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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


ガラスのウサギ



☆ ★


 ――――― ガラスで出来たウサギになんて入れるから ・・・・・・


★ ☆ 


 アンティークショップ・レンの店内に入ると直ぐに店主である碧摩 蓮に呼び止められ、京谷 律(きょうや・りつ)はその導きに従って店の奥、こじんまりと設けられた丸椅子に腰掛けた。
 ここは普段蓮が休憩用に使っているのか、丸いテーブルの上にはお菓子の缶が置かれていた。
「今日はよく来てくれたねぇ」
「いえ、俺で力になれるんでしたら・・・。それで、依頼の内容はどんなものなんですか?」
「ちょっとねぇ、取り返してもらいたいものがあるんだよ」
 蓮はそう言うと、律の目の前に紅茶を置いた。
 金色の髪がサラリと揺れる。華奢な身体つきと良い、綺麗に整った顔と良い、律はどこからどう見ても10代半ばの少女にしか見えなかった。
「ガラス細工でこのくらい小さなウサギの置物なんだけどね」
 蓮が両手で小さく円を描く。10cmほどのものだろうか・・・
「どうしてそんなものを・・・?」
「アレはねぇ、ただの置物じゃぁないんだよ。ちょっとした曰くつきの代物でね。割っちまうと大変な事になるんだ」
「・・・何が入ってるんです?」
「人喰い」
「鬼・・・ですか?」
「ま、割らない限りは封印されてるからねぇ、安全だよ。ちょっとした手違いで売っちまってねぇ、先方に話をしたんだけれどダメだね、ありゃぁもう魅入られちまったよ」
「・・・ちょっと待ってください。話し合いで取り戻せなかったって事は・・・」
「あぁ、そうだ。あんたに取り返してきて欲しいんだ。こっそりと・・・」
「それって泥棒じゃないですか!ダメですよソレ!それに、俺はそう言う事に向かないんです・・・!」
「いいや、あんただから頼んでるのさ」
 蓮はそう言ってにっこりと微笑むと、奥から1枚のセーラー服を取り出してきた。
 鮮やかなブルー地のそれは、大きなピンク色のリボンが印象的で・・・
 聖マリス女子高等学校。幼稚舎から大学まで揃っている、挨拶は『御機嫌よう』の正統派超お嬢様学校だ。
「あんたなら絶対にバレる心配もないだろうしねぇ」
「や・・・ちょっ・・・俺男ですからっ!!絶対バレますって!!」
「いいや、絶対にバレる心配はないよ」
 逃げようと立ち上がる律の手をガシっと掴み・・・どこからともなく金色の緩いウェーブがかったロングのウィッグを取り出して・・・蓮は世にも楽しげな笑顔を浮かべた。
「・・・!!!!!!!!」
 ――――― かくして女子高潜入計画は企てられたのである。


☆ ★


 蓮からの急な呼び出しに急いでレンへと駆けつければ、店内には可愛らしいセーラー服を着た少女が1人、アンティーク調の椅子に浅く腰掛けていた。椅子は商品なのだろうか。大きめの背もたれの端には奇怪な紋様が彫られている。
「えぇーっと・・・」
 一番乗りで駆けつけた樋口 真帆(ひぐち・まほ)は金髪美少女をまじまじと眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
「・・・律さん?」
「う・・・はい・・・」
 顔を真っ赤にして俯く律にはお構いなしに、真帆はきょとんとした瞳を真っ直ぐに向けている。
「どうしたんですか、そんな格好して?」
 意外なほどに驚いていない真帆に、店の奥で傍観していた蓮が思わずつんのめる。
「あ・・・あの、決して、決して俺の趣味とかじゃなく・・・その・・・」
「あっれー?可愛い子がいるー!」
 真帆の背後から明るい声を出して、陽夏 快斗(たかなつ・かいと)が顔を覗かせ、真帆と律を交互に見比べる。派手なオレンジ色の髪をさらりと風に靡かせて店内に入ってきた快斗は、しばらくまじまじと律を見詰めた後でポンと手を打った。
「おまえ、もしかして男じゃねぇ?」
「男です!!」
「あぁ・・・」
 何か納得した様子の快斗。
 激しく間違った方向に勘違いされていると言う事をヒシヒシと感じ、涙目になりながら反論をしようとしたところで・・・カラリと音を立ててレンの扉が開いた。
「蓮さーん、来たよー!・・・って、あれぇ?」
「律君・・・?」
 途中で会ったのか、桐生 暁(きりゅう・あき)と菊坂 静(きっさか・しずか)が同時に店内に入って来て、4つの瞳を律に注ぐ。なんだか居たたまれない展開になりそうな予感を感じ、真帆が何かフォローをしようと口を開きかけるが、なにぶんどのような経緯があって律がこのような格好をしているのか説明が出来ないために、開いた口は再び閉ざさるを得なかった。この時点では誰も、今回の依頼の内容を詳しく知らないからだ。
「えぇっと・・・」
「あぁぁぁ・・・違うんです・・・!!」
 今にも泣きそうな顔をする律。快斗が何かフォローの言葉はないかと探し、とりあえず今現在2人の中に芽生えている間違った疑問の芽を摘み取っておくことにした。
「別に趣味でやってるっつーわけじゃないみたいだけど?」
「・・・あ、うん、そうだよね。何か理由があったのかな?」
 一瞬フリーズしていた静だったが、すぐに普段通りの柔らかな笑みを浮かべると律の顔を覗き込んだ。
「れ・・・蓮さんがぁ・・・」
「へ?蓮さんの趣味なの!?」
「・・・桐生とは一度、じっくり話し合ってみたいものだねぇ」
 暁の言葉を聞いて、奥で傍観を決め込んでいた蓮が表に出ざるを得なくなる。
 蓮だって、妙な誤解をされては堪らない。
「今回の依頼のために、こんな格好をさせているのさ」
「そう言えば、今回の依頼って何なんですか?」
 真帆がサラサラとした長いストレートの髪を背で揺らしながら可愛らしく小首を傾げる。
「まぁ、それは全員揃ってから・・・だね」
 蓮がそう言ったその時、再びレンの扉が開かれた。
 カランと軽快な音と共に店内に入ってきたのは、今時っぽい高校生2人組みだった。
 別段この2人は待ち合わせて一緒に来たわけではなく、たまたまレンの店の前で鉢合わせして一緒に中に入ってきただけなのだが・・・どことなく雰囲気が似ている2人だった。
 危ういほどに繊細な雰囲気は同じなのに、背負っているモノはどちらも違う。そんな、似ているようで全く違う少年達だった。
 黒羽 陽月(くろば・ひづき)がふわふわとした猫毛の髪を掻き上げ、集まった人の顔を順々に見た後でピタリと店の中央で座っているセーラー服の美少女へと視線を向ける。
「えーっと・・・何これ、合コ・・・」
「いや、違うだろ」
 明るい茶髪をした夏軌 玲陽(なつき・れいや)がすかさず突っ込みを入れる。
 アンティークの椅子に座った律をジっと見詰め、直ぐに何かに気付くと顔色を曇らせる・・・。
「さて、後1人来るはずだねぇ。最後の1人が揃ったら依頼内容の説明に入ろうかねぇ」
 もっと中に来いと言うかのように蓮が扉近くにいる陽月と玲陽を手招きし、一同は最後の参加者の到着を待った。
 パタパタと言う足音と共にガチャリと扉が開き、秋月 律花(あきづき・りつか)が肩で息をしながら店内に入ってくる。
「すみません、ちょっと道が・・・」
 言いかけた言葉を飲み込む。
 その場に居た全員の視線を受けて、律花は思わず依頼の内容に思いを巡らせた。
 蓮以外の面々は、どう見ても高校生年齢だ。
「あの、蓮さん・・・?」
「これで全員だねぇ。それじゃぁ依頼の内容なんだけどねぇ・・・」
 蓮の視線がチラリと律に向けられる。
 それだけで、その場に居た何人かはある程度の依頼内容の予想が立っていた・・・


★ ☆


 手渡された聖マリスの制服は、確かに可愛らしかった。
 鮮やかなブルー地に、胸元で踊る大きなリボンはピンク色だ。
 二の腕の半分くらいの位置で途切れている袖には3本の青いラインが綺麗に引かれている。
「私の高校、ブレザーの制服だったのでこういうセーラー服って憧れたんですけど」
 律花が手に持った聖マリスの制服に視線を向ける。
「けど・・・」
 そう。確かに制服は可愛いのだ。文句なしに可愛いのだ。
 もし自分が高校の時にこの制服だったとしたならば、毎日喜んで着て学校に行っていただろう。
 断言できるくらいに可愛らしい・・・のだが・・・。
 いくら制服が可愛いと言っても、それは若い女の子が着ている場合に限るのではないだろうか?自分のような二十歳過ぎの女が着ていても痛々しいだけではないだろうか?
 コスプレとか言われないだろうか?いや、それを言うならばここにいる全員がコスプレになるわけだけれども・・・他のメンバーはまだ良い。何せ実際に高校生なのだから。ちょっとした遊びで済まされる気がする。けれど、自分がやったら犯罪にならないだろうか?大丈夫だろうか・・・?
 悶々と駆け巡る思考は悪い方へ悪い方へと向かって行く。
 その困惑したような凍りついた表情にいち早く気付いたのは蓮だった。
 何が言いたいのか分かったとでも言うように、ポンと律花の肩を叩く。
「まぁ、大丈夫だろう」
「でも蓮さん・・・」
「顔はともかくとして、秋月の場合、体型は十分そのままでいけるだろうしねぇ」
 蓮の視線が律花の胸へと注がれる。
 声を大にして言えることではないが、律花はバストが貧乳気味なことをかなり気にしているのだ。
 それなのに・・・それなのに・・・
 いくら自分が豊満な胸を持っているからと言って、さらりとそんな事を言うなんて、言葉の暴力だ!
「蓮さん酷い・・・」
 これが男相手なら鉄拳制裁の一つでもくれてやるところだが、さすがに女性に手は上げられない。
 律花は持っていたセーラー服で必死に胸を隠すと、蓮の胸にマジマジと視線を向けた。
 ・・・溜息以外には何も言葉が出てこない・・・

