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<東京怪談・PCゲームノベル>


ワンダフル・ライフ〜バトル・オブ・ドリームメーカーズ!〜









 少女が二人、対峙していた。
一人は幼く、ウエーブのかかった長い黒髪。
一人は少女と女の丁度中間に位置する娘、真っ直ぐに伸びたココア色の長髪。
二人の足元には、枯れかかった雑草が、風に揺れていた。
 ココア色の少女が口を開く。
「…この前は、お世話になったね。結局勝負はお流れになっちゃって、残念だったよ」
 黒髪の少女は、それを受けて、微かな声だがはっきりと言った。
「…それは、こちらも同感なのです。このままでは、すっきりしないのです」
 少女がそう告げると、一際強く風が吹いた。
ココア色の少女の背後から吹く風は、少女の滑らかな髪で彼女の口元を隠した。
「そっか…。じゃあ、お互いの気持ちは同じ、だね。となると、道は一つしかない」
 黒髪の少女は、既に了承済みというように、こっくりと頷いた。
「望むところなのです。今こそ決着をつけるのです」
「うん。…正々堂々、プライドを賭けて戦おう」
 そして少女らは互いの視線を交差させて。

「って、すふれが言ってたよ」
「いちいち旗を書き換えるのはめんどう、とのことです」

 二人が口調をがらりを変えてそういうと、それぞれの足元から、ぴょこんと何かが飛び出した。







 ココア色の少女、樋口真帆の前に躍り出たのは、白いウサギの姿をしたぬいぐるみ。名は「すふれ」。彼女(彼?)は手を触れずとも、己の意思で動く。女子高生であると同時に、正真正銘の魔女である真帆の使い魔だ。
 黒髪の少女、伊吹夜闇の前で威風堂々と胸を張っているのは、夜闇とよく似た造成を持つ人形。彼女もまた己の意思で動き、だが言葉を喋ることが出来ないので、手持ちの旗に言葉を綴る。その旗には、現在は可愛らしい文字で『だとう、すふれ!』と書かれている。
 真帆と夜闇の、先程のシリアスな口調は、自分の使い魔と友人の言葉を代弁したまでのこと。本人同士が火花を散らし始めたので、真帆は本来の口調に戻り、のほほんと言った。
「すふれはやる気満々なんだよね。夜闇ちゃん、どうしよう?」
「…こちらも、今更引く気はないようなのです」
 夜闇は足元で白うさぎ相手にメンチをきっている自分の人形を見下ろし、ちょこんと首をかしげた。
「…決着……どうつけるのでしょうか」
 先程自分の口からいったものの、夜闇自身にはピンときていないらしい。だがそれは真帆も同様だったようで、同じく首を傾げながら唸った。
「う〜ん…。喧嘩はもっての他だよね。平和的解決方法がいいよね」
「へいわてき…。早食い競争というものを、この前てれびで見たです」
「あはは、早食い大食い? いいね、でもすふれは物を食べられないよ」
「こちらも同じなのです…」
 しゅん、と肩を落とす夜闇。そんな彼女を見、真帆は名案を思いついた、と人差し指を立てた。
「そうだ。秋だし、運動会っていうのはどう?」
「うんどうかい?」
 真帆の提案に、夜闇はきょとん、とした。彼女はこうして人間の姿をとっているが、本来は宵闇の子ども、人間ではない。あまり人間社会の行事に明るくないのだ。
「えっとねえ…。簡単にいえば、色んなスポーツをして、最終的にたくさん勝ったほうが勝ち、っていう大会のこと。一応競争モノが多いけど、全部スポーツだから平和的だよ。お人形にも出来るものが多いし」
「へえ…すごいのです。楽しそうなのです」
 真帆の大雑把な説明に、夜闇は顔を輝かせる。そしてちらりと自分の人形を見ると、彼女もまたやる気になったようだ。「すぽーつまんしっぷ!」と書かれた旗をふりふりしている。
「あはは、夜闇ちゃん人形も気に入ったみたいだね。すふれもやる気満々だよ」
 真帆の言葉通り、すふれもまた夜闇人形に負けずに、意気揚々としていた。自分のもこっとした腕を肩部分にあて、もう片方の腕をぶんぶんと回している。
今すぐにでも駆け出していきそうな雰囲気だ。
「…でも、運動会なら、審判がいるよね…」
 真帆の呟きに、夜闇は首をかしげた。
「しんぱん、ですか?」
「そう。一応競い事だから、判定してくれる人がいないと。どうしよう?」
「…私のお人形さんなら、いっぱいいますです」
 夜闇がそういうと、背後の黒いダンボール箱から、わらわらとあふれ出てくる多種多様の人形たち。真帆はその光景に目を丸くするが、夜闇の前に勢ぞろいして敬礼する20近くの人形、ぬいぐるみたちを見て、思わずぷっと噴出した。
「あはは、かわいい! いいね、ぬいぐるみたちの大運動会だね」
「…小さいから、場所をとらないのです」
 真帆の言葉に、少しずれた返答をする夜闇だ。
 だが主人たちの反応とは裏腹に、夜闇人形は不満を露に表していた。何か思うところがあるのか、白い旗をふりふり、『おまえら どっちがかつと おもう?』と自分の同僚たちに問いかける。すると人形たちは揃って、白うさぎのすふれを指差した。
 真帆はその様子に、思わず口元に手をあてた。
「ありゃ」
『ひどっ! ぺんきか? ぺんきのうらみなのか!?』
「…ごしゅうしょうさまなのです…」
「夜闇ちゃん、そんな言葉どこで覚えたの?」
 意味が分かっているのかぽつりと呟く夜闇に、真帆は苦笑した。
「でも、何か事情があるみたいだね。これじゃあ公平な審判は難しいかなあ…」
 ううん、と腕組みをして唸る。本来ならば自分たちと関係のない第三者に頼むべきなのだろう。だが独りでに動く人形たちの運動会など、一般人に見せることすら出来ないというのに。通りすがりの通行人を捕まえるわけにはいかないし、はてどうするべきか。
 そう悩む真帆は、自分をじっと見つめる視線に気がつき、顔を上げた。言わずもがな、夜闇である。
「…どうかした?」
「…ちょっと、こころあたりがあるです。あの人たちなら、きっと引き受けてくれるのです」
「ホント? すふれたちを見せても大丈夫かな?」
 真帆の問いに、夜闇は自信を持ってこっくりと頷いた。
「心配ごむようなのです。…それに、きっと真帆さんも知ってる人たちなのです」
 夜闇の言葉に、真帆は思わず首をかしげた。









