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世紀末覇王の妹〜支度編
□Opening
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拝啓 世紀末覇王殿
我ら世紀末爆裂連合は、貴殿に果し合いを申し込む。
三日後、広場空き地へ来られたし。
万が一貴殿が来ぬ場合は、貴殿が潔く負けを認めたものとし、
我らこそ世紀末覇王を名乗らせていただく。
世紀末爆裂連合
敬具
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草間・武彦は、手紙を横目で見ながら、興味なさげに煙草をくわえた。
「どうか、お願いします」
しかし、武彦の正面で、依頼人である少女は両手を組み瞳を潤ませた。
「と言われても、喧嘩の手助けなんか、探偵の仕事じゃないぞ、本人達で解決できないのか?」
ふ、と。煙を吐き出して、武彦は首を横に振った。喧嘩なら喧嘩で、本人同士心行くまでやれば良いのだ。武彦に被害が及ばぬところで。
「でも、兄は、今は居ないんです」
それでも、少女は諦めなかった。気の無い返事を繰り返す武彦に、必死で食い下がる。
「居ないって、じゃあ呼び戻すとか」
「無理です、兄は世紀末覇王……、世紀末にしか戻ってきません」
少女のその言葉に、武彦は若干の頭痛を覚えた。そうか、この少女の兄は、世紀末覇王なんだ。だから、世紀末にしか戻ってこない。そうか、そうか。武彦は、必死で自分を抑え、引っ掛かりをスルーした。
「だからって、本人が居ないんじゃ、仕方が無いな」
「ええ、ですから、貴方なんです」
早く諦めてくれれば良いのに。武彦は、ぼんやりそう思いながら少女を見たが、少女は期待を込めて武彦を見返した。
「俺が、何か?」
「背格好が、兄に似ているんです! だから、世紀末覇王っぽく変装して戦ってください!」
私が、兄さんと呼べば、きっと大丈夫ですから! と、少女は何度も頷いた。
「いやいやいや、ちょっと待て、どう考えても、顔でバレルだろ」
これは、何だかヤバそうな雰囲気だ。武彦は、これまで以上に首を振った。
「いいえ、兄は仮面をかぶっていましたから、大丈夫です、上手く変装してください」
にっこり微笑む少女。
「そっか、じゃあ、まずはどんな変装するかですね、兄さん」
いつの間に現れたのか、お茶を差し出しながら草間・零も、うきうき嬉しそうに笑顔を見せた。
だから、上手く変装って、何をどうするってんだ……。
武彦は、一人、大きくため息をついた。
■02
「世紀末覇王……ねぇ」
ヴィヴィアン・ヴィヴィアンは、指を唇にあてくるくると依頼人の周りを回りながら、考える仕草を見せた。
「ねぇ、アナタのお兄さん、ひょっとしてカップ麺みたいな名前?」
ずい、と。
身を乗り出したヴィヴィアンに驚いたように、依頼人の少女は一歩身を引いた。
「そ、それはどう言う……」
戸惑う依頼人。その様子に、ヴィヴィアンはくすくすと笑いながら続ける。
「あとはね、弟って居ないの? ん……、と、鳥の名前のような……ト……んぐ」
が、その口を武彦が慌てて塞いだ。
「はぁ、確かにウチは四人の兄が居ますが……、覇王なのは一番上の兄だけです、あとは医者や、ちょっとやさぐれてしまった兄や、拳法を志す兄……です」
二人の様子に戸惑いながら、少女はおどおどと述べた。
「きゃはは、タケヒコ面白〜い」
武彦に口を塞がれたヴィヴィアンは、するりとその腕を抜けきゃらきゃら笑った。さて、目の前のおもちゃをどういたしましょうか。ヴィヴィアンは、楽しそうにその場でくるりと回転した。
□04
「これが、中世の仮面舞踏会風のアイマスク、こっちは何某の怪人風だね」
そう言いながら、皆三葉・トヨミチが持参したマスクを並べて行くのを見ていた。上流階級の気品漂う舞踏会風のアイマスク、真っ白い陶器のような素材で出来た顔全体を覆うようなマスク、それから、斧を持ってホラー映画の世界を練り歩く殺人鬼がつけているようなマスク、と、それはそれは沢山のマスクが並べられた。
「顔出しは、絶っ対嫌だからな、まずいだろうし……」