 そんな打ちひしがれている律花から少し離れた位置では、また別の打ちひしがれ方をしている人が居た。
 ずーんと重いものを背負いながら、手渡されたセーラー服に視線を注ぐ。
 確かに・・・確かに律は大変だと思う。可哀想に涙目になってしまって、いくらどこからどう見ても女の子にしか見えないとは言え、律はれっきとした男だ。ちょっと明るめの女の子ならついつい言いがちなのだが、可愛らしいと言う言葉は男の子にとって見れば褒め言葉には聞こえないのだ。いくら心底可愛らしい、弟みたい、女の子みたいと言っても、彼らにとってみれば軽くプライドを傷つけられているのだ。
 大体、女の子に男の子みたいだと言うのはセクハラだと声高に訴えられるのに、どうして男の子に女の子みたいだと言う事は容認されているのだろうか?なんだか釈然としないものがある。
 ・・・まぁ、その変のゴタゴタはこの際置いておくとして・・・
 あまりにも悲壮な面持ちで椅子に座っている律が可哀想で、そもそも蓮に頼まれた手前もある。だからこそ、静の手には聖マリスの鮮やかなブルー地のセーラー服が握り締められているわけであって・・・
 でも、今回は流石に・・・流石にいただけない。
 これを着ろと言うのだ。これを・・・これを・・・
「あの、静君・・・?」
「あ、うん・・・何でもないよ」
 心配そうに顔を覗き込まれ、静は軽く首を振った。
 顔を上げれば既に着替え終わっている人もいる。静もグズグズしているわけにはいかない。
 けれど、セーラー服に袖を通すと言うことはかなりの勇気を必要とするものなのだ。
「・・・せめて夢幻館の皆にバレないようにしようね」
「そう・・・だね・・・」
 律の視線がどこか明後日の方角に向けられ、静も思わずその視線の先を追う。
 四角い窓ガラスの先、夏らしい高い空の下を1羽の鳥が右から左に飛び去って行った・・・。

 そんな明後日の方角に現実逃避している2人の傍では、既に着替え終わった面々がキャイキャイと騒いでいた。
「やっぱり可愛いですね♪」
 上機嫌な真帆がそう言って、くるっとターンをしてみたりリボンの位置を変えたりしている。
「うちの学校も制服変えればいいのに・・・」
「聖マリスは制服可愛いことで有名だからねー」
 こちらも制服に着替えた快斗がそう言って、にっこりと微笑んだ。
 快斗は蓮から依頼の内容を聞いた際、一番最初にノった人物だ。
『女子高!ヒュ〜、いいやねー!って、行けんの!?』
 女子校潜入を聞かされた直後の反応がコレだ。
 そして更にはセーラー服を出されてコレを着て行けと言われた直後の反応が・・・
『はいはーいっ!行きます行きますっ!僕も行くぅ〜っ!快(こころ)頑張りまっす!』
 と、可愛いこぶりながらノリノリで手を上げたのだ。
 ちなみにセーラー服を出された時、快斗と真帆以外の面々はそれなりに複雑な表情をしていた。
 真帆は純粋に可愛らしい制服が着られるのが嬉しかったようなのだが・・・同じ女性である律花は年齢問題を気にして悶々と考え込んでいたし、快斗以外の他の男性メンバーも思うところがあるのか微妙な表情をしていた。

 そんな微妙な表情からいち早く立ち直ったのは暁だった。
 手に持ったセーラー服をマジマジと見詰め、生唾を飲み込むと困惑の瞳を決心の色に変えた。
 ついにこの日が来たのか・・・それが暁が一番最初にしみじみと思った感想だった。
 嬉しいやら悲しいやら、複雑な心境のまま袖を通し、今ではそれなりにノリノリだった。
 半分くらい諦めの気持ちだったのかも知れないが・・・
 陽月もまた、暁と同様に最初は困惑したがすぐに精神力を回復したくちだった。
 こうなってしまったものはこうなってしまったもの、今更グチグチ言っていても始まらない。
 案外さっぱりとしている陽月は、さっさと制服に袖を通すと動きやすさを確認していた。
 肩の部分はそれほど違和感はないし、スカート丈も・・・まぁ、昨今の女子高生から比べればまだまだセーフラインだろう。膝上でお嬢様学校にしてみれば短めの丈だが、異常なほどに短いわけではない。
「・・・つかさぁ、コレって・・・ダメじゃねー?」
 制服の性能を確認していた陽月が突然何かに気がついたようにそう呟いた。
「何か不都合な部分でも?」
 真帆が小首を傾げ、陽月のセーラー服に視線を向ける。何か自分と違う部分でもあるのだろうかと言った表情に、そう言うわけじゃないと首を振り、スカートを指差した。
「この下、なんか穿くべきじゃねぇ?」
「何か・・・ですか?」
 現役女子高生の真帆にとって、それはなにを意味するのかよく分からない言葉だった。
「や・・・だからさ、なんつーの?ほら、短いし、中見えたらヤバイし」
「あぁ!スパッツか何か穿いた方が良いですか?」
「そうね、気付かなかったわ・・・」
 スカートだけ制服のものに着替えた律花がそう言って、ポンと手を打つ。
 中途半端にしか着替えていないのは、まだ決心がたっていないからでもある・・・。
「それじゃぁ、私が買ってきましょうか?えぇっと・・・必要な枚数は・・・」
「とりあえず、男全員分はあった方が良いだろ?」
 手に持ったセーラー服を見詰め、押し黙ったままだった玲陽がゆっくりと口を開いた。
「女子に見られたらマズイだろ?・・・女物どーしても穿きたいって奴は別にして。その場合はスパッツ以外のものを真帆ちゃんに買って来てもらうことになるけど」
「あ・・・えっと・・・」
 意味を理解した真帆が途端に顔を赤くし、どうしましょうとでも言いた気な視線を快斗に向ける。
「や、男はみんなスパッツ着用するっしょ?」
「勿論です」
 かなりの威圧感を持った口調でそう言って、静が真帆に頭を下げる。
「お願いできますか?」
「あ、うんうん、全然良いよー!えっと、それじゃぁ枚数は・・・」
「2人はどうすんの?」
「私は穿きたいけど・・・真帆さんは?」
「私、普段の制服の時が・・・えっと・・・だから、なんとなく・・・その・・・」
 真帆が言い難そうに言葉を濁し、恥ずかしそうに俯く。そんな真帆の手に、蓮が財布を手渡した。
「ほら、これで買いに行きな。1人で行くのが寂しいなら、京谷を連れて行けば良いさ」
「え?俺ですか?」
「なぁに言ってんだい。他の面々を見てみれば良いだろう?」
 まだ着替え途中の律花に、制服に袖を通したは良いが女の子にしては少し男の子っぽいショートカットの快斗と暁と陽月。まだ着替えていない静と玲陽は勿論除外だ。
 女の子用の下着屋さんに入れるのは、現在の時点では真帆と律しかいない。
「あ、大丈夫ですよー、すぐそこですから」
 真帆がヒラヒラと手を振って蓮の申し出をやんわりと断ると、スカートの裾を翻して扉へと走って行く。
「あ、気をつけて行って来てねー!?」
「はい、転ばないように、道路を渡る時は右左確認、大丈夫です!」
 暁の優しい言葉に真帆は足を止めると、扉の前でピっと敬礼をしてから出て行った。