 ―…そして現在に至る。







「つまり、あたしたちに審判をやれってこと? 全く、うちは便利屋じゃないんだからね?」
「それはあんたが言う台詞じゃないでしょ、リース」
 無意味に胸を張り、大きな口を叩く居候の頭を軽く叩く金髪の娘。名はルーリィ、此処魔女の雑貨屋『ワールズエンド』の主である。
「かあさん、かぁさんっ! 運動会ってなに?」
「え? そーねえ…」
 そのルーリィの腰にしがみつき、上目遣いで頬を高揚させる10歳程度の少女。彼女、リネアはルーリィの娘なのだが、この世に生を受けて、まだ1年少ししか経っていない。目下社会勉強中なので、通俗的な行事は分からないのだ。
 リネアの問いに、ルーリィはにっこりと笑って当然のように答える。
「おーっきな広場で、リネアみたいな子どもたちが大勢で走ったり、玉を投げあったり、棒を奪い合ったりするのよ」
「……うんどうかいって怖いんだね…」
 ルーリィの大雑把すぎる説明に、リネアは思わず顔を青くする。
 そんなリネアを見て不憫に感じたのか、真帆は苦笑を浮かべて腰を曲げ、リネアに視線を合わせて言う。
「正確にはね、みんなで色んなスポーツをして、誰が一番か決めるの。怖いことはしないんだよ、リネアちゃん」
「本当?」
「うん。みんなでかけっこしたり、背の高いカゴに玉を入れて、その玉の数を競ったり、あとは―…」
「定番なところでいいますと、綱引きとか、でしょうかね」
 真帆の台詞を引き継ぐように、その場に大人の男の声が響いた。全員がそちらを向くと、人数分のカップと大きなティポットをお盆に載せ、両手で運んできた銀埜がいた。
「銀埜さん、いらっしゃったんですか」
「はい、一応接客係ですから。いらっしゃいませ、真帆さん、夜闇さん」
 銀埜は柔和な笑みを浮かべ一礼し、皆の中央にある机にお盆を静かに置く。そのままお茶の用意をしつつ、銀埜は口を開く。
「で、運動会の審判をうちの者にやらせるとか」
「はい。お暇でしたら、ですけど。やっぱりこういうのは、公平な判断が出来る第三者に頼むのが一番かなって。ね? 夜闇ちゃん」
 銀埜が丁寧な仕草でポットからカップに紅茶を注ぐ様を、ぽうっとして見つめていた夜闇は、真帆の呼びかけにハッと顔をあげた。そしてルーリィをはじめとする従業員一同を見渡し、ぺこり、と頭をさげる。
「そうなのです。ぜひ、よろしくお願いしますです…!」
「あらやだ、誰もいやだなんて言ってないわよ。真帆さんと夜闇ちゃんの頼みなら、喜んでお引き受けするわ。それに、もともとの発端はうちの店が原因だしね」
「うちの店っつーか、おめーだろーが。何ちゃっかり連帯責任にしてんだよっ」
 頭の上のほうから、キーキー声でツッコミが入り、ルーリィはむっとして顔を上げた。声の主を捜し当て、びしっと指をつきつける。
「別に私だって、あれを意図したわけじゃないんだからね。それにリックたちだって、私を止めなかったじゃない。立派な連帯責任よ」
 ふん、と胸を張るルーリィ。
「…すごい理屈ですね…」
「ルーリィさん、すごいです。立派なのです」
 ルーリィの堂々とした責任転換に一種の清々しさを感じてしまったのは真帆、純粋に感動しているのは夜闇だ。
 声の主、黒コウモリのリック―…現在は銀埜の肩に爪を立て、コウモリらしからぬ正位置で羽をばたつかせている―…は、更にキーキーと喚いた。だがハァ、というため息と共に、銀埜にお盆で顔を塞がれ、強制的になかったことにされた。
「まあ、原因はともかくとして。今一度整理してみましょう」
 銀埜の言葉に、真帆と夜闇は居住まいをただし、こくりと頷く。
「まず、勝負は真帆さんの使い魔すふれさんと、夜闇人形さん、ということで宜しいですか」
 銀埜の言葉に真帆と夜闇は顔を見合わせ、確認しあった上で頷く。
「理由は、前回の肝試しの際の決着、ということですね。…分かりました、私が審判を引き受けます」
「っ! ホントですか?」
 真帆は驚いた声をあげ、夜闇はぱぁっと顔を明るくさせた。だが『ワールズエンド』の面々からは、いっせいにブーイングが巻き起こる。
「ずるいわよ、銀埜っ。自分だけおいしいとこ取りする気ね!?」
「横暴よ、横暴っ!」
「てめー、一人だけピストル鳴らすつもりだな!? オレにも鳴らさせろよ!」
