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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


華喰らい

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0.オープニング

珍しく真剣な顔。
休憩中の あなたが そんな顔するなんて。
初めて見たわ。興味本位で、私は近寄る。
「何 読んでるのよ。桂」
「えっ?あ、編集長!う、うわわわ…」
慌てて読んでいた雑誌を閉じる桂。
怪しい…あからさまに怪しいわ。
「見せなさい」
微笑み促す私に、苦笑を返す桂。
大丈夫よ。
あなただって年頃ですもの。
興味があって当然。
そして、私も興味があるのよ。
あなたが読む、それ系の雑誌が どういうものかに。


「往生際が悪い!」
「あぁー!」
無理矢理 桂の手から取り上げた雑誌。
私は、表紙を見て眉を寄せる。
「華に魅せられる乙女達…?何よこれ…」
「返して下さいよぉ」
普通の雑誌だったのね。つまらない。
というか、慌てて隠す意味が理解らないわ。
「っていうか、編集長 知らないんですか?」
「何を?」
「華を食べる奇病。最近評判なんですよ」
「華を…食べる?」
「そうです。あまり注目されてないですけ…」
バシッ―
「痛っ!!」
言い終わる前に桂の頭を叩く。
「そこまで知ってるなら、すぐ取材!」
扉を指差して怒鳴る私に、桂が呟く。
「ボク、アルバイトなのに…」
「何か言った?」
「い、行ってきま〜す!」


華を食べる奇病…ね。
私が知らないなんて…。
桂の言う通り、よほどマイナーな事件なのね。
良いじゃない。
うん。良い予感がする。
きっと この事件、当たるわ…!


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1.

ビュンッ―
物凄いスピードで目の前を通り過ぎる人影。
あら…?あれは確か…。
私は、後を追い背中をポンと叩いて声をかける。
「こんにちは。桂様」
「うぎゃー!?」
大声をあげて驚く桂様。
私の肩が、つられてビクッと揺れる。
「…あ、あれ? あ…すみません」
振り返り私を見て頭を掻きながら苦笑する桂様。
私は微笑んで言う。
「初めまして。ですわね」
「あ、はい。そうですね。えーと…?」
「パティ・ガントレットと申します」
「パティさん。はい、はじめましてっ!」
ニコッと笑い握手を求める桂様の手を取り。
私は問う。
「何かあったのですか?急いでいたようですが…?」
私の問いに桂様はウン、と頷いて。
「奇病です。奇病の調査。編集長に頼まれて…無理矢理ですけど」
「奇病…ですか」
「はい。知りませんか?花を食べるんですよ。ムシャムシャと」
「まぁ……」
花を食べるとは。
また珍妙な…。
初めて聞きましたわ。
そんな事件もあるのですね。


「お手伝いさせて頂けませんか?」
私が微笑んで言うと、
桂様は目を丸くして 返す。
「へ?いいんですか?」
「はい」
「感染したりするかもしれないですよ?危ないですよ?」
私はクスクス笑って言う。
「それは桂様も一緒ではございませんか」
「あ、うーん。そうですけど…」
「大丈夫ですよ。興味があるんです。さぁ、参りましょう」
今は 人知れぬ小さな事件だとしても。
感染する、という事は。
時期に広く、手の施しようがない程 蔓延してしまう可能性があるという事。
そう考えると恐ろしいですからね。
私に解決できるかはわかりませんが。
最善を尽くしましょう。


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2.

「あぁ…サナ…」
シャリ シャリ シャリ…―
桂様に付いて、訪ねた屋敷にて。
私の目に飛び込んできたのは、異様な光景。
本当に、花を食しているのですね。
「うわぁ…」
異様な光景に肩をすくめる桂様。
私は患者様に近寄り、様子を伺う。
シャリ シャリ シャリ…―
一心不乱。
その表現が、最も適している有様。
天井を見つめたまま、唯 花を口に運ぶ…。
美味しそうに食している…ようには見えませんね。
無意識…なんでしょうか。
「彼女は、いつから このような行動を?」
私が問うと、患者様の親御さんが涙声で言う。
「3日前からです…突然…ううっ…」
3日前…。
私は部屋を見回しながら、更に問う。
「3日前、この症状が出る前の彼女の行動におかしな所はなかったですか?」
「いいえ。特には……」
「そうですか…」
原因が。感染源が理解りませんね。
患者様と御話が出来れば良いのですが…。
シャリ シャリ シャリ…―
どうやら、それは叶わぬようで。


