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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


行け行けアトラス探検隊 会社見学編

●オープニング
 月刊アトラス編集部に一通の手紙が寄せられた。差出人はとある剥製製作所の所長だ。

『月刊アトラス編集部の皆様

 はじめましてでこのような手紙を差し出す無礼、お許しください。
 私は小さいながらも魚類剥製製作所の所長を務めております。
 我が社では今、奇妙な出来事が起きているのです。

 剥製となった魚達が生きているかのように動いているのです。
 水を得た魚のように。
 これは何かの怪奇現象なのでしょうか?』

「怪奇現象以外の何ものでもないじゃない。面白そうね」
 編集長の碇麗香はクスリと笑いながら呟く。
「さんした君、来なさい」
「な、何でしょうか?」
 原稿ボツ! って言うんじゃないだろうなぁと思いつつ、三下忠雄は麗香の元へ。
「あなた、この会社の取材をしなさい」
 麗香から渡された手紙を読み、ぞぉ〜っとなる三下はベソをかいた。
「これ、どうしてでも僕が行かなくちゃならないんですかぁ〜!」
「当然」
 キッパリと言い放つ麗香は鬼だ…と思う情けない三下であった。
「でも、調査しに来ましたと言っても怪しまれるんじゃないですか?」
「そうねぇ…」

 考え抜いた麗香が出した結論は…。

「こないだ、屋敷調査をしたでしょう。あれと同じふうに、子供達に社内探検させれば良いのよ!」
「でも、子供達だけじゃかえって…」
「月刊アトラス主催の剥製製作所見学にして、大人も参加させれば問題無し! 我ながら良いアイデアだわ。調査でなく、社会見学という名目なら他の社員も納得するでしょう!」

 無茶苦茶な…。

『○月○日(土曜日)に、月刊アトラス主催の剥製会社見学を行います。
 ご希望の方は下記の必要事項をお書きの上、弊社にハガキにてご応募ください』

 こんなんで大丈夫かなぁ…と不安ながら応募要項原稿を書く三下であった。

●集まった探検隊員
 会社見学前日、アトラス編集部に今回、会社見学と称した探検隊員の子供達が打ち合わせのため集まるはずなのだが、まだ一人しか来ていない。ソファに腰掛け三下が入れたお茶を飲みリラックスしているのは、今回初参加の芽・ミッシェリース(めぐ・みっしぇりーす)。外見は十一、二歳の小学生程度だが、実年齢は二十六歳である。
 実は彼女、ある精神知性体犯罪者が地球に潜伏したため、外見、生理共に最も地球人に類似したナノク人の星間司法官から選ばれて派遣されたのだ。ナノク人は、成人でも地球の小学生程度の外見なのだ。現在は体型が大人に近い小学六年生として普通に学校に通いながら異能力者として捜査活動をしている。勿論、これは地球人には極秘である。そんな芽が参加した理由は、指名手配中の有力情報があるかと思ってだったが、見当違いだった。
 やめようかと思ったその時、自分(外見で)と年齢が近そうな四人組がアトラス編集部にやって来た。
「こんにちは、碇編集長」
 礼儀正しく挨拶する今川・恵那(いまがわ・えな)。
「今回のことはトラウマになるのではないかと思うのだけど」
 冷静に分析しつつそう言う飛鷹・いずみ(ひだか・いずみ)。
「今回も皆と参加するぴゅ♪」
 元気一杯の男の子、ピューイ・ディモン。
「ミーの見解では、この怪異…Artificalなものを感じるヨ」
 両腕を組み、うんうんと頷いているローナ・カーツウェル。
「あなた達に紹介するわね。今回、探検隊の一員になった」
「芽・ミッシェリーズよ。あ、同じ学校の子達ね。よろしく」
 麗香を差し置き、クールに自己紹介をする芽。

「今回の任務は、魚類剥製製作所で起きている奇妙な出来事の調査よ。剥製となった魚達が、生きているかのように動いているんですって。皆はどう思うかしら」
 麗香は、探検隊員達に意見を求めた。
「剥製って、何だぴゅ?」
 ピューイが仲間に剥製が何かと質問した。
「剥製というのはね、死んだ動物を生きていた時の姿に近い状態、あるいはその様にされた動物や魚のことよ」
 いずみの説明に、剥製って死体なんだぴゅね、と納得するピューイ。
「つまり、死んだお魚さんが動くぴゅ? じゃ、誰かが動かしてるぴゅ?」
「ミーも誰かが動かしてると思うヨ」
 ローナも誰かが動かしている説に同意する。
「お魚さんの恨み? かも…」
 いずみの後ろに隠れ、恵那が控えめに呟く。
「宙を泳ぐ剥製魚、か」
 調査のし甲斐がありそうね、と芽はワクワクした。
「それじゃ、明日の朝九時に保護者の方と一緒に白王社前に集合ね。宜しく頼むわよ、探検隊員諸君」
 麗香隊長の言葉に、はい! と元気良く返事する探検隊員達。