「銀兄さん、ひどいよ! わたしだってすふれちゃんと夜闇人形ちゃんの力になりたいもん!」
「…えー、色々と外野がうるさくなりましたが」
 四方八方から飛んでくるブーイングに耳栓をしつつ、銀埜はしれっとした顔で真帆と夜闇に問いかける。
「まあ、別に審判は誰でも良いのですよね、公平な判断が出来る第三者であれば。では、誰をご指名されますか?」
 にっこり、と問いかけられ、二人の少女は戸惑った。夜闇は純粋に、誰にも決められずにおろおろとうろたえ。真帆は逆に、選択肢が一つしかない現状に、迷っていた。
 仕方なく真帆は意を決し、ごくん、と唾を飲み。
「…………銀埜さんで、お願いします」
 心の中で他の面々に謝りつつ、そう告げた。
 だが顔を上げたときに見た、勝ち誇った笑みを浮かべる銀埜と、彼に更なるブーイングをする面々を見て、ほんの微かに後悔もしたのだが。
「……夜闇ちゃん、銀埜さんでいい?」
「…あ、はい。私は、大丈夫だと思いますです。それに…」
「それに?」
 真帆が首を傾げて問い返そうとしたとき、指名を貰って上機嫌の銀埜の声が、彼女の言葉を遮った。
「で、種目ですが、先程真帆さんが仰った、”かけっこ”と”玉入れ”で宜しいですか?」
「あ、はい。ああ、あと…綱引きもお願いします」
「了解致しました。必要な道具はこちらで手配しましょう。他にご希望は?」
「あ、あ、あのっ」
 てきぱきとメモを取る銀埜に、どもりつつも声をかけたのは夜闇だった。銀埜は一瞬驚いた顔をし、すぐに柔和な笑みを浮かべて夜闇に問いかける。
「はい、何か?」
「あのっ、リネアさんも…出てみませんか?」
「わたし?」
 唐突に自分の名が場に出て、リネアは素っ頓狂な声をあげた。
「出るって…何に?」
「運動会ですよ。リネアも競技に参加してみませんか、と、こういうことですよね」
「は、はい。参加者が二人じゃさびしいのです。運動会は、参加すると、きっともっとたのしいのです…」
 皆の注目を集めて恥ずかしくなったのか、夜闇の言葉の最後のほうは消え入りそうになっていたが、それでもしっかりリネア本人には届いたようで。
「ほんとっ! わたしも出て良いの!? ねえ銀兄さん、いいよねっ?」
「主催者様がそう言っておられるんだから、良いんじゃないか。…ですね? ルーリィ」
 銀埜は己の主人に問いかける。ルーリィは勿論だ、というように笑った。
「ええ。夜闇ちゃんに真帆さん、宜しくお願いします。リネア、がんばるのよ」
「はーい!」
 リネアは元気良く手をあげ、嬉しそうにはしゃいだ。
 だが彼女は知らなかった。
この運動会が、人形とぬいぐるみが繰り広げる、のどかなおとぎの世界などでは決して無いことを。



 かくして、『ワールズエンド』協賛・協力の、秋の大?運動会は、こうして幕を上げたのである。







               +++







 それから数日後、万全のコンディションを整えた各選手が、『ワールズエンド』の裏庭に集結した。ちなみに裏庭にある海水が満ちた巨大な池は、臨時措置として魔女リースの手により、別の空間に移動させられた。
 各参加者はそれぞれ、白、黒組に分けられた。―…本来ならば黒ではなく赤とするべきなのだが、何故か満場一致でその呼び名が決められた。多分に、参加者の一人の功績によるものであろう。
 各選手の振り分けは以下のとおりである。
 まず、白組にはリーダーとして、白うさぎのぬいぐるみ、すふれ。普段は黒いリボンを首に巻いているが、今回は白いリボンを鉢巻代わりに額に巻いている。
 そして白組、第二選手は『ワールズエンド』所属、リネア。母親手縫いの白いTシャツと半ズボンで、緊張の面持ちをしている。
 対するは黒組、リーダーは夜闇人形。昔懐かしい体操着にちょうちんブルマーといういでたちで、勿論頭には黒色の鉢巻。外見は可愛らしいのだが、背後には”闘魂”と書かれた炎を背負っているので、少し近寄りがたい。
 その黒組の第二選手は、すふれの同僚、黒うさぎのぬいぐるみ、ここあ。すふれにひきづられる形で渋々参加することになったのだが、彼女(彼?)の外見は黒。否応無く、今回すふれとは敵の関係になってしまった。頭には黒色の鉢巻を結んでいるが、とりあえずのお義理で、ということらしい。