* * *


 メイクセットはバッチリなのに、蓮自身は人にメイクをすることが出来ないと聞き、何人かの男の子は思わずうろたえた。
 普段からお化粧をしていない真帆は人のメイクなんて出来るはずもなく、自分のメイクは出来ると言う律花も、人のメイクはした事がないと言って首を振った。
 そもそも、自分のメイクをするのと他人のメイクをするのとは天と地ほどの差がある。
 口紅やファンデーション、チークなどはまぁ良いとして、問題はアイメイクだ。自分の目を弄ることすらも相当の気を遣うのに、人の目を弄るなんて・・・それこそ手が震えてしまう。
「私は自分のメイクなら出来ますけど・・・どうしましょう」
 律花が悩むようにそう言って、チラリと視線を上げる。
「あ、俺は別にメイクいっかなーって思ってんだけど・・・」
 暁が右手を上げそう言うと、少しだけ語尾を濁した。
「別に女顔ってワケじゃないんだけど、メイク無しでも案外イケルんじゃないかなぁって」
「そうですね、暁さんなら大丈夫だと・・・って、別に暁さんが女の子みたいだからって言ってるわけじゃなくて」
 失言したと思った律花が、直ぐに口を閉ざす。
 気にしていないと言うように右手を振り、暁は一同を見渡した。
 ノーメイクでも大丈夫な真帆と暁、自分のメイクは出来ると言う律花を除いた4人がピンチだった。
 現時点で既に女の子に見えている律は、メイクをしなくても十分大丈夫だが・・・
「俺、メイク出来ますけれど・・・」
 おずおずといった様子で律が手を上げ、意外な人物の名乗りでに一瞬だけ場がザワリと揺れる。
「ふぅん、そうかい。詳しくは聞かないけど、まぁ・・・頼めるかい?」
「はい、大丈夫です」
 律がコクリと頷き、蓮からメイクセットを受け取ると隣の部屋に姿を消した。
 人に見られていては集中出来ないのだろう。
 これで問題はなくなったとばかりに緊張感を解くと、暁が蓮に視線を向けた。
「ウィッグが用意してあるって蓮さん言ってたけど、ウィッグ無しじゃダメー?」
「いや、別に構いやしないけど・・・その髪で行くのかい?」
「うぅん、そうじゃなくって、この髪ちこっとアレンジしていー?ちょこちょこピンで留めたりしたいな〜♪って思ったんだけど、ダメかな??」
「好きにすると良いさ」
 蓮はそう言うと、律が消えた部屋に入って行き直ぐに帰ってくると手に持ったピンを暁に差し出した。これは普段蓮がつけているものではなく、今日のためにわざわざ買っておいたものなのだ。
「ありがと〜!・・・って、ちょっと思ったんだけど・・・」
 ふっと何かに思い当たった暁が隣に座る真帆の袖をつついた。
「はい?」
「あのさぁ・・・お嬢様学校ってワックスとか禁止?」
 現役女子高生の真帆ならば、その辺の事情もよく理解しているだろう。
「うーん、学校にもよりますけど、多分大丈夫だと思いますよ。聖マリスはそれほど校則厳しくなかったはずですし」
「そっか、サンキュ」
 暁が真帆にお礼を言ったその時、隣の部屋に行っていた陽月が姿を現した。
 肩に擦れるくらいの長さのふわふわとした薄茶色のウィッグをつけた陽月がゆっくりとした足取りで帰ってくる。
 シャギーで軽くした髪を指先で弄る陽月の顔には薄くメイクがしてあった。
 勿論遠目ではメイクをしているのかしていないのかは分からないほどだったが、近くで見るとアイシャドウやマスカラが薄く目元を彩っているのが分かる。これだけ自然なメイクが出来ると言う事は、律の腕前は相当なものなのだろう。
 色をあまり使わないナチュラルメイクはかなり高度な技術を有するのだ。
「そのウィッグ、少しクセついてるのか?」
 玲陽の何気ない一言に、陽月はゆっくりと頷くと髪を弄った。
「俺、癖っ毛だからさー、目の端でピョコピョコ毛が動いてないと気になんの。・・・なんか、あんまいつもと変わんないや」
「・・・いつもと・・・ですか・・・?」
「いや、いつも女装とかしてるわけじゃねーよ?」
 不思議そうな真帆の表情に一応の否定を入れると、陽月は先ほど真帆が買って来たスパッツを片手になにやら作業をし始めた。スパッツを改造し、とあるものを取り付けるためなのだが・・・手先の器用な陽月にはそれほど難しいことではなかった。
 陽月がスパッツ改造に夢中になっている時、隣の部屋では快斗と律が向かい合わせに座っていた。
「希望としては、夏色メイクでぇ〜、夏だしウィッグは纏め髪で襟足涼しで色っぽく和服美人で!」
 既に女子高生になりきっているらしい快斗の言葉に、律はどこから突っ込んで良いのか分からずにフリーズしていた。
 快斗が選んだウィッグは金に近いオレンジ色のものだった。その時点で既に和風とはかけ離れている気がする・・・が、突っ込むタイミングが分からずに、律はいそいそと快斗の顔にメイクを施すとウィッグを受け取り手馴れた様子で髪をまとめると綺麗に整えた。
 その手馴れた様子に驚きつつも、快斗は礼を言うと次に来ていた静とバトンタッチした。
 メイクはほとんどしなくても大丈夫だろうと言う律の判断で、薄く口紅やチークをさしただけで黒のウィッグを頭に乗せる。それだけで大分綺麗な女の子に見える。静も律と同じような属性なのだろう。
 最後に入ってきた玲陽は、ウィッグの乗ったテーブルに近づくとその中から蜂蜜色のウィッグを選んだ。
 頭に乗せればサラサラとした髪が揺れ、元々整った顔立ちのためにメイクをしなくてもそれなりに女の子らしく見える。
 自嘲気味な笑みを前に、律は首を傾げながらも前の椅子に座るように玲陽を促した。
 メイクセットの中からビューラーを取り出して睫毛を上げ、黒のマスカラをさっと塗ると透明なマスカラを重ねる。
 下地を顔全体に伸ばし、軽くファンデーションをはたき、チークをさして・・・
 口紅の色を選んでいた律に、玲陽はゆっくりとした口調で言葉をかけた。
「なぁ。女顔ってどんなのが女顔なワケ?」
「え?」
「女にも色々あるしさー、それに・・・女じゃねーんだから、女顔じゃないっしょ」
 その言葉は誰に向けられているのだろうか・・・?
 律への慰めなのだろうか?・・・それとも・・・自分への・・・慰めなのだろうか・・・?
 その質問は、繊細そうな彼の心を深く抉ってしまいそうな気がして、律は何も言わずに唇に淡いピンク色を重ねた。


* * *


 童顔に見えるように考えながら施した律花のナチュラルメイクは見事なもので、真帆と並んでもなんら違和感のない律花の姿に「メイクの力は凄いんだねぇ」とまたもや言葉の暴力を振るったのは蓮だった。
 美しく女子高生へと変化を遂げた男性諸君はどんよりとした顔をしており、先ほどまではしゃいでいた快斗ですらも既にゲンナリモードに入って来ている。
「皆の者、怯むな!」
 そんな中、声高に演説を始めたのは暁だった。
「最近は皆中性化が進んでるから、格好をそれらしくすれば大概の人は反対の性の格好でも全然大丈夫だと思いまーす。ほら、クラスの9割は女装・男装が似合うっしょ?」
 どんよりした空気を打ち消そうと暁がそうフォローを入れ、ほんの少しだけ落ちていたテンションが戻る。
 がしかし、やっぱりここまで似合っちゃってるのはナイよなぁとかマイナスな方向に考えてしまったりするわけであって、折角の暁のフォローの効果もだんだんと薄れていく。
「・・・つーか、なんで女装なワケ〜」
 スカートの裾をつまみながらそう言ったのは快斗だった。
「や、おまえが一番ノってただろ?」
 すかさず玲陽が突っ込みを入れる。
 その素早い突っ込みの速度とキレに、律が思わず尊敬の眼差しを向ける。
「ま・・・まぁ、今更そこはしょうがないとして・・・問題は・・・」
 真帆と律花の視線がカチリと合わさる。
 どうやら思っていることは2人とも同じようだ。
「問題は、言葉遣いです」
 キッパリとした口調で律花がそう言い、蓮がどこからともなくホワイトボードを持ってくる。
 なんとも用意の良いことだ・・・。
 律花がホワイトボードの横にかけてあったカゴの中から赤と黒のペンを取り出すと、キュポンと言う可愛らしい音を立ててキャップを取り、真っ白なボードに何かを書き付けた。
 “女の子言葉講座”
「はい、真帆さん」
「へ?私ですか!?」
 ペンを差し出された真帆が困惑した表情で視線を彷徨わせる。
「ここは現役に聞いたほうが良いかなぁって思ったんですけど・・・」
「・・・うーん、出来るかなぁ・・・」
 渋々と言った面持ちで立ち上がりながらも、真帆はホワイトボードにキュッキュと文字を書き連ねていった。
 真帆が上げた問題点はそれほど多くはなかった。
 1、一人称は“俺”ではなく“私”と言いましょう
 2、二人称で“おまえ”は使っちゃダメです
 3、お嬢様校なので、それなりに綺麗な言葉遣いをしましょう
「名前とか、どうしましょう。暁さんと静さんはそのままでも良いと思いますけれど」
「俺は快でいーよ」
 快斗がそう言って手を上げ、陽月と玲陽を交互に指差しながら名前の提案を出す。
「陽月はそのまんまでも良くね〜?んで、玲陽は流石にチト男っぽいから、玲で良いんじゃねぇ?」
「そうですね。えぇっと・・・あと、互いの呼び方なんですけど・・・」
 真帆はそこで少し言葉を切ると、考え込むように俯いた後で律花に視線を向けた。
「聖マリスって、それほどお堅い学校じゃなかったですよね?」
「えぇ、そうね。お嬢様校なのはそうなんだけれど、それほど厳しくはなかったはず」
「それじゃぁ、お互い名前かあだ名で呼んでるかも知れません」
「うーん・・・」
 律花が1人1人の顔を見渡し、冷静な分析をするとゆっくりと口を開いた。
「快斗さんは呼び捨てで、陽月さんと暁さんはちゃん付け、静さんと玲陽さん、真帆さんと律さんはさん付けで他の人を呼ぶようにしましょう」
「えぇっと・・・俺は皆の事呼び捨てで呼べばいーわけ?」
 快斗の言葉にコクリと頷く律花。
「私は皆さんをさん付けで呼びますね」
「ってことは俺・・・じゃなくて私・・・か。私は、暁ちゃんに快斗ちゃんに・・・なぁんか、すっげー違和感」
 陽月がゲンナリと言った表情でそう言う。
「どこら辺でそう分けたんだ?」
「外見です」
 玲陽の言葉にキッパリとそう返すと、パンと1つ手を打った。
「さぁ、行く時間までに何とか口調をマスターしましょう!」
「そうだよ!今こそ演技力が問われる時!頑張るぞ〜っ!」
 暁がやる気を見せ、もうここまで来たならば進むしかないと開き直った面々も気合を入れる。
 真帆先生と律花先生の口調を参考に、女の子言葉講座はレンの片隅でひっそりと繰り広げられていた・・・。


