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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


■妖精さんみーっけ!■

 嬉璃さんが、変な模様のついた卵を拾ってきたのが始まりでした…

 あやかし荘の管理人室では、今日も管理人の恵美と嬉璃がのほほんと茶を飲みながら話し込んでいた。しばしテレビの方を見詰めていた嬉璃が、思い出したように袖から「変な模様の卵」を取り出して、恵美に見せる。
「嬉璃さん…それは何の卵なの?」
「何ぢゃと思う?」
 ニコニコ笑いながら、妙に嬉しそうな座敷童の顔。何だろう、この嫌な予感…。
 時々、ぴくんぴくんと動く卵は、ぼんやりと柔らかな光を発していた。そんな奇妙な卵が普通の生き物の卵である筈もなく…どうしようかと思いながら、嬉璃が次の言葉を発するのを待っていた。
「これはな、妖精の卵ぢゃ!」
「ええ!?妖精って…あの妖精ですか!?」
 って、そんなこと信じられると思いますか!?ニワトリの卵じゃないんだからその辺にそんなものが落ちてる筈…
「森の入り口で拾ったんぢゃよ♪」
 嬉璃曰く、鎮守の森の奥に棲む妖精の卵らしいのだが。どうしてそんなものが、あやかし荘の近くに?考え出したらキリが無いのがこの「あやかし荘」。そこは深く考えないようにして、泣きそうになるのを堪えながら彼女の話を聞くことにした。
「不思議ぢゃろう?嬉璃も不思議ぢゃなと思うんぢゃ。」
「…でもどうして、拾ってきたりしたんですか?」
「面白そうぢゃからぢゃ♪」
 くらっ
 眩暈を覚えた恵美は、一瞬目の前が真っ白になる。大体、いつも嬉璃が持って帰ってくる物は、何かしら「騒動」の発端になるものが多いのに…また今日もそういう「物」を持ち帰ってくるんだから…。
「面白そうって…この卵はどうするんですか…?」
 恐る恐る聞いてみる。きっと、ここで育てるとか言い出すんですよ!!
「そうぢゃな。このままでは死んでしまうからのぅ…」
「え…?」
 それは一体どういうことなのか?そんな顔をして見つめる恵美に簡単に説明してやる嬉璃は、こころなしか困ったような顔をしていた。
「この種類の妖精は鎮守の森の外では生きられんのぢゃ…。どうしてまた森の外に“卵だけ”出てきたのかが分からんのぢゃが…。」
 ちゃぶ台の上、柔らかい布を敷いたその上に小さく乗っかる卵の弱々しい光を、じっと見詰める2人。まだ孵ってもいない「生きた卵」を掌の上に優しく乗せると、決心でもしたように恵美が呟いた。
「妖精さんを助けてあげなくちゃ…」
「恵美が奥までつれていくのか?」
「…無理です…」
 助けてあげたいのは山々だけど…!!やっぱりあんな不気味な森の奥に行くなんて絶対に無理です…!
 アワアワと卵を元のようにちゃぶ台に戻してから、溜息をついて俯く恵美であった。
「…とにかくぢゃ。この卵を「元の場所」に返してこないと死んでしまうんぢゃ。誰か行って来てくれんかのぅ…?」
 じぃっと恵美を見詰める嬉璃の目には、「どうにかならないか?」というよりも「何とかしてくれ」と言った感じの色が見えていた。恵美はその視線の意味するものにうすうす感づいていたのか、サッと目を逸らした。
「よし…!分かりました。じゃあ、募集してみましょうよ!」
 苦し紛れに出た答えは、妖精を鎮守の森の奥に返しに行くための「人員募集」であった。彼女にとっては、正に苦肉の策である。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


