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蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間
レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
其れだけに美しい女性である。
ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
と、申し出るレノア。
あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
と、あなたは言う。
うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。
色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。
様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。
〈何だろうこのドキドキ〉
俺、司馬光。普通の高校生。
あの事件から数日が経った。まあ、それからは余り大きな事件という物はなく、落ち着いた日々だけど。俺にとっては何か色々ある日常だった。
その日常に、慣れていくというのは、人間上手くできているというか、恐ろしいものと思うけど、普通は考えない方向で良いと思う。でも、俺は意識してしまうのだ。
レノアが、徐々に俺との暮らしに慣れていく。掃除とか料理とかは無理にさせないようにしているけど、彼女は時間があれば空を見上げて、時には歌っている。
だんだんレノアのことが分かる。
青空が好きなこと、その歌は今のところ歌詞は人間の言葉っぽくないが、何か良い歌だけど、レノアが昔から覚えていたらしい物だとか。あと、そう食べ物だ。
「どんな食べ物が好き?」
前に、レノアにどんな食べ物が好きなのか訊いてみると、やっぱりケーキとかパフェとかという言葉が返ってきた。そのときの彼女の幸せそうな顔が可愛かった。
「えっと、ですね……ケーキが大好きです。あのショートケーキが特に。生クリームの甘さとか♪」
本当に、彼女はケーキや甘い物の話をすると幸せそうな顔をする。好きなんだなぁ。
俺もパティシエとして目指そうかなぁと。思ってみるわけで。
俺も色々修行中だけで、どんな料理人になろうか決まっていないのだ。
でも、ずっとお菓子の話をしていたらきりがない。毎日おかしやケーキだと食い飽きるだろうし。
服を買いに行く事にした時は色々あったなぁ。
「レノアはどんな服が好きなの?」
「えっと、こういう服が好きです。あこういうのも捨てがたいなぁ……」
普通の女の子のように、服に真剣になっている。
その姿が、可愛いなぁと思いながら俺は彼女を見ていた。
あ、何を考えて居るんだ!? 俺。
試着するレノアを待って、試着室から出た彼女を見て俺は固まってしまった。
「あの、似合いますか?」
少しピンクのはいった白いブラウスに、其れにあったスカートを着ているのだけど、とても似合う。店員もその姿に止まっている。
「に、似合うよ。と、とても」
「ありがとうございます♪」
彼女は、満面の笑みで笑う。
笑顔が殺人的だ。
良い物をみたと、……いや、俺は何を言っているんだ(脳内で首を振っている俺)!
ショッピングモールは大きすぎるので、レノアから目をはなせない。彼女は一寸ぼうっとしている感が強いから、一寸怖い。
案の定、レノアとはぐれてしまった。必死に探していると、レノアがぼうっと途方に暮れていたのだ。でも何でだろう? 目の前にカフェがあるのは? 気のせいだろうか?
「あ、あ……。光さん」
「レノア。大丈夫……!?」
大丈夫か? と次に言いかけたとたんに、レノアが抱きついてきたので、又固まってしまった。うわー、恥ずかしい。レノアは、半泣きで俺の名前を呼び続けている。
俺は、彼女の頭を撫でて落ち着かせた。
「一人で怖かったんだよな……。ごめんな、一人にして」
「光さん……ひっくひっく」
周りに人が見ている。うわー恥ずかしい。でも、これは俺の責任だし……。俺は恥ずかしさのあまり、レノアを連れて、目の前のカフェに入った。
「紅茶2つで、あ、一人だけケーキセット」
と、頼む。
レノアはある程度落ち着いてきて、ぼうっとしている。元からぼうっとしてい感じがするので、逆にそっちの方が落ち着くかもしれない。
「すみません。迷子になって」
「気にしないで、レノア。疲れただろ? だからここで、ゆっくりしてから帰ろう」
「はい」
と、ケーキセットと紅茶がきた。
気分的に砂糖を入れることにする。
すると、砂糖入れのガラスの感触ではなく、なんかとても柔らかく、暖かい感触にどきりとした。
なんと、俺はレノアの手を触っていたのだ。
「あ」
「あ。ご、ごめん」
とても綺麗な肌で気持ちが良いと、思ってしまった。
レノアは首をかしげて。
「あの、先、使っても良いですか?」
「あ、あああ、うん。いいよ。先に……」
「? はい」
レノアは、紅茶に砂糖を2杯入れて、俺に砂糖入れを手渡した。手と手が触れ合う。
本当に、綺麗で……ドキドキする。
なんで、ドキドキするのだろう? そのときは深く考えていなかった。
〈恋というのは邪ですか?〉
どんどん、俺はレノアを見ているとドキドキしてしまう。
ある日の朝だ。
「おはようございます」
「あ、ああ、おは……よう」
彼女のパジャマ姿に驚いて言葉を詰まらせてしまった。
「あの、どうかしたのですか? 熱でも」
「だ、大丈……! って!?」
レノアは、俺の額と自分の額を当てて、熱を測っている!?
