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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


姉ショタ異界其の一


 日本が夏の頃、オーストラリアは冬らしい。
 ある時代劇漫画は初期の頃、季節の描写に力を注いでいたけれど、時が止める必要性が出て来た事で、情景の中には唯、風を荒ぶ表現のみを用いるようになったらしく。
 始まりの季節が何時か? 多くの人は春を唱える、その次には冬、一年の始まりの日を指すかもしれない。……自分が生まれた季節を、例えば五月晴れの日を始まりとしてる人も、きっと居るだろう。
 だけど、でも、結局、《それ》の始まりなんてものは――
(髪をくしゃりと、女性が撫でたり)
 ……まぁ、《恋》の始まりなんてものは、何時が定めなのかは解らなく。
(少年が料理を振舞ったり)
 春だろうと、夏だろうと、秋だろうと、冬だろうと、また来る、春だろうと、
(二人が、ぎゅっとしあったり)
 ただ風が吹く中であろうと。
 人という生き物は、自然の摂理によくよく逆らい、笑いあったり、泣きあったり、怒りあったり、
 幸せそうに、していたりする。


◇◆◇


 異なる世界というのは存外うっかり発生する物であって。例えば単純にある少女の喋り方が、データーに記載されている口調よりも、何か行動を練る時の口調の方がうっかり台頭してしまうという事例もある。八百万もとい(某暦2006年10月13日の金曜日現在)二百八十三の神様がいれば、それだけ、少し、或いは大分異なった世界や人物が居てもおかしくはない。
 で、この異なる世界であっては、彼女は正直暇人になる。今流行のニートまでは行かないまでも、活躍の場は極端に少なく。
 あんまり、事件らしい事件が無い。……つまる所そういう事である。
 ただの学生なら問題がない、ただの生活を営めばいい。しかし彼女の場合そのただのという三文字の前に、非常に長い性質を書かなければならず、ようは、十分個性的だという事だ。
 だからこの姉ショタ異界という、事件といえる物が一つも無い(と彼女自身は感じている)世界では、実に実に平和な暮らしをしている事になる。何時訪れるやもしれぬ災厄への心構え、そして有事に備えて山篭りして太鼓を叩くわけではないけど鍛えてはいるのだけども。
 となれば、どうすればいいか。
 何も起こらない平和な世界、世界の危機なんて呼べる物なんて有り得ない世界。
 ――あの世界とはまるで真逆な
 あの世界。
 さて、唐突であるけれど、彼女は16歳である。世界存在より三歳年上。
 “それが世界の三年後という例の異界とどう関係あるのか”、これは憶測に過ぎない、とある神様が勝手に決めた事なんだけども、
 単なる偶然でなく、それは移住して来たのかもしれない。ともかく彼女は年齢を帯びている。でも、それでも、足らなかった。少なくとも、年齢という意味では。だから彼女は、
 そうしてから、ここに連れてきたと考えるのが正しいのか。そう、
 年齢差も完璧に、姉は彼女――ササキビ・クミノで、ショタは、
「こ、ここ何処ですか?」
 この魔方陣らしき所に座らされている少年。
「なんでここに連れてこられたんですか?」
 別に禁則事項が有る訳でないのだが、下穿きから覗くふとももがやけに眩しい少年、というかショタっぽいのはそう呟いてる場所は、世界をオーダメイドドット以下略で大いに盛り上げるササキビ・クミノの団、という訳で無い。
 ただ、ササキビ・クミノのと、彼女を使役する奇怪な機械が二つと、メイドな機械二人に囲まれている状況であっては、セリフが例のバニーと被ってもしょうがないものである。寧ろ少年は、本家よりもみっともなく脅えていた、全くこれでは、
「元よりも情けないな、人類の最下層に更に地下が作られた事になる」
「な、なななな、何を言ってるんですかさっきからぁ!」
 そんな嘆きも無視して、クミノは良く少年を見ている。それは興味本位の色と、……懐かしみを覚えてるような色が混じっていた。
 メイドロイドプラゼノモリス、
「マスター、彼の身体機能はデーターよりも著しく劣っているようです」
「端的に言えば?」
「若返ってますマスター、まるで小中学生のように」
 そうか、と言う他人。え? と目を丸くする当人。
 若返っている、僕が?
 どういう事――そう自己について、考えを回した時、
「……あれ?」
 おかしい、事に気付いた。
「え? あ、あれ、そんな、あれ?」
 生きている限りこれは有り得ない事のはずである、けれど、
 その存在しないはずの経験に直面している。そう、
 経験が無い、という経験、
「私は、ササキビ・クミノ。殺し屋じゃない、殺し屋とは、断じて」
 彼女はそう言って、驚愕で涙すらも止まった少年に顔を近づける。
 少しドキリとした少年の顔が紅潮するけれど、クミノは別に気を留めない。「回りくどく言わせてもらおう」
 いや直接的に言ってくれよ見知らぬササキビ・クミノさん、と思ったけれど、口には出さなかった少年に、ササキビは、
「昔お前は殺し屋だった、世界を殺しかけた殺し屋だった」
「え?」
「だが、その自分の宿命に疑問を持ち、永遠に踊り続ける呪いの靴の源である女の首を捨てる事で、自己を犠牲にして、自分の未来を捨て去る死を選択してまで、殺し屋を辞めた」
「な、なんの話、なんですか? 何を」
 それは、一度語られた物語。
「ある意味で、それは」
 それは世界の三年後という異界――
「あの世界を救った、行為。お前はそれの残り香なんだ」
 意味なんて、さっぱり解らなかった。
 ただ彼女が、スーパー、と小さく言ってから、
 三下と、自分を呼んだ。
 ――僕の名前