 開催地に決まった裏庭には、急遽トラックの白線が楕円形に引かれ、それぞれの獲得ポイントが示されるスコアボードが設置された。種目は3つ、それぞれ勝利した組にポイントが加算され、ポイントを多く獲得した組が勝利。そしてトラックの周囲にはゴザが敷かれ、各選手の父兄は各々好きな場所に陣取り、見物することになった。
 すっかり準備を整え、審判兼進行役の銀埜のもとに集まる選手たち。彼らをのんびり眺めながら、父兄席はすっかり宴会モードである。
「きゃーっ、真帆さんが持ってきてくれた、このお茶美味しいっ」
「えへへ、ありがとうございます。ハーブティなんですよ、自宅で栽培してて」
「へぇ〜、自分チでハーブ作れるの。どんなのがあるの?」
「ええと、カモミールとか、セージとか、タイムとか。割とお料理に使うものが多いですね。今日のハーブはレモングラスなんですよ。リースさんもハーブに興味があるんですか?」
「ああ、だからレモンの香りがするんだ。興味があるっていうか、魔法薬を作るには欠かせないしね。ねえ、またハーブ分けてくれない?」
「ええ、勿論」
 きゃっきゃと騒ぐ女性陣。「宴会っつーかお茶会だろ…」と呟くリックは、なかなかその輪には入れず、手持ち無沙汰で夜闇と遊んでいた。
 その夜闇は、省エネモードと称した人形サイズでちまっとゴザの上に座っている。夜闇人形に絶えず魔力を送らなければならないため、力を蓄えているのだ。
「なあなあ、どっちが勝つと思う? 賭けしねえ?」
 人間の姿になると場所をとる、との理由で、リックは黒コウモリのままである。羽をばたつかせながら、にやりと笑って夜闇に話を持ちかける。
 夜闇は”賭け”に困惑しているのか、それともコウモリにビビッているのか、あうあうと口ごもりつつ、言った。
「私は、良く分からないのです。ただ、みなさんが楽しめればいいと思うです…」
「まあ、そりゃそうだけどさ。でも二人の決着つけるのが目的だろ? オレは白組かなっ! ぬいぐるみって意外と強いんだぜぇ。あのうさぎ、結構頑丈そうだし」
「じゃあ…私は黒組なのです。黒組には、ここあさんもいるです」
 よくわからない、といいつつも、ちゃっかり予想を立てている夜闇。リックはそんな夜闇に、内心ほくそ笑みながら、
「じゃあさ、じゃあさ、なに賭ける?」
「…はへ?」
「賭けつったじゃん。そーだなー…明日のおやつとかっ」
「こら、リック!」
 リックが調子に乗ってきたところで、ぺしんと頭を叩かれた。いつの間に背後にいたのか、リックの主のルーリィが、ぷんぷんと怒って手を腰にあてている。
「もう、あんたは! 夜闇ちゃんに何教えてんのよっ」
「ちぇー、いいとこで出てくんなよな!」
 リックは口を尖らせ、不機嫌そうに皆の周囲を飛び回る。
「何言ってんのよっ。そんなことしてると、お昼ごはん分けてあげないからね!」
 ルーリィの言葉に、リックはぴたっと固まる。それは夜闇も同様だった。
「…あんだとぉ?」
「ふふ、真帆さんがおいしーいお弁当作ってきてくれたんだから。好き勝手やってる子にはあげないんだからねー」
「まあ、量だけはたくさんありますから、おなかは一杯になると思いますよー」
 良く見れば、真帆の横には、大きな重箱があった。その中に詰まっているおにぎりやおかずを想像し、リックは思わず口ごもる。
「リックにはあげないけど、夜闇ちゃんにはちゃーんとあげるんだから。ね? 夜闇ちゃん」
 ルーリィはにっこり笑ってそういうが、夜闇は何故か真っ蒼な顔をしている。ぷるぷるっと首を横に振る夜闇を見て、ルーリィは不思議そうに首をかしげた。
 夜闇の様子にいち早く気づいたのは真帆だった。あはは、と笑い、夜闇に声をかける。
「大丈夫だよ、辛くないよー」
「ほ、ほんとうですか…?」
 夜闇はおどおどと挙動不審に警戒している。どうやら前回の騒ぎで、ある種のトラウマが植え付けられてしまったようだ。
「ホントホント。わさび入り卵焼きも、中にからしがたっぷり入ってるウィンナーも、唐辛子添えからあげもないから」
「ほ、ほんとうですか!?」
 疑いの眼差しをより一層強める夜闇。
「…それは逆効果の説得よ、真帆さん…」
 ルーリィのその突っ込みに、皆はうんうん、と頷くのであった。