「わー。綺麗ですねーこれ。薔薇ですよね?」
真剣に考える私の背後で、桂様が言った言葉。
私はパッと振り返り、桂様が興味を示している花を見やる。
それは、見た事のない 橙色の薔薇。
確かに綺麗ですが…。
私は近寄り、花を見ながら親御さんに問う。
「この薔薇は…?」
「行商人から買った物です。この子が気に入ったので…」
「いつ購入なさいました?」
「5日ほど前…です」
眉がピクリと動く。
なるほど。
どうやら、この花が感染源のようですね。
唯、理解らないのは…。
親御さんも、この花を見ているようですし。
彼女が ああなってしまってからは親御さんが世話をしている模様。
見ても、触れても。
親御さんは感染していないのに。
どうして彼女は感染してしまっているのでしょう。
そこが理解れば…。


「願い事が 叶うのよ」
突然、患者様が口を開く。
私は駆け寄り、彼女の言葉に耳を傾ける。
「橙色の薔薇は、願いを叶えてくれるのよ」
「願いを…どういう事ですか?」
私が問うと。
「願い事が 叶うのよ」
彼女の言葉は逆戻り。
その後 何度 声をかけても。
何と言葉をかけても。
彼女は その2つを交互に繰り返すだけ。
願いを叶える薔薇…ですか。
聞いた事ありません。
誰が言い出したのやら。
…まぁ、その行商人なんですが。
困ったものですね。
私はテーブルの上のハサミを手に取って 再び花に歩み寄り。
パチン―
その茎を両断。
すると。
「……ん…あ、あれ?…うっ、ゲホッゲホッ!」
「サナ…!?サナ…!!」
「どうしたの、お母さん…ゲホゲホッ…」
患者様が正気に戻り、咳き込む。


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3.

「ありがとうございました〜。パティさん」
「いいえ」
嬉しそうに笑う桂様に、私は微笑み返す。
感染源は、やはり あの薔薇でした。
患者様は皆、あの薔薇に願い事を託していたのです。
行商人の言葉に踊らされて。
とんでもない行商人もいるものですね。
その犯人を見つけ出して制裁を与えたい所ですが。
どこにいるのか、さっぱりわからないので。
悔しいけれど、出来ません。
まぁ、花の茎を切ってしまえば患者様は皆 正気に戻りましたから。
その行商人の企みも、もはや ここまで。


「オカゲで良い記事が書けます。へへっ」
鼻下を擦って満足気な桂様。
桂様が、この全てを記事にして下されば。
もう二度と、この奇病に悩まされる人は出ませんね。
私は微笑んで言う。
「よろしく御願いしますね」
「はい、任せて下さい!…あっ、そうだ。ちょっと待ってて下さい!」
「…? はい」
言うなり、どこかへ走っていく桂様。
数分後。
息を切らして戻って来た桂様は、
私に一輪の真っ赤な薔薇を差し出して言う。
「お礼です」
「まぁ…ありがとうございます」
「それは感染しないので、大丈夫ですよ!」
「ふふっ」
クスクスと笑う私。
ザッ―
その背後に気配。
パッと後ろを見やると…。
「桂〜〜…何やってるのかしら〜…?」
腕を組んで桂様を見下ろす麗香様。
「うわっ!へっ、編集長 どこから湧いたんですかぁっ!?」
「あんたの帰りが遅いから心配して来てやったのよ」
「えっ。あ、ありがとうございま…」
バシッ―
「痛っ!!」
「それなのに、何?どうして女を口説いてるのかしら〜?」
「ち、違…」
「さっさと戻る!」
「は、はい〜!」
あらあら…。
可哀想に。完全に濡れ衣ですね。
走り去って行く桂様の後姿を見ながら笑う私。
「パティ。ありがとね」
麗香様の言葉に私は首を傾げる。
「はい?」
「協力。してくれたんでしょう?」
「いえ。いつも御世話になっておりますから」
麗香様は優しく微笑んで、
私の肩にポンと手を置いて言う。
「紅茶でも、飲んで行かない?」
「ローズヒップティーですか?」
一輪の薔薇を軽く揺らして。
私はクスクス笑う。


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

4538 / パティ・ガントレット / ♀ / 28歳 / 魔人マフィアの頭目

NPC / 桂(けい)

NPC / 碇・麗香(いかり・れいか)


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          ライター通信          
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こんにちは。
2度目の発注ありがとうございました。心から感謝申し上げます。

今回も、楽しく書かせて頂きました。
気に入って頂ければ幸いです。
また よろしくお願い致します^^

2006.12/04 一檎 にあ