武彦は、一同から少し離れた所でまだぶつぶつといじけていた。
「あら、これなら顔全体が隠れるわよ」
そんな武彦に、シュライン・エマは笑顔でそれを持ち上げた。
それは、いかにも簡素な作りの、目と口の部分が繰りぬかれた布だった。きっと、武彦がそれを装着すれば、銀行強盗に間違えられる事間違い無し。トヨミチもくすくすと笑いを堪える。
「シュライン、お前、絶対からかってるだろ、ソレ」
お前だけはと信じていたのに、と、武彦はますます部屋の角へ身を縮めた。
「タケヒコ、これこれ、これがイイよ! 可愛いよ!」
それに追い討ちをかけるのは、ヴィヴィアン・ヴィヴィアン。
その手には、火星に住んでいそうな……いや、あくまで想像だけれども、宇宙人風の着ぐるみが握られていた。
「もはや、仮面でもないしっ、何でそんなモンまで有るんだ!」
がー。
と、武彦は吼えた。
「知りたかったら是非うちの公演を見に来てくれ」
武彦の叫びに、トヨミチが冷静に営業トークをはじめる。ちなみに次の公演の前売り券は1800円、と、片手を差し出した。
武彦は、差し出された手をぺしりと軽く叩き返し、『お前、うちの台所事情を知らないのか』とおおいばりで貧困をアピールした。
「ほら、武彦さん、乗りかかった船だと思って、ね」
シュラインは、その様子にくすくすと笑いながら、武彦に良く冷えたお茶入りのペットボトルを差し出した。
はぁ、と。ため息をつきながら素直にペットボトルを受け取り、武彦はごくごくと冷たい液体をのどに流し込む。
「仮面はこんな所だけど、どうしようか?」
トヨミチの問いかけに、シュラインはホラー映画の世界を練り歩く殺人鬼がつけているようなマスクを指差した。
「仮面は決まっていると言うわけでは無いって事だし、強面のコレで良いんじゃないかしら」
その上、小さな穴が無数に開いているその仮面は、視界が可能な限り保てそうだった。
「まぁ、良いんじゃない?」
とヴィヴィアンも適当に合意。
そんな感じで、まずは仮面が決定した。
■05
「闘うんだから、筋肉ムキムキにしなきゃね」
さて、一同の武彦世紀末覇王っぽく計画をぼんやりと眺めていた武彦に、ヴィヴィアンがにこやかに近づいて来た。
「いや、今からトレーニングはなぁ、ちょっとキツイ……」
ヴィヴィアンの提案に、そう返事を返した武彦だったが、言葉途中で彼女の手に握られている薬と書かれたビンに顔を強張らせた。
「ちょっと待て、お前、ソレ何だ?」
じりじりと、狭いスペースを後退する。
「筋肉質なタケヒコも好きよ」
と、小悪魔よろしくにこりと微笑むヴィヴィアン。絶対に、正規の薬局などでは流通していなさそうな、その薬。上品な作りのビンが、かえって武彦を不安にさせる。どこかの怪しいアンティークショップで取り扱っていそうな雰囲気が漂っていた。
「聞くがな、ソレ、どうした? どこから持ってきた?」
元から部屋の端でいじけていた武彦には、退路など無かった。
冷や汗を流す武彦とは対照的に、ヴィヴィアンは非常に楽しそう。
「ん、アンティークショップだよ、ほらタケヒコっ」
ヴィヴィアンは、焦る武彦の姿にご満悦の様子で、ビンの蓋を開けた。
「飲まん、絶対に飲まんぞ」
武彦は、両手を胸の前で大きくクロスさせバツマークを作り、拒否の意を表す。
彼の最後の抵抗だった。
「大丈夫、飲むんじゃなくて、振りかけるだけだから」
ヴィヴィアンは、にこにこと、きらきら輝く液体を武彦に振り掛けた。
□07
「ヴィヴィアン、コスプレ大好きだから素敵にしてあげるね」
トヨミチが用意した外套を羽織らせながら、ヴィヴィアンが上機嫌で武彦に語り掛けた。
その下では、シュラインとトヨミチが小物に細工をしている最中だ。
ブーツに意味無く拍車を取りつけているのはシュライン。馬は居ないけれど、箔がつく事間違い無しだ。手袋担当のトヨミチは、指無の物を使用し、甲の部分に金具を縫い付けている。
「お前ら、俺に何のツッコミも無しか……?」
黙々と作業を続ける面々に、ついに武彦が問い掛ける。
と、言うのも、武彦は普段の二倍ほど膨らんでいた。胸板は厚く、両手を下ろしても身体の側面に沿わないほどに腕の筋肉も盛りあがっている。