「…あの騒ぎようは何とかならないのか…」
 半ば覚悟していたことだが、と思いつつも、トホホと呆れる銀埜。裏庭の中央に立ち、自分の膝下ぐらいの背丈しかない選手たちに、細々した注意を終えたところである。
 ちなみに一人だけ人間サイズのリネアは、現在は母を初めとした魔女たちに魔法をかけてもらい、すふれや夜闇人形たちと同サイズになっている。”何事もフェアに”というのが今回の合言葉のようだ。
「えー、質問等はないね。では早速―…」
「銀兄さん、夜闇人形ちゃんが何か言ってるよー」
「うん?」
 銀埜が夜闇人形のほうを見ると、確かに何か訴えていた。
『けいひんは ないのか』
「景品? さあ…そういう話はなかったなぁ」
 運動会ならば通常は旗だとかトロフィーなのだろうが。生憎、そういったものの用意はしてこなかった。
「景品……欲しそうだなぁ」
 銀埜がじっと人形、そしてぬいぐるみたちを見ると、そろって目をきらきらさせていた。
「うーん…まあ、あとで考えてみよう。さあ、そろそろ競技を始めるぞ」








 ピーッとホイッスルが響き、第一競技がはじまった。第一競技はかけっこ、選手が複数いるのでリレー形式で行う。白組の第一走者はリネア、黒組の第一走者はここあである。つまり、第二で走るのは。
『いんねんの たいけつ だな』
 トラックの内側にならび、夜闇人形は旗をふりふり闘志を燃やす。隣にいるすふれもまた、それを受けて夜闇人形と火花を散らすのであった。
「では位置について」
 審判兼進行役兼引率の先生役となった銀埜は、玩具のピストルを空に向け、それぞれの第一走者がライン上で構えを取っているのを確認してから、
「よーい、ドンっ」
 と、引き金を引いた。
 パァン、という空砲の音にはじかれるように、ここあとリネアは同時に駆け出した。
「きゃーっ、リネア、ここあちゃん、がんばれーっ!」
「ここあ、しっかりーっ!」
 懸命に走る彼女たちの背に、父兄席からの歓声が届く。それと同時に、上空からは特製の拡声器でキーキー声を響かせる、出来合いの実況が響く。
「おお、黒うさぎのここあ選手、早い早いっ! さすが4本足は伊達じゃありません! リネア選手、それを必死に追うが差は広がっていくばかり! 2本足は4本足に負けてしまうのか!? むしろ転がっていったほうが早い気がします、リネア選手!」
 選手側からは怒鳴られてしまいそうな実況をするのは、黒コウモリのリックである。
「さあ、トラックを一周し、ここで第二走者にバトンターッチ! 先にバトンを渡したのは勿論黒組、ここあ選手! 受け取るのは黒組、夜闇人形選手です! 夜闇人形選手、スムーズにバトンを受け取り走り出す! おおっと、これはなんという走法でしょうか、ペンギンのような走り方です! でも意外に早い! どうやってスピードを出しているのでしょうか、謎が残る走法であります!」
 盛り上がる実況にあわせ、父兄席兼観客席では、興奮したリースが、まるで競馬に熱中する親父のような野次を飛ばしている。
 その横では、真帆がハラハラと心配そうに手を胸の前で組んでいたが、そんな真帆にルーリィが話しかけた。
「…ごめんなさいねー、うちのコウモリ、口が悪くって」
「へっ? あっ、いえ、楽しいと思いますよ。それに、雰囲気が出てるし」
「そう? ならいいんだけど」
「ええ。それに大会ーっ、て感じ、しません?」
 真帆はにっこり笑ってそう言って、トラックのほうに振り返った。
 トラックでは既に夜闇人形が4分の1ほど前を行き、漸くリネアがすふれにバトンを渡したところだった。
「はぁ、はぁ…! ごめんね、すふれちゃん! 頑張って…!」
 バトンを渡したあとに、リネアはその場に倒れこみそうになるが、すふれはその言葉を聞く前に、まるで光速とも思える速さで駆け出していた。
「は、はや…」
 唖然とするリネアを支えるように、銀埜が肩に手をかける。
「まあ、白うさぎだからな。ぬいぐるみとはいえ、動物なんだし。さあ、大丈夫か? すぐに彼女たちが戻ってくるから、トラックの中にいときなさい」
「はぁい…」
 ふらふらとリネアがトラックの中に行ったのを見送り、銀埜は元の場所に戻る。その手にはゴールテープが握られている。もう片方のテープの端は、ポールにあらかじめ結わえられていた。
(さあ…どちらが先に、テープを切るんだろうな)
 リードしていたのは夜闇人形。だがすふれの足の速さは、想像以上だった。バトンを口にくわえ、4本足で駆けている様は、まるで白いもこもこしたボールのようである。
 当初はすぐに決まる勝負のように思われたが、トラックを4分の3すぎたあたりで、結果は分からなくなっていた。
「すふれ選手、すごい勢いで追い上げます! 夜闇人形選手、逃げ切れるかっ!? ゴールまではあと少し、差はどんどん縮まっていきます―…ゴぉールっ! すふれ選手、素晴らしい追い上げ! 一瞬の差でしたが、夜闇人形選手を抜きましたぁーっ!」
 リックの実況に合わせ、わぁーっと歓声があがる。
 先にゴールテープを切ったのは、すふれだった。まさに鼻の先の差である。
 全力を使い果たしたすふれ、そして夜闇人形は、ふらふらとよろめいたかと思うと、ばったりと地面に倒れてしまった。
『ふっ なかなか やるな』
 どこかで聞いたような台詞を旗に書き、力なく振る夜闇人形。すふれはその言葉に答え、ふっと笑って見せた。

