＜東京怪談ウェブゲーム　アンティークショップ・レン＞ VS フレアウルフ ------------------------------------------------------ ０．オープニング 「まぁまぁ、そう言わずに…見るだけ見て下さいよ」 鞄から怪しげな鏡を取り出す男。 あたしはヤレヤレと肩を竦め目を背ける。 「これ、異国では封鏡と呼ばれてましてねぇ」 聞いてもいない説明を始める男。 まぁ、慣れちゃあいるけどさ。面倒くさいねぇ。 訪問販売、っていうのかい？こういうの。ちょっと違うのかねぇ。 まぁ、この商品を、是非、店に置いてくれないか、ってアレさ。 しっかし、この男、しつこいね。断っても断っても。 毎日毎日、別の物を用意しては見せに来る。 どこから仕入れているのか、その辺には興味あるんだけどね。 あんたの持ってくる品は、不気味過ぎて嫌なんだよ。 その鏡だって、そうさ。何だい、その柄。髑髏じゃないか。 そんな鏡…よっぽど物好きな奴しか、欲しがりゃあしないよ。 「…でねぇ、どうやら封じられてるのは狼らしいんですよ。ハッハッハ」 「へぇ」 まるで聞いていなかったけれど、一応相槌を打つ あたし。 男は、誇らしげに笑って、鏡をコツコツと叩き出した。 「…何やってんだい」 問うと、男は、よくぞ聞いてくれました！と言わんばかりに微笑んで。 「こうする事で封印が解けるそうですよ。ハハハ」 仕入れた際に、聞いたのだろう。その方法。 男の口調と表情から、冗談だと捉えている事が理解る。 あのねぇ。そういう曰く付きの物を扱う際の鉄則があるんだよ。 ひとつは、決して馬鹿にしてはならない。 「…う、うわぁっ！？」 鏡からヌッと姿を現す狼に驚愕し、鏡を放り投げ、その場に尻餅をつく男。 もうひとつは、決して、その物を投げやってはいけない。 「グルルル…」 鏡から現れた狼は炎を纏い。涎を垂らしながら唸り、辺りを伺う。 封印。どうして封じられたか。 恐怖に苛まれて理解したかい？ さぁ、どうするんだい。これ。 どうしてくれるんだい。これ。 ------------------------------------------------------ １. やれやれ…どうして、こうも厄介事ばかり舞い込んで来るのか。 アンティークショップの店主、蓮から依頼を受けた僕は、 早々と部屋を出て現場に向かいつつ溜息を漏らす。 こんな事を言っても、どうしようもないのは理解っているんだ。 以前、友人に言われた事もある。 ”お前は、そういう定めの下に生まれたんだ” と。 否定はしないさ。出来ないさ。 職業柄、厄介事を背負うのは仕方のない事だしな。 …そうさ。この仕事を続けていく限り、断ち切れないんだ。厄介事との接触は。 ショップに入って、瞬時に僕は眉を寄せる。 何て暑さだ…。まるで蒸し風呂だ。 勘弁してくれ…暑いのは苦手なんだよ。 「あぁ、解決者のお出ましだ」 カウンターに頬杖をつき、クスクス笑って言う蓮。 いつも思うが。その態度…カチンとくるな。 僕が、不快な思いからフイッと顔を背けると。 ガシッ― 「っ！？」 突然、僕の腰にしがみついて男が言った。 「御願いします〜！何とかして下さいィィィ！」 僕は男をベリッと体から剥がして言う。 「あなたが封印とやらを解いたんですか」 淡々とした僕の口調が怖かったのか、 男はビクリと肩を震わせて、申し訳なさそうに二度、頷いた。 ハァ、と溜息をおとして、襟元を緩める僕。 良いんですよ。こっちとしては、仕事ですから。 面倒だけど、儲かりますしね。あなたと違って。 「ちょっと、離れていて下さい」 邪魔なんで。 ------------------------------------------------------ ２． さて…。 折角鏡から出られたというのに申し訳ないが。 被害が出ない内に再封させてもらおうか。 「グルルルル…」 僕を睨みながら唸り声をあげる狼。 わかっているよ。自由になりたいんだろう？ 折角出られたんだ。そこらを縦横無尽に駆け回りたいんだろう？ わかっているよ。君の想いは。 けれどね。はい、どうぞ。好きにしなさい。とは言えないんだ。 