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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


サクラウタ

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0.オープニング

「うっわぁ。すっご〜い…」
大木の周りを荒れ舞う桃色を目の当たりにして、驚愕する萌。
「…確かにな」
荒れ舞っている桃色、その実態は「桜」
桜の花びらが。どこからともなく溢れて周囲を桃に染めている。
しかし、妙な光景だ。
まるで、桜が この大木を護っているかのような…。
「で?どーすんの?ディテクター」
萌に問われ、言葉を返す事なく。
俺は大木に向けて銃を構える。
チャキッ―
「えっ!ちょ、ちょっと!」
幹か。枝か。それとも、別所か。
先ず、この桜吹雪の出所を探る必要がある。
という訳で、とりあえず大木と話してみようと。思った次第だ。
「待った待った待ったぁぁっ!!」
ドカッ―
全身でタックルして、俺を阻む萌。
「…何だ」
「いきなり それはないよ!可哀想じゃないかっ!」
背伸びをして胸倉に掴みかかり、真剣に訴える萌。
バシッと 萌の手を払い、襟を整え。吐く、ごもっともな台詞。
「…じゃあ、どうするんだ」

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1.

放浪癖?おいおい。人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ。
そんなんじゃねぇ。散歩が好きなだけさ。
ん?そんな洒落たスーツでブラブラと徘徊してちゃあ、怪しいって?
大きな御世話だよ。
散歩って言ってもな、何の気なしに歩いてる訳じゃねぇんだ。
あらゆる事に興味を持ちつつ、闊歩してるんだぜ。
こんな所に、本屋があったのか。とか、
あのカフェ、新メニュー始めたんだな。とか、
あの服屋の店員、化粧変えたんだな。とか、
毎日毎日、変化してる。どこかで、何かが、必ずと言って良い程。
だから、止められないんだ。
いつだって違う顔を見せる世界に。そこで待ちうける、あらゆる出会いに。
俺は、夢中なんだよ。そう、今日だって。ほら。

「何やってんだ御両人」
コツコツと靴を鳴らして、俺は歩み寄る。
桜吹雪を前に、前途多難な二人へ。
「あっ。伊葉さん。こんばんは」
ニコッと微笑み、頭を下げて挨拶する少女、萌。
その可愛らしさにフッと微笑み、俺は返す。
「おぅ。こんばんは」
可愛らしい少女とは逆に、チラリとこちらを見ただけの男、ディテクター。
その無愛想な態度に、俺はヤレヤレと苦笑する。
「この桜吹雪を止めろ、って指令が出てるんですけどね…」
荒れ舞う桜を見やって、真剣な顔で言う萌。
「解決思案に立ち往生、ってか」
萌の頭にパフッと手を置いて言う俺。
萌は、御名答、とばかりにコクコクと頷く。
いやぁ、しかしまぁ…凄い光景だな。ある意味絶景かもしれん。
こんな見事な桜吹雪、そう見れるもんじゃねぇ。
まぁ、手放しで綺麗だと褒められる状況ではないがな。
辺りは既に一面、桃の絨毯。
この状態が延々と続いちゃあ、さすがに笑えないな。
「ちなみに、どんな解決法が捻出されてるんだ?今」
俺が問うと、萌は苦笑しつつ話してくれた。
なるほどね。お前達も、まだ、ここに到着して間もないわけだ。
方法としては、手荒かもしれないが、ディテクター寄りかな。俺は。
元を絶つ、ってのは重要な気がする。
元ってのが、果たして本当に木なのかは、わかんねぇけどな。
けれど、萌の気持ちも理解らなくはない。
桜吹雪で少し見づらいが、それでも十分にわかる。
ありゃあ、見事な桜の木だ。
あれを殺しちまうのは、正直、惜しい。それに。
「萌が嫌なら手荒な真似は出来ねぇな。俺は いつだって女性の味方だから」
クッと笑い言うと、ディテクターは眉をピクリとさせて小さな溜息を落として言う。
「…じゃあ、どうする」
そう言われると、即答できねぇんだが。
一つ、可能性のある策があるんだ。
あくまでも、可能性だ。うまくいくとは限らない。
けれど、試してみる価値はあると思う。
ただ突っ立ってるだけじゃ、時間が勿体無いしな。
「ちょっと、俺に任せてくれないか」
俺が言うと、萌はキョトンとしつつ言う。
「何か、良い方法でも?」
「まぁ、見てな」

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2.

