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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間

 レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
 彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
 美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
 其れだけに美しい女性である。
 ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
 名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
 また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
 と、申し出るレノア。
 あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
 と、あなたは言う。
 うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。

 色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。

 様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。



〈獅堂舞人の視点〉
 あれから数日後。もしくは数週間後かもしれない
 未だ完全に家の片づけが出来ていないが、一応人が住めるようには元に戻したつもり。しかし、何時敵が襲ってくるか分からないのでどうした物かと考えている。
 あのあと、なんとか都合をつけて草間さんに話をしたが、草間さんがどう対応するか保留というのが気になる。何か知っているのだろうか? 
 とはいっても、今の俺に出来ることといえば、レノアと共に過ごすこと。今の彼女は俺が居ないと危ないのだ。この数日で心を開いてくれている。それは、俺にとっても何となくうれしいことだ。え? ひょっとして俺は、いやいやいや……おれは、邪な考えなんてない! うん、決してない……決して……。数日しか経っていないのだが、あの幻想的で、非日常の空間からは少し抜け出せたのかもしれない。たぶん。
 レノアは、ある程度一般的な記憶は思い出しているか、覚えた様子だ。何とかなるかもしれない。残念だけど、未だ自分が何者なのか全然思い出していないようだ。
 朝、飯を食べて珈琲を飲んでいるところだった。
 レノアも生活になれてきた時に、こんな事を言った。
「あの、恩返しさせてください」
 いや、すべてが終わってからがいいのだけど……。
 と、言いたかったけど、彼女のしょんぼりした顔は見たくないのでやんわりと言おうかなぁ。ああ、でも、気持ちだけを受け取っておきたいけど……さて、どうしようか。
「恩って言われても特別なことはしていないし」
「私を匿って守ってくれています。いつも守っていられるばかりじゃ……えっと、その」
「うーん」
 一寸考えてみる。
 彼女は真剣だ。
 考えてみれば、完全に俺の部屋は片づけてなかったなぁ。アレ何時片づくんだろ? 今のうちが良いかもしれない。
「分かった、昼ご飯作ってくれるかな? 俺は部屋の片づけを終わらせる」
「は、はい!」
 と、レノアは張り切って返事した。

 大きな穴は何とか塞いだと思う。と、思いたい。しかし、粗大ゴミ分別が未だだった。掃除機をかけたり、ゴミの分別をしたりした。一方、台所では不可思議で不安にさせる音がしている。まて? 
「きゃあ! コンロがぁ!」
 今まで見たことのない燃え上がり方のコンロ。
「うわあ、消化器!? 消化器!?」
「舞人さん棲みません電子レンジ壊れてしまいました……」
「え? まじ?」
 ボタン一つ押しただけで、煙を上げている電子レンジ。
 できあがりが非常に不安です。

 午前はすべて、掃除で終わってしまった。ああ、しんどかった。これで何とか普通に眠れそうだ。
「お食事できましたよー」
 レノアが呼びかけてくれる。
「ああ、今行く」
 さて、彼女の料理ってどんなのだろう?
 見た目は、なんといろんな意味で芸術的。焦げは多い餃子と、何かのああ、魔女のスープみたいに泡立っているラーメンらしい物。其れが対照的に、レノアは期待している様子だ。いきなり謎の存在が皿に盛りつけられているというのだと怖い。
「お代わりもありますからね♪」
「いただきます」
 と、一口食べてみる……。
 !? 正直思うけど。食えない。多分食えない。
 冷や汗が……。
 しかし! ここで食べるのを止めたらダメだ! レノアが泣いてしまう。それだけは嫌だ。彼女が悲しむ顔は見たくないのだ。でも、少しだけ神秘あるか調べてみよう……それぐらいなら。うそだろ? 無いのか? いろんな意味で衝撃的な料理だよなぁ。
「あの、お、お味は」
「う、うん、個性的な味だよ」
 と、ごまかすぐらいしかできない。ああ、俺ってなんて……。
「よ、良かった」
 うん、やはり彼女は笑顔が一番だ♪
 其れでご飯は3杯行けそうだ。それだけは言える。自信もって。
 でも、こっそり、胃腸薬飲んでおこう。でも、この料理での食あたりに効くのかなぁ? 不安だ。