そんな事を許したら、君…世界をブッ壊して回るだろ？ 目をスッと閉じて指で十字を切り。放ち唱える呪文。 「―Anfang―Quell・Regen！」 コポッ― ゴポゴポゴポッ― 店内を包む、水の結界。 暑苦しいからね。君の炎。 まず、そこを封じさせてもらったよ。 「ガルルルルッ！！」 ガキンッ― はいはい。わかったわかった。 自分を丸ごと否定されているようで、腹が立ったんだね。 飛び掛ってきた狼の爪を、 スッと音もなく抜いた剣で受け止めた僕。 フッと淡く笑みを浮かべると、狼は更に腹を立てて。 牙を向いて飛び掛ってくる。何度も、何度も。 ガキンッ― ガキンッ― 飛び掛ってくる度に舞う火の粉は、残念ながら。 操る水に掻き消されて、僕の体に留まる事はない。 ガキンッ― 牙と爪を剣で受け止め払いつつ。僕は言う。 このままじゃあ、ラチがあかない。 「何か、弱点は？」 僕の動きに見入っていた男は、その言葉でハッと我に返り。 「手を！」 そう叫んだ。 手を、何だよ。 もどかしく使えない助言にイラつく僕。 睨みつけると、男はビクッと肩を震わせて、ようやく気付く。 「手を叩いて下さい！」 最初っから、そう言えよ。ほんっと…使えない奴だな。 ガキンッ― 全力で爪を払われた事で、狼がズサッと後退する。 その一瞬の隙をついて。 パンッ― 僕は両手を合わせた。 疑っていたが、男の言った事は、本当で。 狼は、怯んだ。 まるで幻影を見ているかのようにキョロキョロと辺りを伺う狼。 隙だらけだよ。馬鹿。 僕は、タッと駆け寄り、狼の首元についていた鏡をもぎとると、 男に向かって叫ぶ。 「再封方法はっ？」 男は、また肩をビクッと震わせて返す。 「鏡を！」 鏡を、何だよ。 あぁ…もう。 イラついた僕は、何の気なしに。 コツ コツ― 鏡を二度叩いた。 ------------------------------------------------------ ３． 水の結界を解きながら、狼が再封された鏡を、男にポイッと投げやる僕。 男は慌てて、それを受け取ると、ホッと安堵の息を漏らす。 「お疲れさん」 満足そうに笑って言う蓮。 僕は目を伏せ、襟元を調えて言う。 「報酬は？」 「考えておくよ」 蓮のお決まりの台詞に苦笑する僕。 また、それか。まぁ、いいけどね。 いつもの事だし。 少し長く待たされるけれど、催促しなければ。 かなり良い報酬をくれるんだ。あなたは。 「じゃあ、これで」 スタスタと扉に向かって歩く僕。 解決されたんだ。長居する理由はない。 「あっ、あの！ありがとうございました！」 僕の背中に向けて、感謝を叫ぶ男。 ピタリと足を止めて、クルリと振り返り。 僕は、男に言い放つ。 「もう少し、言葉の勉強をした方が良いぞ」 ------------------------------------------------------ □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ 　　　　登場人物（この物語に登場した人物の一覧）　　 □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ 【 整理番号　/　ＰＣ名　/　性別　/　年齢　/　職業 】 4634 / 天城・凰華　（あまぎ・おうか） / ♀ / 20歳 / 退魔・魔術師 ＮＰＣ / 碧摩・蓮　（へきま・れん） / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主 ＮＰＣ / 早川・太助 （はやかわ・たすけ） / ♂ / 25歳 / 行商人 □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ 　　　　　　　　　　　ライター通信　　　　　　　　　　 □■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□ こんにちは。はじめまして＾＾　発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします＾＾ 2007/03/20 椎葉 あずま