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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 7 終曲

 門は閉じ、虚無神の暴走は食い止められた。
 ヴォイド・サーヴァンは霧散し、状況が不利になった不浄霧絵は姿を消した。
 未だ虚無の境界が生きていることは同じ事件が起こる可能性を秘めているのだが、この門を閉じ、ある程度平和な世界に戻したことが何よりの功績である。

「終わったのですね」
 レノアはあなたに言う。
「私は、何もかも失った。家族も……でも」
「いま、私がしたいことを言っても良いですか?」
 と、彼女は嬉しそうに行ったのだ。
 そう、何もなくなった、というわけではない。
 ささやかに、何かを得たのだ。


 非日常から日常に戻った瞬間だった。

 日常に戻るあなた。
 只、少し違うと言えば、隣に子犬の様なレノアがいる。
 相変わらず方向音痴、料理は修行中。掃除は上手くなったようだが、謎に、精密機器を壊す。というお茶目なところは残っている。
 あなたは、このあと、彼女とどう過ごすのだろう?

 未来は無限にあるのだ。


〈亜真知〉
 居候先の離れが庭の池近くに移った。居候先の改築と増築がそうもたらしたのである。
 榊船・亜真知はその離れの縁側でお茶を飲んでいた。あの事件から2週間、あまり変化はなく日々が続いている。レノアの事についてだが、彼女の後見人として居候先が何とかしてくれるそうだ。何も問題はない。黒榊・魅月姫については、お互いの蟠りが徐々に解けていくのも感じていく。
 居間に置いていた、ノートパソコン。そこでは、あの“門”を開いた影響による事件が色々かかれているサイトを開いている。どういう事が起こっているのかを考える必要があった。お気に入りの一つである。
「さてと、他に何か……あるでしょうか?」
 亜真知はパソコンを見るため戻ってくる。
 そして、じっと画面を見ていると、レノアがお菓子を持ってきた。
「まだ、お仕事ですか?」
「いいえ。あの事件からの影響する事件を、ただ単に調べているだけです。」
「私がしっかりしてなかったから……。」
「そう、気に病む必要はないですよ。」
 亜真知は笑う。
「はい。」
 レノアは沈んだ顔から笑顔に戻った。
「どんな事件に?」
「ドッペルゲンガーや、過去に戻るとか、未来の自分に出会ったとか……色々ですね。」
「時間と平行世界干渉の事件が多いのですね……。」
 レノアは、亜真知の後ろからパソコン画面を覗いている。
 亜真知はレノアの視線が、強いことを感じる。パソコンに興味がある様子だとすぐに分かる。
「あの、亜真知さん。他の物を見たいのですけど。」
「えっと? 何を見たいのでしょうか?」
「猫画像のサイトを。」
 子犬系なのに猫が好きらしい。
 猫が好きなのを前に訊いたが、理由はやっぱり可愛いからだとか。
 亜真知はどうぞ、と席を譲る。仕事というわけではないし、タッチパネルを使うぐらいだし、問題ないでしょうと思ったのだ。しかし、レノアの精密機械の音痴加減は尋常ではなかった。確かにタッチパネルを動かしただけでは何ともならないはずが、なぜか画面がフリーズしたのである。
「あ、ああ! なんか動きませんよ?」
「え? どうして?」
 レノアの周りから静電気特有の音が鳴っている。
「あ!?」
 パソコンの液晶画面が嫌な音を立てて、真っ暗になる。電源が落ちたようであった。
「しょ、ショート?」
 亜真知は呆然としてしまった。
 レノアは、かなりの帯電体質らしく(本人からすると“一寸”なのだが、これは尋常じゃない)、この乾燥した季節や電磁波が相互作用を起こすのだろうと分かった。
「ご、ごめんなさいいい!」
 即日、亜真知は同じ物を買い換えるハメになる。
 レノアには精密機器は禁物なのだと、固く誓う。
 こういったことを除いては、比較的平和なのだった。


