コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


ハプニング!!〜妖精と、あやかし荘と、時々三下〜

オープニング

 柚葉がぱたぱたとしっぽを振りながら、玄関先で何かを眺めていた。
 玄関の掃除をしようと出てきた管理人である因幡恵美は、不振な柚葉の後ろ姿を怪訝そうな顔で眺める。
「柚葉さん? 何してるのかな?」
 背中に声をかければ、彼女はびくーっと身を震わせる。さっきまでヘニョヘニョだったしっぽも警戒からかピンと立った。いったい、何が起こったというのだろうか。恵美はまるで穴が開くのではないかと思えるほどじーと柚葉の背中を眺める。
 柚葉はちらりと恵美の姿を見た。
 そして、何かを思案しているかのように、唇を尖らせる。恵美はますます怪しいと、柚葉に近づいた。柚葉はどうやら何かを隠そうとしているようだった。
「柚葉さん。どうしたの、何を隠してるの……っと」
 柚葉の隠しているものをのぞき込んで、恵美は目をぱちくりさせた。
「よっ」
 そこにいたのは、手のひらほどの人間のような生物だった……。

***

 あやかし壮の庭先の池から顔を出したのは大山椒太夫だった。彼は恵美と柚葉が何か行っているのを見て、池からあがると、彼女たちの背後へと近づいていった。
「何をしておるんじゃ」
 のんびりと声をかけると、二人は声をかけられるとは思っていなかったようで、弾かれたように振り向いた。驚愕の表情を目にしながら、太夫は彼女たちの見ていたそれを視界へと入れた。
「ほう、これは変わった生き物じゃ」
 そこにいたのは、小さな妖精。
 妖精は太夫の顔をまじまじと眺める。
「…ほう、異国の自然の精かのう」
 太夫は感心したように言う。
 妖精は太夫にこういった。
「オレ、頼みがあるんだよね」
「真水に関する事なら何とかなるんじゃがのう」
「違うんだ」
 妖精はかわいらしい仕草で首を振った。
「オレが頼みたいのは」
 妖精は言いかけた言葉を、引っ込めた。彼は太夫からも柚葉達からも視線を外し、ある一点に視線を集中させている。
 柚葉以外の二人は、彼の視線を追って後ろを振り返ると、そこには、盲人用の杖をついて歩いてくるパティ・ガントレットその人が居た。
「あ、パティさん。こんにちは」
「おやおや、こんにちは」
 盲人の振りをしてあやかし壮に現れたパティは目の前に居る異様な集団の雰囲気を感じ取ったのか、ぴたりと足を止めた。
 因幡恵美と彼女の横に居た太夫がパティに挨拶する。
「何を、なさってるんですか」
「それが、その」
「あー、パティちゃんだー」
 彼女たちの後ろから現れたのは、柚葉だった。手に何かを持っているその様子に、パティは眉をゆがめた。
「なんですか、それは」
「あのね、ボクが見つけた妖精さんなんだ」
「ちわ」
 緑の服に緑の帽子をかぶったその妖精はパティに向かって手を上げる。華煽がその妖精に興味を持ったように目を向けた。
 そんな華煽の様子がわかったのか、パティは彼女を地面に降ろす。
「柚葉さん、ちょっとその妖精を貸してもらえませんか?」
「いいよー」
 柚葉はそういうと、妖精を地面に置いた。二人は見つめあい、そしてそれから握手を交わしなにやら話し出した。微笑ましい二人の様子に、その場にのんびりとした空気が流れた。
「仲良くなった、みたいですね」
「そうだのう」
 のほほんとする太夫と恵美を尻目に、パティは妖精にたずねる。
「どうして出てきたのですか?」
 その言葉に、妖精はじつとパティの顔を見る。それから信用できると踏んだのか、その小さな小さな口を開いた。
「実は、オレは悪戯の妖精なんだ」
「悪戯の、妖精?」
「うん、そう。だから、悪戯できる相手を探してたんだけど、こいつにみつかっちゃって。姿は見られたらダメだから、見てない相手がいいんだけど」
「……」
 パティは自分の頭の中に浮かんだある人物を振り払うように首を軽く振ったが、それでも皆、同じ人物を思い浮かべていたらしい。一番初めに声を上げたのは柚葉だった。
「三下だ!」
「柚葉ちゃん……」
「まぁ、そうなるじゃろうて」
「……今ほど、気持ちがシンクロすることは、ないでしょうね」
 哀れな生贄、三下に合掌しつつ四人と二匹(?)は顔を見合わせた。

