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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【メイドさん検定】来れ、メイドさん その2
●オープニング【0】
 冬美原――古き物と新しき物が混在する街。その違いは駅を挟んで顕著である。
 駅の東側は旧市街と呼ばれる。旧冬美原城のあった城址公園を中心に寺院や神社があって、細く入り組んだ道も多い街だ。古くから続く店も少なくはなく、天川高校やエミリア学院といった伝統ある学校があるのもこちら旧市街である。
 一方、駅の西側は新市街と呼ばれる。新興住宅地を擁し、計画的に造られた広い道路がある街だ。そのため、大型小売店などの新規出店も相次ぎ、生活する上では便利になっている。ちなみに冬美原情報大学があるのも、この新市街の方だ。
 さて、そんな新市街に大きなお屋敷があった。恐らくそれなりに財力ある者が住んでいると噂されているが……具体的に誰が住んでいるかは把握されていない。いつもひっそりとしていて、謎の多いお屋敷である。
 7月某日、冬美原で読まれている鈴丘新聞にある広告が掲載された。それは4月某日にも掲載された『メイドさん検定』なる広告で、受験者のメイドさんスキルを見極めて認定証を発行するというものだ。
 今回の検定テーマは『料理』。さあ、どのような検定内容が待ち受けているのか……?

●会場にて【1】
 『メイドさん検定』会場――控え室となった大広間には、前回同様に50人前後の人数が集まっていた。奇妙な検定ながらも興味を捨て切れない者が少なくないということか。
 もちろん今回初めて検定を受ける者も居るし、前回にも見た顔も当然あったりする。前回受けた篠原美沙姫、守崎啓斗、内藤祐子の3人がそうである。
 また前回は付き添いとして来ていた静修院樟葉の姿が受験者たちの中にあり、少し離れた所では今回も啓斗の付き添いとして来ている守崎北斗の姿もあった。
 前回『メイドさん検定』を受験した者は、玄関から大広間に案内される前に、認定証代わりとなるブレスレットが回収されていた。検定終了後の後日、再び手に戻ってくる時には果たして何色になっていることだろう。
 大広間にはメイドさんが5人、これまた前回と同じく受験者たちを囲むように壁際に立っている。背筋をぴんと伸ばして決して微動だにしない。祐子はその中に前回自分を案内してくれたメイドさんを見付け、わざわざ挨拶しに行っていたりしたが……まあ余談だ。
 やがて大広間に1人のメイドさんが入ってくる。金髪で腰まである1本の三つ編みという、凛とした雰囲気漂う女性――この館のメイド長、キュリアの登場だ。たちまち大広間の空気が一変し、しんと静まり返る。
 キュリアは受験者の前に立つと、深々と一礼してから喋り始めた。
「本日も『メイドさん検定』にお集まりいただき、誠にありがとうございます。主催者たる当館の主人に成り変わり、御礼申し上げます――」
 お決まりの挨拶から始まったそれは、すぐに検定の説明に入ってゆく。今回も方式は前回と同じ。別室にて1人ずつ行い、自分の番号が呼ばれるまではこの大広間で待機である。
もちろん付き添いの者は別室待機だ。判定者も変わらずキュリアとのこと。
「ご案内いたしま……」
「はいはい、別室ね」
 そばにやってきたメイドさんが皆まで言う前に、北斗はやれやれといった様子で椅子から立ち上がった。そして北斗を含む付き添いの者たちが、メイドさんに案内されて先に大広間を出てゆく。
「それでは受験者の皆様。ご健闘をお祈りしております」
 再び深々と一礼し、キュリアもまた大広間を出ていった――いよいよ試験の始まりだ。