〈魅月姫〉
 黒榊魅月姫は良く長谷神社に向かう。魅月姫が茜に棍と薙刀の稽古を付けてもらうためであった。其れがだいぶ日常化していると言う。
「今日はここまで。」
 茜が練習用の薙刀を下げる。
 魅月姫もそれに倣う。
 レノアは、其れをずっと見守っていた。
「シャワー浴びましょう。」
「はい。」
 一服してから、魅月姫は茜にこう尋ねた。
「どこかにおいしいケーキ屋さんはありません?」
「うーん、池田屋さんのほかに?」
「はい。レノアのおみやげに。」
 茜は魅月姫が亜真知と同じ“船”で在ることは知っている。感情を表に出さない。レノアが可愛いのだとすぐに分かった。
「ふむふむ、だとしたら此処かなぁ?」
 茜はシステム手帳を取り出し、チェックしている店を調べていた。
 彼女はレノアを陰で見守っているようで、この一息を付いているとき、魅月姫は茜に、レノアは今日こんな事をした、こんなドジをしたと、母親か姉のように面白く喋っている。しかし、彼女は自覚していないようだ。その笑顔は今までの孤独を癒された穏やかな物だった。
「好きなんだね。レノアちゃんのこと。」
「もちろん。」
 茜の問いに、亜真知は真顔で答えるのであった。

 突然、魅月姫の携帯電話のベルが鳴る。
「どうされました? 亜真知?」
「大変です。レノア様が!」
「レノアがどうしたの?」
「わたくしのパソコンが壊れて、買い直しに言ったのですが、はぐれてしまって! そちらの方に向かっているような気になったので! レノア様!」
 携帯の向こうで珍しく慌てている亜真知の声。
「落ち着いて! 亜真知! 電気街と神社は3つ以上も離れているはずですよ?」
「レノア様の方向音痴は!」
「だから落ち着いて! おちついて!」
 と、門のベルが鳴る。
 茜が、玄関に向かうと、きゃーと叫んだ。
「レノアちゃん!?」
「まさか……。」
 これはこれで尋常ではない。
「亜真知とはぐれてしまって……、歩いていたら、ここに……。」
「レノア様が敷地で迷っておられたので、お連れしたのですが。」
 姿が見えない静香が言った。
「レノア! どうしてここに?!」
 走ってくる魅月姫。
 魅月姫はレノアの方向音痴の度合いに驚く。
「ああ、やっぱり……。」
 電話越しで亜真知がため息をついていた。

「レノア! また亜真知の迷惑をかけていたのね!? だめじゃない!」
 魅月姫がレノアに怒る。
 正座してしょぼんとなっている、レノアは泣いていた。
「だって、だって……。あの、ただ、パソコンを弄って……。あと、気になった物が店頭にあったから……つい離れて……ごめんなさい。ごめんなさい。」
「亜真知! しっかり見ないと行けないじゃないですか!」
 魅月姫は電話越しで亜真知に怒った。
「ご、ごめんなさい。私も不注意でした。」
 亜真知は亜真知で調子が狂っており、レノアに振り回されているようだ。なんというか、レノアの放っておけない欠点である。此処で自分がかなり焦っていることを自覚し、はっと我に返った。
「まあ、無事なので良かった。仕方在りません……ね。」
 魅月姫はため息をついた。
「一緒に帰りましょう。心配してます。」
「はい……。」
 と、体格的には魅月姫が妹の様に可愛いのだが、雰囲気では、立場が逆転している。茜と静香は苦笑している。魅月姫は一寸恥ずかしかった。
 そんな、平和な日々。
 しかし、その平和は続くのか不安が、魅月姫の心を襲う。


〈けじめ〉
 庭の中で花見をする事になった。桜は六分咲きだろうか。未だ花びらは散らない。
 レノアはため息をついている。それは、桜の美しさからの感嘆ではない。その向こうに対峙する、いる2柱の神を見ているのだ。
「なぜ戦わなきゃいけないのでしょうか?」
 と、彼女は呟いた。

