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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夢の中から

オープニング

「夢を見たんだ」
 草間の目の前に座る男はそうつぶやいて草間を見た。彼はやつれており顔色も悪かった。
 草間は男の言っている言葉の意味がつかめず、眉をゆがめることしか出来なかった。だが、彼の身に尋常ではない事態が起こっているのは目に見えて明らかだった。
「夢?」
「ああ、いつも見る夢なんだ。俺が夢の中から飛び出して、ある女に呼び出される夢。その女はとても妖艶で、俺はついつい彼女に身を任せるのだが、この頃ボーっとすることも多いし、体の調子が悪くて、このままじゃ殺されるかもしれない」
 彼の瞳の中には恐怖という感情がありありと浮かんでいた。
「頼む、助けてくれ」
 必死の形相で頼まれ、命の危険があるとなったら助けないわけにはいかないだろう。
「怪奇専門じゃないんだがな」
 草間は溜息を吐き出して、彼に言った。
「わかった。詳細を教えてくれ」

***

 草間興信所に盲人用の杖を付きながら現れたパティ・ガントレットは、草間零に中へと入れてもらい、怪訝そうな顔をして己を見る草間に微笑みかけた。
「依頼、ですか?」
「ああ、いつもながらタイミングがいいな。こいつの夢の中に出てくる女をどうにかしてくれって言う依頼だ」
 草間がそういって依頼者へちらりと視線を向ける。その視線の意味を汲み取ったのか、依頼人は話し出す。
「夢の中に女が出てくるようになってから、調子が悪くなって、このままじゃ殺されるかもしれないから、ここに依頼に来たんだ」
「はて、夢に憑かれて殺されるとは、物騒な。」
 パティは眉をゆがめ、そう呟いた。
「とりあえず、こいつの家に行こうっていう話しにまとまったんだが、行くか?」
「ええ」
 草間の言葉に、パティは頷いた。


 男の部屋は一般男子にありがちな汚さを持っていた。そのことに心なしか呆れ顔のパティと草間だったが、気を取り直したように時計を見た。
 時刻は十時。
 草間が男に顔を向けた。
「いつもは何時に寝てるんだ?」
「大体十一時から十二時の間だ。仕事もあるし」
「そうか」
 二人がそのような会話を繰り広げていると、パティが部屋の中をぐるぐると歩き出した。
 部屋を二週したところで、考え込むように顎に手を当てると、草間に向かって口を開いた。
「地縛霊ではないようですね。痕跡が薄いです。浮遊霊かもしれません」
「そうか」
 草間は考え込むと、依頼人の男を見た。
「とりあえず、俺たちが気になるとは思うが、寝てくれないか?」
「あ、ああ」
 男は乗り気ではないように、表情を曇らせると、ベッドに横になった。パティと草間は二人はベッドのそばに座り込むと、男の寝顔をじっと見つめた。初めは落ち着かないというように身をよじっていた男だったが、そのうち規則正しい寝息が口から漏れ出す。
 二人は会話もせずに、じっと待つ。
 ひそかな気配がその場の空気を揺らしたのを敏感に感じ取ったのはパティだった。
「来ました」
「本当か」
 パティはじっと入り口に顔を向けた。それを見た草間も入り口に瞳を向けた。
 すると、入り口がぼんやりと明るくなり、白い着物姿の女が現れた。美しい黒髪を持つ彼女はすべるように歩いて男のそばまで来る。
「おまちなさい」
 男に女が触れようとしたそのとき、パティが立ち上がり、厳しい声根で言った。
 女は一瞬動作を止めてから、パティを見る。その瞳は悲しげだった。
「あなたは、その人を憎んでいるのですか。なぜ、その人を殺そうとしているのです?」
 女はパティの言葉にショックを受けたように黙り込む。そして、首を振った。
「私は、殺そうだなんて」
「では?」
「ただ、この人に恋をしてしまっただけなんです」
 女は瞳に涙を浮かべて、パティを見た。女は嘘をついているようには見えない。
「わかりました、その恋協力しましょう。ただし、自分で彼に思いを伝えてください。寝込みを襲うなんて、フェアではないでしょう」
「すみません」
 女はまつげを震わせて、涙をこぼした。
 パティは草間に合図を送ると、草間は男を起こす。男はけだるそうに目覚めると、目の前に現れていた女に目を見開いた。
「お前は」
「すみません」
 女は涙をこぼしながら、ぽつりぽつりと話し出した。
「あなたをお慕いして、夢の中で会っていたのですが、それがあなたの負担になっていたとはいざ知らず。まことにすみませんでした」
 謝られて、男は困ったように溜息を吐き出した。
「そこまで謝らなくても、大丈夫だ」
「やはり、私はそばに居てはいけませんか? なるべく、あなたの害にならないようにします」
「いや、その」
「害がないならよいじゃないですか」
 パティの口ぞえに、男は溜息を吐き出して、それから硬い筋肉が解けたように微笑んだ。
「そうだな」
「では!」
 女の顔が明るくなった。
「ああ、そばに、居てくれ」
「はい!」
 女は嬉しそうに言って、男のそばに寄り添った。
 パティと草間はほっと息を吐き出した。
「ありがとうございます」
「サンキュ」
 幸せそうに微笑む二人に、パティと草間は顔を見合わせた。
「よかったですね」
「ったく、人騒がせな」
 そんなことを呟きながらも、幸せそうな二人を見て、草間は少しだけ嬉しそうだった。

エンド


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4538 / パティ・ガントレット / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目】

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■         ライター通信          ■
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パティ様
出来上がりました。
いかがでしょうか。
女の幽霊は実は男を慕っていたという設定にしてみました。
まだまだですが、少しでも気に入ってもらえたら嬉しいです。
また、よろしくお願いいたします。