 そしてスコアボードには、白組の欄に、1ポイントが加算された。








 第二競技は綱引きである。勿論、白組と黒組に分かれ、綱を引き合うのだ。
 綱はトラックの真ん中に用意され、人形やぬいぐるみたちの手の大きさに合うよう、少し細めの麻縄だった。
「うぅ、ごめんね、すふれちゃん。私の足が遅くって」
 先程のかけっこでの自分の結果を、すふれに謝るリネア。すふれは物は言えないが、気にするな、というようにリネアの肩をぽんぽん、と叩いた。そして目の前の麻縄を示して見せる。
「…! そうだよね、これから頑張ればいいもんね! それにさっきのかけっこも勝ったもんね。すふれちゃん、すごい足速くてびっくりした」
 リネアが顔を輝かせてそういうと、すふれは得意そうに胸を張るのであった。

 黒組側では、作戦会議の真っ最中であった。
『ここで かたねば あとがない。 がんばろー』
 夜闇人形の旗の言葉に、ここあはこくこくっと首を振る。
『ここあは まえで がんばれ。 わたしは うしろに いく』
 その旗の言葉で、ここあは不思議そうに首を傾げる。だがこれも夜闇人形の作戦か、と思い、ぷるぷるっと首を横に振ったあと、深く頷くのだった。





「はい、では準備はいいかい? じゃあ、位置について」
 審判兼進行役兼引率の先生役、銀埜は両組の状態を確認し、ピストルを掲げようとした。だがその肩にふいにリックが止まり、銀埜の動きも止まる。
「どうした、実況」
「さっきので声が疲れちまった。きゅうけいー」
 所詮にわか仕込みの実況にはタフさが欠けていたらしい。銀埜は苦笑を浮かべ、改めてピストルを空に向ける。
「いいかい? 10秒たったらもう一度ピストルを鳴らすからね。同時に手を離すこと」
 両陣営は銀埜の言葉に頷く。麻縄の中央には赤いラインが引いてある。そのラインは地面にも引かれていて、最終的にそのラインが自分の陣地側にあったほうの勝ち、ということなのだ。
「じゃあいくよ。よーい…」
 ドン、という声と、パァンという空砲の音が見事に重なり、一気に場が燃えた。

「オーエス! オーエス!」
 リネアは真帆から教えてもらった定番の掛け声を上げ、中腰になって縄を引いている。すふれは声はあげずとも、目をぎゅっとつぶり、彼女(彼?)なりの精一杯の力を出しているようだ。
 だが、所詮は非力な少女と草食動物。
「おーえ…あれっ、引きずられてくよー!」
 リネアは思わずそう叫んだ。まさに彼女の言葉どおり、精一杯踏ん張っているにも関わらず、ずるずると反対方向に引きずられていくのだ。

 反対側、つまり黒組側では。
ラインのすぐ手前にいるここあは、すふれと同様の腕力しかない。つまりここあではなく―…。
『おーえす! おーえす!』
 そう書かれた旗をちょうちんブルマーの後ろにはさみ、夜闇人形は踏ん張っていた。一見、彼女もまたリネア同様に非力な人形に見える。だがそうではなかった。
 夜闇人形が引くごとに、ずるっと縄は黒組側に寄せられている。あとで観客の一人が言った言葉によると、その様子はまさに、引き網を引く漁師のようであった、らしい。
『おーえす! おーえす!』
「よっ、夜闇人形ちゃん…つよっ」
 そしてそこで、無情にも二回目のピストルが鳴った。


 無論、誰がどう見ても、決着は明らかである。
 ということで、スコアボードには、黒組に1ポイントが加算されたのだった。










「さー、昼飯だーっ!」
 嬉しそうなリックの声が響く。二つの競技を終えてポイントは同点。キリが良い、ということで、お待ちかねの昼食タイプである。
「お口にあうといいんだけど」
 そういいつつ、真帆は持参した重箱を広げていく。
 いろんなふりかけがまぶされた俵型のおにぎりに、卵焼きにウィンナー、からあげといった定番のおかず。そして季節の野菜を使った煮物、旬の果物のデザート。
 彩り鮮やかな手作り感満載の弁当に、皆のおなかがぐぅと鳴る。
「真帆さん、ホントにありがとう! それじゃあ、いっただっきまーす!」
 ルーリィが嬉しそうに箸を取ると、皆も小皿と箸を準備し、声をあげた。