***

「ただいまー」
「お帰りなさい、三下さん」
 いつもどおりに穏やかな微笑を顔にたたえて三下を迎える恵美。
「こんにちは、三下さん」
「あれ、パティさんじゃないですか?」
「わしもいますぞ」
「あ、太夫さん! お久しぶりです」
 皆が勢ぞろいで出迎えたことに何の疑問も抱かずに三下はニコニコと微笑んでいた。
 テクテクとあやかし壮へ向かう三下の姿を四人はじつと見つめた。彼があやかし壮の扉を開けたその瞬間、彼の頭上に落ちるものがあった。
 ぽふん
 白い粉を撒き散らして彼の頭に乗った物の正体は、黒板消し。
 三下は目まぶたをぱちぱちと動かして、黒板消しを手に取った。
「……なんで?」
 それはその光景を見ていた皆の心の中を代弁した言葉だった。
「何で黒板消し、何でしょうか?」
「悪戯の典型的なパターンじゃからかのう」
「それにしても、なぜ妖精がそれを知っているんでしょう?」
 恵美、太夫、パティの順で疑問を口にする。だが、その問いに答えられるものはいなかった。とりあえず今後とも三下の様子から目が話せない。
「あははー、三下ー」
 柚葉だけが三下の情けない様子に爆笑している。
「な、何なんでしょうねぇ」
 三下は爆笑されて困り果てたような情けない顔をした。それから頭に乗っている粉を払い落とすと、気を取り直して自分の部屋へと向かおうとする。その後を四人は追いかける。
 その様子は傍から見たら明らかにおかしな行動だ。一人のあとを四人が付回しているのだから。
 三下が自分の部屋、つまりぺんぺん草の間に足を踏み入れたそのとき、突然彼の足元に縄が現れた。それをすばやく見取ったのは後ろの四人だったが、三下はいつもどおりというか、まったく気づくことなくその縄に足を引っ掛けた。
 すべてが、スローモーションのようだった。
 三下の間抜けな顔。
 地面から離れる足に、三下が転んでしまうのが確定した瞬間に消える縄。
 三下は哀れにも頭から部屋の中へ帰り着くことになってしまった。
「な、なんなんですかぁ」
 顔を床にすられ、半べそをかきながら三下が後ろの四人に顔を向けた。
「なにか、知っていませんか?」
「俺だ、俺」
 その三下の声にこたえるように悪戯の妖精が華煽と共に姿を現した。三下はその妖精の姿に驚愕の表情を浮かべると、四人と妖精を見比べるかのように顔を激しく動かした。
「な、な、な」
「俺は悪戯の妖精なんだよ。だから、ちょいとあんたに協力してもらった。いい悪戯のスキルができたから感謝するぜ」
「い、悪戯」
 三下はもう何がなんだかわからないとでも言うように、目をぱちくりさせた。
「災難でしたね」
 パティがそういって、いまだ座ったままの三下に手を差し伸べた。三下は彼女の手を借り、立ち上がった。
「三下ー」
 柚葉がその瞬間を待ってましたとばかりに彼の肩に飛び乗った。三下はまたバランスを崩しかけるが、今回はぐっと踏みとどまる。
「やめてくださいよ〜」
 二人の騒ぎは置いておいて、悪戯の妖精はパティ、太夫、恵美に顔を向けた。
「ありがとうな、協力してくれて!」
「いえいえ、こちらこそ華煽と遊んでくれてありがとうございます」
「たいしたことはできなかったんだがのう」
「よかったですね」
 パティ、太夫、恵美はそういって悪戯の妖精に笑顔を向けた。妖精も彼らに笑い返し、それから一緒に居た華煽とお別れだとでも言うように握手した。
 華煽はパティの肩へと戻り、悪戯の妖精はポンッと近くにあった木の上に飛び乗った。
「本当に、ありがとな!」
 その声を最後に、妖精はどこかへと消えていなくなってしまった。パティと太夫と恵美は木に向かって手を振って妖精を見送った。
 三下と柚葉はそのことにも気がつかず、まだじゃれあっている。
「それじゃ、わしも帰るとするか。今日も楽しかったわい。ふぉっふぉっふぉ」
 太夫はそういうと、池を通って帰っていった。パティはその姿を眺めてから三下と柚葉を視界へと入れる。
「まったく、いつでも騒がしいですね、ここは」
「そうですね」
 恵美もパティの言葉に応えると、二人して笑いあった。


エンド


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4538 / パティ・ガントレット / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目】
【4037 / 大山椒・太夫 / 男性 / 999歳 / 川の神?】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
太夫様、初めまして。
摩宮理久です。
いかがでしたでしょうか。まだまだ未熟者で、すみません。
また機会があったらよろしくお願いします。