは、次々に色々なものが溢れた。
 飛び散るトランプ、可愛らしいウサギ・・・

 黒羽のマジックショーは初めて見た。
 まるで本当に魔法のようで、素直に感嘆する。
 誰しもがその魔法に掛かるのを待ち望み、騙されるのを喜んでいる。
 まさに、人を笑顔にする魔法だ。
 ―――――俺は、正しいのだろうか?
 謎を解き明かし、全てを白日の下に曝す。
 時に残酷なそれは・・・
「満足ですか?」
 凛と響く少女の声に、工藤はそちらに視線を向けた。
 銀色の髪をした少女と、紫の瞳をした少年。
 ・・・あぁ、あの声は彼女の声だったのか・・・
 妙に納得したのと同時に、やはり彼らは普通の人ではないのだと・・・何か特殊な力を持った人間なのだと、再確認する。
「陽月さんの願いは“お父さんに会いたい”だったんです」
 目の前でマジックを披露する黒羽の隣には、見知らぬ男性が立っていた。
 拍手が巻き起こる中で、幸せそうに男性を見詰める黒羽。
 ・・・黒羽に父親なんて居ただろうか?
 不鮮明な記憶を探り、ハッとする。
 それほど遠くない昔、知人が言っていたように思う。
 『黒羽の父親は亡くなっているから、その話題は出すなよ』と。
「陽月さんは私に願いました。一時の夢でも、会いたいと」
「・・・一時の夢?」
「これはただの幻。陽月さんのお父さんは、彼の記憶の中から私が呼び起こした存在に過ぎない。本物ではないんです。ただの、記憶の映像を・・・少しだけ、アレンジしただけの代物」
「それを、黒羽は知っているのか?」
「知ってます。言ったでしょう?一時の夢でも、会いたいと言っていたと」
「でも、陽月君は幻に飲まれちゃいそうだね」
 詠二がいつものチャラけた口調ではなく、いたって真面目な声でそう言う。
 普段からそう言う喋り方をしていれば、随分と印象は変わるのにと思いながらも、詠二の言葉が胸に突き刺さる。
「幻に、飲まれる?」
「・・・目覚めるのは、自分の力。幻から醒めるのも、自分の力。陽月さんは、この世界に飲まれることを望んでいるように思うんです」
 幸せそうにマジックを披露する黒羽。
 その顔は本当に嬉しそうで・・・この世界に取り込まれることを望んでいるようで・・・
 それでも・・・
「だめだ黒羽!!!」
 工藤はそう言うと、黒羽の前に姿を現した。
「な・・・んで・・・?」
 驚いている表情。
 その瞳に見える絶望に、本当にコレで良いのかと・・・また、あの声が聞こえた。
 ・・・良いんだ、コレで・・・コレが、本来あるべき姿なんだ。
 黒羽は、現実に戻らなくてはならないんだ。
 こんな・・・寂しいだけの世界なんて・・・
「黒羽!目を覚ませ!!」
「・・・イヤだ・・・」
「陽月さん、いい加減・・・気付いてください。いえ、もう気付いているのかも知れませんね。貴方の隣に居るお父さんが、本物ではないと。その人は、私が・・・」
「父さんは父さんだ!」
 感情的な言葉、言い方・・・全て、黒羽には似合わない。
 知っている彼とは違う。こんなに余裕のない姿なんて・・・なんだか、黒羽ではない気がする。
 ・・・いや、違う。
 これが本来の黒羽の姿なのかも知れない・・・
「その人は私が、貴方の記憶から引っ張り出してきた・・・ただの幻です。貴方の願いに合うように行動させているだけに過ぎない」
「違う・・・父さんは父さんだ・・・」
「黒羽・・・」
 思わず手を伸ばす。しかし、黒羽はそれを振り払った。
 何時の間にか、あんなに大勢いた客の姿はなく、真っ白な空間が広がっているだけだった。
 それでも、黒羽の隣に立つ男性は、未だにシルクハットから何かを取り出している。
 金銀に輝く紙テープ、七色に光るシャボン玉・・・
「父さん・・・」
 黒羽が声をかけるが、男性は動こうとはしない。
「父さん・・・!!」
 メグルがそっと指を動かす。そうすることによって、男性が黒羽の方を向いて―――――
「どうしたんだ?」
 胸が痛くなった。
 本当にコレで良かったのか?
 再び聞こえて来た声に、何も言い返すことが出来なかった。
「もう眠ってください。そして目覚めた時は、優しい夢を見たと・・・それだけで・・・」
 メグルがすっと黒羽の前まで歩み寄り、手をかざす。
 そして・・・ふわりと消える、黒羽の姿は・・・まるで最初からそこにいなかったみたいだった。
「光太郎さんも、もう眠ってください。貴方なら、私が強制的に眠りに落とさなくても大丈夫ですよね?」
「・・・多分な」
「目覚めた時は、全て夢だったと言う事になってます。全ては夢の中でのことだったと・・・」
「あぁ、分かってる」
 工藤は頷くと、そっと目を閉じた。
 目を閉じる前、見えたメグルの顔が酷く悲しそうで・・・
 本当にコレで良かったのか?
 くどいくらいに響く質問に、工藤は何も言い返さずに意識を闇に溶け込ませた・・・。


☆★☆


 目覚ましのアラーム音で目を覚ますと、工藤は重たい頭をなんとか起した。
「夢、か・・・」
 メグルと詠二の顔が鮮明に蘇り・・・そして、消え去った。
 工藤の夢の記憶の中から、綺麗に2人の姿だけが切り取られる・・・。
 ・・・ま、どーせ俺は自力でお前を捕まえるけどな。
 待ってろよ?掴まえて、天の川の向こうへなんて行けなくしてやるから。
 脳裏に浮かぶ黒羽の顔に向かってそう言い・・・ベッドから起き上がるとカーテンを引いた。
 眩しい朝の光が、部屋いっぱいに広がっていく。
 ―――にしても、あんなに怪盗がファザコンだったとはな。
 ・・・ヒゲでも生やすか?
 自分がヒゲを生やした姿を想像し、ふっと微笑むと工藤はキッチンの方へと歩いて行った。
 これから始まる1日をほんの少しだけ、想像しながら――――――



               ≪ E N D ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6198 / 工藤 光太郎 / 男性 / 17歳 / 高校生・探偵


  6178 / 黒羽 陽月  / 男性 / 17歳 / 高校生(怪盗Feathery / 紫紺の影


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『七夕の夢』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 工藤様は論理的思考能力重視で・・・!と、いつも思いながら描いております(苦笑
 頭が良いのと、推理が得意なのとで、少しでも賢く、賢く・・・!
 そう言い聞かせながらの描いておりますが、本当に少しでも工藤様らしさを出せていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。