■冒険隊募集中…

 噂の広がりとは非常に早いもので、恵美特製「急募!お助け隊募集!」のポスターをあやかし荘の掲示板に貼り出してから、半日と経たずに“立候補者”が管理人室を訪ねてきた。
―― カラリ。
 戸を開いた先にいたのは、両目を閉ざして白い杖をつき、長い銀髪を二つに結った少女だった。少々、現代日本の感覚からはかけ離れたような――そう、どこかおとぎの国の少女であるようないでたちであったが――不思議な雰囲気の少女であった。しかし、開口一番の言葉でそのイメージは見事に吹き飛んだ。
「こちらですか?珍しい妖精の卵を下さる……ゴホンゴホン……妖精を助けて欲しいというのは?」
「案外に早かったのぅ…」
(今、下さるって言った気が…?)
 恵美は少し考えてから、玄関先で話すのも…ということで、彼女を中に招き入れた。キチンと片付いた六畳間には、妖精の卵につきっきりの嬉璃がテレビを見ていた。ちゃぶ台の周りに並べられた座布団の空いた席を客人にすすめてから、その対応を嬉璃に任せて恵美はお茶の用意をする為に席を立った。
「お主、名はなんというのぢゃ?」
「パティ・ガントレットです。お好きな様にお呼び下さい。」
 パティさんでいいですか?
 後ろから聞こえたのは、恵美の声だった。見れば、丸い盆に湯のみを3つと、お茶菓子が入った皿を載せて立っていた。
「構いません。それでその…詳しいお話を聞かせて頂けませんか?」
「そうぢゃの…森に行く時間を考えれば、待つのも限界ぢゃからのぅ。」
 募集は締め切りぢゃのぅ。付け足すように呟いた嬉璃に、恵美は半ば講義の色を含んだ言葉をぶつけた。
「え…!?こんなか弱い…目の見えない女の子を、あんな不気味な森に一人で行かせるんですか!?」
「お待ちを。私は、一人で山歩きも出来ない程“不自由”はありませんので…。」
 ぴっと立てた手で恵美を制してから、一人でも大丈夫だと言い張るパティに、それ以上何か反論することは出来なかった。
「本人もこう言っておるしの…いいぢゃろう?恵美。」
 嬉璃の言葉に困ったように頷く事しか出来ない恵美は、盆に載せたお茶と茶菓子をちゃぶ台に置いて、改めて自分の座布団に腰を下ろした。
「さて、単刀直入に言うがの…この卵が生きていられる時間はー…そうぢゃの、あと3時間ぐらいかのぅ。」
 ふむ…。少し考える風に傾けられたパティの顔を、じっと見詰める嬉璃と恵美。依頼を引き受けてくれる本人も、ここまで短いとは思わなかっただろう…と、少し不安になりかけた頃、漸く顔を上げた彼女に恵美は期待の視線を向けずにはいられなかった。
「意外と短いですね…。それで、その卵を森のどの辺りまで持っていけば宜しいのでしょう?」
「鎮守の森に入れば分かるぢゃろうが…籠のようになった大きな木が幾つか点在しておっての。その付近まで行く事が出来れば大丈夫ぢゃ。」
 正確な場所は分からないと言う嬉璃だったが、はたと思い出したように言葉を続けた。
「そうぢゃった!その木は卵同様に光っておっての。すぐに見つかる筈ぢゃ!」
(曖昧な情報ですね…まあ、いいでしょう。)
「わかりました。ではすぐに出発しましょう。」
 折角お茶を淹れて下さったんですが、帰ってきてから頂きます。
 そう断ってから、パティは布の上に置かれていた光る卵をその布で包んで、そっと懐に仕舞った。とくんとくん…小さく脈動する卵の鼓動は明らかに弱々しい。
「そうそう…この妖精、鎮守の森の外で生きる方法はあるんですか?」
「ん…?そうぢゃの…その妖精の棲み処になっておる木の“果実”があれば大丈夫かもしれんが…」
 ほう…?
 一瞬、邪に微笑む彼女の顔を見た者は、その場に存在しえなかった。
(それだけ分かれば十分ですね。)
「どっちにしてもぢゃ。孵化するまでに木の魔力が満ちた場所に戻さねば、そのまま死んでしまうだけぢゃ。」
(ふむ…孵化しなければ連れ出せないのですね。)
 それでは、行って参ります。
 白く細い杖をついて、鎮守の森の方へと歩いて行くパティの背中を心配気に見詰める恵美に対し、嬉璃はと言えば「大丈夫ぢゃろう♪」と軽く構えていた。恵美には、目に見えるほどの温度差を感じた瞬間であった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


■山歩きと軽い運動

 鎮守の森の中――奥へ行けば行くほど、弱々しかった鼓動が少しずつ力強さを取り戻していくのが分かる。やはり、この卵は“鎮守の森の魔力”に守られているのか…と、感心していたパティであった。
「しかし…全くそれらしい木は見つかりませんねー…」
 例の木は“妖精の棲み処”というだけあって、複数の妖精の気配があるはず。だが、歩けど歩けどそのような気配は未だ近くに感じることができない。