●探検当日
 会社見学当日、会社見学の抽選に当選した家族連れ達が白王社前に集まった。全員が揃ったところで、バスは剥製製作所に向かい出発した。
「み、皆様、お、おはようございます! 皆様のご…ご案内役を務めさせていただきます三下と申します!」
 三下をガイドを務めるのは、麗香の強引な命令、もとい、指名だ。
 探検隊員の子供達は、最後列の席に座りながらどうするかを話し合っていた。
「これは、経営困難に陥った魚類剥製製作所が、人を寄せるために考えられたPerfoemace。月刊アトラスを利用し、知名度を上げるのが目的といったところネ」
「どういうこと?」
 いずみの言葉を待ってました、と言わんばかりにローナはニヤリと笑った。
「普通の人間だけで、こんなこと思いつく筈がない…。少なくとも、月刊アトラスをターゲットにしてくる辺りで普通の人間である
筈がない!」
 たしかに、それは一理ある。超常現象の類であれば、アトラス以外でも扱っているはずなのに、何故、所長はここを指定したのだろう。
「僕、思うんだぴゅ。こないだのと関係あるのかな…なんだぴゅ」
 こないだの。この一言に、芽を除く全員が反応した。
「ねえ、こないだのって何のことかしら?」
 話に興味を持った芽が、四人に話しかける。代表して、いずみが探検隊員が結成された頃、麗香に頼まれて屋敷を調査しているうちに、そこにいる幽霊が「むん」という謎の言葉を残したと手短に話した。
「成る程。今回の一件も、その「むん」の仕業じゃないかしら」
「そう言われてみれば…そうかも…」
 深く考える恵那に、それはこれから調査するんじゃないと芽は励ます。
「そ、そうだね。私、学校の自由研究で発表できるように会社の人から色々聞こうと思ってノート持ってきたの。ピュー君、お握りも
あるから楽しみにしててね」
「楽しみだぴゅ♪」
 
●製作所到着
 バスに乗ること45分、ようやく魚類剥製製作所に到着した。
「で、では皆さん〜参りますよぉ〜」
 三下を先頭に、参加者は次々と製作所に入っていくが…大人の何人かが「見学する価値が無い」と愚痴を漏らした。対応に困り
果てている情けない三下を、いずみが励ます。
『一度人生の落伍者になったら、這い上がるのは大変でしょうが頑張って下さい。それと…私達が潜入する時間を何とか稼いで
下さいね』
 励まし…というよりは、とどめを刺して遊んでいるようにも見えるが、それはおいといて、四人の探検隊員達は製作所内に潜入した。
「いずみちゃん、何を言ったの? 三下さんを苛めてたんじゃないよね?」
 彼のことを思ってのことよ、といずみは恵那を言いくるめ…もとい、説明した。
 結局、会社見学はどうなったかというと…子供限定参加となってしまい、大人達は見学が終わるまで自由行動に。探検隊員を
除く子供達は、三下と所長の案内で見学することとなった。
 
 別の子供達と別行動をした探検隊員達は、まず魚類剥製作をする部屋を探し始めたが、
「所長とは別にWirequllerが居る筈。その悪事を暴くため、ミーは忍びの技で天井裏から所長室を窺うことにするネ。きっとそこでは所長もグルになって、山吹色のお菓子を食べているに違いないネ」
 ローナはそう言うと別行動しようとしたが、いずみに「時代劇の見過ぎよ」と咎めら、最年長である芽を先頭に、歩き始めた。
「暗くて気味が悪い…」
 恵那は、頼り甲斐のあるいずみの横を歩き、ピューイは魚の剥製が見られるとはしゃいでいる。
 先頭の芽は、腕時計のような道具を使い何かを調べている。その道具は腕時計型ツールという五次元エネルギーを検出する
ものである。
「それ、何だぴゅ?」
 ひょいと覗き込んだピューイが、芽が使用しているツールを見て聞いた。
「あ、これ? 発明マニアの叔父がいてね…」
 と、咄嗟に誤魔化した。
 探検隊員達は、怖がったりしながらも部屋をひとつずつ確認したが、物置きだったり、掃除用具置き場だったりとはずれが多かった。がっかりしながら怪しい部屋を探している探検隊員の前に、一人の女性が「ここはどこですか?」と声をかけた。盲人用の細い杖を突き、盲人を装っているパティ・ガントレットだ。彼女が目を開けないのは、目に頼らないための戒めである。
「剥製製作所ですが…。あなたは何故、ここに来たんですか?」
 恵那の問いに、パティは道に迷ってしまったようだと答えた。目が不自由で、付き添いがいないのであれば、迷い込んだのは不自然ではない。
「僕達、動くお魚さんの剥製を探しているんだぴゅ。お姉さんも一緒に探すぴゅ?」
「動く…剥製?」
 それに興味を持ったパティは事情を聞き、探検隊員達が、ここの魚の剥製がまるでが生きているかのように動いているのは、怪奇現象かどうか調べていることを知った。
「ここの製作所は、剥製が動くことで特に困っていることは?」
「そこまでは聞いていないわ」
「この件が怪奇現象かどうか調べろとしか、言われていないから」
 クールな二人、いずみと芽の言葉に疑問を感じたパティ。
「それが害を為すか為さないか。それに区切りをつけましょう。同行させていただきたいのだが宜しいか」
 大人がついていれば安心、という意見が一致し、パティは臨時探検隊員となった。