◇◆◇


 ある女史が、レポートでなく物語として書いたという、殺しあう異界がタイトルの本を手渡されたのは昨日。なんとか昨夜中に読みきる事が出来て、朝を迎える。
 後半に出てくる二人のササキビ・クミノを含めた登場人物、この中に出てきているスーパー三下という男が、かつての自分だったという。
 ……正確には、自分はそのスーパー状態と忠状態を含めた三下忠雄の一部、ただの少年の部分であるらしいけれど。牛肉で言えば切り落としの部分と言われたが、いまいち解らなかった。
 物語によると、自分は雨の中、砂のように崩壊してるとある。
 あの魔方陣は、そんな自分をこの世界に再生するものだったのか。あるいはどっかで勝手に再構築されていたのを呼び出す為だったのか。
 どちらにしろその所為か、元の三下とやらよりもスケールダウンしているようだ。前までみたいな、不幸体質ではなくなっているみたいだけど。
 ネットカフェの一画、ハムエッグとコーヒーという朝食。ショタショタ三下にはバナナジュースだ。
「もとからこの異界がそうなのか、あるいは、お前が現れた事で帳尻を合わせたのか、この異界に三下忠雄も、三下忠という存在も確認されてない。……三下、貴様はこの世界にとって異邦人だ。碇女史も草間も誰もお前を知らない」
「……僕はこれから、どうすればいいんですかぁ?」
 おずおずと、泣きそうな顔で聞いてくる。編集者の姿だったら殴り倒したくなる態度だが、今は歳相応の行為なので、さして問題は無い。
「自分で、決められないのか三下」
「そんな、そんな無理です」
「貴様は自由なんだぞ、何をしたっていい、生きるのも、死ぬのも」
「し、死ぬ、って」
「それが自由という物だ。……私がこの、何も事件が起こらない、平穏な世界で過す事を選択しているのも」
 選択。
 それは小さな子供にとって、酷な課題ではある、けれど、
「どうする?」
 クミノは、強制する。
 目の前に居る三下は、おそらく、歴代の三下の中で類を見ない最弱だろう。元の不幸体質、無能力がなくなっているとはいえ。寧ろ、そういう特徴が無くなった彼は、もう誰にも愛されない。おかしくない道化を好んで雇うサーカス等存在しないのだ。
 ただ、その、まぁ、
 可愛くはある。
(そう私が思うのも、この異界の作用か)
 だから、この少年は多分、この異界なら生きていける。他所から来た16歳の自分は解るのだ、この異界の違いを。ダンボール箱にいれて捨ててしまえば、きっと誰かが猫のように拾ってくれるだろう。そして、世界は何事も無く平和に続く。
 ササキビ・クミノが、ネットカフェモナスに弱い三下を呼び出したのは、気まぐれか、強い意志か。ただどちらにしろ、
 ここでお別れのはずだった。
「ササキビさんに、雇ってもらうのはダメですか」
「――、」
「僕、幼いですけど、……コーヒー運びくらいならなんとか。……え、えっと、元の人みたいに失敗しないよう頑張りますから! その!」
「……そういう、選択もあったな、いや」
 “年下にしてから、ここに連れてきたと考えるのが正しいのか”
 それならば、私は、
「この世界で、三下と繋がる事を、望んだのか?」
 それが異界の宿命にしろ、自分の願いにしろ。
「……? どうしたんですかササキビさん?」
「いや、どうもしてない。良し、今からデートだ」
「あ、はい解りました。……ええ!?」
 余りにも自然な言い草だったので、一度うなずいてしまってから疑問を音にする。
「仮説を確かめに行く。大丈夫だ、最近路地裏で猫を虐めてるらしい不良を成敗しに行くだけだ」
「そ、それ絶対デートとかじゃないですよぉお! あ、痛い、耳引っ張らないでください、千切れる、千切れるぅぅぅ!」
 ネットカフェモナスの朝に、暴虐による被害者の声が響き渡る。だけれどその様は何か微笑ましく、止められる事無く店から出て行った。