 あくまで女の子らしく、小さな口におかずを運びながら、真帆は言った。
「それにしても、夜闇人形ちゃん、すごい力だったねぇ」
「今日は、頑張って魔力を注いでいるのです。…暴走するのがこわいのですが」
「へえ、暴走したらどうなっちゃうの?」
「……どうなっちゃうのでしょう?」
 夜闇は首を傾げる。どうやら本人にも良く分かっていないようだ。
「でも力といえば、すふれちゃんもすごかったわよね〜。うしろに狼でもいたかと思った」
「犬ならいたけどねー」
 純粋に感動しているルーリィと、それを揶揄するリース。リースの言葉に銀埜はむっとし、
「今は犬ではありません」
 と付け加えた。
「あはは。すふれは、元々足は速いんですよ。そこらへんは主人には似なかったみたいで」
 真帆が笑ってそういうと、すふれは胸を張り、こくこくっと頷いた。
「でも、あとの種目がちょっと心配…」
「ええと、最後の種目ってなんだっけ?」
 ルーリィがそう尋ねると、銀埜が即答する。
「玉いれですよ。これで決着がつきますね」
「ふぅん…」
 玉いれかあ、と呟きルーリィはトラックのほうを見る。既に用意の前段階で、玉をいれるカゴが放置されていた。
(…ま、玉入れだったら、危険なことにはならないわよね)
「そうそう、そういえば。景品がどうとか」
 銀埜がそういうと、選手たちはぱっと顔をあげる。
「景品?」
「ええ。優勝した組に、何か特別なものを。といっても私は用意していませんし…」
「あ、それなら」
 銀埜の言葉に、真帆が軽く手をあげた。
「おみやげがわりに渡そうと思って、チーズケーキを焼いてきたんです。良かったら、それを」
「いいのですか?」
「ええ、勿論」
 真帆が笑って頷くと、選手たちはわぁっと歓声を上げる。ちなみにルーリィはいいなぁ、と彼らを見て、物欲しそうにしていたが。
 だが選手たちの中で一人、リネアは沈んだ顔をしていた。
「…どうしたですか?」
 リネアに気づいた人形サイズの夜闇が、とてとてと近寄ってきて、リネアに話しかけた。
「あ、夜闇ちゃん。…あのね、わたし…皆の役に立ってないのに、もし優勝しても貰えないなぁって…」
 しゅん、と肩を落としてリネアはそう呟く。確かに彼女は足が遅かったし、綱引きでも挽回できなかった。
 だが。
「…そんなことないです」
 少し強い口調で夜闇がいった。
「こういうものは、参加することに意義がある、らしいのです。それに…、リネアさんは、十分頑張ってると思うのです」
「夜闇ちゃん…」
 リネアはぽうっとした顔で、夜闇を見つめる。夜闇は自信を見せた顔で深く頷き、
「ほんとうなのです。私が保証しますです」
「…ありがとう」
 リネアがそう微笑んで見せると、夜闇もまた、満足げに笑うのであった。
「じゃあ、そろそろ午後の準備をしますか」
 そのとき、銀埜のそんな言葉が響いた。












 午後一番、そして最後の種目は玉入れである。立てた棒の先端にあるカゴの中に、それぞれ白色、黒色のお手玉をいれていくのだ。ルールは至極簡単、分かりやすいものである。だが、やるほうは―…。

 銀埜のピストルの空砲に合わせ、最後の種目がはじまった。これで結果が決まるのだから、両陣営とも必死である。
 白組、すふれとリネアは、それぞれ足元の白色お手玉を拾い、カゴを狙って空に投げる。ほとんどが外れるのだが、それでも僅かにカゴには入る。
「ふぅ、ふぅ…。結構これ難しいね、すふれちゃん」
 額に浮かんだ汗をぬぐい、リネアはそう言った。すふれはお手玉を投げながら、リネアの言葉にこくこくっと頷く。
 コントロールが自分たちに欠けているのは分かっている。ならば投げた数で勝負するしかない。つまり、数打ちゃ当たる、というやつだ。
「…け、結構しんどいね…」
 段々体力消耗戦になっているのをひしひしと感じたリネアであった。

 そして黒組は、というと。
『てやーっ!』
 勢いのある掛け声―…を上げているつもりで、綱引き同様旗をちょうちんブルマーにはさみ、夜闇人形は黒色お手玉をぶんなげる。…だが。
「きゃーっ!」
「うわぁー! お茶がひっくりかえったぞー!!」
 カゴに向けて投げたお手玉は、何故か観客席のほうに向かってしまう。
『お おかしいのだ…』
 夜闇人形は、はて?と首を傾げるが、それで彼女のノーコンが治るわけもなく。
『もっかい! とりゃーっ!』
「ぎゃあーっ!!」
 何故か夜闇人形がお手玉を投げるたび、観客席から悲鳴があがるのだった。
 そんな夜闇人形をフォローするのは、黒うさぎのここあである。彼女(彼?)は同僚のすふれとは違い、この種目には滅法強かったようで、夜闇人形の分までひょいひょいとカゴの中に入れていく。

「ここあちゃん、うまいわねー」
 ひっくりがえった水筒を片付けながら、ルーリィはほう、と感嘆のため息をもらす。
「あははー、ここあは割りと得意みたいですね、ああいうの」
「こりゃあ、ここあちゃんの勝ちかしら?」
 黒組ではなく、敢えてここあの、と言うところに、お気に入りのカップが割られた恨みが少々入っているようだ。