●剥製展示室へ
 あちこち迷っているうちに、探検隊員とパティは剥製展示室に着いた。魚類専門とあって、そこには大小様々な種類の魚の剥製がある。
「お魚さんがいっぱいだぴゅ♪ でもおかしいぴゅ? 泳いでないぴゅ」
 ピューイのいうことは尤もだ。剥製はあれど、それらは丁重に展示されている。
「あの話はデマだったようね。帰りましょう、このことを…」
 最後まで言い終えないうち、いずみは我が目を疑った。剥製の魚達がプルプル震え始めたかと思うと、フワフワと浮き始め、海を泳ぐかのように動いている。
「わーい、お魚さんが泳いでるぴゅー♪」
 はしゃぐピューイを払いのけ、
「フッフッフ。今宵のミーは闇夜を照らす炎。『篝火のお桜(ろう)』とはミーの事ネ!」
 ローナは待ってました! と言わんばかりにクナイを構えて、カッコ良く台詞を決めた。
「ローナちゃん、落ち着いて。まだ霊の仕業と決まったワケじゃないんだから」
 恵那の突っ込まれ、冷静になるローナをフッと微笑んで様子を見ている芽。
「…どうやら、碇編集長の話は本当だったようね。皆、どうする?」
「私は様子見といきたいわ。編集長の話の真偽をもう少し確かめたいし」
「あなたとは気が合いそうね」
 僅かな会話しか交わしていないにも関わらず、いずみと芽は気があったようだ。

『気持ち良いなぁ』
『ここで泳ぐのも良いけど…やっぱり、広い海のほうが良いなぁ』

 どこからか、子供に近い声が展示室に響いた。
「あなた達は、どうして宙を泳いでいるのですか?」
 パティが魚達に訊ねる。

『あのね、あのね、ある人がボク達をまた泳がせてくれたんだ』
『すっごくキレイな女の人! ん〜男の人だったかなぁ?』
『私達のお願いを、あの人が叶えてくれたんです』

 むげん、って人が。

 魚達が同時に言ったその言葉に、芽、パティを除く四人は驚いた。四人は以前に、この言葉の断片を聞いたことがあるのだ。
「その人、悪い人なんだぴゅ?」
『ううん、いい人だよ。もう一度泳ぎたいってお願いした魚達を泳がせてくれたよ。ここでしか泳げないけど、それでもいいかって
言っていたけど』
『あたし達は、ここでも泳げればそれでいいの。でも…それを人間に見られていたなんて…』
 どうしようかと考えていた探検隊員達だったが、魚達の願いを叶えてくれた恩人が、悪意でこのようなことをするはずがないと躊躇っていた。
「地球ではこういうことが良くあるのかしら…」
 相談している四人を見て、芽はポツリと呟いた。

●結論
 話し合いの結果、探検隊員達はこの魚達を害のないものと決定した。泳いでいるところを見られたのは運が悪かった、という
こととなった。
「今度は人間に見つからないように泳ぐのね」
「あなた達からは悪意を感じません。いずみちゃんの言うとおり、今度は見つからないよう泳いでくださいね」
「ユー達の邪魔をするのがいたら、ミーがやっつけてあげるヨ!」
 子供達を代表して、パティが話を纏める。
「あなた達が泳いでいるのが見られたら、見世物になります。そうなるのが嫌ならば、人が寝静まった夜に泳ぐのがいいでしょう」
『うん、わかった』
『ずっと泳いでいたいけど、人間に見られるとまずいからなぁ』
 魚達も納得したようだ。
「じゃ、決まりだぴゅ。お魚さん達、良い夢を見せてあげるぴゅ」
 恵那が作ってきたくれたお握りで腹ごしらえを済ませたピューイは、天井に手をかざした。
 すると…展示室は青く澄んだ海と化した。南国にでも行かないと見ることができない魚までいる。
『キレイだね…』
『嬉しいなぁ、ありがとう!』
『わぁい、わぁい』
 剥製の魚達は、ピューイが見せた夢の中で無邪気にはしゃぎながら泳いだ。