〈お出かけ〉
「レノア、ふれあい動物園に出かけようか」
「え?」
 食事が終わってから、舞人はレノアに声をかけた。
 レノアは、1分ぐらい何のことが分からなかったようで、考えていたようだが、理解したのか明るい笑顔になる。
「はい! 行きたいです!」
「決まりだ。着替えていこう。はぐれるなよ?」
 近頃ウサギなどとふれあえる小さな動物園、もしくはカフェが多くなっておいる。舞人は先日のレノアの事を思い出していったのだ。レノアは動物が好きという。特に猫が好きなので、都内でそこそこ有名な猫カフェにも寄ろうと思ったが、人気がありすぎてどこも満員らしいので、動物園に決めたのだ。彼女が喜ぶなら、ここでこもっているより、堂々と過ごす方が良いに決まっている。
 早速着替えて、舞人はレノアをつれて動物園に向かった。
 途中自動改札機を物の見事に壊しているレノア(他の人にはレノアが触っただけで壊れるとは思ってないので、故障と言うことで片が付いている)に驚く舞人であるが、毎度驚いてばかりではダメなので、いい加減なれないと行けないかと思ってもいる。もっとも、どうやってアレを壊せるのか謎のままだ。
 動物園に入ればレノアは、瞳を輝かせていた。
「たくさん動物さんがいっぱいです♪」
 と、そのまま駆けていくところ、舞人が猫の首をつかむように止めた。
「きゃう!」
「迷子になっては行けないから、はしゃぐな……」
「にゅう」
 猫状態レノアはできあがり。
 でも、表情は一寸お預け状態の犬だった。我慢できないらしい。
 パンダや象を見て、そこでもレノアははしゃいでいた。各動物もレノアに気づくと、何やら会話しているように泣く。
「なんて言っているの?」
「うんとー、今日こんな事があったって〜」
「動物と世間話出来るのは凄いな」
 しかし、レノアはしょんぼりしている。
「でも、暑いとか、ここは狭いよと……」
「うーん、こればっかりは。本当は自然の方が良いのだろうなぁ。人間のエゴで……」
「でも、人間が世話してくれているし怖い動物がいない分、安心できるとか言っています。どっちを取るかなのかなぁとか?」
 と、難しい話をしているようだ。
「あ、あのライオンさんこっち来て遊ぼうとか」
「まてまてまてー! 喰われるー!」
 舞人は、浮かれ状態のレノアを止めるので疲れていく。
 やっと、ふれあい動物園の中にはいると、
「わああ」
 と、レノアは動物たちに囲まれた。
「舞人さん、みてください。うさぎさん。かわいいです」
 と、飼育員に教えて貰ったウサギの抱き方で、レノアがウサギを抱っこしている。
 ウサギは、気持ちよさそうにレノアの胸の中で鼻をひくひくしていた。
 レノアの周りに小動物がたくさん寄ってきて、しまいにはレノアが動物に埋もれるのではないかと不安になったが総心配もしなくて良かった。
 ただ、舞人は、その姿を何かしら神秘的で、幻想的な物だと感じずにいられなかった。

 彼女がやはり、気になるのだ。
 事件の関係ではない。ただ、魅力的な少女としてかもしれない。

 レノアが色々動物のぬいぐるみを見てじっとしている。
「欲しいのか?」
「え? え? そ、そう言うわけでは……」
 否定してもその(ラッコかビーバーか、プレイリードッグのような、イタチ科っぽい小麦色の生き物のぬいぐるみだが)ぬいぐるみに、視線が外せない。
「これぐらいなら大丈夫だから」
 と、舞人は彼女の頭を撫でた。
「そ、そんな。私のために」
「済みません。これを」
 と、舞人はぬいぐるみを買う。
 レノアはうれしそうに笑っていた。
 ――やっぱり欲しかったんだな。と舞人は思う。

「本当にありがとうございます」
「なに、これぐらいおやすいご用さ」
 と、色々満足できた日。
 レノアもぬいぐるみを抱いて、ニコニコしている。
 これで良かったのだと舞人は思った。
「今日は楽しかったです♪」
 と、レノアが言ったとき……
「きゃあ」
 レノアは足をもつれさせたのか、転びそうになる。
「危ない!」
 舞人は、すぐに彼女を抱き寄せた。しかし、引っ張った力が強すぎたのか、逆方向に一緒に倒れてしまった。
 彼女には怪我がないように倒れ込んだが、完全に彼女が彼の胸の中に収まっていた。
「「あ……」」
 二人とも、そのまま動けない。
 二人とも心臓の音が伝わってくる。
 その鼓動が、とても恥ずかしいが気持ちよい気分にさせた。
「あ、だ、大丈夫? そ、それと、ご、ご……」
 舞人が、慌てて起き、レノアを起こした。しかい、レノアはそのまま抱きついていた。
「れ、レノア? あの」
「あ、あの、その……大丈夫です」
 と、彼女は我に帰って、少し舞人から離れた。
「あの、その、えっと」
 何か言おうとしているレノアだが、舞人もなんて言おうか迷っているようだ。
「えっと、なんだ。又行こうな。動物園」
「は、はい」
 と、二人は顔を真っ赤にしながら手を握って再び歩き始めた。

 舞人は思った。そして心の中で誓った。
 この現実を、あの幻想に壊させはしないと。
 そして、レノアの事も……。

〈蛇足的〉
 余談であるがその後、舞人は泣きを見る。
 台所の惨状を見て片づけが増えたのだ。しばらく家で料理は出来そうにない。

4話に続く


■ライター通信
滝照です
「蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間」にご参加して頂きありがとうございます。
さて、フラグが立ちまくったかもしれません。レノアについてどう思うか。色々考えて頂けると楽しいかもしれません。
レノアの「機械を壊す」のは神秘能力ではなく、すばらしい才能ある欠点(?)のようですので、左手などでは壊せません。さあ、大変ですよ、色々と(何が?)。
4話は、又シリアスに戻ります。様々な思惑が絡むかも。戦闘も回避できるかそのまま激戦になるかは舞人さん次第です。

では、またお会いしましょう。

滝照直樹拝
20060802