◇◆◇


 ぽかん、とした。
 物語にあったササキビ・クミノの奮戦、言葉では伝わらない事が、今、目で確認出来た。余りにも鮮やかで的確な所業、鉄のように強かった。
 件の路地裏である。金髪のヤンキーが黒猫の尻尾を掴んで、カッターで切り取ろうとした瞬間、彼女は三下をほっぽりだしペットボトルロケットの速さで駆けて――召喚武装――観光地の土産物屋で売っている根性と書かれた尺を、殺人凶器として扱った。
 弱く叩けば肩こり解消、強く叩けば煩悩退散、そして、痛みすら感じる暇も無い速度で繰り出せば、一瞬で意識を奪う事に。
 ……人間を警戒する黒猫に、もう行け、と瞳で合図する。助けられたと思っていない黒い奴は、猫だのに、脱兎した。そうしてからササキビ・クミノは、泡を吹いている身体の前で携帯電話を取り出す。
「……何処にかけてるんですか?」
 ひょこひょこと近づき尋ねると、こいつを精神から鍛える場所送りにすると。どういうコネを持ってるんだあんた。
 電話をかけるだけで、後は迎えが来るらしく。彼女はさっさとその場所を後にしようとする。慌てて着いて行く三下。
「……思ったより早く仕事が済んだな。前だったらここでもう少し波乱があるんだが。不良がお礼参りにくるとか、猫のボスがお礼に来るとか」
「そんなの……平和が一番ですよう、そんな心臓に悪そうな事ごめんです」
「お前の記憶は」
「え?」
「思い出せる物なのか、元から存在しないものなか、解らない」
 突然の話題だったけど、何時か話しておくべき事。だったら今話しても構わない。……うつむいて考える三下。言葉が生まれない彼を気遣ってか、彼女が続けた。
「記憶があると仮定して、スーパー三下の頃、三下忠の頃……それになる前の三下忠雄の頃という、三人分の過去を思い出せば、多分、負担になるだろう。だからこれは、正直、私の希望的観測に過ぎないが」
 どうか、お前が新しい存在であるように、と言った。
「まかり間違っても、あの力が甦る事も無いように願っている」
 自分の知らない自分を、自分よりも知っている彼女の横顔を見る三下。今の少年にとって、彼女だけがあらゆる意味での拠り所だ。全ての始まりの人なのだから、正直、終りまで面倒を見て欲しい。
 バイトを、と言ったのも、その為の口実だ。この世界に一人きりで生きる選択なんて、とても選べそうに無かった。
 それは少年だから、弱い存在だから仕方なかった事かもしれないけれど。
「……どうして」
 呟く。
「どうして、僕は生きてるんですか」
 ……赤子として生まれたのなら、意思が無い侭に生まれていたのなら、物心つく時にはそんな理由も探らないだろうけど、彼は、12歳前後の侭生まれている。
 だからこの疑問は弱音じゃなくて、純粋だった。
 問いかける能力を持った侭、この世界に呼ばれた者にとって当然の権利と言えた。バイトにしても、疑問にしても、そうせざるをえない事が多すぎる。
 生きるって、なんて不自由なんだろう。
 ササキビの隣、雑踏を歩きながらそう思う。
 それは弱音じゃなくて、感想だった。少なくともそう判断したのだ。
 まだ生まれて間もない、全く新しい三下は――
 だから、
「アイスクリームは好きか?」
「え? ……あ、は、はい」
「そういう事を覚えているのなら」
 彼女は、そこで、