 探検を終え、外に出ると三下が「皆さん、遅いですよぉ〜!」と泣いていた。保護者達は時間を潰し終え、子供達の見学も既に終わり、まだ着ていない探検隊員達を30分も待っていたとか。全員揃ったところで、バスに乗り白王社まで向かった。パティは、誰にも気づかれないよう、そっとその場を去った。
「あの魚達も、これで一安心でしょう」

 帰りも行きと同じように、最後列の席に座った探検隊員達はというと…いずみと芽以外は疲れたのか、眠っている。
「一匹くらい捕獲できれば、バラしてみようと思ったけど…興ざめだわ。どのようなものか調べてみたかったのに」
「剥製を調べたかったの?」
「いいえ、剥製にされる前の魚を」
 芽のほうを向き、きっぱり答えるいずみ。学者タイプの彼女らしい。
「眠っている子達は、どんな夢を見ているのかしら」
 恵那、ピューイ、ローナの寝顔を見た芽は、母親のような気分で言う。

 編集部に戻ると、麗香に今回の一件はガセネタでしたと報告した探検隊員達。魚達のことは…内緒、である。
「ガセだったのね! あの所長…よくも騙したわね!」
 麗香の怒りの矛先は、三下に向けられたことは言うまでもない。

 白王社を後にし、仲良く帰る子供達の様子を、ある人物が物陰から見ていた。
『どうやら、あの子達とは縁があるようだ。この先もどうなることやら…』


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1271 / 飛鷹・いずみ / 女性 / 10歳 / 小学生】
【1343 / 今川・恵那 / 女性 / 10歳 / 小学四年生・特殊テレパス】
【1936 / ローナ・カーツウェル / 女性 / 10歳 / 小学生】
【2043 / ピューイ・ディモン / 男性 / 10歳 / 夢の管理人・ペット・小学生(神聖都学園)】
【4538 / パティ・ガントレット / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目】
【6663 / 芽・ミッシェリース / 女性 / 26歳 / 星間司法執行官】

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■         ライター通信          ■
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火村 笙改め、氷邑 凍矢と申します。
このたびは「行け行けアトラス探検隊 会社見学編」にご参加くださり、ありがとうございました。
前回ご参加くださった探検隊員の皆様に再びお会いできて嬉しいです。

>飛鷹・いずみ様
前回に引き続きご参加くださり、ありがとうございました。
今回はクール+学者肌にしてみましたが…いかがでしたでしょうか?
三下を少しですが苛めてみましたが、あまりご期待通りにいかず、申し訳ございませんでした。

>今川・恵那様
前回に引き続きご参加くださり、ありがとうございました。
今回はちょっと控えめながらも、友達思いな一面を出してみました。
自由研究の良い題材になったことを祈っております。皆に食べてもらいたくてお握りを作ったのでしょうね。

>ローナ・カーツウェル様
前回に引き続きご参加くださり、ありがとうございました。
今回も明るいノリで活躍していただきました。
ムードメーカー的存在になっていただきました。ローナさんの笑顔、好きです。

>ピューイ・ディモン様
前回に引き続きご参加くださり、ありがとうございました。
今回の調査で新しいお友達ができましたね。いかがでしょうか?
ピューイ君が見せた夢は、剥製となった魚達にも伝わっているのでしょうね。素敵な海をありがとうございました。

> パティ・ガントレット様
お久しぶりです。アトラスでははじめまして。
パティ様には、途中参加ではありますが子供達の保護者代わりになっていただきました。
またどこかでお会いできる機会、お待ちしております。

>芽・ミッシェリース様
はじめまして。ご参加、ありがとうございます。
初めて書かせていただくPC様なので、カンジが掴めたかなとハラハラしております。
ツールに関してはあまり描写できませんでしたが、楽しませていただきました。またお会いできると良いですね。

前回『むん』だけだった存在ですが、名前のみ判明させました。
彼(彼女)が何者なのかは、アトラス探検隊シリーズで徐々に明らかにする予定です。お楽しみください。
暑い日から急に涼しくなってきましたので、体調を崩さぬよう、お気をつけてください。

氷邑 凍矢 拝