「うん、似合ってるよ草間君」
しかし、その事に全く触れずに、出来あがった手袋を武彦の手に装着するトヨミチ。
「おい、笑いをこらえてないか?」
武彦は、トヨミチの肩の震えが気になった。
「何の筋肉の事かな?」
が、しかし、トヨミチはふいと視線を遠くにずらし、わざとらしく肩をすくめる。
「髪はオールバックにして、毛先はツンツンにしちゃいましょう」
ブーツの装飾を終えたシュラインは、早速とばかりにスプレーを取り出し、武彦の髪のセットに入った。
「おい、足の膨らんだ筋肉に、何か一言無いか?」
髪をセットするシュラインの顔が近い。
武彦は、ぼそぼそと、シュラインに助けを求める。
「そうね、髪は色スプレーで染めちゃって……、首にも鋲打ちしたベルトが欲しいところね、その姿じゃ」
シュラインは、くっくとのどが鳴るのを必死に我慢して、外套の装飾に取りかかっていたヴィヴィアンに提案した。
これと言うのも、ヴィヴィアンが持ってきた怪しげな薬の効果らしく、武彦の身体はレスラーもビックリの筋肉に包まれていた。
「おけ、この腕輪を改造しちゃうね」
ヴィヴィアンは、ごつい腕輪を持ち出して、武彦の首の寸法を測り始めた。
「……、お前ら、人事だと思って楽しみやがって」
武彦の、諦めと憤りが入り混じった弱々しい声は、ついぞ止む事は無かった。
「まぁまぁ、武彦さん、ほら煎餅でも食べて、ね」
シュラインの差し出した煎餅をかじりながら、武彦は、されるがまましくしくと立ち尽くしていた。
▽
さてさて、お立会い。
その姿、熊も裸足で逃げ出す筋肉達磨。
肩に防具のついたファー付きの外套は勇ましく彼を包む。
その首には、禍禍しいまでの、厳ついベルト。
両手には、金具に守られた指無しの手袋。
また、その髪型は、地獄の魔王を彷彿とさせる、オールバックに色とりどりの跳ね上がった毛先。
ここに、世紀末覇王(っぽい)草間武彦が完成した。
「防具の装飾は、さりげなく急所を守っているの」
機能的よね、と、満足げなシュライン。
「いや、似合っているよ草間君、いつでもウチの団員においで」
とは、トヨミチ。
「わぁい、タケヒコ、かっわいいー」
ヴィヴィアンもご機嫌だ。
「ありがとうございます皆さん、これで、あとは、世紀末爆裂連合をやっつけるだけです」
依頼人のユリカもコレならと、笑顔がこぼれる。
武彦は、一人肩を振るわせ、ぼんやりと明後日の方向を見ていた。
<End or Next?>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【6205 / 三葉・トヨミチ / 男 / 27 / 脚本・演出家+たまに役者】
【4916 / ヴィヴィアン・ヴィヴィアン / 女 / 123 / サキュバス】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
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■ ライター通信 ■
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この度は、ノベルへのご参加ありがとうございました。ライターのかぎです。草間氏はすっかり勇ましくなり果てて、依頼人は満足そうで良かったです。
楽しいプレイングにつられて、楽しく描写させて頂きました。
□部分は集合描写(二名以上参加のシーン)、■部分は個別描写になります。
また、『支度編』を踏まえた『決闘編』も依頼として出ると思いますので、よろしければそちらもちろっと覗いてやってください。
■ヴィヴィアン・ヴィヴィアン様
はじめまして、はじめてのご参加ありがとうございました。ヴィヴィアン様の魅力を引出せましたでしょうか。口調につきましては、色々考えた末こんな感じになりました。いかがでしたでしょう。
それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。
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