「それが理由にならないか?」
 ふっと、笑った。

 トクン。
 心臓が、、鳴った。
 彼女が笑った、それだけの事で。トクン。胸の鼓動が早くなっていく。トクン。なんだか、苦しくなってきて。トクン。けれど、けして嫌じゃない。
 記憶の無い生き物、けれど、感覚は忘れていない。だけれど、
 これは三下にとって初めてともいえる感情、
「……そうか」
「え、……え?」
「私を、好きになったな」
 さらりと言った彼女に対して。
 叫ぶような顔で、絶句する三下。
「顔にあからさまに出ている。単純に赤くなっているだけだが」
「え、あ、あの、その、僕」
「いや、当然かもしれない。……ここがそういう異界である事を差し引いても、私はどうも、不用意に貴様に構いすぎたな。笑うべきじゃなかったか、だが、もう手遅れか」
 三下忠雄に恋なんて、どう足掻いても悲喜劇にしかならないけど、
 この三下なら、
「まぁいいか、と思える」
「……ッ! あ、あう、あ、あうう……」
「変な鳴き声をあげるな。全く、本当に元より情けない。存在の価値が無いかもしれない、が、」
 ササキビ・クミノが足を止めたのは、
「それでも生きるのも、……ここで何味を選ぶのも自由だ」
 アイスクリームショップと、三下の前。


◇◆◇

 名前を、どうしようか。
 三下忠だけれど、この世界の三下は色々違っているし、
 三下雄、ユウって、呼ぼうか。男らしくなんか少しもないけど。
 どちらにしろ呼び方なんて些細な事、彼女がどう決めようと。
 大切なのは――

◇◆◇


 オープンテラスで、二段重ねのアイスクリーム。ステンレスのスプーンで食べる、チョコレートミントとストロベリー。こんな事が生きる目的にもなってしまう、平和な世の中。
 こんな事こそが世界で一番大切なのかもしれないけれど。
「……あ、あの、ササキビさぁん」
「どうした?」
「僕ってその、本当、生きてていいんでしょうかぁ?」
 生まれてきてごめんなさいという風な態度に、ササキビは思った。やっぱり三下だと。……それでも余りムカついたり共鳴したりしないのは、単純に見た目の所為だろうか。
「そう卑下してもしょうがないだろ? 私が好きだったら、私を理由に息をしたっていい。貴重な酸素が無駄になるなど、ヤクザみたいな事を言いはしない」
「あうぅ……」
 自分よりも年上で、自分よりも強くて、自分よりも頼りがいのあって、
 自分――三下にとって、あらゆる意味で上の、ササキビクミノ、
 彼女はまだ、少年への好意を確定はさせてないけれども、少なくとも少年は確実に、彼女に惚れて、
「あ、そ、そうだ、僕だけ食べているなんて反則ですよね!」
「え?」
「は、はい、ササキビクミノさんも、遠慮なんていりません! 僕が買ったんじゃないけど」
 スプーンに載せたアイスを、少々無理矢理に、彼女に断る隙を与える前に、
 彼女の口に放り込んで――
 その瞬間、白目を剥いて椅子ごと後ろへぶっ倒れるササキビ。「ええ!?」
 新しい三下の記憶に無い事、ササキビ・クミノ、甘い物が超絶苦手このように気絶する程に。
 この事もありネットカフェモナスでのバイトは、かなり過酷なシフトにさせたのだが、……それでもあの三下が、お姉様方にやけに人気があるというのは、色々な意味で複雑である。アフロでも被せてやろうかこの三下め。


◇◆◇

 何が自由で、何が不自由か、永遠に出ない答えかもしれないけれど、
 少なくとも少年は、そして、彼女には、
 少しだけ、解るかもしれないとある可能性の話。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。

◇◆ ライター通信 ◆◇
 ◎つけていただきありがとうございます。(何よ
 という訳で毎度毎度お世話になっております、まさかこの異界にも参加していただけるとは思いませんでした。でも正直プレイングの解読に時間がかかりましたかつ自信がありません(えー
 えーとその、もう書いちゃったので言える事はただ一つ、間違っていたらごめんなさい(平身低頭
 名前に関してはそちらに決定権があります、仮に三下雄がお望みであれば、異界ページのほうで名前だけ補足しときます。それ以上は毎回更新があるような事態はごめんなんだぜ(気にいったんだぜな口調
 ともかく有難うございました。またよろしゅうお願い致します。