☆ ★


「ごきげんよう皆様、私の名前は菊乃坂 静香(きくのさか・しずか)と申します。律さんとは古くからの友人ですの。皆様どうぞ宜しくお願いいたします」
 静ならぬ“静香”がそう言って、ぺこりと頭を下げる。漆黒の髪がサラリと肩から落ち、なんとも儚い印象を受ける。丁寧な口調がより静をお嬢様っぽく見せており、真帆は拍手を送った。
「素晴らしいです!これで皆さん合格ですね!」
 女の子言葉講座はいつしか“実践☆女の子言葉講座”へと姿を変え、テストまで付属でついてきたのだから凄いと言えば凄い。この提案をしたのは勿論優等生の律花で、そのおかげで男性陣はいまでは立派なお嬢様としてのイロハを身につけられていた。
 ・・・この先の人生でこのイロハを再び紐解く日が来るかどうかは分からないが、数時間後に迫った女子校潜入には確実に使うスキルなので、この際未来からは目をそらしておく事にする。
「うーん、一番静さんがソレっぽいですね」
 律花の言葉に静が一応の礼を述べるが、その顔はやや引きつっている。
 ソレっぽいもなにも、普段の言動とあまり変わらない気がするのだが・・・そこはあえて、誰もが触れないでいた。きっとソレが優しさと言うものなのだろう。
 微妙に自己嫌悪に陥っている仲間の傷を抉るほど性格の悪い者はここにはいない。
「さて、言葉遣いもなんとかなりましたし、あとは・・・」
「ガラスのウサギがどこにあるのか、ですよね?」
「ただ闇雲に校内を探すのはあまり得策ではないわね」
「そうね。日が暮れる前になんとかしたいわよね」
「蓮さんはご存知ありません?」
「・・・水を差すようで悪いんだけどねぇ、まだその言葉で話さなくても良いんじゃないのかねぇ」
 真剣に話し合う女子高生達から少し離れた位置で成り行きを見守っていた蓮が頭を抱える。
「なんだか締まりがない気がするんだけどねぇ・・・」
「・・・確かに、何となく真剣な話をしてるって気にならないな」
 玲陽がそう言って苦笑を浮かべると、とりあえずこの場は元の喋り方に戻ろうと提案を出す。
 格好的には女の子言葉でなんら問題はないが、精神衛生上女の子言葉で真剣な話を繰り広げるのはあまり宜しくなかった。話しの内容以上に、言葉遣いに神経をすり減らしそうな気がしてならない。
「それもそうだな。でもさー、ホントどこにあんだろーな、その置物」
「蓮さんは、誰に売ったとか覚えてますか?」
 陽月の言葉の最後を引き受けた真帆が、未だに苦々しい表情で壁に背を預けて立っている蓮に視線を向ける。
「いや・・・聖マリスに勤めてるってことしか分からないねぇ」
「地道に聞き込みして行くしかないですね・・・」
「うわ・・・大変そー・・・」
「でも、ガラスのウサギの置物なんて、学校にあったらそれなりに有名ですよ!」
「生徒の目に触れるトコにあんなら有名だろうケド、もし特別な場所とかに置かれてたら?」
「それだったら、生徒があまり行かないところを探せば大丈夫じゃないでしょうか」
 律花の言葉に快斗が天井を仰ぎ、直ぐに真帆がフォローを入れる。
 それぞれが自分の意見を述べている中、玲陽は無言で立ち上がるとレンの店内をグルリと見渡した。
 ざわめいていた場がシンと静まり、玲陽の一挙一動に視線が集まる。
「・・・玲陽さん?」
「何処にあるか調べてやるよ」
 素っ気無くそう返した玲陽が、1つの棚の前で足を止めるとそっとその棚に触れた。
「そんな能力があるなら、話は早いね」
 その行動だけでなにを意味するのか分かったらしく、蓮が口元に笑みを浮かべながらそう呟いた。
「・・・校長室だ」
「校長室・・・ってコトは、蓮さんが置物売ったのって聖マリスの校長センセだったワケ?」
「そうらしいね」
「うーん、校長センセにおねがいしてウサちゃん譲って貰えないかなー・・・って、ムリか」
「魅入られちまってるからねぇ」
 暁の言葉に同意するかのように蓮がそう呟き、ふっとどこか遠くを見詰めた。
 妙な沈黙がレンの店内に重く圧し掛かり、誰もが何かを言いかけようとして口を開き、そのまま閉じると言う動作を繰り返していた。上手い言葉が見つからないのだが、この沈黙はどうにかしたい。
 そんな葛藤は、蓮の一言で打ち破られた。
「そろそろ出かけた方が良いんじゃないかい?」
 壁に掛けられたアンティークの時計を見上げる。時計は既に夕刻を指し示しており、窓からは鈍い光がゆるゆると入って来て床に四角い窓の形を映し出している。
「こんな大人数で押しかけたら変だよな」
「何人かに分かれて中で合流しましょうか。3人ずつでも良いですけれど・・・」
「あー・・・あんまり奇数で行動はしないですね」
 律花が何を言いたいのか分かった真帆がそう呟き、2人ずつに分かれて行動した方が良いと提案する。
「へ?なんで?3人じゃ都合悪いの?」
 暁の質問に、真帆と律花は“女の子にしか分からない類のアイコンタクト”を交わすと頷いた。
「「奇数はダメなんです」」
 綺麗に揃った声に、男性陣は納得いかないながらも渋々頷いた。
 ・・・奇数と言う割り切れない数で行動すると、必ずあまってしまう子が出てしまう。そうなることを防ぐために、偶数を好む女の子達は多い。聖マリスの下校時間にわざわざ校内に戻るような目立ったマネをしなければならないのだから、なるべく見かけは目立たない方が良い。3人よりは2人、2人よりは1人の方が良いのだが、流石にバラバラに入って行くのも気がひけるし中での合流が大変になってしまう。
「忘れ物を取りに行く・・・みたいな感じで入ればそんなに目立たないと思います」
「口調に気をつけてくださいね?行動も、なるべく目立たないようにしてくださいね?」
 真帆と律花が口々にアドバイスをする。
 結局、静と真帆、暁と陽月、律花と快斗、玲陽と律の組み合わせで聖マリスに行くことが決定した。その際、全員正面から入るのは不自然だと言う事で正門・裏門・東門から分かれて入ることも決めると、静と真帆が最初にレンを後にした。


* * *


 片側1車線の道路は交通量が多い割りに、歩道にはガードレールらしきものは点々としかない。
 静は無言でに車道側に立つと、真帆を歩道側に入れて優しい笑みを向けた。
「静香さんは美人で羨ましいですわ」
「そうかしら?真帆さんは可愛らしくて羨ましいです」
 意識してお嬢様っぽい喋り方をしようと頑張っている真帆と、意識して女の子っぽい言葉遣いにしようとしている静。なんだかギクシャクとした2人の間に、あまり会話はなかった。
 何人か聖マリスの生徒とすれ違い、その度に彼女達から「御機嫌よう」と声を掛けられた。最初の内は緊張してどこかぎこちない返しになっていたのだが、何度か繰り返すうちに滑らかに返せるようになっていた。
 聖マリスはレンから歩いて20分ほどの位置にあった。それなりに交通量の多い大通りを抜けた後はあまり人気のない坂道を登り、春になれば桜の木が満開に咲く“学校前通り”を抜ければ聖マリスの正門が見えてくる。
 大通りを過ぎ、緩やかな坂道を上る。
 授業終了時刻からそれなりに時間が経っているためからか、少し前なら聖マリスの学生で溢れ返っていたであろうその通りには人気がなかった。
「なんだか、緊張しちゃうね」
 人が居ないのを確認してから静がそう呟き、真帆がふわりと緊張を解いた笑みを浮かべる。
「そうですね。言葉って普段は意識してないですから。お嬢様っぽい喋り方にしないとって思うと緊張しちゃいます」
「でも、真帆さんは普通の喋り方でも・・・」
 言いかけた静がはっと口を閉じ、細い脇道に視線を向ける。
 暗がりの中からゆっくりとした足取りで現れた、どこかの高校の制服を着た3人の少年が静と真帆の行く手を塞ぐと、ニヤつきながら馴れ馴れしく声をかけてきた。
「あれぇ?今からご登校ですかぁ〜?」
「あの、忘れ物をしてしまって・・・」
 真帆がオロオロとした様子でそう口にすると、不意に明るい金髪の少年に右手をつかまれた。
「あっ・・・」
「へぇ、やっぱ聖マリスの子なだけあってかっわいー!」
「あの、手を放してください・・・」
「ちょっと・・・」
 静が真帆を庇おうと1歩前に歩み出ようとした時、隣に居た茶髪の少年に肩をつかまれた。
 反射的にそれを振り払おうとするが、1人ではないと言う事を思い出して何とか押し留まる。
 自分1人ならばどうとでもなるが、今は真帆がいるのだ。自分が下手に行動を起こして男達が逆上し、真帆に危害が及んでは申し訳がたたない。ここは何とか穏便に話をつけるしかない。
 能力の解放と言う選択肢もあるが、それはなるべくならば避けたかった。
 現在は人通りがあまりないとは言え、ここは公道だ。いつ誰が通るか分からない。それに、真帆がいる・・・。
「やめてください!放してください!」
 必死の抵抗を試みる真帆だったが、勿論助けを呼ぼうと大声を出すことはしない。そんな事をして、誰かが学校の関係者を呼んでしまった場合真帆と静が聖マリスの学生でないことがバレてしまう。
 魔法でどうこうすることも出来るのだが・・・校内に入る前に行動を起こすことは極力避けたかった。眠らせるにしても、流石に場所が場所だけに目立ちすぎる。眠らせた後で人目につきにくい場所に運ぶと言う手もあるが、真帆と静の力では目の前にいる屈強な男3人を運ぶのは至難の業だろう。
 ―――― ・・・どうすれば・・・ ―――
 何か良い手はないかと思考を巡らせようとした、その時だった。突然背後から何者かが躍り出て素早い蹴りを繰り出し、真帆の手を掴んでいた男を倒した。
「え・・・?」
「ちょい、動くなよ!」
 そんな声が聞こえ、乾いた小さな音と共に何かが静の直ぐ真横を凄まじいスピードで通り過ぎた。そのすぐ後で、静の肩を掴んでいた男が後ろに倒れた。残った1人の首筋に静が素早い動きで手刀を入れ眠らせると、真帆と静は改めて自分達を助けてくれた2人組みに視線を向けた。