 朝に、魅月姫が亜真知に言った。
「試合を申し込みます。真剣勝負にて。」
「……。」
 真剣なまなざしで言う魅月姫に、亜真知は少し考えた。
 レノアは小首をかしげて、ご飯を食べていたが、状況を把握したのち、箸を置いて。
「そんな、戦ってはダメ。」
 と、怒る。
「其れはできません。」
「私みたいな若い人間には、亜真知と魅月姫の長い年月の蟠りは分かりません。しかし、憎しみや過去にとらわれて、肉親と戦うなんて! 私は理解できない!」
 レノアが大声で魅月姫に言う。
「理解できなくても、私が納得しないと行けないことです。」
 亜真知は考える。
 この数ヶ月で、お互いの距離は縮まった。
 確かに、暗黒面になるとおそれて、彼女を切り離したことは、悔やまれる。レノアの言っていることももっともだ。お互い、謝れば済むことではあるまいか? 自分は人間的感情を越えた先にある存在でもあるため、多岐にわたった考えで解決できる。しかし、それでも目の前にいる、半身は其れを許していないのだ。自分(魅月姫)が既に、個として存在している証明を、試合にて証明したい事にあるのだろう。
「わかりました。」
「亜真知!」
 レノアは叫ぶ。
 しかし、お互いの雰囲気でレノアは黙ってしまった。

 そして、今に至る。
 お互い、得意の武器を起動し、距離を取っている。星杖と深紅の大鎌。2人はじっとして動かない。
 強い風が吹いた。その瞬間、2人は爆ぜる。
 通常、レノアは2人が衝突した瞬間が見えなかった。一瞬の爆発のみである。
 しかし、その間に、2人は激戦を繰り返す。
 亜真知も魅月姫も、時間停止により強化を瞬時に終え、時間の流れが戻ると同時に一太刀を浴びせようとするも、鍔迫り合いになる。一度お互いは蹴って、離れた。そのあと、光弾と闇弾による精密な射撃で、隙を作ろうとするが、お互い引けを取らない。爆発の煙を突き破る光線が二つ放たれ衝突し爆発する。光線に続くかのように2人は突き進んで、刃を振りかざす!
「はああ!」
「だあああ!」
 光と闇の衝突。
 しかし、煙が収まったあと、鮮血もなく惨状もない。2人はその場で止まっていた。
 寸止めで終わっていた。
「終わりです。」
 魅月姫がそう言うと、何事もなかったかの様に、地に降りる。
「お待たせ。レノア。」
「心配したんですよ!」
「猫がじゃれ合うような物です。」
「そんな風に見えません! もしも大けがしたらどうするのですか!」
 レノアは魅月姫に怒っていた。
 よほど、心配していた事を分からせた。
「心配かけてごめんね。」
 と、悪戯っぽく笑う魅月姫に、レノアは何と言っていいのか分からなくなっている。
「レノア様、怒ると皺ができますよ。」
 亜真知の方も既に何事もないかのように、言う。
 レノアの頭を二人して、撫でた。
「本当の仲直りはできました?」
「はい♪」
 レノアが訊くと、亜真知と魅月姫が笑顔で答えるのだが、
「なら、良いです。心配……かけないでください。」
 レノアが悲しさと怒ったが入り交じった声で言う。
「レノアの方がずっと心配です。」
 しかし、魅月姫が真実を口にする。
「あう……それは、その、あう……あう。」
 其れで立場が逆転したのであった。
 亜真知と魅月姫は、しょんぼりしているレノアの頭を撫でて、慰める。

 家族が増えたことに、亜真知は喜びを隠せないのだが、さて、レノアのほうはともかく(戸籍とあるし)魅月姫が問題だ。さてどうやりましょう?(あと、自分の立場の再考もしなければ)。

 こうして、家族が増えても日々平穏が続く。
 そう信じて、3人は桜の木をずっと眺めていた。

END


■登場人物紹介
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【4682 黒榊・魅月姫 999 女 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】

■ライター通信
 滝照直樹です。
 『蒼天恋歌 7 終曲』に参加して頂きありがとうございます。そして、全話参加ありがとうございます。
 諸問題も解決し、あとは平穏に過ごすことになるでしょうか。あとは、魅月姫さんの人間的常識を教えることになりそうですが……。レノアの静電体質は直せそうにもないですが、携帯などを使う際は注意してください。レノアを“船”に乗せたら、命が危ういかもと、後書きを書いていて、ふと思いました。

 また、どこかの別のお話でお会いしましょう。

 滝照直樹
 20070312