―― ガサガサッ

「ん?」
 丁度、パティの右後ろ辺りの木が揺れる音が聞こえる…魔物か何かか?と、神経を研ぎ澄ますも、この愚鈍極まりない気配は“洗練された”獣魔の「殺気」とは似ても似つかない。
「どなたですか?人の周りをコソコソと…」
 舌打ちのような音が聞こえると、どうにか隠そうと試行錯誤した音…らしき葉擦れの音が止む。
(一人ではないですね。1、2、3…5人。余裕ですね。)
 目を閉じたまま背を向けている状態で、相手が5人であると認識するパティの計り知れない“四感”を知らないダミ声の男が、イラついたような声で「待てよ、お譲ちゃん」と彼女の肩に手を置いた瞬間だった。
「ひぎゃぁぁぁっ!!?」
 瞬きひとつしないうちに、確かにパティの左肩に置かれていた男の手が、地面に“縫い付けられて”いたのだ。まるで、ジーザスが十字架に磔られているかの如く掌に“杭”を刺して倒れているではないか。
「汚らわしい手で私を触るからですよ。」
 パティは、縫い付けられた右手を必死に地面から引き剥がそうとする男の腕を踏みつけて、残り4人がいると思しき方向へ顔を向けると、「どこからでもどうぞ?」と嘲笑めいた語尾で笑ってみせた。
「ナメるなっ!」
 一人に動きがあるのを感じた直後、足蹴にしていた男の掌から峨嵋刺(がびし)を抜き取り、突進してきた細身の男に向かって投げつけた。

―― ガキィンッ!!

 金属同士がぶつかる激しい音が聞こえたかと思うと、先ほど突進してきた男が呻き声を上げて倒れていた。見事、男が持っていたサバイバルナイフを叩き落した峨嵋刺を拾いに行く。
「さ。まだ時間はありますからね。久々に運動できるチャンスですから…どうぞかかってきて下さい?」
「く…クソッ!覚えてやがれ!!」
 次こそは卵ごとお前を仕留めてやる!
 パティは、そう吐き捨てながら、倒れた2人を回収して逃げる5人を黙って“見て”いた。
「やはりあいつらも卵が目当てでしたか。全く、けしからん。」
 自分もそうだというのは、敢えて棚の上に置いているのだろうか。
 つと気になって、胸に入れた手に触れたのは先ほどまで確かに在った“感触”とは明らかに違っていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


■森の御使い

 胸から布包みを出してみると、中にあったはずの卵がなくなっていた。まさか、戦闘中に落とした?そんなはずは…。
「痛っ!」
 依頼の品を失くしたとあれば、とんでも無い事だ!という具合に探し回っていると、急に左の結った髪を引っ張られて思わず声を上げてしまう。振り返っても尚、髪を引っ張り続けるソレを左手で捕まえて撫で回すと、まさか…というような生暖かい何かであった。
《み…みゅっ…》
 何か鳴いているようだ。バタバタと手の中でもがくので、手を離してみる。
「あ…逃げた。」
 かと思いきや、今度は右肩に乗って鼻歌でも歌っているのか…面白い音を奏でている。これはまさか、例の卵が孵化したのか?
「お前…名は?」
《ナイ…》
 無い…か。
「では、今日から華煽(かおう)と名乗りなさい。」
 華のような甘い香りが煽情的であるから、名は華煽…。これは面白い素材ですね。是非とも我がファミリーに欲しい…。
(幸い、懐いているようだし…。では例の木の実を探しに行きますか…)
 肩に座ったまま、人語ではない言葉で歌い続ける(?)華煽を連れて、今度は“餌”になるのであろう木の実を探して歩き始めるパティだったが、いかんせん気配だけではよく分からないようで…
「華煽、お前の好きな木はどこにある?」
 一応本人に“好きなもの”を尋ねてみる。
《キ…?》
 分からないのか…。が、また振り出しに戻ってしまう。折角妖精を手に入れたのに、これでは鎮守の森から出られないではないか。
《〜♪》
 それまで右肩で大人しく歌っていた華煽が、どこかへ飛んで行ってしまった。それも半端ではないスピードで、かなり遠くへ行ってしまったようで…流石に限られた感覚だけで、無数の気配が散りばめられた鎮守の森の中、たった一匹の妖精を見つけ出すのは、そう簡単なことではない。
「あ〜…折角の新しいファミリーが…」
 これは、諦めろという事なのか?
「うう…欲しかったなぁ…」
 有翼種の使い魔なんて、滅多に手に入らないのに…。まあ、依頼は果たしたし…ここは一旦引き上げですかね。
 日の光さえ届かない深い森の中、時計だけが頼りである。流石にパティといえど、夜の森を探索するほど命知らずではないようだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