* * *


 ――――― 話しは少しばかり巻き戻る。
 静と真帆がレンを後にしたその数分後に立ち上がったのは陽月と暁だった。
「んじゃ、いってきまーす」
「気をつけて行って来いよ」
 陽月の背中にそう声をかけながら、玲陽は口の中でそっと「収拾つかなそうな組み合わせだな」と呟いた。
 勿論ソレは誰の耳に届くこともなかった独り言であったが、その言葉は紛れもない事実であり、2人が道端で交わした会話はまさに収拾のつかないものになっていた。それもそのはず、何故ならばどちらも・・・突っ込み属性ではなく、どちらかと言えばボケ属性の性格だったからである。
 交通量がそれなりにある大通りは、車が行き交う量と反比例するかのように人気がなかった。
 等間隔に植えられた街路樹は緑の葉を大きく伸ばし、風が吹けばザワザワと音を立てる。
「暁はさ、聖マリスって行ったことある?」
 人通りがないために、普通の言葉遣いでも大丈夫だろうと言う判断で、2人は普通の話し方で喋っていた。
「いや。陽月はあるの?」
「ないんだよなー。でもさ、ちょっと気になる事あって」
「気になる事?」
「すっごい重要なコトなんだけどさー」
 真剣な面持ちになった陽月に、暁も表情を引き締める。
「先生ってさ・・・ダンディな人居るのかな〜?」
「・・・それが重要なコト!?うーん、どうだろー。でもさ、ほら、女子校って結構カッコ良い先生いるとかって聞くじゃん?俺の友達の女子校行ってる子とか、カッコ良い先生いるってはしゃいでたし」
 その後に、でも暁のがカッコ良いけどねーと言われて色目を使われた・・と言う事は無論黙っておく。
「うおお!マジで!?これはいっちょオトスくらいの勢いで媚売って情報聞きださねーと!」
「オト・・・!?」
「わたくし、男性は30代以上の人が好みですの」
 しなりながらの言葉を暁が真に受け「マジでぇっ!?」と声を上げる。
「って、ハイ、此処はツッコミどころだからねー。テストに出ますよー」
「え!?ツッコムとこなの!?ってか、テストに出る!?えっと、なんでやねん!」
 暁がビシっと陽月の肩を叩く。なんだかベタなツッコミだが、陽月はそのツッコミのキレを褒め、暁は照れ笑いを浮かべる。ツッコミのキレもなにも、ワンテンポどころか大分遅いツッコミだったが・・・。
 2人が顔を見合わせて笑い、お腹を抱えながら歩いていた時、レンの店内では玲陽が「でもあの2人は真意がわからなさそうな感じだからな」と冷静に分析していた。
 ・・・2人とも、いたって明るい高校生を演じているが、実際は見かけだけのチャラけた高校生ではない。繊細な心を守る器は丈夫でないといけない、それだけのために無害な軽い高校生を演じているのだった。
 大通りから緩やかな坂道へと続く角を曲がった時、2人は予期せぬ事態に遭遇した。聖マリスの女生徒がどこかの制服を着た少年3人にからまれている!!・・・しかもよく見れば、聖マリスの制服を着た2人は真帆と静だ。
「陽月ちゃん、女の子2人に対して男の子3人って、卑怯よね」
 無論静は男だが、目の前で繰り広げられている展開は間違いなく女の子2人対少年3人の“卑怯”な展開だった。
「そうね、暁ちゃん。どうする?」
 女の子言葉になった暁に合わせるように、陽月も口調を変える。
 どうする?と暁に意見を求めているものの、陽月の手はスカートをペラリと捲り、スパッツを改造して作ったホルスターにつっこんだ改造銃に伸ばされていた。
「どうするもこうするも、助けるしかないっしょ。“オトコノコ”としてさ」
「格好は女だけどな」
 暁が地を蹴り、真帆の腕を掴んでいた少年を地にねじ伏せる。「ちょい、動くなよ!」と言う言葉と共に陽月も静の肩を掴んでいた男に向けて改造銃の引き金を引き、残った1人は静が手刀で眠らせる。
「暁さんに陽月さん・・・」
 真帆がほっとした様子で微笑み、胸を撫で下ろす。
「真帆ちゃんに静、怪我は?ない?」
「私は大丈夫です。静さんは・・・」
「僕も大丈夫。でも、2人が来てくれて良かった・・・」
 安堵した様子の静の肩をポンと叩くと、地面に寝転がった少年3人に視線を落とす。
「んじゃ、俺と陽月と静で運ぶか。どっかに」
「OK」
「分かりました」
「・・・あ、私も手伝います!」
 真帆の言葉に暁は首を振ると、悪戯っぽい笑顔を向けた。
「見た目は女の子ですけど、力はちゃんと男の子ですのよ」
「そーそ、真帆ちゃんはここで誰か来ないか見張っててくださいません?」
「すぐに片付けて戻ってまいりますわ」
 女の子言葉になった3人に思わず真帆が吹きだし、クスクスと笑いながら「それじゃぁお願いしますね」と告げる。
 誰も口には出さなかったが、真帆が笑ってくれてほっとしたのは本当だった。見知らぬ少年に絡まれた真帆が、多少なりとも怖いと感じなかったはずはないと、少し心配していたのだ。
 けれど、笑っていられるならば大丈夫だと、3人は重い少年の体を引きずりながら人目のつかなさそうな路地裏に重ねておくと、真帆が待つ通りへと戻っていった。


* * *


 軽快なマシンガントークを前に、律花は多少のジェネレーションギャップを感じて凹んでいた。
「それにしても、ガラスのウサギかぁー」
「ガラスのウサギがなにか・・・?」
「俺のハートみたいだよねっ☆」
 キャッと、恥じらいを見せる快斗。
 このノリについていけない時点で、既に自分はダメなのだろうかと言う感情が襲ってくる。
 元々偏差値の高い田舎の公立進学校出身の律花は、自分の知る高校生活と最近の高校生の送る生活のギャップにかなりのショックを受けていた。それは勿論、喋り方や格好からしてもそうなのだが・・・。
 聖マリスと言う、都内屈指の超お嬢様学校の生徒など、どんな高校生活を送っているのか想像すら出来ない。
 ランチにはフランス料理のフルコースとか出るのかしら・・・。
 超お嬢様学校と言う肩書きで、そんな想像をしたのだが、勿論そんなことはないだろう。そもそも、お昼からフランス料理のフルコースなんて食べていたら胃もたれしてしまうし、昼食の時間はそれほどとられていないだろう。
「でもさ、俺・・・皆の事呼び捨てにしなきゃなんないわけっしょー?」
「えぇ。快斗さんの見た目だと、呼び捨てっぽいなぁと・・・」
「律花さんも呼び捨てでいーの?」
「・・・同い年ですから!」
 律花が“同い年”の部分を強調する。
「んじゃ、律花」
「はい」
 何となく、年下の男の子に呼び捨てにされると照れ臭い感じがする。・・・見た目は少女だが、その際そこには目を瞑っておくことにして・・・。
 交通量の多い通りを左に回り、遠回りをする格好で東門へと足を向ける。
「そう言えば、ガラスのウサギの中には人喰い鬼が封じ込められてるんですよね?」
 ふっと蓮が言っていた言葉を思い出した律花が心配そうに眉を顰める。もし、万が一・・・人喰い鬼の封印が破られてしまった場合、校内にはまだ少なからず人が残っているだろう。一般の生徒への被害は絶対に出してはならない。
 勿論、そうなってしまった場合は結界を張って生徒達を守ることに徹するが・・・
「律花さん、そんな難しい顔しなくてもさ、ようは封印を解かなきゃいーわけっしょ?」
「それはそうですけど・・・」
「それに、もし戦闘にでもなったら俺・・・」
 快斗が不意に真顔になり、真っ直ぐな視線を律花に向ける。
 戦闘になった場合、なにか解決策でも持っているのだろうか?それとも、これだけ真剣な顔をしているのだ・・・まさか、捨て身の必殺技でもあるのだろうか?けれど・・・。
 悶々と考える律花の肩をガシっと掴むと、快斗は至極真剣な面持ちで言い放った。
「俺・・・ 逃 げ ま す 」
「逃げるんですか!?」
 思ってもみなかったカミングアウトに、律花は全身の力が変な方向に抜けて行ってしまうような不思議な感覚に陥った。
 コレが世に言う脱力と言うやつなのだろうか・・・?
「僕ってばカヨワイんで、非戦闘員なの」
「その髪色でか弱いんですか!?」
 明る過ぎる金に近いオレンジの髪を見詰めながら言う律花に、快斗が苦笑を返す。
「や、髪色はかんけーないっしょ。ほら、僕、ガラスのウサギのハートだから・・・」
 再びキャッと恥じらいを見せ、律花にとてつもないジェネレーションギャップを突きつける。
「あ、でも心配しないで!校内に残ってる可愛コちゃんの無事は俺が保障します!」
「可愛い子以外の人は保障しないんですか!?」
 鋭いツッコミに、快斗がうっと胸を押さえながら声を押し出す。
「可愛コちゃん以外は、自分の身は自分で守ると言う事で・・・ほら、可愛コちゃんはか弱いから・・・」
「ダメです!全員の安全を保障していただきます!」
「えぇっ!?」
「快斗さんは守備隊長です!」
「・・・守備隊長!・・・なんかカッコ良い!」
 優等生・律花さんと、ちょっぴりお茶目な快斗くん。
 2人の妙なやり取りは、聖マリスに着くまで延々と続けられ、そして聖マリスに着く頃には律花のジェネレーションギャップも解消されていたのであった・・・。