まてまてまてまて!
「熱がありますね……大丈夫ですか?」
彼女は心配するのだが、いや、キミが近くにいるからそうなるだけで! ああ! 俺はいったい何を考えて!
「だ、大丈夫だから。朝食出来ているから食べよう」
「? はい……?」
と、俺はそそくさと台所に向かおうとするが、小指をカウンターの角に当ててしまい悶えてしまった。
「痛っ! あ、大丈夫だから、うん」
ああ、みっともねぇ!
レノアはずっと、首をかしげているばかりだが……。
俺はこのごろ(つまり、昨日の件から)レノアのことを思うと、ドキドキしてしまう。あと、余り深く考えられなくなる。その所為なのか、滅多にしないミスの連発だった。
普通はよけられるはずの柱に頭をぶつけてしまったり、料理で塩と砂糖を間違えてしまったり、なんで凡ミスばかりするのだろう……ううう。
俺は、レノアの事が、好きなのか?
……好きなんだな……。
一緒にいたい……。
何!?
俺は、俺はそんな下心で、彼女を助けたわけではない! 絶対に!
でも、でも、でも! レノアが好きなのは変わりない。
うがー!
「大丈夫ですか?! 光さん いきなり叫んで」
と、俺を悩ましている本人は、驚いて首をかしげているだけだ。
「いや、何でもない」
レノアを直視できない。
頬が熱くなるのが分かる。
ドキドキが止まらない。
悩みに悩みまくって、本音が出たのかと思うと、恥ずかしい。
ああ、何かおかしくなりそうだ。
誰か、このドキドキを止めてくれ。
〈この先〉
夜。
俺はベランダでぼうっとしていた。
いつもレノアのことを考えてしまう。これは本当にヤバイかと思うぐらい。ドキドキがいっこうに止まらないのだ。
でも、気持ち悪い物ではないが、なんて言うか俺はそんなつもりで助けたわけではない。レノアを狙う、あの謎の男の襲来が何時来るかも気になる。問題は山積みの所に又問題が増えたという感じだ。新権威考えるほど、レノアのことが気になって仕方がない。
レノアは、静かに寝息を立てながら眠っている。
ベランダで頭を冷やしているのは、その……、俺が眠っていたら、レノアは寝ぼけても居たのか、俺の横で眠ってしまったのだ。当然俺は飛び起きてしまう。
「ふにゃ? ……くう」
と、行って彼女はそのまま夢の中。
肌と、彼女の胸が俺の体に密着して、余計にドキドキしてしまい、逃げるようにして(しかし、彼女を起こさないように)離れてベランダにいるのだ。
ああー、こんな事になるなんて。でも助けたことには後悔していない。
しかし、しかし、俺はなんていけないことを考えているのだろう……と、自己嫌悪してしまう。
この不安もあるけど、心地が良い感覚。ドキドキが止まらない。これが恋なんだろうか?
俺は……この先どうすればいいのだろうと、真剣に悩んでしまう。
この先レノアと俺はどうなってしまうのだろう?
夜空は雲一つ無く。東京では星は見えないけれど。光り輝く天の川が見えている錯覚がした。
4話に続く
■登場人物
【4204 司馬・光 17 男 高校生】
■ライター通信
滝照直樹です
『蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間』に参加してくださりありがとうございます。
さて、可能な限りの砂糖描写などを使うために一人称、光さん視点で書きました。ドキドキが止まらなく、ドジばかりする状態を書いていて楽しかったです。いかがでしたでしょうか?
では、4話は一気にシリアスなるでしょう。それぞれの思惑が絡み合うような話です。
では次回にお会いできることを願って。
滝照直樹拝
20060807
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