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蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間
レノアがあなたの家に匿われてからしばらくたった。これといって大きな事件もなく平和に過ぎ去る日々。
彼女は徐々に明るくなる。元からの性格がそうだったのだろうか。
美しい顔立ちが、明るくなった性格に相まってきて、どきりとする時がある。
其れだけに美しい女性である。
ある日のことだ。彼女は歌を歌っていた。ハミングを口ずさむ。
名前以外知らなかったはずなのだが、調べていくと、歌が好きだと言うことを思い出したという。気持ちよい歌。しかし、其れだけでは手がかりにならない。
また、ある日のこと。
「いつも、いつも、あなたにお世話になりっぱなしです。出来れば恩返しをさせてください」
と、申し出るレノア。
あなたは、申し出を断るかどうか?
「たまには外に出かけてみようか?」
と、あなたは言う。
うち解けてきた彼女は、にこりと笑って付いていく。まるで子犬のように。
色々探さなければならないことはある。しかし早急にするべきではなく、非日常から日常へ少し戻ることも……必要なのであった。
様々な彼女とのふれあいで、心惹かれ合い、そしてその日々を楽しいと感じることになるだろう。
〈祭に行こう〉
あの事件からかなりの月日が経った。俺は、レノアと共に過ごしている。レノアの方は、落ち着いていて、笑顔にいることが多くなった。俺もその方が落ち着けるな。
レノアの性格や特徴は分かったけど、色々問題があった。恐がりというところだろうか? まあ、なんていうか、今状態を考えるにその方が用心してくれて助かるかもしれない。たまに草間さんが見えると、すぐ、隅の方に縮こまってしまうか、俺の後ろに隠れてしまうのは困ったことだけど。でも、色々彼女の性格が判ってきたし、何より、歌がステキだった。彼女が歌う意味は何故か俺にも分からない。どこの言葉いや、そもそも、“人の言語”なのだろうか? でも、レノアの歌を聴くと、心が落ち着くときもあれば、何かしら大事な物をなくした悲しい感じがした。其れはいったい何なんだろう? 色々問題は抱えているのだけど、レノアが笑って共に過ごしていると言うことが俺にとって、今の生活は充実しているのだ。
すでに夏が近く、近くの神社でそろそろ夏の始まりを祝うような花火大会と祭があるってはなし。しかし、なんだろ? 場所が知っているような神社なんだけど……。新聞で調べてみれば、ああ、納得。知って居るも何も、知り合いの長谷先輩の神社だった。
「夏祭りか。いいよなぁ」
と、俺はふと思った。
家にずっと居るレノアに気分転換させたい。それと、あの子が浴衣姿になるのは、どんなのだろうと思ってしまうわけで。一寸……かんがえちゃいました。
「あら、結城君じゃない」
長谷先輩が声をかけてきた。
「先輩こんにちは」
挨拶を返すと、先輩はにやりと笑う。俺は其れに首をかしげる。
「話聞いたよー。今女の子と同棲しているって!」
その言葉が出たのか。
「ええ!? どうしてそれを!?」
俺は、思わず、声をあら上げる。
草間さんがそんな話をすることはない。おそらく、マンション周りでの噂か……もしくはあのにくき超常現象関係での腐れ縁連中かもしれない。全く、こっちの苦労を知らないで……。まあ、レノアと過ごして、楽しいことがあるんだけどさ。
「隅に置けないねー♪」
「ああ! その話は内緒に! お願いします!」
他の友人に知られてしまうと、大変なのだ。だから、そうお願いする。
「まあ、黙っててあげる」
先輩はにこりと笑って頷いてくれた。
「た、助かります」
安堵のため息をつく。
ん? まてよ? 長谷先輩が目の前にいる。そして、そろそろ……。ちょうど良いかもしれない……。
「先輩、一寸内緒ついでに、頼みたいことがあるのですけど」
「? 何? お姉さんが出来ることなら任せて」
と、長谷先輩は笑って聞いてくれた。
〈夜店と花火と……〉
境内に屋台が建ち並ぶ。
俺は、浴衣姿で少し屋台から外れた場所に立って、レノアを待っていた。長谷先輩にお願いしたのは、レノアに着付けをして欲しいと言うことだ。先輩は快諾してくれたので、当日に長谷神社に向かったのだ。レノアは珍しく長谷先輩を見ても怯えなかった。たまにあの人(長谷先輩)が何者か判らなくなる。いつも思っていたけど、ただ者ではないのは判っているから……でも、すごいよな。
「あの、ふ、二三矢さん……。お、おまたせしまいた」
レノアの声がした。
振り返って、彼女の名前を呼ぼうとするが……。
「レノア……? レノア……か?」
俺はレノアを見て、固まってしまった。
薄い青の生地に夏の花をあしらった浴衣姿のレノア。金色の髪が綺麗に結わえられている。見たことのない美を感じた。
「あらまぁ。どうしたの? 結城君。レノアちゃんに惚れ直したのかしら〜♪」
先輩が後ろにいることなんて認識すらしていない。
それだけ、レノアの浴衣姿が、印象的だったのだ。
「あの、その、二三矢さん? どうしたのですか? ひょっとして私……に……」
「い、いや、に、似合うよ。レノア。うん、綺麗だ」
「ほ、本当ですか? う、うれしい……」
レノアが浴衣姿で恥ずかしそうにしているのだが、俺はしっかり、誉めようとしたのだけど、上手く言葉が、口が上手く動かせない。顔がとても熱い。どうにかなったんだろうか、俺?