やぁ。しかしまぁ、凄い勢いだ。荒れ狂うってのは、まさに、これだな。
物が人じゃなく、花びら…植物なだけに、妙な怖さも感じるね。
さぁて。桜サンよ。聞かせてもらおうか。お前さんの想いを。
桜吹雪の中を、スタスタと進む。
これに阻まれて近寄れず、萌とディテクターは立ち往生してたわけだが。
俺にとっちゃあ、大した問題じゃねぇんだな。これが。
こうして、な。解放した風の力で跳ね除けちまえば良いんだ。
「うわ…凄い。どうなってんの、あれ」
「…風で自身を包んでいるな」
「それって、魔法?」
「…まぁ、お前には少し難しくて理解できないよ」
「あっ。面倒臭いからって、はしょったね、今。教えてよ〜」
「…断る。あぁ、ほら。見てみろ」

辿りついた俺は、木を見上げて、実感する。
本当に、見事な桜木だ。誰が植えたんだかな…。
というか、お前さん、何歳なんだ?まぁ、確実に俺よりは年上だよな。
失礼して、敬語なしで話させてもらうぞ。
堅っ苦しいのは、苦手なんでね。
「なぁ。この桜吹雪は、お前さんの仕業なのか?」
俺は木にそっと触れつつ、言葉を放つ。
「何故、そうするのか。話しちゃあ くれないか」
もしも、お前さんの仕業なら、何を思い、そういう行為に至っているのか。
望みがあるなら、その望みとは、何なのか。
言ってくれねぇと、伝えてくれねぇと、わからねぇ。
結果、俺達は力で、お前さんを止めるしかねぇ。武力行使ってヤツだ。でもな。
「あの子は、そんな事したくねぇ、って言ってんだよ」
遠くで俺を見やる萌を示す。
隣に居る奴は手荒でな。お前さんをブッ倒して解決しようとしてた。
あの子は、それを全力で止めた。わかるだろう?
あの子の優しさが。
ニッと木に笑いかける俺。
すると、桜吹雪が、ピタリと止んだ。
「おっ…?」
萌の優しさを理解して、迷惑行為を改める気になったか。
よしよし。何だ、お前さん、物分りの良い奴じゃねぇか。
助かるよ。こっちとしても…。
一息ついたのも束の間。
桜の木は、まるで、そうじゃない、と言わんばかりに、
再び桜の花びらを、辺りに舞わせ始めた。
けれど、先程とは、少し違う。荒れ狂うって感じではなく、ヒラヒラと…。
そう、普通の情景。花見日和って感じの…。
「伊葉さ〜ん」
凄まじい桜吹雪ではなくなった事で、
手を振りながら、萌が駆け寄って来る。
「なかなか気難しいわ。こいつ。…あれ?ディテクターは、どこ行った?」
苦笑しながら俺が言うと、萌はニコッと微笑んで返す。
「お酒を買いに行ったよ」
「は?酒?何でまた」
まだ解決してねぇってのに。何だ、そのフライング。
理解に苦しむ俺を見て、萌が桜の木を撫でながら言った。
「お花見、するんだ。今から」
…花見?それはまた何で。いや、まぁ。確かに花見日和な環境だけどな。
解決してからの方が、良くないか?
また凄い勢いの桜吹雪になったら、大変な目に遭うぞ?
「寂しかったんだね。よしよし…」
木を撫でながら、優しく微笑む萌。
萌は、小さな声で、「ごめんね」 とも呟いている。
酒、花見、寂しかった、ごめんね……。ははぁ。なるほど。
お前さん、萌の心に、直接話しかけやがったな。
ったく。傍で俺が一生懸命、声をかけてるってぇのに。
知らない所で、話を進めてんじゃねぇよ。
俺は、ペシッと木を叩く。

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3.

要するに、あれだ。
この桜の木は、嘆いていた。
どんなに見事に咲き誇っても、自分を見てくれる奴がいない事を。
まぁ、仕方ねぇっちゃあ、仕方ねぇんだぞ。
昔と違って、今、ここ…異界は色々と大変だからな。
皆、暇じゃねぇんだ。あぁ…こんな言い方じゃあ、何だな。
えーと…そうだ。余裕がないんだよ。
お前さんを綺麗だ、と黙って見上げる程の心の余裕がな。
でも、そう、悲観すんな。
俺も、萌も、ディテクター…も多分。
お前さんを、素直に綺麗だと思ってる。
まぁ、一時間前までは、どうやって、お前さんを黙らせようかって考えていたけどな。
今は違う。お前さんの気持ちを理解したから。
春だなぁ、って、しみじみと感じてるよ。
こんなに、ゆったりとした時間、久しぶりだ。お前さんの御陰さ。

「あははははっ!何だかフワフワ〜…」
「あっ。おい、ディテクター!お前、萌に飲ますなって」
「…勝手に飲んだんだ」
「それ、監督不行き届き。責任取れよ。お前が」
「な…どうやって…」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

6589 / 伊葉・勇輔 (いは・ゆうすけ) / ♂ / 36歳 / 東京都知事・IO2最高戦力通称≪白トラ≫

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀ / 14歳 / IO2エージェント NINJA


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           ライター通信          
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こんにちは。はじめまして。発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

伊葉さん、素敵ですね^^ バツイチ子持ちっていう設定がツボです。
素敵な伊葉さんの御話を紡ぐ事が出来て、嬉しいです。とても楽しく書かせて頂きました。
伊葉さんの優しさと落ち着いた男性の雰囲気が表現できていればなぁ、と思います^^

気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/03/17 椎葉 あずま