* * *


 最後にレンを後にしたのは玲陽と律だった。
 黙々と歩く道中、会話は皆無だった。隣を歩く玲陽の顔をチラリと横目で見ては、なにか会話をしようと思うのだが、どうにもその横顔が不機嫌そうに見えて、律は何度も俯きながら口をつぐんだ。
 ・・・玲陽は別に不機嫌なわけではなかった。ただ・・・
 ただ少しだけ、昔を思い出して胸が痛くなる、律はそんな存在だった。
 嫌いなわけではない。律が何か玲陽の気に障るようなことをしたわけでもない。そう・・・ただ、ソレだけの理由で、玲陽は律に声をかけられないでいた。
 160cm少ししかない律が、隣で俯きながら歩いている。見れば見るほど女の子っぽい横顔に、玲陽は奥歯を噛み締めた。そして、恐らく自分も律と同じように女の子のようにしか見えない出で立ちをしているのかと思うと、自嘲気味な笑みが口元に浮かんでくる。
「・・・あの、夏軌君・・・」
 おずおずと律が口を開き、足元に落としていた視線を律に合わせる。
「玲陽で良い。俺も律って呼ぶし」
「・・・うん、玲陽君」
 にっこり・・・笑った顔は、無邪気で無垢で。
 チクリと胸を刺した痛みに、玲陽は苦々しい表情をすると律の顔から視線をそらした。
 それが律にとってどのように映るのか、知っていながら・・・視線をそらさざるを得なかった。
「あ・・・」
 何か悪い事をしてしまったのだろうかと、落ち込む律の横顔が目に入る。
「・・・律さ、女みてーってよく言われるだろ」
「え?・・・うん・・・。そうだね」
 玲陽が何を言いたいのか分かっていない表情で、困ったように頷きながら「仕方がないよね」と諦めの言葉を口にする律。
「・・・女みてーなんて言われない方法教えてやろーか?」
「え・・・?」
「キャラを変えんだよ。女みたいな扱われ方を絶対されないような・・・」
 足を止めた玲陽と合わせるように、律も立ち止まった。
「・・・馬鹿だって思ってるだろ」
「思ってないよ」
「それでも俺は、女みたいな扱われ方はされたくなかった」
 困ったような表情の律。さっきから、同じような表情しかしていない。
 レンにいた時は、他のメンバーに囲まれてニコニコしていた。・・・こんな顔をさせているのは自分だと言う事は、痛いくらいに知っていた。普段の自分のキャラなら、絶対に人にこんな顔はさせないのに・・・でも、律だけはある意味で特別だった。
「チャラっぽくしてみればどんなに小さくて幼い顔立ちしていようが、女扱いされる事は無かった」
「玲陽・・・君・・・?」
 何かかける言葉を探している、律の瞳が不安気に揺れている。
 玲陽はしばらくそんな律の顔を見詰めた後で、初めて・・・律に笑顔を向けた。
「色々言って悪かった」
 それはあまりにも頼りない、泣き笑いともつかぬ笑顔だったけれども・・・。
「似てんだ、律が昔の俺に」
「・・・え?」
「顔とか性格とか。で、俺を虐めてた奴に雰囲気とか口調やらが似ててさ」
「えっと・・・えと・・・」
 なんでも真に受けてしまう、イヤと言えない、純粋で無垢で・・・弱々しい律。
 ダブルのは、昔の自分と・・・心の奥深く、圧し掛かる・・・存在・・・。
「はは、今の格好良い俺の顔じゃ見当も付かないだろ?・・・これぐらいになるまで俺なりに色々頑張ったんだぜ?」
 律の瞳から視線をそらす。ゆっくりと、夕暮れに染まる空を見上げる。ビルに細切れにされ、電線に遮られた空は小さいが、それでも綺麗なグラデーションになっていた。オレンジ色の光が翳れば、やがて漆黒に変わる。儚い刹那の色を目に焼き付けると、玲陽はそっと瞼を閉じた。
「・・・間違った方向だけど・・・」
「玲陽君・・・」
 律がそっと玲陽の手に触れる。
 小さな掌は血が通っていないみたいに・・・凄く、冷たいものだった・・・。


★ ☆


 無事に潜入を果たした8人は、まだ校内に残っていた生徒に校長室の場所を聞き出すと、早速その場に向かった。流石と言うべきか、綺麗に磨かれたタイルやシミ1つない壁は超お嬢様校の名に恥じないくらいに掃除が行き届いていた。
「これって、生徒が掃除・・・してるわけじゃなさそうですね」
「多分、生徒も掃除をしていると思いますけれど」
 廊下の片隅や教室の端に、申し訳程度に置かれている掃除用具入れがなんだか悲しい。
「律さん、あまり離れたら駄目ですよ?何かあったら大変ですから」
 静が微笑みながらそう言って、律の肩をポンと叩く。
「あ・・・はい」
 8人での廊下行進はかなり目立つものだったが、難なく校長室の前までたどり着く事が出来た。
 途中で聖マリスの教師らしき人物とすれ違い、いぶかしむような視線を受けた時は一瞬ヒヤリとしたが、現職教員に気に入られ、かつ怪しまれない態度を熟知しているプロ中のプロの律花がいた時点で勝敗はこちらに傾いていた。
 校長室と書かれた金色のプレートに浮かんだ文字の上に視線を滑らせた後で、十分に用心しながら陽月が扉を開けた。
 巨大な机の向こう、初老の男性が透明なガラスで出来たウサギの置物をぎらつく瞳で見詰めていた。・・・あれが校長なのだろうか。尋常ではない色を宿した瞳は、きっと・・・魅入られているものの瞳の色なのだろう。
「・・・誰だ?」
「えぇっと、2年3組の黒羽 陽月と申します」
「同じく2年3組、陽夏 快と申しますー」
「・・・何用だ?」
「ちょっと、校長先生にお願いしたいことがあって参りました」
 校長室の中へと入って行った陽月と快斗の背後を見詰めながら、他のメンバーはジっと固唾を呑んで成り行きを見守っていた。話し合いで穏便に事が済めば、それに越した事は無い。
「そのガラスの置物を譲っていただきたいと思いまして」
「・・・校長先生の本当に欲しい物は、ソレじゃないですよね?」
「お前ら、うちの生徒ではないな?」
 校長の瞳が一瞬だけ、金色に輝いたのが見えた。
 他のメンバーはその瞳の色を理解できなかったが、律だけは・・・その“金の光”がなにを意味するのか痛いほどに分かっていた。茶色いコンタクトレンズの奥、封印した特殊な能力・・・。
「そうか。この置物を取り返しに来たのか・・・」
「2人とも、危ない!!」
 律の叫び声と、校長がガラスの置物を2人に向かって放り投げるのはほぼ同時だった。かなり強く投げられたそれは避けるのが精一杯で、受け取れるはずも無く・・・2人を通り越した先、真っ白な壁に当たると粉々に砕け散った。