●見落としがちゆえに気を払い【2B】
 自分の番号を呼ばれ、啓斗はメイドさんに案内されて試験の部屋へ向かった。
(行き先が違う……当たり前か)
 明らかに案内される先は前回と異なっていた。まあ啓斗も思っているように、検定テーマが異なるのだからそれも当然かもしれないが。
 そして通された先は……厨房。これも当然だろう。例えば夫婦の寝室で料理しろなどと言われたら無理難題に近いものだが、厨房で料理するのはしごく当たり前のことである。
 厨房にはキュリアが居た。案内してくれたメイドさんは、啓斗を厨房に通すと引き返してゆく。
「守崎啓斗さんですね」
「ああ」
 本人確認作業終了。キュリアが手元の資料を見つつ、質問を投げかける。
「前回も受験され……専門ランクと認定されていますね」
「ああ、されている」
「今回の結果次第ではランクの上昇、あるいは下降もあり得ますが、よろしいでしょうか」
「それは構わないが」
 小さく頷く啓斗。検定なのだから、そういうことはもちろんあるだろう。
「では試験の内容を説明いたします」
 キュリアは説明を始めた。
「内容は簡単です。この厨房にある食材、調理道具などを自由に使い、料理を行ってください。制限時間は今回はありません。わたくしは邪魔にならぬよう、その様子を見させていただきます」
「和洋は問わないんだな?」
 啓斗がキュリアへ確認する。
「はい。和洋のみならず、中華でもその他の料理でも結構です。あなたの思う通りに作ってください」
(思う通りにか)
 思案する啓斗。だったら作り慣れた物にする方が無難に違いない。
 いよいよ調理開始。さあ何から始めるかと思いきや――啓斗はまず手洗いから始めた。簡単なことだけれども、見落としやすいことでもある。丁寧に、爪の中までも洗っていた。
 よくよく見ると、髪も食品に入らないようにするためかきちんと揃えていて、服装も動きやすい清潔な物である。啓斗、ちゃんと考えてきていたのだ。
「ところで、食する者の中に何らかのアレルギーを持つ者は居るのか?」
 濡れた手を拭きながら、啓斗はキュリアへ尋ねた。
「いいえ。アレルギーを持つ方は居ない、という前提でお願いいたします」
「分かった」
 確認を終えると、啓斗は業務用かと言えるような冷蔵庫へ向かっていく。キュリアが厨房の隅で、じっと啓斗の動きを見つめていた。
「完成だ」
 やがて啓斗が調理を終える。作ったのはシンプルな和食である。焼き魚に煮物におひたし、それからお味噌汁にご飯という物だ。
 手間のかかる物から下処理を行っていた啓斗。この場合、煮物がそれに相当するだろう。時間を無駄にしないという姿勢のようだ。
「このメニューを選択した理由は何でしょうか?」
 キュリアが調理を終え後始末をしている啓斗へ尋ねた。
「……作り慣れているから、だな。洋風料理も作れないことはないんだが」
「なるほど」
 啓斗の語る理由に表情を変えず、キュリアはそのまま完成した料理の味見を行う。やはり表情が変わらないので、どういう感想を抱いているかは分からない。
「ではこれで試験は終了です。部屋を出て、案内のメイドについてお帰りください」
 キュリアはそう言って、いつの間にか部屋の外で待機していたらしいメイドさんへ声をかけた――。

●相変わらずのやり取り【3C】
 お屋敷からの帰り道。啓斗と北斗の守崎兄弟は、一緒に冬美原駅へと向かっていた。
「だからっ!! 別に検定受けなくったっていいじゃんよっ!! 前回のあれだけでも、兄貴が掃除そこそこ出来る証明にはなったんだしっ!!」
「だから……メイドになりたいんじゃないんだと」
 語気強い北斗に対し、啓斗は冷静に返す。来る時にもやった言い争い、再びである。まあ行き同様、啓斗が北斗の言葉を受け流して勝つのだろうけれども。
「……あー、もう」
 行き場のない胸中のもやもやに、北斗は思わず頭を振った。と、ふと思い出したように啓斗へこう言った。
「そうだ兄貴。先に駅行って待っててくれよな。すぐに追い付くから」
 言うが早いか、北斗はとっととどこかへ行ってしまった。
「何だ……?」
 首を傾げる啓斗。けれども言われるまま、先に1人で駅へと向かっていった。
 さて、後日啓斗の元には認定証代わりとなる品が届けられた。それは飾り気のないシンプルなブレスレット。認定レベルによって色が異なるようだが、いずれも裏に所有者の名前と検定実施者の家紋が彫られている。
 啓斗に届いたそれは色が前回と異なっていた。達人ランクへ上昇していたのである。

【【メイドさん検定】来れ、メイドさん その2 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 3670 / 内藤・祐子(ないとう・ゆうこ)
                / 女 / 22 / 迷子の預言者 】
【 4607 / 篠原・美沙姫(ささはら・みさき)
        / 女 / 22 / 宮小路家メイド長/『使い人』 】
【 6040 / 静修院・樟葉(せいしゅういん・くずは)
            / 女 / 19 / 妖魔(上級妖魔合身) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜(界鏡線・冬美原)』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全10場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここに奇妙なメイドさん検定の模様をお届けいたします。
・相変わらず基準がどこにあるのか見えない検定ですが、今後も頑張ってみてください。検定の目的を考えれば、自ずと見えてくるかもしれません。
・守崎啓斗さん、19度目のご参加ありがとうございます。すんなりランク上昇です。調理前、調理後のことに目を向けたのはよかったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。