 だが、そう思惑どおりに事は進まず。


「うぅ、すふれちゃん、大変だよ。向こう、あんなに溜まってるよ」
 泣きそうにリネアが玉を放るが、玉はカゴをそれて違う方向に飛んでしまう。焦りを見せるすふれの玉もまた、カゴには届かず無情に地面に落ちた。
 一見するだけでも、黒組のカゴには、自分たちのカゴの倍はお手玉が入っている。すふれが悔しそうに口の端を噛んだとき、奇跡―…あるいは悪夢が起こった。



『くそう こんどこそ!』
 夜闇人形はそう(旗で)叫び、まるで大リーガーの選手のようなフォームを取った。片足を高くあげ、両手でお手玉を握り締める。
『くらえ だいりーがーぼーるー!』
 肩を使い、思いっきりお手玉を投げた。
 夜闇人形の渾身のパワーが込められたボールは、ぎゅるぎゅると炎を纏いながら空を切り、そして。


「「「あ」」」


 観客席からの声が見事にはもり。



 ”黒組”のカゴを支えていた棒に、見事に衝突し、ぱっきんと真っ二つに叩き折ったのであった。





『あ。』



 夜闇人形が事態を把握したとき、無情にも銀埜が終了の合図である、空砲を高らかに響かせた。








               +++






「えーそれでは、真帆さん特製チーズケーキの授与をはじめます。代表者、前へ」
 白い長方形の箱を掲げた銀埜の言葉で、白組のすふれがずいっと前に出る。
「貴方たちの功績を称え、真帆さん特製チーズケーキを授与致します。食べ過ぎておなかを壊さないように」
 すふれは箱を受け取り、ぺこっと頭を下げる。戻ってきたすふれをリネアは笑顔で出迎えた。
「すふれちゃん、おめでとう! あとで皆で一緒にたべよーね!」
 すふれはリネアの言葉に、嬉しそうに頷いた。




 結局、第三競技の玉入れの結果は、白組が7個、黒組が0個。ということでポイントが2点の白組が優勝、ということになった。
『くそう だいりーがーぼーるめー!』
 自らが放ったボール、否お手玉によって支えの棒を破壊し、結局点数をゼロにしてしまった夜闇人形は、駄々っ子のようにじたばたしながら(旗で)叫んでいた。
 それを慰めているのはここあ。どうやら今日一日で深く友情が芽生えたらしい。
「うーん、愛は種族を超える、かしら」
「まー、それはどうでもいいけど。そんであんた、決着はどうなったのよ?」
 リースの言葉に、場はぴきっと固まる。
 そもそもこの運動会の目的は、すふれと夜闇人形の決着、だったはず。ということは、だ。
「……すふれさんの勝ち、ということですかね」
 大役を終え、やれやれと肩をほぐす銀埜が言う。その言葉を聞き、夜闇人形はだぁだぁと滝のような悔し涙を流す。
 ルーリィはなんとなく、前回の巨大お人形対決はどっちつかずの勝負とはいえ、夜闇人形に分配があがったのだから、今回の勝負で引き分けじゃないのかなあ、と思っていたのだが。
 それを言う前に、真帆がすすっと前に出た。
「でも、二人とも良く頑張ったよ。もちろんここあも、リネアちゃんもね!
だから、ご褒美をあげる」
「?」
 皆がハテナマークを浮かべていると、真帆はにっこりと笑って、まず夜闇人形の頬に軽く口付けた。
「!!」
 皆が唖然としている中で、順にここあ、すふれ、リネアの頬にも口付ける。
一通り終わったところで皆の顔を見渡し、ほんのり頬を赤くしつつも笑顔で言う。
「魔女のキスって、幸運のお守りっていうんだって。だからね、頑張ったみんなにご褒美。すふれも夜闇人形ちゃんも、これからは仲良くしようね?」
 無論、真帆のそんな言葉に意義を申し立てることが出来る者など、いるはずもなく。
『これからも いいらいばるということで よろしく』
 と書かれた旗を振る夜闇人形と、仕方無さそうに―…だが嬉しそうに頷くすふれを、
皆は眩しそうに見つめていた。


 あとから『ワールズエンド』の主人が語ったところによると。
「夕日をバックに固い握手を交わす二人は、まるで映画のワンシーンみたいだったわっ。そう、あのボクシング映画よ。土手で殴りあったあとに、二人は永遠の友情を誓い合うの! 真っ赤な夕日が二人を祝福しているみたいに見えて、それでそれで…」

 まだまだその後にも語りは続くのだが、誰も続きを知らない。

 無論、誰も聞く者がいなくなったからである。








                        おわり。







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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【5655|伊吹・夜闇|女性|467歳|闇の子】
【6458|樋口・真帆|女性|17歳|高校生/見習い魔女】

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▼ ライター通信
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 いつもお世話になっております、夜闇様、真帆様!
今回は当WRにお任せくださり、有難う御座いました。
お届けが遅くなり、申し訳ありません;

 前回のノベルの続き、ということで、張り切って書かせて頂きました!
詳細はお任せにしていただいたので、プレイングを踏まえつつも
こちらの設定を各所に盛り込んでしまいましたが…
楽しんで頂けると何よりです!
夜闇人形さんとすふれさん、ほんっと良いライバルになりそうですねv

 それでは、またどこかでお会いできることを祈って。