 ――――― ガラスで出来たウサギになんて入れるから・・・・・・


 細かいガラスの破片が、天井から降り注ぐ人工の光に照らされてキラリと七色に輝く。
 割れたガラス片の1つ1つから白い靄が漂い、1つの形になって行く・・・。最初は頼りないただの濁った靄だったのが、だんだんと人の形になり、鬼の形になり、色を濃くしていく・・・。
「ヤバっ・・・」
 陽月がホルスターから銃を抜き、人喰い鬼に向けて引き金を引く。飛び出したのは鉛の弾丸ではなく、中心部に黒いスペードマークがが斜めに3つ描かれたトランプだった。
 気絶した校長に行きかけていた鬼の足が止まり、右肩に刺さったカードを抜くと足元に放り捨てる。
 こちらをゆっくりとした動作で振り向き・・・
「走れっ!!」
 快斗の声を合図に、長い廊下に飛び出すと走り抜ける。
 鬼は校長の方に行かず、どうやらこちらに興味を示したらしい。ゆっくりとした足取りが速くなり、凄いスピードで追いついてくる。
「まだ校内には一般の生徒が残ってます!」
 真帆の言葉に、一同は急ブレーキを踏まずにはいられなかった。
「きゃぁぁっ!!」
 甲高い悲鳴が廊下に響き渡る。運悪く教室から出てきたところを鬼と鉢合わせしてしまった女生徒が腰を抜かし、タイル張りの廊下に座り込んで怯えている。
「結界を張ります!けれど、呪文が・・・」
「時間は稼ぐ!」
 律花の言葉に陽月が駆け出し、鬼に向かって引き金を引いて気を女生徒からそらせる。
 鮮やかなマジックを繰り広げながら何とか鬼の注意をこちらに向け・・・
「――― 望み、夢想し、隔てる」
 律花の呪文が結界を展開させ、女生徒だけでなく非戦闘員である律と玲陽、自称非戦闘員である快斗、それから校内に残っているはずの教職員や生徒の周囲にも同時に展開させていく。
 かなり高度な技術を必要とする複数の結界展開だったが、律花は持ち前の集中力で何とか展開させていった。
 陽月が鬼相手に格闘する中で、暁がひらりと女生徒の前に降り立つと赤い瞳を少女の瞳と合わせた。
 軽い暗示効果により、鬼が見えないようになった少女は、それでも未だにショックから立ち直れないのかポカンとした顔を暁に向けている。・・・まぁ無理もないだろう。
 快斗が少女の前にしゃがみ込み、にっこりと優しい笑顔を浮かべると右手をくるりと回転させて小さな薔薇の花を取り出した。少女を安心させるかのように、マジックを次々に披露していく。
 陽月1人が鬼と立ち向かっている中、静は一先ず律を律花に預けると、掃除用具入れからモップを1本取り出してすっと構えた。・・・日頃の鬱憤が色々溜まっている静にしてみれば、願っても無い展開だった。
 晴れやかな笑顔を浮かべながら、モップ片手に鬼に突撃していく黒髪美少女・・・。見る人が見たならば、3日3晩は夢に見てうなされそうな光景だったが、そんな繊細な心の持ち主は幸運ながらこの場には居なかった。
 モップで攻撃を繰り出す静を援護するように陽月が銃を発射し、暁と快斗は校内に残っている生徒と遭遇するたびに暗示をかけ、マジックを披露しなんとか誤魔化していく。
 悲鳴が上がればそちらにフォローをしに行き・・・折角綺麗に纏めた快斗の髪はハラハラと零れてきていた。
 彼に言わせればその、零れ落ちた髪がポントらしい。色っぽく、夏の陽炎のよーに・・・!と、若干心の中では盛り上がっていたが、口に出して盛り上がることはしなかった。
 かなり奮闘していた静と陽月だったが、鬼の力はそれ以上のものだった。
 だんだんと後退せざるを得なくなり・・・それまでは成り行きを見守っていた真帆が、チラリと外に視線を向けると何かを思いついたのか、2人の前に颯爽と走りこんだ。
「中庭に噴水があります!そこにおびき寄せましょう」
「・・・何か考えでも?」
「水を操れるんです」
 真帆の言葉に、陽月が口の中で小さく謝りながら廊下に並んだガラス窓をトランプで割っていく。
 静は一時その場を離れると少し校内を散策して部活棟を見つけ、ズラリと並んだ部室の中から薙刀部と書かれたプレートを探し当てると扉を押し開けた。壁に飾られた薙刀の中から一番手にしっくりと来るものを選び出し、すぐに部屋を後にすると先ほどの場所まで戻る。
「私なんか食べても美味しくないですよーっ!」
 真帆がそう言いながらスカートを翻して窓から脱出し、噴水の傍までおびき寄せるとそっと目を閉じ意識を集中させた。水がまるで意思を持っているかのように動き出し、球状の牢屋となって鬼をその内側に捕縛する。
「・・・さてと、なぁんかあっさり捕まっちゃったみたいだけど・・・どうする?」
「無害なものに変えることは出来るかもしんないけど・・・」
 陽月の言葉に暁が鬼を魅了しようとその前に立ち ―――――
「きゃぁぁっ!!!」
「うわっ・・・!」
 校内から聞こえた悲鳴に、はたと動きを止めた。
「今の・・・律花さんと玲陽さん!?」
 割れた窓ガラス越しに見える廊下、そこでは・・・信じられない光景が繰り広げられていた・・・。


☆ ★


 思えば、鬼と言う時点で気付くべきだったのかも知れない。
 ・・・けれど、彼はあまりにも弱々しく、儚気で、そんなモノとは無縁な存在に思い込んでしまっていたのだ・・・。
 それは、本当に一瞬の出来事だった。
 鬼と共に外に出て行ってしまったメンバーの背中を見送りながら、律花と玲陽がほっと息を吐き出したその後だった。
 一番最初に異変に気付いたのは玲陽だった。
 律花の隣で俯いていた律の横顔が真っ青なことに気がつき、声をかけようと手を伸ばし・・・
「きゃぁぁっ!!!」
「うわっ・・・!」
 刹那の突風が2人の体を吹き飛ばした。
「なに・・・?」
 律花が顔を上げる。立ち尽くした律の表情が見え・・・言葉を失った。
 冷たい瞳は確かな狂気を含んでおり、言いようの無い冷たい感覚が背筋を伝う。
 律の右手がゆっくりと瞳に触れ、右と左から1つずつ・・・茶色いカラーコンタクトを外すと床に投げ捨てた。右が金、左が赤のオッドアイ・・・どちらも不思議な力を持っているのか瞳には強さがあり、どうしても・・・目が放せない。
「赤い瞳を見ちゃ駄目だ!」
 暁がそう言って窓からひらりと入り込み、律花と玲陽の肩を叩く。
「これは・・・」
 絶句しながら静も後に続き、戸惑いながらも薙刀の切っ先を律に突きつける。
「どうして律さんが・・・?」
「・・・律は、吸血鬼と鬼の・・・ハーフなんだ」
「吸血鬼と・・・鬼・・・」
 玲陽がうわ言のように呟き、混乱する頭を何とか保とうと律に視線を向ける。
「赤い瞳は魅了の力がある・・・金の瞳は・・・」
「過去を視る力があるそうです」
 暁の言葉を引き継いで静がそう言い放った。
 ・・・怖いと、思う人も中にはいるかも知れない。悲しい過去を背負っている人は特に、知られたくない過去を背負っている人は尚の事。無条件で過去を知られてしまうことは、恐ろしいことだ。それが分かっているからこそ、律は普段金の瞳を表に出さない。いつも茶色のカラーコンタクトの奥底に封じ込めている。
『邪魔だ』
 低い声は律のものではなく、威圧的な声は拒否する権利すらも与えていないほどだった。
 戸惑っている暁と静の間をするりと抜けると、中庭に出て水の牢の中でもがいている鬼に近づいた。
「・・・律・・・さん・・・?」
『他愛も無い。こんなモノで捕まえたつもりか?』
 律の手が水の牢に触れた瞬間、水は水蒸気へと変わりその場に霧散する。
「うわ・・・ヤバっ!」
 快斗が真帆を連れてその場から逃げようとした・・・その時、律の指先が鬼に触れた。
 赤の瞳が妖しく輝き、鬼が苦悶の表情を浮かべながら溶け消える。
「うっそ・・・」
 目の前で起きた事が信じられないと言う風に、快斗は薄く唇を開いたままジっと律の行動に注目していた。
『ふん、人喰いか。悪くは無い』
「・・・取り込んだ・・・」
 一部始終を廊下から見ていた律花がポツリとそう呟き、口元を手で覆う。
「嘘だろ。取り込むって・・・そんなんありかよ・・・」
「さっきの鬼よりも厄介な存在なのは分かった気がするな」
 呆然とする暁の隣で、陽月は冷静にそう呟くと言葉を続けた。
「で?元に戻す方法はあるのか?」
「・・・分からない」
「静は?」
「僕も知りません。律さんがこんな風になるのなんて初めてですし・・・」
「・・・対処はないってことか?」
 陽月の言葉に、誰もなにも返せないでいた。
 真帆の魔法は今見たとおり、簡単に破られてしまう。陽月や快斗のマジックは目くらませ程度にしかならない。暁の暗示にしたって、相手も同じものを持っているだけに効果はないだろう。律花の結界も、恐らくたやすく破られるだろう。
「なら、手段は1つしか無いな」
 陽月がゆっくりと銃口を律に向ける。
「やめろよ!!」
 そう叫んだのは、玲陽だった。銃口を下におろさせ、険しい視線を送る。
「仲間に銃向けてどうすんだよ!」
「・・・仲間?玲陽はそう思ってても、向こうはそう思ってないだろ?」
 快斗と真帆が校舎内に走りこみ、その後をゆっくりとしたスピードで律が追ってくる。
 威圧感のあるそのオーラは、普段の律ならば絶対に出せない類のもので・・・
「一般人に被害を出すわけにはいかない」
「そうだけど・・・でも・・・」
 陽月の言葉は最もだった。おそらく、律に意識が残っているとしたならば・・・陽月が言っている事と同じ事を要求をするだろう。誰かを傷つける前に、どうにかしてほしいと。
 けれど玲陽は割り切れないでいた。勿論玲陽だけでなく、他のメンバーもなんとか打開策はないかと考えをめぐらせていることだろう。・・・けれど、この状況を打ち破るほどに強い策など何もなかった。
 鬼と吸血鬼の混血である律は、普段ならば弱々しいが、一度血が解放されれば強い・・・。
 ・・・自身もその内に吸血鬼としての能力を秘めた暁は、そのことを一番良く分かっているつもりだった。
 もし・・・もしも、律と立場が逆転したならば、どうする?ソレを考えてしまえば、行き着くところは決まっていた。
 誰しも、人を傷つけたくないと言う真理を持っている。それは同時に、自分も人から傷つけられたくないと言う意味も含んでいた。もし・・・自分が自分でなくなり、意識が何者かの手によって握られてしまった時、人とは違った能力を宿したこの身が、ただの殺戮の道具に使われようとしていたならば・・・願うことは1つだろう。
 人を傷つける前に ―――――
「ここで食い止めないと、駄目だよな」
 暁がそう言って、ナイフを服の裾から取り出す。
 それを見て、戸惑いながらも静が薙刀を構え・・・
「律花さん、援護頼めるかな?結界で少しだけ足止めとか出来ない?」
「・・・分かりませんが、やってみます」
 陽月の言葉に律花が頷き、結界を展開させようと呪文を紡ぎ出す。
「ちょっと待てよ!!」
「玲陽、こうする以外にないんだ。それに、何も殺すわけじゃない・・・」
「違うだろ!?・・・そう言うことじゃないだろ?」
「玲陽さん・・・」
「真帆ちゃん、危ないから律花さんの結界の内側にいよう」
 快斗がそう言って真帆の手を取り・・・真帆がパシリとその手を払うと、律に近づいた。
「律さん!目を覚ましてください!律さんっ!!」
 縋りついた右手は、あっけなく払われ、真帆はその場に尻餅をついた。
「真帆ちゃん!!」
『邪魔だ』
「・・・律さん・・・」
 絶対的な拒絶の瞳は冷たく、真帆はなす術もなくただ唇を噛んだ。
 押し寄せてくる感情が疎ましいほどに真帆の心をかき乱す。さっきまで一緒に笑っていたのに・・・それなのに、こんなに冷たい拒絶の瞳を向けられるなんて思ってもみなかった。仲間が、友達が、一瞬の境目で敵に変わる・・・それは、純粋な真帆には耐え難い悲しいことだった。
「本当に、ほんとに・・・何にも手はないのか・・・?」
 普段は冷静な玲陽が、この時ばかりは多少の焦りを感じていた。
 それは、律に対する他の人とは少しばかり違う思いからなのかも知れないが・・・。
 陽月が真っ直ぐに銃口を律に向け、ゆっくりと引き金を引いた・・・。
 乾いた音と、トランプが凄いスピードで空を切り裂く音を聞きながら、誰もが次に起こるであろう事態に無意識のうちに目を瞑っていた。カードが律の肌を掠める場面を想像し、ゆっくりと目を開け・・・その場に崩れ落ちる律を見た時、誰もが最悪の事態を考えた。
 どこか当たり所でも悪かったのだろうか・・・?!
 勿論、陽月の銃の腕前を考えればそんなことは万が一でもあり得るはずはなかったのだが・・・
 律は、カードが当たって膝を折ったのではなく、カードが当たる前に膝を折ったのだ。その証拠に、律が立っていた背後に伸びた1本の木の幹にはカードが斜めに突き刺さっているのが見える。
「何があったんだ・・・?」
「・・・あ・・・、そうか・・・」
 暁が何かを思い出したとばかりにポンと手を打ち、薙刀の切っ先を足元に落とした静の方に視線を向ける。
「律は元々体力がない。だから・・・時間が経てば倒れちゃうんだ」
 あっけらかんと言った暁の顔を、陽月が穴が空くほどに見詰める。
「そ・・・そう言うことは先に言えよっ!!」
「いや、その・・・なんっつーのかな、な、静?」
「へ!?僕ですか!?えぇっと・・・」
 律と前々から交流があった暁と静ならば、それなりに彼の事情も知っていたはずだった。
 それなのに思い出せなかったのはひとえに・・・
「なんかさ、あんまりにも凄い迫力で・・・すっかり忘れてたっつーか・・・」
 エヘ☆っと微笑む暁に、陽月が銃口を突きつける。
「あの、もしもし?陽月さん?銃口が・・・」
「危うく傷つけるとこだっただろっ!!!」
「キャーっ!!陽月さんっ!俺の事傷つけようとしてるよそれっ!!」
「五月蝿いっ!」
 暁と陽月が追いかけっこを繰り広げるのを横目で見ながら、玲陽は恥ずかしさのあまり俯いていた。
 ・・・あんなに熱くなっていたのはなんだったのだろうか・・・?自分のキャラじゃないのに・・・。
「でも、何とか穏便に済んでよかったです」
「そうですね」
 律花がほっと安堵の息を吐きながら結界を解き、静も同意しながら緊張を解く。
「律さん・・・!大丈夫ですか!?」
 駆け寄った真帆が律の体を抱き起こし、顔色が悪いことに戸惑いの色を宿す。
 きっと貧血なのだろうけれど・・・自分の血はあげることが出来ない。夢魔の血が入った真帆の血液を取り込んで大丈夫だと言う保障はどこにもないのだから・・・。
「うお、すっげー顔色悪いな・・・」
「多分貧血だと思うんですけど」
 快斗の言葉に真帆はそう言って、早くどうにかしないとと口の中で呟く。
「献血用の血液なんて、学校にないよな・・・ここはもう、どっかの病院からかっぱらって・・・」
「暁さん!ちょっと良いですか!?」
 真帆が快斗の言葉を遮るようにしてまだ陽月と鬼ごっこを続けていた暁を呼び、事情を説明するとその場を暁に明け渡した。暁は非常に手馴れた様子で律の傍にしゃがむと、見ない方が良いかもと注意をした後で躊躇なく自分の手首を歯で傷つけ、ゆっくりと滲み出す鮮血を律の唇に押し当てた。
「ガラスの・・・ウサギ・・・」
 その様子を見守っていた律花がそっと呟き、ゆっくりと・・・目を閉じた。