ああ、先輩が(やっと見えた)笑っている。恥ずかしい。
「さて、お二人でゆっくり楽しんできてね♪」
先輩は、俺の肩を叩いて去っていった。おそらく、神社の運営に戻ったのだろう。
「い、行こうか、レノア」
と、俺はレノアの手を握った。
レノアは、顔を朱に染めながら、握りかえしてくれた。
一寸、うれしかった。
レノアは、浴衣に着慣れているわけでもないので、少し動きづらそうだった。でも、俺が綺麗と言った事がうれしかったのか、かなりはしゃいでいる風に見える。
「二三矢さん、綿菓子! 綿菓子!」
「ああ、食べようか」
と、色々彼女が欲しいモノを買ってあげ、食べた。
「美味しい♪」
「うん、よかった……」
と、俺はレノアと、ずっと歩いて食べて遊んだ。
焼きそば、たこ焼き等々。買っては食べて味がどうこうと話してみたり、輪投げで遊んでみたり、損文意レノアがはしゃいでいる姿を眺めていた。結果は惨敗としても、彼女は楽しんでいるようだった。
射的で可愛いぬいぐるみがあったので、やって当たった(実は一寸だけ「言葉」を使ったのだけどね)。レノアは凄いと驚いている。たしかに、この貧弱な銃だと無理があるよなとかおもいつつ。
「はい、レノア。これ上げるね」
俺は、ぬいぐるみを彼女に差し出す。また、レノアは驚いた。
「え? わたしに、ですか?」
「そのために狙ったんだ」
「……あ、ありがとうございます」
レノアは嬉しそうにそして恥ずかしそうに、大きなぬいぐるみを受け取ってくれた。
慣れてきて笑顔を見せてくれていたが、本当の笑顔を見たことはなかった気がする。
いま、彼女の姿が俺にとって、かけがえのない物に感じた。
人の流れが変わる。
「あ、そろそろ花火が始まる。行こうレノア」
「は、はい♪」
俺が手を差し出すと、レノアが微笑みながら俺の手を握ってくれた。
そこから伝わる暖かさと想いが、ドキドキさせた。
静かな境内の一角。
二人で花火を見るにはうってつけの場所だった。
ほどよい暗さが、花火の美しさを引きただせる。
レノアは、目を輝かせて花火を眺めていた。
俺も、一緒に眺めていた。
しかし、ふと彼女を見る。その姿がとても綺麗で、何か悲しくなった。
俺は彼女をどう思っているのか……。
この短くて長い間に、どう思っていたのか。
彼女の横顔をみて、少しだけ分かったような気がした。
レノアも、俺が見ていることに気づき、
「二三矢さん……」
と、体を寄せてきた。
「レノア……」
自然に、俺とレノアは抱きしめ、お互い目をつむって、キスをした。
自然にお互いがそうした。
俺はやはり、あのときから、彼女に惹かれていたんだ。
〈幕間が終わり〉
あのとは、ゆっくりと帰る。
自分の気持ちが分かったこと。彼女も同じ気持ちだったこと。
この穏やかな気持ちを大事にしたい。そう俺は思った。
ただ、この平穏が長く続いて欲しいと思った。
あの事件は終わって、後は彼女の記憶が戻れば……。
しかし、そうはうまくいかないことを、後で思い知らされる。
4話に続く
■登場人物
【1247 結城・二三矢 15 男 神聖都学園高等部学生】
■ライター通信
滝照直樹です。
「蒼天恋歌 3 穏やかなる幕間」に参加してくださりありがとうございます。
砂糖を頑張って書いてみました。どれぐらいの糖度でしょうか? と気になります。
希望に添う形であれば幸いです。
4話からは又シリアスに、戦闘回避なども可能な話ですがそれぞれの思惑が絡み合うでしょう。ただ、結城さんは、レノアの力(光などで影を追い払うこと)を知らないために、少し難易度が高くなっています。
では、次に機会に
滝照直樹
20060809
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