■忘れた頃に

 物事とは、案外思惑通りには行かないものだとしみじみ感じながら、あやかし荘の管理人室で「感謝をされつつ」約束のお茶を飲んでいたときの事。

―― ガシャァンッ

 ぶっ。
 窓を背に座っていたパティは、口に含んでいた緑茶を思わず零す。それは後頭部に未曾有の衝撃が走ったせいであり、つけっ放しのテレビ番組が面白かったわけでは決して無い。
「なっ…何ですか一体!?」
「ほほぅ…珍しい事もあるもんぢゃの?」
 急に、からからと笑い出した嬉璃は未だに状況が掴めないパティに、忘れ物だと言ってきた。何を忘れたと言うのか?そう思いながらも嬉璃の言葉に耳を傾ける。
「どうして置いて行ったのか。探したのに…だそうぢゃ。懐いておるのぅ?ほー…名をやったのぢゃな。」
「…華煽?」
 そのまさかのようだった。そういえば、先ほどから聞き覚えのある細い声が聞こえる。勝手にどこかへ行ってしまうから、森の奥へ帰ったのかと思っていたのに…。
「どうやら、パティの事を“親”と思い込んでおるようぢゃな。泣いておるようぢゃよ?」
 ほれ。そう言って渡されたのは、なにやら固くてゴツゴツした塊…どうも後頭部を襲った衝撃の正体は、コイツだったようだ。
(翻訳機か何か無いのですか?全く…何を言ってるのか…)
「何を言ってるか分からないのは、パティが聞こうとしないからぢゃよ。」
「な…。」
 なるほど…。聞く努力が必要という事ですね。
 そう言えば、森の中では何となく華煽の言うことが分かっていた筈なのに、今はよく分からない。ということは「聞けなくは無い」筈である。
《オナカスイタ…コレ、タベタイ…》
 集中して聞こうとすると、華煽が「腹を空かせている」のが分かった。しかし、この岩みたいな塊…どうやって食べるつもりなのか…?
「穴を開ければいいんですかね…?」
 よく分からないが、何となくそうではないかと思って、パティは懐から出した峨嵋刺でグリグリと木の実をつつき始める。
 ブツン。
 突き破るような感触が手に伝わってくる。
「あ、コレ椰子の実に似てますね!ストロー刺したら中身飲めるんじゃないかな?」
 引き抜いた峨嵋刺の先に、雫が滴っているのを見た恵美が咄嗟に思いついて、台所から細いストローを持ってきて木の実に刺した。すると、華煽が嬉しそうにストローに飛びついて一生懸命果汁を吸っているようだった。
《〜♪》
 心配していた食料は、自分で見つけてくると華煽は言う。案外、妖精とはタフなようだ。


 妖精の世話も大体分かった所で、結局は“思惑通り”妖精を連れて帰ることとなったパティ。


「華煽はこれから、私のファミリーの一人。ちゃんと仕事をしてもらいますよ。」


―― 右肩に可愛らしい妖精を乗せた「魔人マフィアの頭目」の噂は瞬く間に広がった。しかしそれは、彼女の“異名”が増えただけであり、その地位を絶対のものにする助けとして有益なものとなっていた。












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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 4538 / パティ・ガントレット / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目 】


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■         ライター通信          ■
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パティ・ガントレット様

初めまして。新人ライターのalice*と申します。今後とも宜しくお願い致します。
今回は、このお話に参加して下さいましてありがとうございました!
残念ながらお一人のみとなってしまったのですが、楽しんで頂ければ幸いに思います。

「欲しいな…ダメ?でも欲しい。」
パティ様のプレイングは絶妙でしたが、上手く反映できていれば幸いです。
ご意見などありましたらお気軽にお申し付け下さいませ!

それでは、今回はご発注頂きまして誠にありがとう御座いました。


by alice*