 ガラスのウサギの中には人喰い鬼
 壊れやすいものの中に入れたものは、強く恐ろしいもの
 ・・・ガラスのウサギになんて入れるから・・・
 脆く儚く、いつかはなくなってしまうものの中になんて入れるから・・・

 ――――― 脆く儚いものは、いつかはなくなってしまうから


★ ☆


 隣室に寝かせた律を引き取りに来るように夢幻館に要請した後で、蓮は未だに女子高生ルックの面々に視線を向けた。
「まぁねぇ、大変だったのは分かるさ。でもねぇ・・・」
 紫煙を燻らせながらゆっくりと蓮は呟く。
「誰が割って来いって言ったんだい」
 確かに、蓮の最初の依頼は“ガラスのウサギを取り戻してほしい”だったはずだ。しかし・・・壊したのはこちらではなく“あちら”だ。自ら放り投げて叩き割ったのだが・・・勿論蓮にそんな事を言っても通じはしないだろう。
「依頼失敗ってことで、それなりに罰を受けてもらおうかねぇ」
 妖しげな瞳が揺らめき、どんな無理難題を言われるのだろうかと固唾を呑んで待ち構える。
 こちらに不手際はなかったとは言え、依頼失敗は失敗なのだ。言い訳をするだけ悲しい。
「人喰い鬼は京谷に取り込まれちまったって言うしねぇ・・・。ま、野放しにさせておくよりは安心なんだろうけどねぇ」
 蓮の瞳が1人1人の顔に注がれる。
 壁の柱時計にチラリと視線を向ければ時刻は既に夜中を回っており、レンの店内には蛍光灯の光がまぶしく降り注いでいる。窓には薄いカーテンが引かれ、外の様子は見えないがカーテン越しに入ってこない光は外が漆黒の闇に包まれていると言う事を告げていた。
「さて、折角素敵な格好をしてることだしねぇ」
 ・・・ニヤリ、笑う蓮の顔が怖い。
「写真でも撮っておこうかねぇ」
「!!!!!」
「蓮さんそれは・・・!!」
「なんだ、そんなことですかー!」
 元気にそう言ったのは真帆だけだった。
 確実にネタにされそうな写真を提供しなくてはならない男の子陣はもとより、すでに状況に慣れてしまっていた律花も流石に証拠品を取って置かれるのは恥ずかしいものがある。
「新しく買ったカメラの性能も見たいしねぇ」
「そんなーっ!」
「それじゃぁまずは秋月から行くかい?」
「へ!?私ですか!?・・・イヤですっ!」
 断固拒否の構えの律花の手を掴み、蓮がまたしても言葉の暴力を振るう。
「外に出てもバレなかったんだろう?それなら大丈夫じゃないかい。・・・メイクの力はやっぱり凄いねぇ」
「蓮さん酷い!!」
「後の面々はそこで待っとくんだよ」
 隣室に消えていく蓮と律花の背を見送りながら、視線を交わす。
 逃げてしまおうか・・・?けれど、逃げたら後が怖いことはよく分かっている・・・。
「良い記念になりますね!」
 それは真帆だけだと心の中で呟きながら、万が一写真を撮られた場合・・・あの人にだけは見せたくないと言う人物を各自頭の中に思い描く。そして、それぞれがとるであろう反応を思い・・・溜息をつく。
「えぇぇっ!!そんな格好もするんですか!?無理ですっ!出来ませんっ!!」
 律花の悲鳴に近い声があがる。
 ・・・そうなのだ・・・。蓮の写真撮影会は、ただ普通に椅子に座って撮るだけではないのだ。ポーズもいちいちつけなくてはならないのだ・・・!!
 証明写真用ではなく、グラビア用とでも言えば良いのだろうか・・・?
 この日、真帆以外の全員は撮影会で精神力を全て使い果たし、疲れきった顔でレンを後にする事になった。


 ――――― わいわい騒いだ今日も、きっとガラスのウサギ ・・・
       いつかは儚く消えてしまう、記憶と言う名の、ガラスのウサギ ―――――



               ≪ E N D ≫



 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6178 / 黒羽 陽月 / 男性 / 17歳 / 高校生(怪盗Feathery / 紫紺の影


  4782 / 桐生 暁  / 男性 / 17歳 / 学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員


  6197 / 陽夏 快斗 / 男性 / 17歳 / 高校生


  5566 / 菊坂 静  / 男性 / 15歳 / 高校生、「気狂い屋」


  6458 / 樋口 真帆 / 女性 / 17歳 / 高校生 / 見習い魔女


  5454 / 夏軌 玲陽 / 男性 / 17歳 / 高校生


  6157 / 秋月 律花 / 女性 / 21歳 / 大学生


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『ガラスのウサギ』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 思いの外かなりの長文になりまして申し訳ないです!
 参加者7名様、全員が学生と言う事に驚きを感じ、更には17歳が5名様も!!
 皆さん年齢が同じくらいでしたので、お友達感覚で描かせていただきました。
 シリアスにみせかけてオチがつく、そんな賑やかで明るいお話になっていればと思います。

 真帆ちゃん

 この度もご参加いただきましてまことに有難う御座いました☆
 今回は、とにかく真帆ちゃんを可愛らしく!!と念じながら描きました。
 現役女子高生と言う事で、細かいところで大活躍していただきました!
 レンを出て行くときに『転ばないように、道路を渡る時は右左確認、大丈夫です』
 と言って敬礼した真帆ちゃんが可愛らしいなぁ・・・と、一人で癒されてました(笑)
 真帆ちゃんと律花さんのやり取りが描いていて楽しかったです!


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。